上場申請から上場までの流れと期間
上場申請から上場日までは、プライム市場・スタンダード市場で約4か月(標準審査期間3か月+承認から上場まで約1か月)、グロース市場で約3か月(同2か月+約1か月)が目安です。申請の前にも、2週間前までのエントリーと1週間以上前の事前確認があります。
- エントリー(申請の2週間前まで)→事前確認(1週間以上前)→上場申請
- 上場審査:ヒアリング標準3回、実地調査、各種面談、社長説明会
- 上場承認の発表→約1か月で上場日(公募・売出しを行う場合)。上場後も概ね1年はフォローアップの対象
2026年10月12日更新
取引所の上場審査の中身(引受審査との違い、審査項目、ヒアリングと面談)は上場審査とは?引受審査との違い、審査の流れと期間の目安で解説しています。
IPO準備の話をしていると、「上場申請さえすれば、あとは審査を待つだけ」という理解に出会うことがあります。しかし実際には、上場申請は長いプロセスの中間地点にすぎません。申請の2週間前にはすでに主幹事証券会社が東証にエントリーを済ませており、申請から上場日までにも面談や説明会、承認後の手続が連続して待っています。
この記事では、東証の新規上場ガイドブックが示す「上場までのスケジュール」のうち、上場申請の直前から上場日、そして上場後のフォローアップまでを時系列で整理します。標準的な期間の目安、市場区分ごとの違い、スケジュールが後ろ倒しになる典型的な要因まで、実務で押さえておきたい点を確認していきましょう。

上場申請から上場日まで 逆算スケジュールシート
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この記事の見出し
この記事の要点
- 上場申請の2週間前までに、主幹事証券会社が「上場申請エントリーシート」を東証に送信する。
- 申請の1週間以上前に、主幹事証券会社と日本取引所自主規制法人の審査担当者との間で事前確認(上場適格性調査の内容、反社会的勢力との関係、審査日程。グロース市場では「高い成長可能性に係る事項」を加えた4項目)が行われる。
- 標準審査期間は3か月(グロース市場は2か月)。ヒアリングは申請受付時のものを除いて3回が標準である。
- 上場承認の発表から上場日までは、公募・売出しを行う場合で約1か月、他市場の既上場会社で公募・売出しを行わない場合は約1週間の周知期間となる。
- 上場後も概ね1年間は東証によるフォローアップの対象となる。
- 申請書類の範囲は有価証券上場規程施行規則第204条第1項に定められている。
1.申請から上場までの時間軸を先に押さえる
まず全体像です。上場申請日を起点として、その前後にどのような手続が並んでいるのかを図にすると、次のようになります。期間はいずれも標準的なケースを前提とした目安であり、申請会社の規模や論点の多寡によって変動します。
主幹事証券会社がエントリーシートを東証にメールで送信
主幹事証券会社と日本取引所自主規制法人の審査担当者が確認
申請書類の受理、審査スケジュールの説明、申請受付時のヒアリング
ヒアリング標準3回、実地調査、各種面談、社長説明会など
東証がホームページ等で承認と上場予定日を公表
上場契約、TDnetでの決算情報等の開示、上場セレモニー
審査で確認した事項を中心に、東証が継続的に企業行動を確認
各段階の手続を表で整理すると、次のとおりです。
| 時期 | 手続 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 申請の2週間前まで | 上場申請エントリー | 主幹事証券会社が申請会社名・希望スケジュール等を記載したエントリーシートを東証に送信 |
| 申請の1週間以上前 | 上場申請に係る事前確認 | 公開指導・引受審査の内容、反社会的勢力との関係、審査日程を確認 |
| Day 0 | 上場申請(通常申請・予備申請) | 申請書類の受理、審査スケジュールの説明、申請受付時のヒアリング |
| 申請後 約3か月 (グロースは約2か月) |
上場審査 | ヒアリング(標準3回)、実地調査、eラーニング、公認会計士ヒアリング、各種面談、社長説明会 |
| 承認日 | 上場承認の発表 | 東証がホームページ等で承認と上場予定日を公表 |
| 承認後 約1か月 | 上場日 | 上場契約、TDnetでの決算情報等の開示、上場セレモニー |
| 上場後 概ね1年 | フォローアップ | 審査で確認した事項を中心に、東証が継続的に企業行動を確認 |
単純に足し合わせると、申請の2週間前から上場日まででおよそ4か月半という計算になります。ただしこれは論点が少なく、審査が滞りなく進んだ場合の姿です。実務では後述するとおり、期間が延びる要因のほうが目につきます。
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2.上場申請に至るまで-事前相談とエントリー
上場申請に向けた準備は、主幹事証券会社や監査法人の指導を受けながら進めていくことになります。その過程で審査基準に関する疑問が生じた場合には、直接、または主幹事証券会社を通じて、東証(上場推進部)および日本取引所自主規制法人(上場審査部)に相談することが可能です。
この事前相談は、単なる質問窓口としてではなく、論点を早期に解決するための仕組みとして位置づけられています。東証は、実質審査基準に照らして重要な論点となり得ることが上場申請前に予見される場合には、申請前の段階で解決の方向性を整理できていることが必要という考え方を示しています。裏を返せば、未整理の論点を抱えたまま申請しても、審査の中で時間を費やすことになるということです。
事前相談での回答は、相談時に示された事実関係に基づく、その時点での見解です。相談後に未発覚の事実が判明したり、会社の状況や上場基準が変わったりすれば、上場審査で異なる結論となる可能性があります。相談したから安心、という整理はできません。
準備が整うと、主幹事証券会社が上場申請の2週間前までに上場申請のエントリーを行います。申請会社名、主幹事証券会社の連絡先、希望する上場スケジュール(上場申請予定日、上場承認希望日、上場希望日)などを記載した「上場申請エントリーシート」を、電子メールで東証に送信する手続です。エントリーシートには直前2期間の連結財務諸表データ(連結財務諸表を作成していない場合は財務諸表データ)を添付します。
3.上場申請に係る事前確認-何を確認されるのか
上場申請の1週間以上前に、主幹事証券会社の担当者と日本取引所自主規制法人の審査担当者との間で事前確認が行われます。プライム市場・スタンダード市場で確認されるのは次の3点です。この段階では申請会社が直接やり取りするわけではありませんが、確認内容の中身は申請会社の準備状況そのものですので、無関係ではいられません。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| ①上場適格性調査の内容に関する報告 | 主幹事証券会社が公開指導・引受審査の過程で特に留意した事項、重点的に確認した事項を、「上場適格性調査に関する報告書」の記載(ドラフト可)に基づいて説明する。重要な内部管理体制の整備・運用、特殊な会計処理の採用、重大な法令違反の存在、特徴的な事業上のリスクなどが具体例として挙げられている。 |
| ②反社会的勢力との関係 | 申請会社が作成する「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」のドラフトに基づき、履歴・属性を調査した関係者(役員、株主、取引先等)の範囲と、その範囲を決めた考え方、実施した調査の内容を確認する。 |
| ③審査日程の確認 | エントリーシートの希望スケジュールを踏まえ、東証が上場申請日やヒアリング実施日などの審査スケジュール案を提示する。申請会社の日常業務の状況を踏まえ、無理のない日程となるよう調整が行われる。 |
グロース市場のガイドブックでは、事前確認の項目は「①申請会社の高い成長可能性に係る事項、②公開指導・引受審査の内容に関する事項、③反社会的勢力との関係、④審査日程」の4項目とされています。高い成長可能性を有しているか否かは主幹事証券会社が判断し、東証はその判断を前提として上場審査を行うという整理です。
なお事前確認の際には、上場申請時のヒアリングに先立って、「Ⅱの部」(グロース市場では「各種説明資料」)のうち申請受付時の質問内容に対応するページのドラフトを、主幹事証券会社を通じて提出します。申請日の時点で書類全体が完成していなくても手続は進みますが、少なくとも申請理由・沿革・事業内容・業界の状況・役員と大株主の状況に関する部分は形になっている必要がある、ということです。
逆算すると、いつ申請することになりますか
希望する上場時期をお聞かせいただければ、申請日、審査期間、承認から上場日までを逆算した日程表を作り、いま着手すべき準備をあわせてお示しします。
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4.上場申請-通常申請と予備申請
上場申請には通常申請と予備申請の2つがあります。提出書類などの諸手続が一部異なりますが、審査の内容そのものは同じです。
通常申請
上場申請の当日は、申請会社側から上場申請にかかる責任者、窓口となる事務担当者、主幹事証券会社の担当者などが出席して受付手続を行います。ここで申請書類が受理され、審査担当者から今後の審査スケジュールと審査内容、進め方の説明を受けます(スケジュール・審査内容は書面で交付されます)。
プライム市場・スタンダード市場のガイドブックでは、申請受付の出席者として上場申請にかかる責任者、事務担当者、主幹事証券会社の担当者などが挙げられています。これに対しグロース市場のガイドブックでは、出席者の先頭に社長が明記されています。成長可能性の説明が審査の中心となる市場の性格が、受付手続の段階から表れているといえます。
受付手続の後、申請会社から上場申請理由、事業内容、業界環境、役員・株主の状況などを説明し、その内容をもとに審査担当者から追加の質問がなされます。ガイドブックでは、申請受付時の質問内容として次の4分野が示されています。
| 分野 | 説明が求められる内容 |
|---|---|
| 上場申請理由 | 上場を申請した理由を、目的や期待する効果を含めて具体的に説明する。 |
| 沿革・事業内容 | 事業内容とビジネスモデル、現在の事業を起こした経緯・目的、設立から現在までの主な事業の変遷を説明する。プレゼンテーション資料、IR資料、製商品案内、現品などを用いる。 |
| 業界の状況 | 市場規模や市況等の最近の業界動向と今後の見通し、同業他社と比較した自社の特徴を説明する。 |
| 役員・大株主の状況 | 現在就任している役員の就任経緯(前職や選任・招聘理由)、大株主による出資の経緯と理由を説明する。 |
予備申請
予備申請は、株式上場時期の集中に伴う弊害を緩和するために設けられた制度です。基準事業年度の決算が確定する前で「Ⅰの部」のドラフトや「Ⅱの部」が準備できないなど、通常申請に必要な書類の一部が提出できない場合でも審査を開始できます。審査は通常申請に必要な資料のドラフトをベースに進め、書類が整った段階で改めて上場申請を行います。予備申請を行った場合の標準審査期間は、予備申請日から上場承認希望日までの期間で計算されます。
なお、上場申請に伴う提出書類の範囲は、有価証券上場規程施行規則に市場区分ごとに定められています。スタンダード市場については同規則第204条第1項に列挙されており、プライム市場およびグロース市場についても、それぞれの節にほぼ同様の書類が定められています。新規上場申請を決議した取締役会議事録の写し、新規上場申請のための有価証券報告書、上場適格性調査に関する報告書、反社会的勢力との関係がないことを示す確認書、社内規程の写しなど多岐にわたります。
提出書類などの諸手続が一部異なりますが、審査の内容そのものは同じです。
5.上場審査-標準審査期間の中身
標準審査期間は、プライム市場・スタンダード市場が3か月、グロース市場が2か月です(東証「新規上場ガイドブック」)。本記事で「3か月」と記載している箇所は、プライム市場・スタンダード市場を前提とした説明です。
審査期間は3か月が標準です。ただしこれは審査の中で特段の問題が認められないケースを前提としたもので、審査上の問題点が発見された場合や、申請会社に関する報道・外部からの情報提供を含めて新たな未発覚事実が判明した場合には、審査期間が延長される可能性があります。
この3か月の間に行われるのは、次のような手続です。
| 手続 | 内容と留意点 |
|---|---|
| ①ヒアリング | 申請書類(特にⅡの部、グロース市場では各種説明資料)をもとに質問事項が提示され、申請会社が回答書を作成してヒアリングに臨む。申請受付時のヒアリングを除いて3回が標準。3回目終了後も詳細な確認が必要と判断されれば追加で実施される。 |
| ②実地調査(実査) | 審査担当者が本社、工場、店舗、研究所、事業所等に赴き、事業内容の実態を確認する。必要に応じて会計伝票・帳票等を閲覧し、会計手続を確認する。 |
| ③eラーニングの受講 | 上場に伴う責務と心構え、コーポレート・ガバナンスや経営管理体制の整備・運用、内部者取引や情報伝達・取引推奨行為の未然防止などを内容とするeラーニングを、役員等が審査期間中に受講する。 |
| ④公認会計士ヒアリング | 監査を行っている公認会計士に対し、監査契約締結の経緯、経営者・監査役等とのコミュニケーション、内部管理体制、経理・開示体制などをヒアリングする。 |
| ⑤社長面談・監査役面談・独立役員面談等 | 社長面談は審査担当者が申請会社に赴いて実施。経営ビジョン、IR方針、ガバナンスとコンプライアンスの方針・体制、適時開示体制、内部情報管理体制などを確認する。監査役面談は原則として常勤監査役が対象。独立役員面談ではガバナンス体制の評価や職務遂行の環境整備状況などを確認する。 |
| ⑥社長説明会 | 社長が東証を訪問し、会社の特徴、経営方針、事業計画等を説明する。質疑応答を通じて上場の可否の最終的な判断に進めるかを検討する。情報取扱責任者となる方と常勤監査役の同席が求められる。 |
| ⑦報告未了事項の確認 | 提出書類や回答書の記載内容に変更があった場合、新たに記載すべき事項を認識した場合は速やかに報告する必要がある。審査担当者は上場承認前に、報告未了事項の有無を照会する。 |
ヒアリング(最終回)から社長面談・監査役面談・独立役員面談の実施までの間隔は、プライム市場・スタンダード市場では標準で中6営業日程度、グロース市場では中3営業日程度が想定されています。この期間に面談対象者のスケジュールを確保できるかは、実務上見落とされやすい論点です。特に社外の独立役員は本業を持っていることが多く、日程調整に手間取ると審査全体が後ろにずれます。
照会に対する報告を怠った結果、新規上場申請に係る宣誓書に違反すると認められる場合は、実効性確保措置の対象となります。また、過去の新規上場審査において宣誓書違反があった場合には、再申請にあたって相当程度の運用期間の確保が必要と判断されることがあります。「まだ確定していないから報告しない」という判断は避け、確認中であればその経過を含めて報告する運用が安全です。
6.上場承認から上場日まで
審査を通過すると、東証がホームページ等で上場を承認した旨と上場予定日を発表します。公表に先立って、東証内での内部決裁手続の終了後に承認決定の連絡が入ります。上場予定日は、申請会社の希望により特定日で発表することも、1週間程度の期間で発表することもできます。
承認発表から上場日までの期間は、公募・売出しを行うかどうか、また他市場での既上場会社かどうかによって変わります。
| ケース | 承認発表から上場日まで |
|---|---|
| 上場に際して公募又は売出しを行う場合 | 約1か月後 |
| 他市場での既上場会社で公募又は売出しを行わない場合 | 約1週間の周知期間後 |
承認されれば手が離れる、というわけではありません。上場日までの間も、取締役会議事録や監査役監査資料といった継続提出書類の提出は続きますし、新たに報告すべき事項を認識した場合はその時点で報告する必要があります。そして、上場承認の発表後に公募・売出しの中止などにより上場審査基準に抵触することとなった場合には、上場承認が取り消されます。形式要件の未達だけでなく、上場時に想定される株主構成や比率が大きく変わることで実質審査基準の適合判断が変わる場合も、取消しの対象として想定されています。
承認から上場までの間には、東証上場部の担当者から情報取扱責任者と適時開示の窓口担当者に対して、適時開示や決算発表などの諸手続の説明が行われます。あわせて、日本取引所自主規制法人の売買審査部からインサイダー取引規制の説明を受けます。なお情報取扱責任者は、取締役・執行役またはこれに準ずる役職から選任し、東証に届け出ることが義務づけられています。
上場日には、東証との上場契約により、適時開示等に関する諸規則を遵守することなどが求められます。当日は「決算情報等のお知らせ」として直近の決算情報等をTDnetを通じて開示し、東証では上場セレモニーが行われ、上場通知書と記念品が贈呈されます。
グロース市場に新規上場する会社は、上場日当日に「事業計画及び成長可能性に関する事項」を開示することが求められます(有価証券上場規程施行規則第408条)。ビジネスモデル、市場環境、競争力の源泉、事業計画、リスク情報等を記載するもので、この資料自体は上場(予備)申請日に提出し、審査の対象となります。上場後も1事業年度に1回以上(事業年度経過後3か月以内に少なくとも1回)、進捗状況を反映した最新の内容で開示する必要があります。
上場承認の発表後に公募・売出しの中止などにより上場審査基準に抵触することとなった場合には、上場承認が取り消されます。承認されれば手が離れるわけではありません。
承認から上場日までの約1か月に起きること
公募・売出しを行う場合、承認から上場日までの約1か月は、公開価格を決めて株式を投資家に届けるための期間です。東証のガイドブックが示す上場前の公募・売出しのルール(有価証券上場規程施行規則第245条以下)と、実務の流れを並べると次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 発行会社がすること |
|---|---|---|
| 上場承認・有価証券届出書の提出 | 従来の方式では、上場承認の時に有価証券届出書を提出し、想定発行価格を記載した目論見書で投資家への説明が始まる。 | 募集・売出しの取締役会決議、ロードショーの準備 |
| 仮条件の決定 | 機関投資家などの意見をふまえ、申請会社と元引受証券会社が仮条件を決め、決定の理由とともに書面で公表する(施行規則第256条)。 | 受け入れる価格の幅を社内で決め、取締役会の授権の範囲を確認する |
| ブックビルディング | 投資家から購入希望の価格と株数の申告を集める。期間はおおむね1週間前後。 | 問い合わせ窓口を一本化する |
| 公開価格の決定 | 需要の状況や株式相場の変動リスクなどを総合的に勘案して決め、価格と理由を書面で公表する(施行規則第247条)。 | 取締役会で価格と株式数を決議する |
| 申込み・払込み | 投資家の申込みと配分、払込みが行われる。元引受証券会社は、原則として申込期間終了の日から起算して3日目(休業日を除く)までに公募又は売出実施通知書を東証に提出する(施行規則第250条)。 | 払込金の受入れと資本金の増加の登記の準備 |
| 上場日 | 売買が始まる。「決算情報等のお知らせ」をTDnetで開示する。 | 適時開示とIRの初動を実行する |
このほか、上場承認の前に有価証券届出書を提出する方式(承認前届出書)も選べるようになっています。金融庁の説明では、この方式は上場承認から上場までの日程を短くすることを目的としており、届出書には上場日に紐づく日程を一定の期間の範囲で記載します。どちらの方式を選ぶかは主幹事証券会社と相談して決めます。仮条件と公開価格がどう決まるのか、日程を短くする方式の内容は、ブックビルディングとは?仮条件から公開価格が決まるまでで詳しく解説しています。
7.上場後のフォローアップ
上場すれば審査対応が終わる、という理解も正確ではありません。東証は、上場後も適切な企業行動を継続してほしいという趣旨から、新規上場を果たした会社に対して上場後概ね1年間、新規上場審査で確認した事項等を中心に継続的なフォローアップを行います。
具体的には、上場後の重要な企業行動や、審査の過程で対応を要請した事項の状況を、適時開示情報等をもとに継続的に確認し、必要に応じて上場会社や主幹事証券会社に照会・ヒアリングを行います。企業行動に適切でない点が認められる場合や、審査上の問題点への対応状況に問題が認められる場合には、今後の方針等を書面等で回答することにより改善を求められます。
重要な企業行動:最高経営責任者(社長等)の辞任、組織再編行為(株式交換・株式移転・株式交付・合併・会社分割)、業務上の重要な提携又は解消、親会社の異動・支配株主の異動等
審査の過程で対応を要請した問題点:審査期間中に整備した内部管理体制の適切な運用状況、解消の必要がある関連当事者取引の漸減・解消状況
上場後の適時開示情報:業績予想などの将来予測情報の修正、上場審査時における事業計画・中期経営計画の変更や見直し
また、有価証券報告書の内容についても、特に「事業等のリスク」が上場後の自社の変化を踏まえて適切に見直されているかが確認されます。上場審査のために一度作った体制や記載を、そのまま据え置いてよいわけではないということです。
8.スケジュールが後ろにずれる典型パターン
最後に、標準スケジュールから外れる要因を整理しておきます。いずれもガイドブックに明記されている事項であり、事前に想定しておけば慌てずに済みます。
| パターン | 内容 |
|---|---|
| 審査期間の確保が足りない | 未上場企業の申請で、上場申請からⅠの部の校了日までに60営業日(グロース市場は40営業日)以上の審査期間が確保できない場合は、事前に相談することが求められている。祝祭日が多い時期を挟むスケジュールでは特に注意が必要。海外への実地調査等が必要となる場合も余裕を持った日程が求められる。 |
| 理事会審議を要する案件 | 民営化企業、議決権種類株式などガバナンス上議論を要するスキームを採用している会社、再上場企業、過去に重大な事件・法令違反があるなどコンプライアンス上の懸念がある会社、上場時に見込まれる時価総額が概ね1,000億円を超える会社などは、標準審査期間に加えて1か月以上の審査期間の確保が求められる。 |
| 基準事業年度が変わる | 審査期間中に定時株主総会日を超えるなどして基準事業年度が変わる場合には、承認予定日の1か月前までに、新たな「Ⅰの部」(ドラフト)と「Ⅱの部」(グロース市場では「各種説明資料」)の更新箇所の提出が必要となる。 |
| 申請日から1年を超える | スケジュール変更により、上場申請日または予備申請日から起算して1年間を超えて上場日を設定する場合は、再申請の手続が必要になる。たとえば4月1日に申請した場合、翌年3月31日までが上場可能な期間となる。 |
| 会計上の論点が未解決 | 重要な会計上の論点は、上場申請までに申請会社と監査法人との間で解決しておく必要がある。上場申請後に未解決であることが判明した場合、審査期間を延長して内容を確認することがある。 |
いずれもガイドブックに明記されている事項です。事前に想定しておけば慌てずに済みます。
9.上場日から逆算する|申請日の決め方とスケジュール例
上場時期の相談で最初に決めるのは、上場申請日です。ここまで見てきた期間を上場日から逆に積み上げていくと、いつまでに何を終えておく必要があるかが見えてきます。
| 逆算の順 | 目安 | 確認すること |
|---|---|---|
| ①上場希望日 | 起点 | 上場申請日(予備申請日)から1年を超えて設定すると再申請が必要 |
| ②上場承認日 | 上場日の約1か月前(公募・売出しを行う場合) | 承認前届出書の方式を選ぶと、承認から上場までが短くなる場合がある |
| ③上場申請日 | 承認希望日の3か月前(グロース市場は2か月前) | 標準審査期間は申請日から承認希望日までで数える。理事会審議を要する案件は1か月以上の上乗せ |
| ④事前確認 | 申請日の1週間以上前 | Ⅱの部(グロース市場は各種説明資料)のうち申請受付時の質問に対応するページのドラフトを提出する |
| ⑤エントリー | 申請日の2週間前まで | 直前2期間の連結財務諸表データ(作成していない場合は財務諸表データ)を添付する |
| ⑥Ⅰの部の校了日 | 申請日から60営業日(グロース市場は40営業日)以上あと | 確保できない日程は事前に相談する。祝祭日が多い時期は特に注意 |
具体的な日付に置き換えると、次のようになります。3月決算の会社が、スタンダード市場に公募・売出しを行って2027年12月中旬に上場したい場合の例です。基準事業年度は2027年3月期で、その決算と監査が終わっていることを前提にしています。
| 時期(例) | 手続 | この時期に社内で必要なこと |
|---|---|---|
| 2027年7月末まで | エントリー | 希望スケジュールを主幹事証券会社と確定させ、直前2期間の財務諸表データをそろえる |
| 2027年8月上旬 | 事前確認 | Ⅱの部の申請受付時に対応するページのドラフト、反社会的勢力との関係がないことを示す確認書のドラフトを用意する |
| 2027年8月中旬 | 上場申請 | 申請書類一式の提出と、申請受付時のヒアリング(申請理由・沿革・業界・役員と大株主) |
| 2027年8月中旬〜11月中旬 | 上場審査 | ヒアリングの回答書の作成、実地調査への対応、社長面談・監査役面談・独立役員面談、社長説明会の日程の確保 |
| 2027年11月中旬 | 上場承認の発表 | 有価証券届出書の提出、ロードショー、仮条件と公開価格の決定 |
| 2027年12月中旬 | 上場日 | TDnetでの決算情報等の開示。ここから概ね1年はフォローアップの対象 |
この例では、審査期間中に次の定時株主総会(2028年6月)を迎えないため、基準事業年度は変わりません。逆に、申請が遅れて承認が翌年6月の総会日をまたぐ日程になると、新しい「Ⅰの部」と「Ⅱの部」の更新箇所の提出が必要になります。また、8月は休暇の時期と重なるため、ヒアリングの回答期限や面談の日程が詰まりやすくなります。例の日付はあくまで目安で、実際の日程は主幹事証券会社と東証との調整で決まります。
上場申請日から逆算すると、Ⅰの部とⅡの部の作成、監査法人との会計上の論点の解決、独立役員を含めた面談対象者の日程の確保を、申請のかなり前に終えておく必要があることが分かります。申請より前の準備期間(N-3期からN期)の進め方は、IPO準備の全体像とは?上場までのスケジュール(N-3期〜N期)と各期にやるべきことで整理しています。
よくある質問(FAQ)
上場申請は東京証券取引所に対して行いますが、実際の上場審査は東証から委託を受けた日本取引所自主規制法人が行います。上場の承認と公表は東証が行います。事前相談についても、東証(上場推進部)と日本取引所自主規制法人(上場審査部)の双方が窓口として示されています。
通常申請の場合は上場申請日から上場承認希望日まで、予備申請の場合は予備申請日から上場承認希望日までの期間で計算されます。上場日までではなく承認日までである点に注意が必要です。承認から上場日まではさらに約1か月(公募・売出しを行う場合)を見込む必要があります。
申請受付時のヒアリングを除いて3回が標準です。ただし3回目が終了しても、より詳細な内容の確認が必要と判断される場合には追加のヒアリングが行われます。また、申請会社グループの規模、繁忙時期、通常業務との兼ね合いなどにより、回答書作成期間の設定やヒアリング回数の調整も可能とされています。
公認会計士ヒアリングは、審査担当者と監査を行っている公認会計士との二者間で実施され、実施時期は申請会社や主幹事証券会社には事前に知らされません。また、最近3年間(基準事業年度の末日からさかのぼります)に監査法人の交代があった場合には、前任者に対してもヒアリングが行われることがあります。この場合、新規上場申請までに前任者との間で守秘義務契約を解除するなど、ヒアリングが実施可能な環境を整えておく必要があります。
あります。上場承認の発表後に、公募又は売出しの中止などにより上場審査基準に抵触することとなった場合には、上場承認が取り消されます。形式要件の未達のほか、上場時に想定される株主構成や比率が大きく変わることで実質審査基準の適合判断が変わる場合も想定されています。
社長(代表者、経営責任者)に加えて、申請会社の「情報取扱責任者」となる方と常勤監査役の同席が求められます。この場では日本取引所自主規制法人の役員から、上場会社になった際の留意事項・要請事項が伝えられ、その内容に開示体制やコーポレート・ガバナンスに関する事項が含まれるためです。
プライム市場・スタンダード市場では、標準審査期間の3か月に、承認から上場日までの約1か月(公募・売出しを行う場合)を加えた約4か月が目安です。グロース市場は標準審査期間が2か月なので約3か月です。申請の2週間前までのエントリーを含めると、さらに2週間ほど前から手続が始まります。審査で問題点が見つかった場合や、理事会審議を要する案件では期間が延びます。
あります。上場申請日または予備申請日から起算して1年間を超えて上場日を設定する場合は、再申請の手続が必要になります。たとえば4月1日に申請した場合、翌年3月31日までが上場可能な期間です。市場環境を見て上場時期を後ろにずらすときは、この期限と基準事業年度の変更の両方を確認してください。
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まとめ
上場申請から上場日までの流れを追っていくと、審査は「書類を出して待つ手続」ではなく、経営者・監査役・独立役員・監査人がそれぞれ直接説明を求められるプロセスであることが分かります。ヒアリングは標準3回、そのうえで社長面談、監査役面談、独立役員面談、社長説明会が続き、監査人には申請会社の知らないところで質問が向けられます。書類の整合性だけを整えても、話す人が同じ理解に立っていなければ噛み合いません。
また、時間の見積もりについても注意が必要です。標準審査期間3か月(グロース市場は2か月)は承認までの期間であり、上場日はそこからさらに約1か月先です。エントリーが申請の2週間前、事前確認が1週間以上前という前倒しの手続も含めれば、上場日から逆算した準備の起点は想像より早い時期になります。加えて、基準事業年度をまたぐ場合や理事会審議を要する案件では、さらに期間が上乗せされます。
当事務所では、上場申請書類の作成支援や審査で問われる論点の整理、面談を控えた役員の方への事前準備の支援など、IPO準備の各段階でご相談を承っています。申請スケジュールの妥当性を確認したい、審査で何を聞かれるのか具体的に知りたいといった段階でも、お気軽にお問い合わせください。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
(本記事の主な参照法令・基準:有価証券上場規程第205条、第207条、第211条、第213条、第217条、第219条、有価証券上場規程施行規則第204条、第408条。東証「新規上場ガイドブック」(Web版。プライム市場編・スタンダード市場編は2026年3月25日最終更新、グロース市場編は2026年7月21日最終更新)。金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(承認前届出書)。東証「新規上場ガイドブック」のうち「新規上場時の公募又は売出しについて」(有価証券上場規程施行規則第245条〜第259条)。本記事は2026年7月時点の公表情報に基づき、2026年10月12日に承認後の手続と逆算のスケジュール例を追記しました。制度は改正される可能性がありますので、実際の適用にあたっては最新の規程および主幹事証券会社・監査法人へのご確認をお願いいたします。)
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