※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
「営業利益が計画を38百万円下回りました。売上は良かったのですが、原価と人件費が……」。経営会議でこう説明しても、聞き手には「結局どの要因がどれだけ効いたのか」が伝わりにくいものです。
結論からいえば、利益の予実差異分析は、計画の利益から実績または最新見込の利益までを、要因ごとの増減で積み上げるブリッジ図(ウォーターフォール)で見せると、差の理由が一目で伝わります。本記事では、要因の選び方、売上差と原価率差の分け方、科目との対応づけ、Excelでの作り方を、架空の会社の例で解説します。
この記事の見出し
予実差異分析で伝えるべきこと
予実差異分析の目的は、計画と実績の差を説明することではなく、差の原因を特定して次の打ち手を決めることです。そのためには、差の大きさだけでなく、どの要因がどれだけ利益を押し上げ、押し下げたのかが分かる形で示す必要があります。
科目ごとの差額を並べた表では、売上が増えたことによる利益の増加と、原価率の悪化による減少が混ざって見えます。売上原価が計画を上回っていても、それが売上の増加に伴うものなのか、原価率が悪くなったからなのかは、表からは読み取れません。
図1 差額の一覧から、差の理由が見える形に変えることが予実差異分析の目的です。
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ブリッジ図で差を分解する
ブリッジ図は、左端に計画の利益、右端に実績または最新見込の利益を置き、その間に要因ごとの増減を積み上げていく図です。利益を押し上げた要因は上に、押し下げた要因は下に伸びるため、どの要因が大きく効いたかが直感的に分かります。
図2 4〜9月累計の計画の営業利益450から、要因ごとの増減を積み上げて累計実績412に至る流れです(単位:百万円)。
この架空の会社では、売上が計画を上回ったことで営業利益が72百万円増えた一方、原価率の悪化で46百万円、人件費の増加で38百万円、広告費の増加で24百万円減り、全体では累計で計画を38百万円下回っています。「売上は計画以上に取れているが、利益率の悪化と費用増でそれ以上に削られている」ことが一枚で伝わります。
| 項目(架空例) | 計画(4〜9月累計) | 実績(4〜9月累計) | 差 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,000 | 6,240 | +240 |
| 売上総利益(粗利率) | 1,800(30.0%) | 1,826(29.3%) | +26 |
| 販管費 | 1,350 | 1,414 | +64 |
| 営業利益 | 450 | 412 | −38 |
要因の選び方
要因は、営業利益を売上、粗利率、販管費に分け、販管費をさらに主要な費目に分けるのが基本です。費目は、金額が大きいもの、計画との差が出やすいもの、経営判断で動かせるものを中心に選びます。人件費や広告費、外注費などが典型です。
図3 営業利益を売上・粗利率・販管費に分け、販管費はさらに主要な費目に分けます。
要因の数は、多すぎても少なすぎても役に立ちません。目安としては、計画と最新見込の間に5〜7本程度の棒が並ぶくらいが読みやすいでしょう。残りは「その他」にまとめますが、その他が大きくなりすぎる場合は、要因の選び方を見直すサインです。
売上の差と粗利率の差を分ける
売上総利益の差は、売上の差によるものと粗利率の差によるものに分けられます。一般的な方法は、まず売上の差に計画の粗利率を掛けて「売上が増えた(減った)ことによる粗利の増減」を求め、残りを「粗利率が変わったことによる増減」とする方法です。粗利率の差による増減は、実績の売上に粗利率の差を掛けた額になります。
図4 先に売上の増減を計画の粗利率で評価し、残りを粗利率の差とします。
架空例でいえば、売上の差240百万円に計画の粗利率30.0%を掛けた72百万円が売上差の影響、実績の売上6,240百万円に粗利率の差(約マイナス0.7ポイント)を掛けた約マイナス46百万円が原価率の影響です。両者を足すと、売上総利益の差26百万円に一致します。どちらを先に計算するかで配分が変わるため、社内で順番を決めて毎月同じ方法を使うことが大切です。順番の問題は、売上をKPIに分解する場合にも生じます。詳しくは「売上の予実差をKPIで分解するには?」で解説しています。
科目と要因の対応表をつくる
ブリッジ図を毎月作るには、どの勘定科目をどの要因に集計するかを決めた対応表が欠かせません。たとえば、給与、賞与、法定福利費は人件費に、広告宣伝費と販売促進費は広告費にまとめる、といった具合です。
図5 どの勘定科目をどの要因に集計するかを一度決め、毎月同じ対応で集計します。
対応表を一度決めたら、勝手に変えないことが重要です。月によって集計の仕方が変わると、要因の推移を比べられなくなります。組織変更や科目の新設で見直す場合は、変更の時期と理由を記録し、過去の数値も同じ基準で組み替えられるようにしておきます。
| 要因 | 集計する科目の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売上差 | 売上高(製品・サービス別) | 値引きや返品の扱いを計画と合わせる |
| 原価率 | 売上原価、外注費、仕入 | 在庫評価の調整を含めるか決めておく |
| 人件費 | 給与、賞与、法定福利費、採用費 | 賞与引当の計上時期のずれに注意 |
| 広告費 | 広告宣伝費、販売促進費 | 計画の月次配分が実態に合っているか |
| その他 | 上記以外の販管費 | 大きくなったら要因の追加を検討 |
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単月・累計・年度着地を使い分ける
ブリッジ図は、どの期間の差を分解するかによって答える問いが変わります。単月は「今月何が起きたか」、期初からの累計は「ここまでのずれの蓄積」、年度着地は「年度末にどうなるか」です。
図6 同じ要因分解でも、期間の取り方によって答える問いが異なります。
経営会議では、累計と年度着地の二枚を基本にすることをお勧めします。単月の差は、費用の計上時期のずれなど一時的な要因で大きく振れることがあり、それだけを見ると判断を誤りやすいからです。年度着地のブリッジ図は、計画と最新見込の差を分解するもので、最新見込の作り方が前提になります。最新見込については「最新見込(着地見込)はどう作る?」をご覧ください。
営業利益から当期純利益まで広げる
営業利益の下に、営業外損益、特別損益、税金の差を同じ形で並べると、当期純利益の差まで説明できます。株主への配当や業績予想の修正を検討する場面では、最終利益の見通しが重要になるため、この拡張版も用意しておくと役立ちます。
図7 営業外損益、特別損益、税金の差も同じ形で示すと、最終利益の差まで説明できます(単位:百万円)。
業績予想を公表している上場会社では、最新見込が業績予想と一定以上乖離する場合に修正の開示が必要になることがあります。開示の基準については「業績予想の修正はどこから開示が要るか|売上高10%と利益30%」で解説しています。
Excelでの作り方
Excelには、ウォーターフォール図を描く機能が用意されています。手軽に作るならこの機能を使えば十分です。一方、色や表示を細かく調整したい場合は、積み上げ縦棒グラフを使う方法もあります。土台、増加、減少の三つの列を用意し、土台の系列を塗りつぶしなしにすると、増減だけが宙に浮いたブリッジ図になります。
図8 積み上げ縦棒グラフで、下の「土台」を塗りつぶしなしにすると、増減だけが浮いて見えます。
土台の列には、その要因の手前までの累計(減少の場合は減少後の値)を計算して入れます。要因の値がプラスかマイナスかで、増加の列と減少の列のどちらに入れるかを数式で振り分けておけば、毎月データを更新するだけで図も更新されます。マイナスの領域にまたがる場合は計算が複雑になるため、Excelの標準機能を使うほうが無難です。Excelでのダッシュボード全体の作り方は「Excelで予実管理ダッシュボードを作る手順」で解説しています。
会議での説明の順番
ブリッジ図を使って説明するときは、要因を左から順に全部読み上げる必要はありません。影響の大きい要因を三つ程度選び、それぞれが一時的なものか構造的なものかを示したうえで、年度着地への影響と打ち手を説明します。
図9 要因を全部読み上げず、大きいものから順に、着地と打ち手につなげます。
たとえば「原価率の悪化は、原材料価格の上昇という構造的な要因で、下期も続く見込みです。価格改定を検討しています」と説明すれば、聞き手は数字の背景と次の行動を同時に理解できます。一時的な要因、たとえば費用の計上時期のずれであれば、年度着地への影響は小さいことを明示します。
| よくある悩み | 原因 | 対処 |
|---|---|---|
| 毎月「その他」が大きい | 要因の選び方が粗い | 差の大きい科目を要因に追加 |
| 単月の差が毎月大きく振れる | 計画の月次配分が実態と違う | 季節性・計上時期を配分に反映 |
| 担当者で結果が変わる | 計算の順番が決まっていない | 順番と対応表を文書化 |
実務上、つまずきやすい点
よくあるのは、計画の月次配分が実態と合っていないために、毎月大きな「差」が出てしまうケースです。年間の計画を12で割っただけの配分では、季節変動や賞与の支給月が反映されません。予実差異分析の精度は、計画の月次配分の精度に大きく左右されます。
また、要因分解の計算方法を担当者ごとに変えてしまうと、月によって結果が変わり、説明の信頼性が損なわれます。計算の順番と科目の対応表を文書にしておき、誰が作っても同じ結果になるようにしておくことが大切です。
- 計画の利益から実績・見込の利益までをブリッジ図で示しているか
- 売上の差と粗利率の差を、決めた順番で毎月同じように分けているか
- 科目と要因の対応表を文書にし、変更時は記録しているか
- 累計と年度着地のブリッジ図を経営会議で使っているか
- 大きい要因について、一時的か構造的かを説明しているか
よくある質問
計画と見込の間に5〜7本程度の棒が並ぶくらいが読みやすい目安です。その他が大きくなる場合は、要因の追加を検討します。
どちらが正しいということはありませんが、先に売上差を計画の粗利率で評価する方法が一般的です。順番を決めて毎月同じ方法を使うことが重要です。
不要ではありませんが、一時的な要因で振れやすいため、経営会議では累計と年度着地を基本にし、単月は補足として使うことをお勧めします。
多くの場合は十分です。色分けや表示を細かく調整したい場合に、積み上げ縦棒グラフで作る方法を検討します。
最初の一歩は、先月の営業利益の差を五つに分けてみること
まずは先月の累計の営業利益について、計画との差を売上差、原価率、人件費、広告費、その他の五つに分けてみることをお勧めします。手計算でも構いません。一度分けてみれば、どの科目をどの要因にまとめるべきか、どの要因の説明が足りないかが具体的に見えてきます。
まとめ
利益の予実差異分析は、差額の一覧ではなく、計画の利益から見込の利益までを要因ごとに積み上げるブリッジ図で見せると、差の理由が一目で伝わります。要因の選び方と計算の順番、科目との対応表を決めて毎月同じ方法で作り、累計と年度着地の図を経営会議の基本にすることが、実務の要点です。
予算の立て方、最新見込の運用、ダッシュボードの設計まで、現在の管理資料を基に論点を整理し、構築を支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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