会計監査人を選任するのは株主総会です。ここは他の役員と変わりません。ところが、株主総会に出す議案の中身を決めるのは取締役会ではなく監査役会です。会社法344条がそう定めています。
一見すると細かい話ですが、これは会計監査人の独立性を制度として支える仕組みです。監査を受ける側が監査人を決められるなら、独立性は形だけになってしまいます。
この記事では、会計監査人の選任手続を条文にそって整理します。資格の制限、任期が1年であることとみなし再任、監査役会による解任まで見ていきます。
- 会計監査人を置かなければならない会社
- 選任するのは株主総会だが議案は監査役会が決めること
- 会計監査人になれるのは誰か
- 任期1年とみなし再任の仕組み
- 監査役会が単独で解任できる場面
この記事の見出し
📌 会計監査人を置かなければならない会社
会社法328条1項は大会社であって公開会社であるものに監査役会および会計監査人の設置を義務づけ、同条2項は公開会社でない大会社にも会計監査人の設置を義務づけています。大会社は会社法2条6号で、最終事業年度の貸借対照表の資本金が5億円以上、または負債の部の合計額が200億円以上の株式会社です。
あわせて、会社法327条5項は監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は会計監査人を置かなければならないとしています。機関設計としてこれらを選んだ時点で、規模にかかわらず会計監査人が必要になります。
上場準備では、上場審査で最近2年間の財務諸表について監査を受けていることが求められますので、大会社でなくても任意で会計監査人を置くのが通例です。ただし、監査契約を結ぶことと会計監査人を置くことは別の話です。会計監査人は会社法上の機関ですので、定款に定めを置き、株主総会で選任し、登記をして初めて設置されます。
📌 選ぶのは株主総会、議案を決めるのは監査役会
会社法329条1項は、役員および会計監査人は株主総会の決議によって選任すると定めています。決議要件は普通決議です。
問題はその前段です。会社法344条1項は、監査役設置会社においては、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は監査役が決定すると定めています。同条2項は監査役が2人以上ある場合は監査役の過半数をもって決定するとし、同条3項は監査役会設置会社ではこれを監査役会と読み替えるとしています。
取締役会は、監査役会が決めた議案をそのまま株主総会に付議することになります。監査法人を替えたいという経営側の意向があっても、監査役会が同意しなければ議案になりません。監査等委員会設置会社では、会社法399条の2第3項2号により監査等委員会が同じ役割を担います。
議案の内容を決める権限が監査役会にあることが、独立性を制度として支えています。
📌 会計監査人になれるのは公認会計士か監査法人だけ
会社法337条1項は、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならないと定めています。税理士や税理士法人は会計監査人になれません。
同条2項は、会計監査人に選任された監査法人は、その社員の中から会計監査人の職務を行うべき者を選定し、会社に通知しなければならないとしています。監査法人という組織が就任し、実際に職務を行う社員が指名される形です。
同条3項には欠格事由が定められており、会社の子会社等から公認会計士または監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者などが挙げられています。非監査業務の受任が独立性に触れる場面ですので、税務顧問を同じ法人に頼んでいる場合は事前の整理が必要です。
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📌 任期は1年、ただし黙っていれば再任される
会社法338条1項は、会計監査人の任期を選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとしています。取締役の2年、監査役の4年と比べてかなり短い設定です。
しかし、毎年選任決議をしているわけではありません。同条2項が、会計監査人は前項の定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、その定時株主総会において再任されたものとみなすと定めているためです。これがみなし再任です。
したがって、継続する場合は議案が要りません。逆に、再任しない場合は議案を立てる必要があり、その議案の内容も監査役会が決めます。監査法人を替えるという判断は、取締役会ではなく監査役会が主導する構造になっています。
📌 監査役会が単独で解任できる場合がある
会社法340条1項は、監査役は、会計監査人が職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき、会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、心身の故障のため職務の執行に支障がありまたはこれに堪えないときに、その会計監査人を解任することができると定めています。
同条2項は監査役が2人以上ある場合には監査役全員の同意によることとし、同条3項以下で監査役会設置会社における読み替えと、解任後最初に招集される株主総会への報告が定められています。株主総会の決議を待たずに解任できる、例外的な権限です。
実際に使われることはまれですが、この権限があること自体が、会計監査人と監査役会の関係を規定しています。上場準備では、監査役会が会計監査人の評価を毎年行い、その記録を残すことが求められます。権限があるということは、行使するかどうかを判断した記録が要る、ということでもあります。
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❓ よくある質問
A. なりません。会計監査人は会社法上の機関です。定款に会計監査人を置く旨を定め、株主総会で選任し、登記をして初めて設置されます。上場準備で任意監査を受けている段階では、監査契約はあっても会計監査人は置いていない、という状態が普通です。
A. 監査役会が決定した議案を株主総会に付議します。内容を変えることはできません。招集の決定や参考書類の作成といった手続面は取締役会が担います。
A. 決議は不要ですが、判断は必要です。監査役会は毎年、会計監査人の職務の遂行状況を評価し、再任するかどうかを検討することになります。何もしないことと、検討したうえで議案を出さないことは違います。記録を残してください。
A. 頼めません。会社法337条1項は会計監査人を公認会計士または監査法人に限っています。税務顧問と会計監査は別の資格に基づく業務です。
A. 監査役会が再任しない旨の議案の内容を決め、新しい会計監査人の選任議案とあわせて株主総会に付議します。監査法人の交代は上場審査でも理由を聞かれる論点ですので、経緯を議事録に残してください。
📄 まとめ
会計監査人は、大会社と、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社に必置です。上場準備では任意で置くことも多くあります。
選任するのは株主総会ですが、議案の内容を決めるのは監査役会です。会社法344条が権限を移しており、これが独立性を支えています。
会計監査人になれるのは公認会計士または監査法人だけです。非監査業務の受任には欠格事由の定めがあります。
任期は1年ですが、別段の決議がなければ再任されたものとみなされます。再任しないときは議案が必要で、その内容も監査役会が決めます。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法328条1項・2項(大会社の会計監査人設置義務)、同327条5項(監査等委員会設置会社等は会計監査人必置)
- 会社法329条1項(役員および会計監査人は株主総会の決議によって選任する)
- 会社法344条1項から3項
- 会社法337条(会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならない)
- 会社法338条1項・2項(任期は選任後1年)、同340条(監査役等による解任)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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