株式分割の手続と日程|基準日の公告と効力発生日の決め方

上場準備で株式分割を行う理由は、たいてい2つです。単元株式数を100株にそろえること、そして想定発行価格を投資家が買いやすい水準に調整することです。

手続そのものは軽く、取締役会の決議で足ります。ただし基準日の公告に2週間かかりますので、日程には制約があります。この記事では、会社法183条から順に、何を決め、どこに期限があるのかを整理します。

この記事でわかること

  • 取締役会で決める3つの事項(会社法183条2項)
  • 基準日の2週間前の公告と、それを不要にする定款の定め(124条3項)
  • 発行可能株式総数を株主総会の決議なしで増やせる範囲(184条2項)
  • 種類株式を発行している会社で追加の決議が要る場合

決めるのは3つだけ

会社法183条1項は、株式会社は株式の分割をすることができると定めています。同条2項は、その都度、株主総会、取締役会設置会社にあっては取締役会の決議によって、次の事項を定めなければならないとしています。

1号は、株式の分割により増加する株式の総数の、分割前の発行済株式の総数に対する割合、および当該株式の分割に係る基準日です。分割比率と基準日をセットで決めます。2号は効力を生ずる日です。3号は、種類株式発行会社である場合の、分割する株式の種類です。

取締役会の決議で足りるのは、株式分割が既存株主の株式数を増やすだけで、持株比率を動かさないためです。株式の併合が株主総会の特別決議を要するのと対照的です。

会社法184条1項により、基準日において株主名簿に記載され、または記録されている株主は、効力発生日に、基準日に有する株式の数に分割の割合を乗じて得た数の株式を取得します。取得の時期は効力発生日であって、基準日ではありません。

基準日の公告が日程を決める

会社法124条3項は、基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、基準日と行使できる権利の内容を公告しなければならないと定めています。株式分割で日程が伸びるのは、ほぼこの公告が理由です。

ただし同項にはただし書があります。定款に当該基準日および当該事項について定めがあるときは、公告を要しません。定時株主総会の議決権の基準日を定款で決めている会社は多いのですが、株式分割の基準日まで定款に書いている会社はまれです。

そこで、株式分割の基準日を株主総会の日とする旨を定款に定めておく、という組み立てが使われます。株主および取締役の全員の協力が得られるのであれば、会社法319条1項の決議の省略でその定款変更を行い、あわせて会社法368条2項により取締役会の招集手続を省略して同じ日に取締役会を開き、その日を効力発生日とすることも考えられます。もっとも、上場準備で株主総会の運営を正常化していく方向とは逆の手続ですので、常用は避けてください。

定款の手当てをしないのであれば、取締役会の決議をした日に公告をし、そこから中2週間を置いて、その次の日を基準日とします。効力発生日は基準日の後であれば任意に決められます。

株式分割の日程は基準日の公告で決まる取締役会分割比率基準日 効力発生日公告基準日この日の株主が対象になる効力発生日株式を取得登記は2週間以内中2週間(124条3項。定款に定めがあれば公告は不要)

定款に基準日の定めを置いておけば、この2週間を省けます

発行可能株式総数の枠が足りるか

株式分割をすると発行済株式の総数が増えます。定款で定めた発行可能株式総数を超えてしまう場合、本来であれば定款変更が必要で、それは株主総会の特別決議です(466条、309条2項11号)。

ここに例外があります。会社法184条2項は、現に2以上の種類の株式を発行している会社を除き、株主総会の決議によらないで、効力発生日における発行可能株式総数を、その前日の発行可能株式総数に分割の割合を乗じて得た数の範囲内で増加する定款の変更をすることができると定めています。

10倍の分割をするなら、発行可能株式総数も10倍までは総会の決議なしに増やせるということです。分割によって希薄化が生じないため、株主の同意を求める必要がないという趣旨です。

逆に言えば、2以上の種類の株式を発行している会社ではこの例外が使えません。ある種類の発行可能株式総数の増加が他の種類の株主を害するおそれがあるためです。原則どおり株主総会の特別決議による定款変更が必要になります。ベンチャーキャピタルから優先株式で出資を受けている会社は、この点を最初に確認してください。

種類株主総会が必要になる場合

会社法322条1項2号は、種類株式発行会社が株式の分割をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ効力を生じないと定めています。ただし書により、その種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は除かれます。

一部の種類の株式だけを分割する場合など、種類間のバランスが動く設計では、この決議の要否を検討することになります。全種類を同じ比率で分割するのであれば、損害を及ぼすおそれは通常生じません。

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単元株式数とあわせて動かす

上場準備では、株式分割と単元株式数の設定をセットで行うことが多くあります。会社法191条は、株式の分割と同時に単元株式数を増加し、または単元株式数についての定款の定めを設ける場合であって、定款変更後の各株主の保有する単元株式数が変更前を下回らないときは、株主総会の決議によらないで定款変更ができるとしています。

たとえば100分割と同時に単元株式数を100株にすれば、株主が保有する単元の数は変わりません。この場合、定款変更に株主総会の決議は要りません。分割と単元の設定を別々の総会で行うより、同時に動かすほうが手続が軽くなります。

論点 原則 例外
決定機関 取締役会の決議(183条2項) 取締役会非設置会社は株主総会
基準日の公告 2週間前まで(124条3項) 定款に定めがあれば不要(同項ただし書)
発行可能株式総数 定款変更は特別決議 分割の割合の範囲内なら決議不要(184条2項)
単元株式数の設定 定款変更は特別決議 分割と同時で単元数が下回らなければ不要(191条)

効力発生後の登記

発行済株式の総数は登記事項です。会社法915条1項により、効力発生日から本店の所在地において2週間以内に変更の登記をします。発行可能株式総数を184条2項により増加した場合は、その変更も同時に登記します。

資本金の額は動きません。株式分割は株式の数を増やすだけで、財産が払い込まれるわけではないためです。1株当たりの純資産額が分割の割合に応じて下がる、という関係になります。

実務では、分割の後に株主名簿を更新し、新株予約権を発行している場合は、その目的である株式の数と行使価額の調整が必要かどうかを確認します。調整の定めは新株予約権の内容として置かれているのが通常ですので、発行時の決議と割当契約を確認してください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 株式分割に株主総会の決議は必要ですか。

A. 取締役会設置会社では取締役会の決議で足ります(会社法183条2項)。ただし、種類株式発行会社で発行可能株式総数を増やす必要がある場合や、322条1項2号に当たる場合は、株主総会または種類株主総会の決議が必要です。

Q. 基準日の公告を省く方法はありますか。

A. 会社法124条3項ただし書により、定款に基準日と行使できる権利の内容の定めがあるときは公告を要しません。株式分割の基準日を定款に定めておく組み立てが使われます。

Q. 株式分割で資本金は増えますか。

A. 増えません。株式の数が増えるだけで、財産の払込みがないためです。登記が必要になるのは発行済株式の総数と、増加した場合の発行可能株式総数です。

📄 まとめ

株式分割は取締役会の決議で、分割比率と基準日、効力発生日、種類株式発行会社では分割する種類を決めます。日程を決めるのは基準日の2週間前の公告で、定款に基準日の定めを置いておけばこれを省けます。

発行可能株式総数は、2以上の種類の株式を発行していない会社であれば、分割の割合の範囲内で株主総会の決議なしに増やせます。優先株式を発行している会社ではこの例外が使えませんので、日程を組む前に確認してください。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 会社法183条1項・2項(株式の分割で定める3つの事項)
  • 会社法184条1項(基準日株主が効力発生日に株式を取得すること)、同条2項(発行可能株式総数の増加)
  • 会社法124条3項(基準日の2週間前までの公告と、定款に定めがある場合の例外)
  • 会社法322条1項2号(種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会)
  • 会社法191条(株式の分割と同時に単元株式数を定める場合の特則)
  • 会社法466条・309条2項11号(定款変更は株主総会の特別決議)、915条1項(2週間以内の変更登記)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。

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