監査役の監査の範囲を会計に限定する|非公開会社の定款と登記

取締役会を置くと監査役が必要になります。ところが、中小企業で業務監査まで担える人を迎えるのは簡単ではありません。そこで使われるのが、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めです。

この定めを置くと、その会社は会社法上の監査役設置会社ではなくなります。監査役はいるのに監査役設置会社ではない、という一見わかりにくい状態が生まれ、他の条文の適用にも波及します。この記事では、条文で何が外れて何が残るのかを整理します。

この記事でわかること

  • 会計限定の定款の定めを置ける会社の条件(会社法389条1項)
  • 外れる権限と残る権限(同条7項と2項から6項)
  • 監査役設置会社に当たらなくなることの波及(2条9号)
  • 定款変更と登記の手続(911条3項17号イ)

なぜこの定めが使われるのか

会社法327条1項により、公開会社は取締役会を置かなければなりません。そして同条2項により、取締役会設置会社は監査役を置かなければならないとされています。ただし書で公開会社でない会計参与設置会社が除かれていますが、会計参与を置く会社は多くありません。

つまり、取締役会を置くと監査役がついてくる構造です。非公開会社で、経営を機動的にするために取締役会は置きたい、しかし監査役に業務監査まで担わせるのは現実的でない。そういう場面で使われるのが389条の定めです。

置ける会社は限られている

会社法389条1項は、公開会社でない株式会社は、381条1項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができると定めています。かっこ書きで、監査役会設置会社および会計監査人設置会社が除かれています。

条件は3つです。公開会社でないこと、監査役会設置会社でないこと、会計監査人設置会社でないこと。上場すれば公開会社になりますので、この定めは使えなくなります。会計監査人を置く会社も同じです。会計監査人がいるのに監査役の範囲も会計だけでは、業務を監査する者が誰もいなくなるためです。

外れる権限は381条から386条まで

会社法389条7項は、381条から386条までの規定は、1項の規定による定款の定めがある株式会社については適用しないと定めています。この6か条が何を定めているかを見ると、外れるものの重さが分かります。

適用されなくなる6か条

  • 381条 取締役の職務の執行の監査。事業の報告を求め、業務および財産の状況を調査する権限。子会社への調査権
  • 382条 取締役が不正の行為をし、または法令定款違反の事実があると認めるときに、取締役会へ報告する義務
  • 383条 取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べる義務。取締役会の招集を請求する権限
  • 384条 取締役が株主総会に提出しようとする議案や書類を調査し、法令定款違反や著しく不当な事項があれば株主総会に報告する義務
  • 385条 取締役が法令定款に違反する行為をし、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときの差止請求
  • 386条 会社と取締役との間の訴えにおいて会社を代表すること

383条が外れる意味は実務で大きく出ます。会計限定の監査役には、取締役会への出席義務がありません。出席してはいけないということではありませんが、義務ではないため、招集通知の宛先や議事録の出席者欄の扱いを社内で決めておく必要があります。

385条の差止請求と386条の会社代表が外れる点も見落とせません。取締役の暴走を止める役割も、会社が取締役を訴えるときに会社を代表する役割も、会計限定の監査役は担いません。

会計に限定すると何が外れ、何が残るか外れる(389条7項)職務の執行の監査(381条)取締役会への報告(382条)取締役会への出席義務(383条)株主総会への報告(384条)差止請求(385条)訴訟での会社代表(386条)残る(389条2項から6項)監査報告の作成(2項)会計に関する議案の調査と株主総会への報告(3項)会計帳簿の閲覧謄写(4項)子会社への会計の報告請求(5項)計算書類の監査(436条1項)

会計の側の権限はしっかり残ります。職責が軽くなるわけではありません

残る権限と義務

会社法389条2項は、この定めがある会社の監査役は、法務省令で定めるところにより監査報告を作成しなければならないと定めています。監査報告の内容は会社計算規則122条1項が、監査の方法およびその内容、計算関係書類が財産および損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見、必要な調査ができなかったときはその旨と理由、追記情報、監査報告を作成した日の5つを挙げています。

同条3項は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告しなければならないとしています。その法務省令が会社法施行規則108条です。計算関係書類のほか、株式の取得に関する議案、剰余金の配当に関する議案、資本金の額の減少に関する議案、準備金の額の減少に関する議案、資本金の額の増加に関する議案などが対象です。

同条4項は、いつでも会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧および謄写をし、または取締役、会計参与、支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができるとしています。同条5項により、職務を行うため必要があるときは、子会社に対して会計に関する報告を求め、または会社もしくは子会社の業務および財産の状況の調査をすることができます。同条6項により、子会社は正当な理由があるときは報告または調査を拒めます。

そして会社法436条1項です。監査役設置会社においては計算書類および事業報告とこれらの附属明細書は監査役の監査を受けなければならないとしたうえで、かっこ書きで、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含むとしています。会計限定の監査役も、計算書類の監査は行うということです。

監査役設置会社に当たらなくなる

ここが分かりにくいところです。会社法2条9号は、監査役設置会社を、監査役を置く株式会社またはこの法律の規定により監査役を置かなければならない株式会社と定義したうえで、かっこ書きで、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除いています。

つまり、会計限定の監査役を置いている会社は、監査役はいるけれども監査役設置会社ではありません。会社法のあちこちに出てくる監査役設置会社という言葉が、自社に当てはまらなくなるということです。波及するものをいくつか挙げます。

株主による差止請求が通りやすくなります。会社法360条1項は、株主が取締役の違法行為の差止めを請求できる要件を著しい損害としています。同条3項により、監査役設置会社ではこれが回復することができない損害に読み替えられますが、会計限定の会社は監査役設置会社ではありませんので、著しい損害のままです。

取締役の報告先が株主になります。会社法357条1項は、取締役は会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは直ちに株主に報告しなければならないとし、かっこ書きで監査役設置会社では監査役に報告するとしています。会計限定の会社では、株主に報告することになります。

会社と取締役の訴訟で会社を代表するのは監査役ではありません。386条が適用されませんので、349条4項の代表取締役、あるいは353条により株主総会が定める者、364条により取締役会が定める者が代表します。

この波及は、書類の書き方にも表れます。定款や社内規程で監査役設置会社という言葉を使っている場合、自社が該当しないことを踏まえて読み直してください。

項目 会計に限定する場合 限定しない場合
会社法上の位置づけ 監査役設置会社に当たらない(2条9号) 監査役設置会社
取締役会への出席 義務なし(383条不適用) 出席し意見を述べる義務
株主による差止め 著しい損害で足りる 回復することができない損害(360条3項)
取締役の報告先 株主(357条1項) 監査役
計算書類の監査 行う(436条1項かっこ書き) 行う

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定款変更と登記

この定めを置くには定款変更が必要です。会社法466条により株主総会の決議で、309条2項11号により特別決議です。

そして登記が必要です。会社法911条3項17号は、監査役設置会社であるときはその旨および次に掲げる事項を登記事項とし、そのかっこ書きで、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含むとしています。そのうえでイが、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社であるときはその旨、ロが監査役の氏名を挙げています。

登記簿には、監査役設置会社である旨に加えて、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある、という記載が入ります。取引先や金融機関が登記簿を見れば分かる状態になるということです。

登記の期限は会社法915条1項により、定款変更の効力が生じた日から本店の所在地において2週間以内です。

職責が軽くなるわけではない

誤解されやすい点をひとつ。範囲が会計に限定されても、その範囲についての職責は変わりません。会社法423条1項は、役員等はその任務を怠ったときは会社に対し損害を賠償する責任を負うと定めており、会計限定の監査役もここでいう役員等です。

389条4項は会計帳簿の閲覧謄写と会計に関する報告を求める権限を与えています。権限があるということは、必要なときに使うべきだということでもあります。計算書類を受け取って形式的に監査報告を作るだけでは、その範囲の職務を果たしたことにならない場面がありえます。

任期も変わりません。会社法336条1項により選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までで、同条2項により公開会社でない株式会社は定款で10年まで伸ばせます。会計限定でも同じです。

上場を考えるなら

上場すれば公開会社になりますので、389条1項の要件を満たさなくなります。定めは効力を失い、監査役は業務監査まで担うことになります。会計監査人を置く段階でも同じです。

したがって、上場準備の会社は、どこかの時点でこの定めを廃止し、業務監査を担える監査役を迎えることになります。定款変更と登記が必要ですので、機関設計の移行の日程に組み込んでください。

そして、人を替えるかどうかの判断が要ります。会計限定として就任した監査役に、そのまま業務監査を担ってもらうのか、別の方を迎えるのか。監査役の任期は4年と長く、336条1項ただし書に相当する短縮の規定がありませんので、任期の途中で交代してもらうには辞任か解任という重い手続になります。移行の時期は、任期の満了に合わせて設計するのが実務的です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 取締役会を置くと必ず監査役が要りますか。

A. 会社法327条2項により原則として必要です。ただし書で公開会社でない会計参与設置会社が除かれています。監査役を置く場合、非公開会社であれば389条1項により監査の範囲を会計に限定できます。

Q. 会計限定の監査役は取締役会に出席しなくてよいのですか。

A. 会社法389条7項により383条が適用されませんので、出席義務はありません。出席してはいけないという意味ではありませんので、招集通知の宛先や議事録の扱いを社内で決めておいてください。

Q. 登記簿を見れば会計限定かどうか分かりますか。

A. 分かります。会社法911条3項17号イにより、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社であるときは、その旨が登記事項とされています。

📄 まとめ

監査役の監査の範囲を会計に限定する定めは、公開会社でなく、監査役会設置会社でも会計監査人設置会社でもない会社が使えます。389条7項により381条から386条までが適用されなくなり、業務監査、取締役会への出席義務、差止請求、訴訟での会社代表が外れます。

一方で、監査報告の作成、会計に関する議案の調査と株主総会への報告、会計帳簿の閲覧謄写、計算書類の監査は残ります。会社法上は監査役設置会社に当たらなくなり、株主の差止請求の要件や取締役の報告先にも波及します。定款変更は特別決議で、登記簿にも記載されます。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 会社法389条1項(会計に限定する定款の定めを置ける会社の条件)
  • 会社法389条7項(381条から386条までの不適用)
  • 会社法389条2項から6項
  • 会社計算規則122条1項(監査報告の内容)、会社法施行規則108条(調査の対象)
  • 会社法436条1項かっこ書き(計算書類の監査は行うこと)
  • 会社法2条9号(監査役設置会社の定義から除かれること)、357条1項、360条3項
  • 会社法327条1項・2項(取締役会と監査役の設置義務)
  • 会社法911条3項17号イ(登記事項)、466条・309条2項11号(定款変更)、915条1項(2週間以内の登記)
  • 会社法336条1項・2項(任期)、423条1項(任務懈怠責任)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。

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