※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
「当日になって、数えていない棚が見つかった」「出荷場に置いてあった製品を誰も数えていなかった」。実地棚卸のトラブルの多くは、当日の作業そのものより、準備の不足から生じます。
結論からいえば、実地棚卸の精度は事前準備でほぼ決まります。責任者を任命し、規程・計画書・マニュアルを役割分担して整え、チームとエリアを割り当て、現品を数えやすい状態に整理し、入出庫の締切を決めておく。本記事では、この五つの準備をチェックリストとともに解説します。
この記事の見出し
なぜ事前準備が重要なのか
実地棚卸は、多くの部門の人が同じ日に一斉に動く作業です。しかも、期末日の在庫は後から数え直すことができません。誰がどこを数えるのか、どの在庫を対象にするのか、数えた結果をどう記録するのかが曖昧なまま当日を迎えると、数え漏れや二重カウントが起き、そのまま決算の数字に入り込みます。
準備には大きく五つの柱があります。責任者・管理者の任命、棚卸計画書の作成、マニュアルの作成、打合せ会による周知、そして現品の整理と入出庫の締切です。
図1 当日はやり直しがきかないため、五つの準備を前もって終えておきます。
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責任者と管理者を任命する
最初に行うのは、全体を統括する責任者の任命です。統括責任者には、工場や店舗の運営を束ねる取締役クラスなど、上級の管理者を充てます。社長が任命する形をとると、棚卸が全社的に重要な手続であることが社内に伝わります。
統括責任者の下に、工場や店舗といった拠点ごとの棚卸責任者を置き、原票の配布・回収や集計を管理する棚卸管理者を補佐役として任命します。保管場所をいくつかのエリアに区切り、エリアごとの責任者も決めます。エリア責任者には、カウント担当者を指揮できる職位の人を選ぶことが大切です。
規程・計画書・マニュアルを書き分ける
棚卸に関する文書は、三つに分けて整備すると管理しやすくなります。毎年ほとんど変わらない骨格を定める「実地棚卸規程」、毎回の日程や人員を定める「実地棚卸計画書」、現場での具体的な手順を定める「実地棚卸マニュアル」です。
規程には「計画書を作成し承認を得る」「2名以上のチームで数える」といった方針だけを書き、具体的な日時やチーム編成は計画書に委ねます。こうしておけば、規程を毎年改訂する必要がなくなります。
図2 毎年変わらないルールは規程に、毎回変わる日程や人員は計画書に、現場の手順はマニュアルに書き分けます。
| 文書 | 主な記載事項 | 更新の頻度 |
|---|---|---|
| 実地棚卸規程 | 目的(実在性・網羅性・評価)、責任者の任命、実施回数と方法、対象範囲、期末日前に行う場合の扱い | 原則として変わらない |
| 実地棚卸計画書 | 実施日時、タイムテーブル、対象範囲、チーム編成、持参品、注意事項 | 毎回 |
| 実地棚卸マニュアル | 現品の整理、原票の記入と管理、カウント方法、立会い、回収、差異分析、報告 | 手順を見直したとき |
計画書を作り、チームを編成する
計画書では、規程の方針を今回の棚卸に落とし込みます。実施日時、集合から講評会までのタイムテーブル、対象範囲、チーム編成、持参品、入出庫の停止時刻などの注意事項を盛り込みます。立会者が巡回する時刻と順序、外部の監査人が立ち会う場合の段取りも、計画書で決めておきます。
図3 規程で定めた方針を、今回の棚卸の具体的な日程と人員に落とし込みます。
チームは、在庫を管理している部門の担当者と、経理や営業など他部門の担当者を組み合わせた2名以上で編成します。在庫に詳しい人がいないと品目の特定に時間がかかり、在庫部門だけで数えると牽制が効きません。両方を混ぜることで、正確さと相互チェックを両立させます。
図4 在庫を管理する部門の担当者と、他部門の担当者を組み合わせて相互に牽制させます。
レイアウト図で担当の漏れをなくす
現品を整理した後、店舗や倉庫、生産現場の見取図と、エリア・棚番を書き込んだレイアウト図を作ります。このレイアウト図を基に、すべての棚に担当チームを割り当てます。割り当てていない棚がないかを図の上で確認できるため、数え漏れの防止に役立ちます。
レイアウト図には、通常の棚だけでなく、出荷場、返品の検査場所、特売用のワゴン、営業車の中など、在庫が置かれやすい場所も漏れなく書き込みます。不良品や長期滞留品、棚卸の対象外とする品の置き場所も示しておきます。
図5 エリアと棚番を決め、除外品や不良品の置き場も書き込みます。全ての棚に担当を割り当てたかを、この図で確認します。
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現品を数えやすく整理する
当日に慌てないよう、現品は事前に整理整頓しておきます。同じ品目はなるべく1か所に集め、品名や品番が一目で分かるように表示します。開封品と未開封品が混在していれば分け、原材料・仕掛品・製品の置き場も明確に区別します。
不良品や長期間動いていない在庫は、在庫管理システムから年齢表(入庫からの経過期間別の一覧)を出して事前に抽出し、1か所にまとめておきます。こうすると、当日の評価の判断がしやすくなるうえ、関係者が滞留在庫の量を実感するきっかけにもなります。扱いの詳細は「滞留在庫・不良在庫・預け在庫の扱い」で解説しています。
預け品と預り品を区別する
外部倉庫や外注先、販売委託先に置いてある自社の在庫(預け品)は、自社の棚卸資産として数える必要があります。原則として、在庫証明書や預り証を入手するか、重要なものは現地に出向いて数えます。反対に、他社から預かっている品(預り品)は自社の在庫ではないため、自社在庫と分けて置き、「対象外」と第三者にも分かる表示をしておきます。
図6 所有者と置き場所の組合せで扱いが決まります。混同は数え漏れや二重計上の原因になります。
入出庫の締切を決める
棚卸の最中に在庫が動くと、数えた数量と帳簿の計上日がずれ、差異の原因になります。入庫・出庫・生産は原則として停止し、やむを得ず動かす場合の手続(責任者と経理責任者の承認を得るなど)を事前に決めておきます。仕入先や得意先には、当日の入出荷を避けてもらうよう前もって連絡します。
それでも入荷がある場合に備えて、締切時刻を決めておきます。たとえば17時までに入荷したものは当日付で仕入に計上して数え、17時以降のものは翌日付で計上して数えない、というルールです。計上日と棚卸の対象をそろえることが目的です。
図7 締切時刻を決めて取引先にも伝え、計上日と棚卸対象をそろえます。
事前カウントと封印で当日の負担を減らす
多品種の小物を扱う製造業などでは、期末日まで動く見込みのない在庫を事前に数え、小分けして封印し、外から数量が分かる表示をしておく方法もあります。当日は表示を読み上げて確認するだけで済むため、作業時間を大きく短縮できます。採用する場合は、誰がどのように封印し表示するかもマニュアルに定め、立会者が封印の状態を確認できるようにします。
図8 期末日まで動かない在庫を先に数え、当日の作業量を減らす方法です。封印と表示の方法も手順に入れます。
打合せ会で全員に周知する
計画書とマニュアルができたら、棚卸日より前に関係者を集めて打合せ会を開きます。日程、担当エリア、原票の書き方、計測器の使い方、仕掛品の進捗度の判断方法、不良品の扱いなどを説明し、疑問点を解消しておきます。夜間の実施やアルバイト中心の体制では、スピードを優先して精度が落ちがちなため、棚卸の重要性を事前に伝えることが特に大切です。
図9 期末日に一斉棚卸を行う場合の目安です。会社の規模に応じて前倒しします。
| 時期 | 準備の内容 | 主な担当 |
|---|---|---|
| 4週間前 | 計画書の作成と承認、責任者・チームの決定 | 統括責任者・棚卸責任者 |
| 2週間前 | マニュアル・原票・コントロールシートの準備、打合せ会 | 棚卸管理者 |
| 1週間前 | 整理整頓、レイアウト図、滞留品の抽出、取引先への連絡 | エリア責任者 |
| 前日 | 入出庫の締切、事前カウントと封印、計測器の作動確認 | 各チーム |
準備でよくある失敗
| よくある失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| レイアウト図がない | 割り当てのない棚が数え漏れになる | 全ての棚に担当を割り当て、図で確認する |
| 在庫部門だけで数える | 誤りや隠ぺいに気づけない | 他部門の担当者とのペアにする |
| 預り品を区別していない | 他社の品を自社在庫として数える | 置き場を分け「対象外」と表示する |
| 入出庫の締切が曖昧 | 計上日と数量がずれて差異になる | 締切時刻と例外の承認手続を決める |
- 統括責任者・棚卸責任者・管理者・エリア責任者を任命したか
- 規程・計画書・マニュアルを書き分け、承認を得たか
- 在庫部門と他部門を組み合わせたチームにしたか
- レイアウト図で全ての棚に担当を割り当てたか
- 預け品・預り品・除外品・不良品の扱いを決めたか
- 入出庫の締切時刻と例外の手続を決め、取引先に伝えたか
よくある質問
日時やチーム編成は毎回変わるため、計画書は毎回作成して承認を得ます。前回の講評会で出た改善点を反映させる場でもあります。
開くことをお勧めします。文書を配るだけでは、原票の書き方や計測の方法が担当者ごとにばらつきます。短時間でも説明と質疑の場を設けると精度が上がります。
計画書の案ができた段階で共有し、立会いの時刻や場所、テストカウントの進め方をすり合わせておくと、当日の混乱を防げます。
最初の一歩は、レイアウト図を描くこと
準備の見直しは、まず保管場所のレイアウト図を描くことから始めると効果的です。図を描くと、担当の決まっていない場所や、在庫が置かれやすいのに見落とされている場所が見えてきます。そのうえで、当日の流れは「実地棚卸当日の流れとカウント方法」を参考に組み立ててください。
まとめ
実地棚卸は当日のやり直しがきかないため、事前準備がそのまま精度になります。責任者を任命し、規程・計画書・マニュアルを書き分け、他部門を混ぜたチームとレイアウト図で担当を割り当て、現品を整理し、入出庫の締切を決める。準備をチェックリストで確認してから当日を迎えることが、数え漏れと差異を減らす最も確実な方法です。全体像は「実地棚卸とは?目的・種類・実施時期・手順」をご覧ください。
棚卸規程・計画書・マニュアルの整備、当日の立会い、差異分析と在庫の内部統制の見直しまで、現在の運用を確認したうえで支援します。上場準備中の会社の監査対応もご相談ください。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。