監査等委員会設置会社への移行は、定款を1行足せば終わるという性質のものではありません。監査役という機関がなくなり、監査を担う人が取締役になりますので、役員の顔ぶれと選任の手続がまとめて動きます。
会社法327条4項は、監査等委員会設置会社は監査役を置いてはならないと定めています。移行と同時に監査役は全員退任します。かわりに、監査等委員である取締役を新たに選任することになります。
この記事では、移行に必要な決議と役員の選び直しを順に整理します。人数と社外の要件、任期が2年と1年に分かれること、報酬を区別して定めることまで条文で確認します。
- 移行に必要な定款変更と決議の種類
- 監査役が全員退任することになる理由
- 監査等委員である取締役を区別して選任する意味
- 3人以上で過半数が社外という人数の要件
- 任期が2年と1年に分かれること
📌 移行は定款変更から始まる
会社法326条2項は、株式会社は定款の定めによって監査等委員会を置くことができるとしています。移行の出発点はここで、株主総会の特別決議による定款変更が必要です。あわせて、監査役および監査役会に関する定めを削ります。
監査等委員会設置会社になると、会社法327条1項3号により取締役会が必置になり、同条5項により会計監査人も必置になります。すでに監査役会と会計監査人を置いている会社であれば、会計監査人はそのまま引き継げます。
そして同条4項が、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は監査役を置いてはならないと定めています。この一文があるため、移行と監査役の退任は同時に起こります。定款変更の効力が生じた時点で、監査役は当然に退任することになります。
📌 監査を担う人が取締役になる
会社法399条の2第1項は監査等委員会がすべての監査等委員で組織されるとし、同条2項は監査等委員は取締役でなければならないと定めています。監査役という別枠の役員ではなく、取締役会の構成員が監査を担う仕組みです。
取締役会の構成員ですから、議決権を持ちます。監査役は取締役会に出席して意見を述べることはできても議決に加われませんでしたが、監査等委員は議決に加わります。ここが実質的にいちばん大きな違いです。
監査等委員会の職務は同条3項に列挙されており、取締役の職務の執行の監査および監査報告の作成、会計監査人の選任等に関する議案の内容の決定、報酬等についての意見の決定が含まれます。
半数以上と過半数、常勤の要否、任期。似ているようで要件が1つずつ違います。
📌 3人以上で過半数が社外取締役
会社法331条6項は、監査等委員会設置会社においては、監査等委員である取締役は3人以上で、その過半数は社外取締役でなければならないと定めています。監査役会の半数以上とは違い、こちらは過半数です。3人なら2人以上が社外になります。
一方、常勤者を置く定めはありません。監査役会について会社法390条3項が常勤の監査役の選定を義務づけているのと対照的です。ただし、常勤者を置かないと日常の情報が入らないため、実務では常勤の監査等委員を置く例も多く見られます。
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📌 選任も報酬も区別して決める
会社法329条2項は、監査等委員会設置会社においては、取締役の選任は監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別してしなければならないと定めています。株主総会の議案も、選任決議も別々に立てることになります。
報酬も同じです。会社法361条2項は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定めなければならないとしています。さらに同条3項は、監査等委員である各取締役の報酬等について定款の定めまたは株主総会の決議がないときは、株主総会で決めた範囲内で監査等委員である取締役の協議によって定めるとしています。
移行の株主総会では、定款変更、監査等委員である取締役の選任、それ以外の取締役の選任、それぞれの報酬の決定という議案が並ぶことになります。議案の立て方を誤ると、決議のやり直しになります。
📌 任期が2年と1年に分かれる
取締役の任期は会社法332条1項により選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までですが、監査等委員会設置会社には特則があります。
同条3項は、監査等委員である取締役を除く取締役について、1項の2年を1年と読み替えると定めています。つまり、監査等委員でない取締役の任期は1年です。監査等委員である取締役は原則どおり2年になります。
さらに同条4項は、監査等委員である取締役の任期については1項ただし書の規定を適用しないとしています。1項ただし書は定款または株主総会の決議による任期の短縮を認める部分ですので、監査等委員である取締役の任期は短縮できません。監査の独立性を確保するための定めです。
結果として、毎年改選になる取締役と2年ごとに改選になる監査等委員が併存します。株主総会の議案と登記が毎年発生しますので、事務の設計はここを前提にしてください。
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❓ よくある質問
A. 会社法327条4項により監査等委員会設置会社は監査役を置いてはならないとされていますので、定款変更の効力が生じた時点で監査役は退任します。任期の途中であっても同じです。退任する監査役に監査等委員である取締役になってもらう場合は、株主総会で改めて選任することになります。
A. 会社法331条6項により、監査等委員である取締役は3人以上で過半数が社外取締役です。3人なら2人以上が社外になります。監査等委員でない取締役の中に社外取締役がいても、この過半数の計算には入りません。
A. 会社法に定めはありません。監査役会について390条3項が常勤者の選定を義務づけているのとは異なります。ただし、常勤者がいないと日々の情報が監査等委員会に入りにくくなりますので、実務では置く例が多く見られます。
A. できません。会社法332条4項が、監査等委員である取締役の任期については1項ただし書の規定を適用しないとしており、定款や株主総会の決議による短縮が認められていません。
A. 制度上は可能ですが、運用の実績が途切れる点に注意が必要です。上場審査では機関の運用状況が見られますので、移行するなら申請より前に決め、移行後の体制で一定期間運営した記録を残すことになります。方針は早い段階で固めてください。
📄 まとめ
移行は定款変更から始まります。株主総会の特別決議で監査等委員会を置き、監査役と監査役会の定めを削ります。
会社法327条4項により監査役は置けなくなりますので、監査役は全員退任します。監査を担う人は取締役になり、取締役会で議決権を持ちます。
監査等委員である取締役は3人以上で過半数が社外取締役です。監査役会の半数以上とは要件が違います。常勤者の定めはありません。
選任も報酬も、監査等委員である取締役とそれ以外を区別して決めます。任期は監査等委員が2年、それ以外が1年で、監査等委員の任期は短縮できません。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法326条2項(定款の定めによって監査等委員会を置くことができる)、同327条1項3号・4項・5項(取締役会必置、監査役を置いてはならない、会計監査人必置)
- 会社法399条の2第1項から3項
- 会社法331条6項(監査等委員である取締役は3人以上で過半数は社外取締役)
- 会社法329条2項(取締役の選任は監査等委員であるものとそれ以外を区別して行う)、同361条2項・3項(報酬等も区別して定める)
- 会社法332条3項・4項(監査等委員でない取締役の任期は1年)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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