予実管理ダッシュボードの作り方|経営企画が押さえる画面構成と運用

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

「毎月の予実表は作っている。でも経営会議で『で、今期はどこに着地するの?』と聞かれると、すぐに答えられない」。予実管理を担当する経営企画の方から、よく聞く悩みです。

結論からいえば、予実管理ダッシュボードの役割は、実績・計画・最新見込の三つを同じ画面に並べ、差の大きさと理由を経営陣が一目で判断できるようにすることです。本記事では、Excelでも作れることを前提に、画面の構成、分析の柱、データの持ち方、毎月の運用までを、架空の会社の例で整理します。

予実管理ダッシュボードとは何か

予実管理とは、期初に立てた計画(予算)と実績を比べ、差の原因を把握して、必要な手を打つ一連の管理のことです。多くの会社では、毎月の月次決算の後に予実表を作り、経営会議で報告しています。

ところが、予実表は科目ごとの数字の一覧になりがちです。当月と累計の計画差は分かっても、その差が年度末にどう効いてくるのか、差の原因は売上なのか費用なのかは、担当者の口頭説明に頼ることになります。報告を聞く側は数字を読み解くことに時間を使い、肝心の「次に何をするか」の議論が短くなってしまいます。

予実表とダッシュボードの違い毎月の予実表予実管理ダッシュボード科目ごとの数字の一覧当月と累計の差だけ理由は口頭で補足着地と差の大きさが一目で差の要因まで分解同じ定義で毎月更新

図1 表をきれいにすることではなく、経営会議で判断に使える状態にすることが目的です。

ダッシュボードは、この読み解きの作業を画面の側で済ませておくための道具です。着地の見通しと差の大きさが最初に目に入り、気になるところだけ要因や明細に掘り下げられる。そうなっていれば、会議の時間を判断と打ち手の議論に使えます。高価なシステムがなくても、データの持ち方と画面の構成を工夫すれば、Excelで十分に作れます。

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土台は「実績・計画・最新見込」の三系列

予実管理ダッシュボードの土台は、実績、計画、最新見込という三つの系列です。実績は確定した数字、計画は期初に決めた予算、最新見込は確定した月の実績に、残りの月の見込を足した年度の着地予想です。

三つの系列を並べる実績確定した数字計画期初に決めた予算最新見込実績+残り月の見込「計画に対して、今年はどこに着地しそうか」に答える

図2 実績・計画・最新見込を同じ画面に並べることが、ダッシュボードの土台になります。

予実表に最新見込がないと、「累計では計画を上回っているが、下期の見通しは厳しい」といった状況が数字に表れません。経営陣が本当に知りたいのは、年度末に計画をどれだけ達成できそうかです。最新見込の作り方は「最新見込(着地見込)はどう作る?実績と見込をつなぐ方法」で詳しく解説しています。

系列 中身 更新のタイミング
実績 月次決算で確定した数字 毎月の締め後
計画 期初に承認した予算(必要に応じて修正計画) 期初・修正時
最新見込 確定月の実績+残り月の見込 毎月(実績確定と同時)

計画にも複数の版があり得ます。期初予算、期中の修正計画、楽観・標準・悲観のケースなどです。どの版と比べているのかを画面上で明示しておかないと、会議で数字の前提が食い違います。計画の版とケースの管理は「計画のバージョンとケースをどう管理する?」で取り上げています。

画面構成の基本

画面は「上から粗く、下に行くほど細かく」が基本です。最上段には、どの期の、どの計画と比べ、どの月まで実績が確定しているかという条件を置きます。その下に売上・利益・現預金などの主要な指標をカードで並べ、計画との差を色で示します。

ダッシュボード画面の例(架空の会社)当期:2027年3月期 計画:期初予算 ケース:標準 実績確定:2026年9月売上(累計)6,240百万円計画 6,000+240営業利益412百万円計画 450−38営業利益率6.6%計画 7.5−0.9pt現預金1,880百万円計画 1,820+60売上の月次推移(実績・計画・最新見込)実績見込計画456789101112123

図3 架空の数値による画面イメージです。上から条件、KPI、年度着地、推移の順に置いています。

KPIカードの下には、累計と年度着地の表を置きます。選択した月、期初からの累計、年度の着地見込を並べると、短期と年間の両方の見通しを一度に確認できます。さらにその下に推移のグラフと要因分解、最後に科目や部門別の明細を置けば、経営陣は上から順に読み、必要なところだけ掘り下げられます。

画面は「上から粗く、下に行くほど細かく」① 条件(期・計画・ケース・確定月)② KPIカード(売上・利益・現預金)③ 累計・年度着地の表④ 推移グラフと要因分解⑤ 科目・部門別の明細

図4 経営陣が上から順に読み、必要なところだけ下へ掘り下げられる構成にします。

段 置くもの 読み手が答えを得る問い
① 条件 期、計画の版、ケース、実績確定月 何と何を比べているか
② KPIカード 売上、営業利益、利益率、現預金 全体として良いのか悪いのか
③ 累計・着地表 単月・累計・年度着地の計画差 年度末にどうなりそうか
④ 推移・要因 月次推移、差の要因分解 なぜ差が出たのか
⑤ 明細 科目・部門・取引先別 どこに手を打つべきか

差の理由を見せる四つの柱

差の大きさが分かったら、次は理由です。利益の予実差は、売上の差、原価率の差、主要な費用の差などに分けて、計画の利益から最新見込の利益まで積み上げると、どの要因がどれだけ効いたかが一目で分かります。こうした図はウォーターフォール(ブリッジ)と呼ばれます。

利益の予実差を要因に分ける(架空例)計画450売上差+72原価率-46人件費-38広告費-24その他-2実績412

図5 4〜9月累計の計画の営業利益から、要因ごとの増減を積み上げて累計実績に至る流れを示します。

分析の柱は、大きく四つに整理できます。利益の予実差の要因分解、売上の予実差のKPI分解、費用の予実と対売上比率、そして資金・貸借対照表の予実です。それぞれの考え方と見せ方は、個別の記事で詳しく解説しています。

分析の四つの柱予実管理ダッシュボード利益の予実差要因分解売上の予実差KPI分解費用の予実対売上比率資金・BSの予実最低現預金

図6 それぞれの見方は、個別の記事で詳しく解説しています。

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データは一本の縦長の表にまとめる

ダッシュボードを作るうえで最も大切なのは、画面よりもデータの持ち方です。実績は会計システム、計画は予算ファイル、見込は部門からの見込シートと、元のデータは別々に存在します。これらを、期間、科目、部門、系列(実績・計画・見込)、計画の版、ケースを列に持つ一本の縦長の表にまとめると、どの画面も同じデータから作れるようになります。

データは一本の縦長の表にまとめる会計システム(実績)予算ファイル(計画)見込シート(見込)期間×科目×部門×系列×バージョン×ケース

図7 系列・バージョン・ケースを列で持たせると、どの画面も同じデータから作れます。

科目ごと・月ごとに横に並んだ表をそのまま使うと、四半期や年度での集計、計画の版の切替え、部門別の絞り込みのたびに数式を作り直すことになります。縦長の表にしておけば、ピボットテーブルや集計関数で切り口を変えるだけです。Excelでの具体的な作り方は「Excelで予実管理ダッシュボードを作る手順」で解説しています。

毎月の運用を決めておく

ダッシュボードは作って終わりではありません。月次決算の確定、データの取込みと照合、見込の更新、経営会議での議論という流れを、毎月同じ日程・同じ手順で回すことが大切です。画面には、どの月まで実績が確定しているか、データをいつ更新したかを必ず表示しておきます。

月次の更新サイクル月次決算の確定データ取込・照合見込の更新経営会議で議論毎月同じ手順

図8 締めから会議までの日程を固定し、毎月同じ手順で更新します。

指標の定義も画面に書いておきます。たとえば、売上をKPIで分解した数値と会計上の売上が一致しない場合、その理由を注記しておかないと、会議のたびに同じ質問が出ます。更新の手順や定義の管理は「予実データの更新をどう回す?月次締めからダッシュボード更新までの運用」で取り上げています。

経営会議でどう使うか

ダッシュボードができても、会議の進め方が従来のままでは効果が出ません。担当者が科目を上から順に読み上げる報告をやめ、画面の上段から「着地の見通し」「計画との差の大きさ」「差の主な要因」「打ち手」の順で議論する流れに変えることをお勧めします。

そのためには、会議の前に画面を共有し、出席者が数字を読んでから参加できるようにしておくことが大切です。会議では数字の説明に時間を使わず、要因の背景と打ち手の議論に集中できます。担当者の役割も、数字の読み上げ役から、論点を整理して議論を進める役へと変わります。

部門の責任者には、自部門の明細を事前に確認してもらい、計画との差について一言で説明できるよう準備を依頼します。差の理由が「一時的なずれ」なのか「構造的な変化」なのかを分けて話してもらうと、年度着地の見込にどう反映すべきかが明確になります。

会議の場面 画面で見る箇所 議論のポイント
冒頭 条件とKPIカード 比べている計画と確定月を確認し、全体の良し悪しを共有
着地の確認 累計・年度着地の表 計画達成の見通しと、見込の前提の変化
要因の確認 要因分解の図 一時的な要因か、構造的な要因か
打ち手 明細と推移 誰が、いつまでに、何をするか

会議で決まった打ち手は、翌月のダッシュボードで効果を確認できるよう、対象の指標と期限を記録しておきます。予実管理は、差を説明するためではなく、次の行動を決めるための仕組みです。この循環が回り始めると、計画そのものの精度も少しずつ上がっていきます。

実務上、つまずきやすい点

よくあるのは、最初から多くの指標とグラフを詰め込み、誰も全体を読まない画面になってしまうことです。まずは経営会議で毎月必ず聞かれる問いを書き出し、その答えになる指標だけを置く一枚から始めるのが近道です。

もう一つは、見込の作り方が部門ごとにばらばらなまま、合計値だけを画面に載せてしまうことです。見込の根拠がそろっていないと、最新見込の数字そのものが信頼されません。見込のルールを決め、根拠を記録する仕組みとセットで運用することが大切です。

作る順番見る人と問いを決める指標と定義を決めるデータを一本にまとめる画面を作り運用で直す

図9 最初から全部を作らず、経営会議で使う一枚から始めます。

IPO準備会社では、予算統制の仕組みが上場審査で確認されます。予算と実績の差異を分析し、経営判断に生かしているかが問われるため、予実管理ダッシュボードの整備は審査対応としても役に立ちます。審査の観点は「IPO審査の「事業計画の合理性」とは?グロース市場の2つの基準と予算統制の実務を解説」もあわせてご覧ください。

  • 実績・計画・最新見込の三系列を同じ画面に並べているか
  • 比べている計画の版と、実績の確定月を画面に表示しているか
  • 上から粗く、下に行くほど細かい構成になっているか
  • 利益の予実差を要因に分けて示しているか
  • データを一本の縦長の表にまとめ、毎月同じ手順で更新しているか

よくある質問

Q1. BIツールがないと作れませんか。

Excelでも十分に作れます。大切なのはデータの持ち方と画面の構成です。データが増えてきたら、BIツールへの移行を検討する流れが現実的です。

Q2. どのくらいの指標を載せればよいですか。

最初は、売上、営業利益、利益率、現預金など、経営会議で毎月必ず話題になる数個に絞ることをお勧めします。

Q3. 最新見込は誰が作るべきですか。

各部門が見込を出し、経営企画が前提をそろえて集計する形が一般的です。見込の根拠を記録しておくことが重要です。

Q4. 部門別の予実も同じ画面に載せるべきですか。

全社の画面には要約だけを置き、部門別は明細や別のページで掘り下げる構成にすると、読みやすさを保てます。

最初の一歩は、経営会議の問いを三つ書き出すこと

ダッシュボードづくりは、画面のデザインからではなく、経営会議で毎月聞かれる問いを書き出すことから始めると失敗しません。「今期はどこに着地するか」「計画との差の主な原因は何か」「資金は足りるか」。この三つに答えられる一枚ができれば、予実管理の会議は大きく変わります。

まとめ

予実管理ダッシュボードは、実績・計画・最新見込を並べ、差の大きさと理由を一目で判断できるようにするための道具です。画面は上から粗く下に行くほど細かく、データは一本の縦長の表にまとめ、毎月同じ手順で更新する。この三つを押さえれば、Excelでも経営会議で使えるダッシュボードを作れます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

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