ベンチャーキャピタルから出資を受ける。事業会社と資本業務提携をする。いずれも第三者割当増資です。株主割当てではなく、特定の相手にだけ株式を割り当てる方法です。
非公開会社の第三者割当てでは、株主総会の特別決議が実質的に二度出てきます。募集事項を決める決議と、割当先を決める決議です。二度目を取締役会で済ませられるかどうかは、定款と機関設計で決まります。この記事では、どの決議がどこで必要になるのかを整理します。
- 第三者割当てが株主割当てとどう違うのか(会社法202条との対比)
- 募集事項の決定が特別決議になる根拠(199条2項、309条2項5号)
- 割当先の決定にもう一度決議が要ること(204条2項)
- 支配株主の異動を伴う場合の2週間の通知(206条の2)
この記事の見出し
株主割当てとの違いから押さえる
会社法202条1項は、募集において株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができるとしています。株主割当てです。同条2項により、株主は有する株式の数に応じて割当てを受ける権利を持ちますので、持株比率は動きません。
第三者割当てはこの権利を与えない方法です。特定の相手にだけ申込みの勧誘をして割り当てます。既存株主の持株比率は下がりますので、会社法は決議の要件と手続を重くしています。
なお202条3項は、株主割当ての場合に募集事項を誰が決めるかを4つの場合に分けています。定款の定めがあれば取締役の決定または取締役会の決議、公開会社なら取締役会の決議、それ以外は株主総会の決議です。4号の株主総会の決議は309条2項5号により特別決議です。株主割当てだから軽い、とは限りません。
一度目の特別決議 募集事項の決定
会社法199条2項は、募集事項の決定は株主総会の決議によらなければならないとしています。309条2項5号がこの決議を特別決議に指定しています。議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
決める内容は199条1項の5項目です。募集株式の数、払込金額またはその算定方法、現物出資をするときはその内容と価額、払込みの期日または期間、増加する資本金および資本準備金に関する事項です。
200条1項により、この決定を取締役会に委任することもできます。その場合は募集株式の数の上限と払込金額の下限を定めます。委任の決議も309条2項5号により特別決議で、同条3項により払込期日が決議の日から1年以内の募集についてのみ効力を持ちます。ラウンドの途中で条件を詰めていく場合に使われる建て付けです。
二度目の決議 割当先の決定
ここが見落とされます。会社法204条1項は、申込者の中から割当てを受ける者と割り当てる数を定めなければならないとしています。そして同条2項が、募集株式が譲渡制限株式である場合には、この決定は株主総会、取締役会設置会社では取締役会の決議によらなければならないと定めています。ただし書で、定款に別段の定めがある場合は除かれます。
非公開会社の株式は全部が譲渡制限株式ですので、この2項が必ず働きます。取締役会を置いていれば取締役会の決議で足ります。取締役会を置いていない会社では株主総会の決議となり、309条2項5号によりこれも特別決議です。
つまり、取締役会を置かない非公開会社では、募集事項の決定と割当先の決定で、特別決議が二度必要になります。同じ株主総会で両方を決議することは可能ですが、議案としては別に立てます。議事録に一方しか残っていない例をよく見かけます。
総数引受契約を使う場合
引受先が決まっている第三者割当てでは、会社法205条1項の総数引受契約を使うのが一般的です。募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、203条と204条が適用されません。申込書の授受も割当ての決定も不要になります。
ただし同条2項により、募集株式が譲渡制限株式であるときは、株主総会、取締役会設置会社では取締役会の決議によって契約の承認を受けなければなりません。定款に別段の定めがある場合を除きます。204条2項の割当ての決定が、205条2項の契約の承認に置き換わると理解しておけば足ります。この決議も309条2項5号の対象です。
引受先が複数いる場合、全員がひとつの契約に加わっていれば総数引受契約になります。一部の引受先だけと契約を結び、残りを申込みと割当てで処理することはできません。総数の引受けを行う契約、と条文が書いているためです。
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投資契約と会社法の決議は別物
ベンチャーキャピタルとの間では投資契約や株主間契約を結びます。取締役の指名権、事前承諾事項、優先分配、みなし清算といった条項が並びます。これらは当事者間の合意であって、会社法の決議とは層が違います。
会社法の側に落とし込む必要がある条項もあります。優先配当や残余財産の優先分配、取得請求権や取得条項は、種類株式として定款に定めなければ効力を持ちません。定款変更は株主総会の特別決議です。募集事項の決定と同じ総会で決議することになりますので、議案の順序を設計してください。
また、199条4項により、種類株式発行会社において募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、その種類の株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ効力を生じません。定款にその決議を要しない旨の定めがある場合と、議決権を行使できる種類株主が存しない場合は除かれます。ラウンドを重ねて種類株式が増えていくと、この種類株主総会の要否の判定が毎回発生します。
支配株主の異動を伴う場合
会社法206条の2は公開会社の規定です。募集株式の引受人が、引き受けた株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数が、引受人の全員が株主となった場合の総株主の議決権の数の2分の1を超えるときは、払込期日、期間を定めた場合はその初日の2週間前までに、株主に対してその引受人の氏名または名称と住所などを通知しなければなりません。この引受人を特定引受人といいます。
同条1項ただし書により、特定引受人が親会社等である場合と、株主割当ての場合は適用されません。同条2項により通知は公告に代えることができ、同条3項により金融商品取引法の届出をしている場合などは通知が不要です。
そして同条4項が本体です。総株主の議決権の10分の1以上を有する株主が、通知または公告の日から2週間以内に反対する旨を通知したときは、会社は払込期日の前日までに、株主総会の決議によって特定引受人に対する割当てまたは総数引受契約の承認を受けなければなりません。ただし、財産の状況が著しく悪化していて事業の継続のため緊急の必要があるときは除かれます。
この株主総会の決議要件は同条5項に別に置かれています。議決権の過半数、定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で行います。特別決議ではありませんが、定足数を定款で完全に外すことはできません。
非公開会社にはこの規定がありません。募集事項の決定自体が株主総会の特別決議だからです。上場後に第三者割当てを行う場合に効いてくる規定として、押さえておいてください。
上場準備で気をつけること
資本政策は後戻りができません。一度発行した株式を会社が買い戻すには、自己株式の取得の手続と分配可能額の制限がかかります。割当先を決める段階で、上場時の株主構成と流通株式比率まで見ておく必要があります。
手続の面では、議事録と契約書の整合を確認してください。総会議事録に募集事項が書かれているか、取締役会議事録に割当先または総数引受契約の承認が残っているか、投資契約の締結日と決議日の前後関係が合っているか。上場準備の法務デューデリジェンスでは、過去のラウンドすべてについてこの確認が行われます。
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❓ よくある質問
A. 同じ株主総会で両方を決議することはできますが、議案は別に立てます。会社法199条2項の決議と204条2項の決議は根拠条文が違いますので、議事録にも別の決議として記載してください。
A. 会社法204条2項により、取締役会設置会社では取締役会の決議で足ります。総数引受契約による場合も205条2項により取締役会の承認で足ります。
A. 会社法206条の2は公開会社の規定ですので、非公開会社には適用されません。募集事項の決定が株主総会の特別決議によるため、株主はその内容を知る機会があるからです。
📄 まとめ
第三者割当増資では、募集事項の決定と割当先の決定という2つの決議が必要です。非公開会社では前者が必ず株主総会の特別決議になり、後者は取締役会があれば取締役会、なければ株主総会の特別決議です。
総数引受契約を使えば申込みと割当ての手続が省けますが、譲渡制限株式では契約の承認決議が必要です。投資契約の条項のうち、優先分配や取得条項は種類株式として定款に落とさなければ効力を持ちません。議事録と契約書の整合は、上場準備で必ず点検されます。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法199条2項・4項(募集事項の決定と、種類株主総会の決議)、309条2項5号(特別決議の指定)
- 会社法200条1項・3項(取締役会への委任と、1年以内という制限)
- 会社法202条1項から3項(株主割当てとの対比と、決定機関)
- 会社法204条1項・2項(割当ての決定と、譲渡制限株式の場合の決議)
- 会社法205条1項・2項(総数引受契約と、その承認決議)
- 会社法206条の2第1項から第5項(支配株主の異動を伴う場合の通知と、株主総会の承認)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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