取締役会議事録は、上場準備の法務デューデリジェンスでほぼ確実に通読される書類です。そして、指摘がいちばん多い書類でもあります。理由は単純で、議案名と異議なく承認可決という一行しか書かれていないことが多いからです。
会社法施行規則101条3項4号は、議事の経過の要領およびその結果を記載事項としています。結果だけでなく経過も要る、という条文です。この記事では、何をどこまで書けば足りるのか、誰が署名するのか、いつまで保存するのかを条文に沿って整理します。
- 施行規則101条3項が定める8つの記載事項
- 議事の経過の要領をどの程度まで書けばよいか
- 署名または記名押印をするのは誰か(会社法369条3項)
- 異議をとどめないと賛成したものと推定される意味(同条5項)
この記事の見出し
議事録は作成が義務。作らない選択肢はない
会社法369条3項は、取締役会の議事については法務省令で定めるところにより議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役および監査役がこれに署名し、または記名押印しなければならないと定めています。同条4項は、電磁的記録で作成する場合には、法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置をとることとしています。電子署名です。
署名するのは出席した取締役と監査役です。欠席者は署名しません。逆に言えば、議事録の署名欄を見れば誰が出席したかが分かるということです。出席していない取締役の押印が並んでいる議事録は、それ自体が疑問を招きます。
記載事項は施行規則101条3項の8つ
何を書くかは会社法施行規則101条3項が定めています。順に見ていきます。
- 開催された日時および場所(その場所にいない取締役や監査役などが出席した場合はその出席の方法を含む)
- 特別取締役による取締役会であるときはその旨
- 招集権者以外の者の請求や招集によるものであるときはその旨
- 議事の経過の要領およびその結果
- 決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役があるときは、その取締役の氏名
- 取締役会で述べられた一定の意見または発言があるときは、その内容の概要
- 取締役会に出席した執行役、会計参与、会計監査人または株主の氏名または名称
- 議長が存するときは、議長の氏名
1号のかっこ書きは実務でよく効きます。オンライン会議で参加した取締役がいる場合、その出席の方法を書かなければなりません。テレビ会議システムにより出席、というような一文です。書き漏らしている会社が多い箇所です。
6号の意見または発言は、条文がイからチまでで具体的に指定しています。競業取引や利益相反取引を行った取締役の報告(365条2項)、株主による違法行為の差止めに関する事項、会計参与や監査役の意見、補償契約に基づく補償の報告(430条の2第4項)などです。これらがあった回では、内容の概要を残します。
議事の経過の要領をどこまで書くか
4号の議事の経過の要領およびその結果が、いちばん問われる部分です。条文は要領としか言っていませんので、逐語録は求められていません。しかし、結果だけを書けば足りるとも書いてありません。
目安は、その議案について取締役会が何を検討したのかが第三者に分かることです。たとえば多額の借財の承認であれば、資金使途、調達額と金利と期間、返済原資の見込み、代替手段との比較、そこで出た質問と回答の要旨が並んでいれば、審議の実質が残ります。逆に、議長が議案の内容を説明し、審議の結果、全員異議なく承認可決した、という一行だけでは、監督機能が働いた形跡が読み取れません。
ここは上場準備で必ず見られます。付議基準を作り、議案を上げるところまでは整えても、議事録が一行のままでは、取締役会が形式だけで動いていると評価されます。書式を変えるだけの話ではなく、資料の事前配布と質疑の時間を確保するという運営の話に行き着きます。
異議をとどめないと賛成したものと推定される
会社法369条5項は、取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定すると定めています。
これは責任の話に直結します。後日その決議が問題になったとき、私は反対だったと主張しても、議事録に何も残っていなければ推定を覆すのは容易ではありません。反対意見や留保があったのであれば、その旨を議事録に残すよう求めるのが本人の利益になります。社外取締役や社外監査役を迎える会社では、この点をあらかじめ共有しておくとよいでしょう。
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本店に10年間の備置きと、閲覧の請求
会社法371条1項は、取締役会の日から10年間、議事録等を本店に備え置かなければならないと定めています。370条により決議があったものとみなされた日を含み、書面決議の同意書面もここに含まれます。
閲覧と謄写の請求については段階があります。同条2項により株主は権利を行使するため必要があるときに請求できますが、3項により、監査役設置会社、監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社では、株主の請求には裁判所の許可が必要になります。4項は債権者について、役員または執行役の責任を追及するため必要があるときに裁判所の許可を得て請求できるとしています。
株主総会議事録が本店10年かつ支店5年(318条2項・3項)であるのに対し、取締役会議事録は本店10年で、支店の写しの定めがありません。数字が似ているので混同しないでください。
| 書類 | 本店 | 支店 |
|---|---|---|
| 取締役会議事録(371条1項) | 10年 | 定めなし |
| 株主総会議事録(318条2項・3項) | 10年 | 写しを5年 |
| 計算書類等(442条1項・2項) | 5年 | 写しを3年 |
書面決議と報告の省略をしたときの議事録
会社法370条により決議があったものとみなされた場合、議事録の内容は施行規則101条4項1号が別に定めています。決議があったものとみなされた事項の内容、その事項の提案をした取締役の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名の4つです。通常の議事録とは記載事項が違いますので、書式を分けておくと迷いません。
会社法372条1項により報告を要しないものとされた場合も同様で、施行規則101条4項2号が、報告を要しないものとされた事項の内容、その日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を定めています。ただし372条2項により、363条2項の職務執行状況の報告はこの省略の対象外です。
整備の順番
過去の議事録をすべて書き直すことはできません。できるのは、これから作る議事録を条文どおりにすることと、過去分について記載事項の欠落を一覧にして把握しておくことです。上場準備では、いつからどう変えたのかを説明できる状態が求められます。切り替えた回の議事録から書式が変わっていれば、その説明ができます。
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❓ よくある質問
A. 会社法369条3項は、書面で作成する場合は出席した取締役および監査役が署名し、または記名押印しなければならないとしています。署名でも記名押印でもかまいませんが、いずれかは必要です。登記の添付書面になる場合は、印鑑の要件が別に定められています。
A. 施行規則101条3項1号のかっこ書きにより、その場所に存しない取締役が出席した場合の出席の方法を記載します。テレビ会議システムやオンライン会議システムを用いた旨を具体的に書きます。
A. 会社法371条1項は本店に10年間備え置くことを定めており、支店の写しについての定めはありません。支店に写しを置く義務があるのは株主総会議事録(318条3項)と計算書類等(442条2項)です。
📄 まとめ
取締役会議事録は、施行規則101条3項の8つの記載事項をそろえたうえで、議事の経過の要領を第三者が読んで審議の実質が分かる程度に書きます。結果だけを一行で残す議事録は、上場準備で必ず指摘を受けます。
署名または記名押印は出席した取締役と監査役が行い、本店に10年間備え置きます。異議をとどめない取締役は賛成したものと推定されますので、反対や留保があったときはその旨を残すよう求めてください。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法369条3項・4項(議事録の作成と署名または記名押印)、同条5項(異議をとどめない場合の推定)
- 会社法施行規則101条3項(議事録の記載事項)
- 会社法施行規則101条4項(書面決議および報告の省略をした場合の記載事項)
- 会社法371条1項から4項(本店における10年間の備置きと閲覧謄写の請求)
- 会社法318条2項・3項および442条1項・2項(保存年数の比較)
- 会社法372条1項・2項(報告の省略と、その適用除外)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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