寺院や神社の収入には、法人税がかかるものとかからないものが混ざっています。お布施や戒名料には課税されないのに、同じ授与所で扱う品物の一部には課税されることがあります。
分かれ目は品物の名前ではありません。法人税基本通達15-1-10(1)は、売価と仕入原価との差額が実質は喜捨金と認められるかどうかで判定することを示しています。
この記事では、お布施と授与品の課税の線引きを、通達と国税庁の質疑応答事例にそって整理します。
- お布施や戒名料に法人税がかからない理由
- 御守や御札やおみくじが物品販売業から外れる条件
- 絵葉書や線香など物品販売業に当たる品物の見分け方
- 国税庁がテレホンカードの販売を課税と判断した理由
- 授与所の価格設定と帳簿で備えておくこと
この記事の見出し
📌 お布施と戒名料に法人税はかからない
宗教法人は法人税法上の公益法人等に位置づけられ、収益事業から生じた所得についてだけ法人税を負担します(法人税法4条1項ただし書き、法人税法6条)。収益事業とは、法人税法施行令5条1項に列挙された34業種のうち、継続して事業場を設けて行われるものをいいます(法人税法2条13号)。
お布施、戒名料、玉串料、初穂料は、この34業種のいずれにも当たりません。宗教活動に対する喜捨として受け取るものであり、品物や役務の対価として受け取るものではないからです。目安の金額を檀信徒や氏子にお伝えしている場合でも、その性質が喜捨であることに変わりはありません。
消費税でも同じ整理がされています。国税庁の質疑応答事例は、お布施、戒名料、玉串料等の葬儀や法要に伴う収入について、その収受が現金で行われるか現金以外で行われるかにかかわらず、宗教活動に伴う実質的な喜捨金と認識されているものであるから課税の対象とはならない、としています。
つまり、寺院や神社の中心にある宗教活動由来の収入は、法人税でも消費税でも課税されないのが原則です。判断に迷いが生じるのは、その周辺で扱う品物のほうです。
📌 御守と御札とおみくじが課税されない理由
授与品の判定は、法人税基本通達15-1-10(1)が正面から扱っています。同通達は、宗教法人におけるお守り、お札、おみくじ等の販売のように、その売価と仕入原価との関係からみてその差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく実質は喜捨金と認められる場合のその販売は、物品販売業に該当しないものとする、と定めています。
ここで見ているのは品名ではありません。売価と仕入原価の差が何であるかです。数十円で仕入れた紙のおみくじを100円で授与しているなら、その差は営利の利潤というよりも、信仰にもとづいて納められた喜捨と評価できます。御守や御札も同じ構造です。
性質の面からも区別がつきます。御守や御札は、宗教法人以外の者が同じものを一般の小売店で売ることを想定しにくい品物です。宗教活動と切り離せないという点が、通常の物品販売と分かれる理由になります。
📌 それでも物品販売業になる品物がある
同じ通達には、ただし書きが続きます。宗教法人以外の者が、一般の物品販売業として販売できる性質を有するもの(例えば、絵葉書、写真帳、暦、線香、ろうそく、供花等)をこれらの一般の物品販売業者とおおむね同様の価格で参詣人等に販売している場合のその販売は、物品販売業に該当する、という部分です。
ここに例示されている品物は、いずれも一般の小売店で買えるものばかりです。境内で買っても駅前の店で買っても品物が変わらず、価格も変わらないのであれば、参詣人が支払う代金のうちに喜捨の要素を見いだすことは難しくなります。
また、物品販売業には、動植物その他通常物品といわないものの販売業も含まれます(法人税法施行令5条1項1号の括弧書き)。法人税基本通達15-1-9の注1は、通常物品といわないものに、動植物のほか、郵便切手、収入印紙、物品引換券等が含まれるとしています。券やカードの形をしているから物品販売業から外れる、という理解は誤りです。
📌 テレホンカードの事例が示す判定の実際
国税庁の質疑応答事例に、宗教法人が行うテレホンカードの販売という事例があります。神社が1,000円のテレホンカードに合格祈願、交通安全、家内安全といった文字と神社名を印刷し(印刷費は1枚あたり約250円)、境内で1枚1,500円で販売する、という照会です。
回答は、当該テレホンカードの販売は収益事業たる物品販売業に該当する、というものでした。理由は2つ示されています。1つは、テレホンカードが通常物品といわないものに含まれ、物品販売業の対象になること(法人税基本通達15-1-9の注1)。もう1つは、売価1,500円と原価約1,250円との関係からみて、その差額は通常の物品販売業者の売上利潤であると認められ、その差額が実質は喜捨金と認められるお守りやお札等とは事情が異なること(法人税基本通達15-1-10(1))です。
お守りやお札と同じ場所で販売されるものであっても結論が変わる、という点がこの事例の要です。授与所のどこに置いてあるかではなく、原価と売価の関係が判定を決めています。
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📌 判定は品名ではなく2つの視点で行う
ここまでを整理すると、判定の順序は次のようになります。まず、その品物の売価と仕入原価の差額が、通常の売買利潤ではなく実質は喜捨金と認められるかを見ます。認められないのであれば、その時点で物品販売業に該当します。
認められる場合でも、もう1つの確認が残ります。宗教法人以外の者が一般の物品販売業として販売できる性質の品物を、一般の販売業者とおおむね同様の価格で参詣人等に販売していないかどうかです。あてはまるなら、ただし書きにより物品販売業に該当します。
授与品が物品販売業に該当するかの判定フロー。原価と売価の関係を見たうえで、品物の性質と価格水準を確認します。
実務では、授与品を1つずつこの2段階に当てはめていく作業になります。御守や御札やおみくじは非該当に落ち着くことが多く、絵葉書や暦や線香やろうそくは該当する方向に振れやすい、という傾向をつかんでおくと整理が早くなります。
📌 帳簿と価格表で備えておくこと
収益事業に当たる販売がある場合、公益法人等は収益事業から生ずる所得に関する経理と、収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して行わなければなりません(法人税法施行令6条)。授与所の売上を一括して記録していると、この区分ができません。
そこで、授与品ごとに、仕入先、仕入原価、授与価格、年間の授与数量を一覧にしておくことをおすすめします。この一覧があれば、通達の2つの視点をそのまま当てはめられますし、税務調査で説明を求められたときの資料にもなります。
一般の小売店でも扱う品物については、仕入先の請求書に加えて、同種の品物の店頭価格が分かる資料も残しておくと、おおむね同様の価格かどうかの説明がしやすくなります。
新たに収益事業を開始した場合には、その開始した日以後2か月以内に届出書を提出する必要があります(法人税法150条1項)。授与品の見直しで課税される販売を始めるときは、この期限も同時に確認してください。
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❓ よくある質問
A. 通達は、お守り、お札、おみくじ等の販売のように、売価と仕入原価の差額が通常の売買利潤ではなく実質は喜捨金と認められる場合には、物品販売業に該当しないとしています。おみくじという名称だから当然に非課税になるのではなく、仕入原価と授与価格の関係で判断します。
A. 通達のただし書きは、線香やろうそくや供花のように一般の物品販売業として販売できる性質の品物を、一般の販売業者とおおむね同様の価格で参詣人等に販売する場合には物品販売業に該当するとしています。仕入価格と授与価格の資料をそろえたうえで判断してください。
A. 通達や質疑応答事例に御朱印を直接扱った定めは見当たりません。参拝の記録として押印し納めを受けるという性質から、実質が喜捨と評価できるかどうかで判断することになります。取扱いに迷う場合は所轄の税務署にご確認ください。
A. 価格は判定要素の1つですが、それだけで決まるものではありません。通達は、一般の物品販売業として販売できる性質かどうかと、一般の販売業者とおおむね同様の価格かどうかの両方を見ています。価格を下げただけで、一般の店で買える品物の販売が宗教活動になるわけではありません。
A. 国税庁の質疑応答事例は、お布施、戒名料、玉串料等の葬儀や法要に伴う収入は、宗教活動に伴う実質的な喜捨金と認識されているものであるから課税の対象とはならないとしています。
📄 まとめ
お布施や戒名料や玉串料は、宗教活動に対する喜捨であり、収益事業の34業種に当たりません。法人税でも消費税でも課税の対象にはなりません。
御守や御札やおみくじの授与は、売価と仕入原価の差額が実質は喜捨金と認められる限り、物品販売業に該当しません。判断の軸は品名ではなく原価と売価の関係です。
一方、絵葉書や暦や線香のように一般の店でも買える品物を、一般の販売業者とおおむね同様の価格で販売すると物品販売業に該当します。テレホンカードの事例は、同じ授与所に並んでいても原価と売価の関係が違えば結論が変わることを示しています。
授与品ごとの仕入原価と授与価格の一覧を作り、収益事業とそれ以外で経理を区分してください。新たに収益事業を始めた場合は2か月以内の届出も必要です。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税法4条1項ただし書き(公益法人等は収益事業を行う場合などに限り納税義務を負う)
- 法人税法6条(内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税)
- 法人税法2条13号
- 法人税法施行令5条1項1号(物品販売業)
- 法人税法施行令6条(収益事業を行う法人の経理の区分)
- 法人税法150条1項(収益事業を開始した日以後2か月以内の届出)
- 法人税基本通達15-1-9の注1
- 法人税基本通達15-1-10(1)
- 国税庁質疑応答事例 宗教法人が行うテレホンカードの販売(物品販売業に該当する)
- 国税庁質疑応答事例 お布施、戒名料、玉串料等(消費税の課税の対象とならない)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は宗教法人の税務|収益事業の判定と区分経理の実務にまとめています。