※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
「毎年やっているけれど、数えて終わりになっている」。実地棚卸について、こうした声をよく聞きます。棚卸は営業や生産を止めて大人数で行う作業なのに、その結果が在庫管理の改善に生かされていない会社は少なくありません。
結論からいえば、実地棚卸の目的は、期末の在庫を正しく確定することと、帳簿と実物の差異の原因を突き止めて管理を改善することの二つです。本記事では、実地棚卸の目的、帳簿棚卸との違い、実施時期の選び方、記録方式、手順、体制、差異の原因までを図表で整理します。実地棚卸シリーズ全10回の入口として、各テーマの詳しい記事への案内も付けています。
実地棚卸とは
実地棚卸とは、一定の時点で会社が保有する在庫の現物を実際に数え、数量を確定する手続です。数えた数量に単価を掛けて期末の棚卸資産の金額を算定し、決算に反映します。対象は商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品など、棚卸資産のすべてです。
在庫の数え方には、もう一つ「帳簿棚卸」があります。帳簿棚卸は、品目ごとに入庫と出庫を日々記録し、帳簿上で残高を計算する方法です。継続記録法とも呼ばれます。これに対して実地棚卸は、現物を数えて残高を確定する方法です。
図1 帳簿の数量と数えた数量を突き合わせ、差があれば原因を調べて帳簿を実数に合わせます。
この二つは対立するものではなく、組み合わせて使うものです。日々の入出庫を記録して帳簿棚卸ができる状態をつくり、そのうえで定期的に実地棚卸を行って帳簿と実物を突き合わせる。差があれば原因を調べ、帳簿を実際の数量に合わせて修正する。これが在庫管理の基本形です。
払出の記録を持たず、実地棚卸だけで期末在庫を出している会社もあります。この方法でも売上原価は計算できますが、盗難や記録漏れで在庫が減っていても、比べる帳簿がないため気づけません。資産を守るという観点からは、帳簿棚卸と実地棚卸の両方が必要です。
| 帳簿棚卸(継続記録) | 実地棚卸 | |
|---|---|---|
| 方法 | 入出庫を日々記録し、帳簿上で残高を計算 | 一定時点の現物を数えて数量を確定 |
| 分かること | 任意の時点の理論上の残高 | その時点の実際の残高 |
| 弱み | 記録の誤りや盗難による減少が反映されない | 数える手間がかかり、営業・生産を止めることが多い |
| 役割 | 日常の在庫管理・発注の基礎 | 帳簿の正しさの検証と期末残高の確定 |
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実地棚卸の目的
実地棚卸の第一の目的は、期末の棚卸資産を正しく確定することです。棚卸資産の金額は売上原価を通じて利益に直結し、税務上の所得にも影響します。預金や売掛金と違い、在庫の残高は外部から証明をもらうことができないため、会社自身が数えた結果が決算の根拠になります。
会計監査の考え方に当てはめると、実地棚卸で確かめることは三つに整理できます。帳簿にあるものが本当にあるか(実在性)、あるものを漏れなく数えたか(網羅性)、そして売れなくなった在庫を見つけて評価に反映できるか(評価の妥当性)です。棚卸のルールは、この三つを満たせるように設計します。
図2 監査でいうアサーションに対応させると、棚卸のルールを設計しやすくなります。
第二の目的は、帳簿と実物の差異を見つけ、その原因を突き止めることです。帳簿の数量が実際と違えば、誤った情報で発注や生産を行うことになり、欠品や過剰在庫を招きます。差異の原因をたどれば、入出庫の処理や保管方法の問題が見えてきます。実地棚卸は、在庫管理の弱点を洗い出す年に一度の機会でもあります。
実施時期の選び方
実地棚卸の実施時期には、大きく三つの型があります。期末日に入出庫や生産を止めて全量を数える「期末日一斉棚卸」、期末日より前の基準日に一斉に数えて期末日までの受払で調整する「期末日前の一斉棚卸」、倉庫や工場のエリアを順番に数えて一定期間で一巡させる「循環棚卸」です。
図3 期末日一斉が原則です。期末日前や循環棚卸を採るなら、帳簿の精度が前提になります。
原則は期末日一斉棚卸です。貸借対照表の在庫は期末日の実際の数量を表すべきものであり、期末日に数えれば差異の有無もはっきりします。ただし、多店舗の小売業のように期末日に全店を休業させると影響が大きい会社もあります。こうした会社では、店舗ごとに日をずらして期末日前に数え、期末日までの受払記録で期末数量を確定する方法が採られています。
図4 基準日の実数から、期末日までの入庫を足し、出庫を引いて期末数量を出します。
期末日前に数える方法や循環棚卸は、基準日の実数に入出庫の記録を足し引きして期末数量を出すため、記録の精度が低いと期末数量も不正確になります。帳簿の精度が高く、差異が小さいことが確認できている会社に限って採用すべき方法です。税務上も、期末に実地棚卸を行うのが原則であり、業種や在庫の性質に応じた合理的な方法を継続して適用する場合に限って、期末日以外の方法が認められるという考え方が示されています(法人税基本通達5-4-1)。
| 型 | 向いている会社 | 前提・注意点 |
|---|---|---|
| 期末日一斉棚卸 | 工場・倉庫を1日止められる会社 | 前日までに入出庫を締め、当日の例外を決めておく |
| 期末日前の一斉棚卸 | 多店舗展開で期末日に全店を止めにくい会社 | 基準日から期末日までの受払記録が正確で、証憑が残っていること |
| 循環棚卸 | 在庫管理システムが整い、差異が小さい会社 | 一巡の計画と、期末時点での差異の検証方法を決めておく |
カウント結果の記録方式
数えた結果を記録する方式は、主に三つあります。連番を印刷した棚卸原票(タグ)に品名と数量を書いて現品に貼る原票方式、在庫管理システムから出力したリストに数量を書き込むリストアップ方式、バーコードやRFIDを読み取って数量を入力する方式です。
図5 在庫の性質とシステムの整備状況に合わせて選びます。
原票方式は、数えた現品に原票が貼られるため、どこを数えたかが目に見え、後から検証しやすい方法です。リストアップ方式は効率的ですが、品目ごとの置き場をシステムに正しく登録していることが前提になります。リストに帳簿数量まで印刷すると、数量を「合わせにいく」カウントを招くため、印刷しないのが原則です。詳しくは「棚卸原票とコントロールシートの使い方」で解説しています。
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実地棚卸の手順
実地棚卸は、事前準備、当日のカウント、回収と集計、差異分析、帳簿の修正、講評と改善という流れで進みます。当日は一度きりの作業で、後日のやり直しがききません。そのため、成否の多くは事前準備で決まります。
図6 数えて終わりではなく、差異の原因を調べ、改善を次回の計画に反映するまでが一連の手順です。
事前準備では、責任者の任命、計画書とマニュアルの作成、在庫の整理整頓、入出庫を止める時刻の決定などを行います(実地棚卸の事前準備)。当日は2人1組で数え、可能なら担当を替えてもう一度数えます(当日の流れとカウント方法)。回収した原票は集計表で品目ごとに合算し、帳簿と比べて差異を分析します(棚卸差異の分析と再カウント)。
体制と立会い
実地棚卸は、在庫を管理している部門だけで完結させないことが重要です。全体を統括する責任者を取締役クラスから選び、拠点ごとの責任者、原票や集計を管理する管理者、エリアごとの責任者、カウント担当という階層をつくります。カウントは、在庫を管理する部門の担当者と他部門の担当者を組み合わせた2人1組で行います。
図7 在庫を管理する部門だけで完結させず、他部門の担当者と立会者を組み込みます。
さらに、在庫の管理とは関係のない部門の人が立会者として現場を巡回し、手順どおりに数えているかを確認し、抜き取りで数え直します。会計監査を受けている会社では監査人も立ち会い、監査役も立会いに参加するのが一般的です。それぞれの役割は「実地棚卸の立会い」で整理しています。
差異の原因と改善
棚卸差異の原因は、大きく四つに分けられます。棚卸当日の数え間違いや数え漏れ、日々の入出庫時の数え間違い、伝票や入力の誤り、そして盗難や横領などの不正です。差異が出たら、どの原因によるものかを品目ごとに突き止めます。
図8 差異は、日々の入出庫や現物管理のどこかに問題があるというサインです。
原因が分からない差異を、それらしい数字で埋めてはいけません。過去の不正事例を見ると、原因不明の差異を理論上の数字で調整したことが、不正の入口になっていることがあります。不明な差異は不明として報告し、承認を得て処理する仕組みが必要です。在庫を使った不正の型と統制については「実地棚卸の内部統制と在庫を使った不正」で詳しく扱います。
図9 特に計画(P)と報告・改善(A)に力を入れると、棚卸の精度と効率が上がります。
実地棚卸は、毎回の結果を次の計画に反映させることで精度が上がります。差異の件数や金額、エリアごとの所要時間といった目標を事前に決め、終了後は講評会と検討会議で問題点を共有し、経営者に報告します。滞留在庫や不良在庫を棚卸の場で把握し、評価や処分につなげることも重要です(滞留在庫・不良在庫・預け在庫の扱い)。
シリーズ記事の案内
| テーマ | 記事 |
|---|---|
| 準備 | 実地棚卸の事前準備|責任者・計画書・現品の整理 |
| 当日 | 実地棚卸当日の流れとカウント方法 |
| 様式 | 棚卸原票とコントロールシートの使い方 |
| 差異 | 棚卸差異の分析と再カウントの基準 |
| 立会い | 実地棚卸の立会い|社内立会者・監査人・監査役 |
| 在庫の区分 | 滞留在庫・不良在庫・預け在庫の扱い |
| 統制 | 実地棚卸の内部統制と在庫を使った不正の手口 |
| IPO・外注 | 上場準備会社の実地棚卸|監査契約・外注・固定資産・M&A |
| 会計・税務 | 棚卸減耗損・評価損の会計と税務 |
- 期末日に実施するか、期末日前・循環棚卸の前提を満たしているか
- 統括責任者を任命し、他部門を組み込んだ体制にしているか
- 連番の原票やリストで、数えた範囲を検証できるか
- 差異の原因を品目ごとに調べ、承認を得て帳簿を修正しているか
- 結果を経営者に報告し、次回の計画に反映しているか
よくある質問
決算のために少なくとも年1回は必要です。差異が大きい会社や不正リスクの高い在庫を持つ会社では、半期や四半期ごとに行うことで管理の精度が上がります。
入出庫を止めるのが原則ですが、閉店後に行う、エリアごとに順番に数えるといった方法もあります。期末日以外に行う場合は、受払記録の正確さが前提になります。
毎期おおむね一定量を購入して経常的に消費するものは、税務上、継続適用を条件に購入時の損金にできるため、棚卸を省略する会社もあります。ただし、無駄な買い置きを防ぐ観点では数えることが望ましいといえます。
カウントや集計を外注し、自社は立会いを行う形が多く見られます。外注の際の留意点は「上場準備会社の実地棚卸|監査契約・外注・固定資産・M&A」で取り上げています。
最初の一歩は、前回の差異の原因を一覧にすること
仕組みを見直すなら、まず前回の棚卸で出た差異を品目ごとに一覧にし、原因を四つの分類に当てはめてみることをお勧めします。原因不明のまま処理したものがどれだけあるかが分かれば、次に手を付けるべきところが見えてきます。
まとめ
実地棚卸は、期末の在庫を確定する手続であると同時に、帳簿と実物の差異から在庫管理の弱点を見つける機会です。期末日一斉を原則に、帳簿の精度に応じて実施時期を選び、他部門と立会者を組み込んだ体制で数え、差異の原因を突き止めて改善につなげる。この一連の流れを毎回回すことが、決算の信頼性と在庫管理の両方を高めます。
棚卸規程・計画書・マニュアルの整備、当日の立会い、差異分析と在庫の内部統制の見直しまで、現在の運用を確認したうえで支援します。上場準備中の会社の監査対応もご相談ください。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。