宗教法人が収益事業を行うと、その所得に法人税がかかります。ただし税率は普通法人と同じではなく、公益法人等のための低い税率が用意されています。
本則は19%、年800万円以下の部分は15%です。ここに地方法人税と法人事業税と法人住民税が乗ってくるため、実際の負担を知るには全体を見る必要があります。
この記事では、宗教法人の収益事業にかかる税率を条文にそって整理し、数字で確かめます。
- 公益法人等の法人税率が19%である根拠
- 年800万円以下に15%が適用される条件と期限
- 地方法人税と法人事業税と法人住民税の扱い
- 所得1,000万円のときの税額の計算例
- 課税所得を減らすみなし寄附金の仕組み
この記事の見出し
📌 税率の話になるのは収益事業の所得だけ
宗教法人は法人税法上の公益法人等であり、収益事業から生じた所得についてだけ法人税を負担します(法人税法4条1項ただし書き、法人税法6条)。お布施や戒名料や玉串料といった宗教活動由来の収入は課税の対象になりませんので、税率を考える必要もありません。
税率が問題になるのは、駐車場の貸付けや物品の販売や宿泊のように、法人税法施行令5条1項の34業種に当たる事業を継続して事業場を設けて行っている場合です。その事業から生じた所得に、以下の税率を当てはめます。
なお、収益事業と収益事業以外の事業とは、経理を区分して行わなければなりません(法人税法施行令6条)。税率を当てはめる前提として、この区分が正しくできていることが必要です。
📌 本則は19%、年800万円以下は15%
公益法人等に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、所得の金額に100分の19の税率を乗じて計算した金額とされています(法人税法66条3項)。普通法人の23.2%より低い税率が本則として置かれています。
これに加えて、租税特別措置法42条の3の2第1項が軽減税率を定めています。公益法人等については、各事業年度の所得の金額のうち年800万円以下の金額について100分の15とされます。ただし、所得の金額が年10億円を超える事業年度については100分の17です。
この特例は、平成24年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用されます。適用期限は改正のたびに延長されてきましたが、期限が定められた特例であることは押さえておいてください。
収益事業の所得に対する法人税の税率。年800万円以下の部分に軽減税率が適用されます。
事業年度が1年に満たない場合、800万円の枠は月数に応じて按分されます(租税特別措置法42条の3の2第3項)。月数は暦にしたがって計算し、1月に満たない端数は1月とします(同条4項)。事業年度を変更したときは、按分後の金額で区切ってください。
📌 法人税だけでは終わらない
収益事業を行う宗教法人が負担するのは法人税だけではありません。地方法人税は、各課税事業年度の課税標準法人税額に100分の10.3の税率を乗じて計算します(地方法人税法10条1項)。法人税額が決まれば自動的に付いてくる国税です。
法人事業税は、宗教法人については収益事業に係る所得または収入金額にだけ課税されます。地方税法72条の5第1項2号が宗教法人を掲げ、収益事業に係るもの以外の所得または収入金額には事業税を課することができないと定めているためです。
法人住民税の均等割は、収益事業を行っているかどうかで扱いが分かれます。地方税法25条1項2号と296条1項2号は、宗教法人に対して道府県民税および市町村民税の均等割を課することができないとしたうえで、ただし書きで、収益事業を行う場合はこの限りでないとしています。つまり、収益事業を始めた時点から均等割の負担が生じます。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 法人税(年800万円以下) | 15%(所得が年10億円を超える事業年度は17%) |
| 法人税(年800万円超) | 19% |
| 地方法人税 | 法人税額の10.3% |
| 法人事業税 | 収益事業に係る所得等に課税 |
| 法人住民税均等割 | 収益事業を行う場合に課税 |
📌 数字で確かめる
収益事業の所得が1,000万円だった事業年度を例にします。まず800万円までの部分に15%を掛けて120万円。残りの200万円に19%を掛けて38万円。合計すると法人税は158万円です。
これに地方法人税が乗ります。158万円に10.3%を掛けると16万2,740円ですので、国税の合計は174万2,740円になります。ここに法人住民税と法人事業税が加わります。
仮に軽減税率がなく、すべてを19%で計算すると法人税は190万円です。軽減税率によって32万円が抑えられている計算になります。所得が800万円に届かない規模であれば、実質的にすべてが15%の世界になります。
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📌 課税所得を減らす仕組みがある
税率を下げることはできませんが、課税所得を減らす仕組みは法人税法の中に用意されています。みなし寄附金です。収益事業に属する資産のうちから収益事業以外の事業のために支出した金額は、その収益事業に係る寄附金の額とみなされます(法人税法37条6項)。
宗教法人の損金算入限度額は、法人税法施行令73条1項3号ハにより、所得の金額の100分の20とされています。収益事業で得た資金を本来の宗教活動に繰り入れれば、その範囲で課税所得が圧縮されます。
この繰入れを使うには、収益事業と収益事業以外の事業で経理が区分されていて、繰り入れた事実が帳簿で追えることが前提になります。年度末にまとめて振り替えるのではなく、都度の記帳で残しておいてください。
📌 申告と納付で気をつけること
新たに収益事業を開始した場合には、その開始した日以後2か月以内に届出書を提出する必要があります(法人税法150条1項)。届出を出していないと、税務署からの照会で初めて課税関係が表に出ることになり、過去の年度をさかのぼって整理する負担が生じます。
均等割は所得が赤字でも発生します。収益事業を始めたのに市区町村への届出をしていないと、後から数年分をまとめて納めることになりかねません。法人税の届出と同時に、都道府県と市区町村への届出も済ませてください。
自治体によっては、収益事業の規模や公益性を理由に均等割の減免を定めている場合があります。減免は申請が前提ですので、所在地の市区町村の条例を確認しておくと負担が変わることがあります。
収益事業の区分と見込みの所得がわかれば、法人税と地方税を合わせた負担はおおよそ計算できます。届出の要否と区分経理の設計まで、実務の手順からご一緒できます。宗教法人の税務と会計に対応している公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。宗教法人の税務顧問と会計体制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 法人税については、収益事業から生じた所得がなければ申告義務は生じません。ただし、収益事業を行っていない場合でも、宗教法人法にもとづく書類の作成や備付けは別に必要です。税務の申告義務と法人運営上の義務は分けて考えてください。
A. 使えません。軽減税率は各事業年度の所得の金額のうち年800万円以下の部分に適用されます。複数の収益事業を行っていても、所得は合算したうえで800万円で区切ります。
A. 法人税と地方法人税は所得に対する税ですので、赤字であれば生じません。一方、法人住民税の均等割は所得に関係なく課されます。収益事業を行っている限り、赤字の年度でも均等割の負担は残ります。
A. 租税特別措置法42条の3の2の特例は、令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用されます。延長がなければ、年800万円以下の部分も法人税法66条3項の19%に戻ります。適用期限は毎年度の税制改正で確認してください。
A. 法人税に地方法人税と法人事業税と法人住民税が加わるため、法人税率だけを見た数字より高くなります。事業税の税率は都道府県によって異なりますので、所在地の税率表で確認してください。
📄 まとめ
宗教法人の収益事業から生じた所得には、公益法人等の税率である19%が適用されます(法人税法66条3項)。
年800万円以下の部分は15%に軽減されます(租税特別措置法42条の3の2第1項)。所得が年10億円を超える事業年度は17%です。この特例は令和9年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されます。
法人税額の10.3%の地方法人税が加わります。法人事業税は収益事業に係る所得等にだけ課され、法人住民税の均等割は収益事業を行う場合に課されます。
課税所得を減らす仕組みとして、みなし寄附金があります。収益事業から本来の宗教活動へ支出した金額は、所得の20%を限度に寄附金として損金に算入できます。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税法4条1項ただし書き(公益法人等は収益事業を行う場合などに限り納税義務を負う)
- 法人税法6条(内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税)
- 法人税法66条3項
- 租税特別措置法42条の3の2第1項(公益法人等の年800万円以下の所得は100分の15)
- 租税特別措置法42条の3の2第3項および4項(事業年度が1年に満たない場合の年800万円の月数按分)
- 法人税法37条6項
- 法人税法施行令73条1項3号ハ
- 法人税法施行令6条(収益事業を行う法人の経理の区分)
- 法人税法150条1項(収益事業を開始した日以後2か月以内の届出)
- 地方法人税法10条1項(課税標準法人税額に100分の10.3の税率を乗じて計算)
- 地方税法72条の5第1項2号
- 地方税法25条1項2号および296条1項2号
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は宗教法人の税務|収益事業の判定と区分経理の実務にまとめています。