医療法人が決算日までに従業員へ賞与の支給額を通知し、翌事業年度に支払う。この決算賞与は、3つの要件を満たせば通知をした日の属する事業年度の損金になります。
ところが、就業規則に支給日在職者のみに支給する旨の定めがあると、この取扱いは使えません。決算日の通知が支給額の通知に該当しないためです。実務でもっとも多い失敗がここにあります。
この記事では、使用人賞与の損金算入時期を3つのパターンで整理したうえで、未払計上の3要件、支給日在籍要件の問題、役員賞与との違いを説明します。
- 使用人賞与がいつの事業年度の損金になるかという3つのパターン
- 決算賞与を未払計上するための3つの要件
- 支給日在籍要件があると未払計上できない理由
- パートタイマーと他の職員を区分している場合の判定
- 理事への賞与や使用人兼務役員の賞与との違い
図 決算賞与の未払計上の判定(法人税法施行令72条の3にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 決算賞与は3つのパターンで考える
医療法人が従業員に賞与を支給する場合、いつの事業年度の損金になるかは、支給と通知のタイミングによって決まります。法人税法施行令72条の3が、使用人賞与の損金算入時期を3つに分けて定めています。
もっとも単純なのは、決算日までに実際に支給する場合です。この場合は支払った日の属する事業年度の損金になります。
次に、労働協約または就業規則により支給予定日が定められており、その支給予定日が決算日前に到来している賞与については、支給予定日または通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金になります。
そして3つめが、決算日までに支給額を通知し、翌事業年度に支払う、いわゆる決算賞与です。この場合に未払計上が認められるための要件が、次に説明する3つです。
表 使用人賞与の損金算入時期(法人税法施行令72条の3)
📌 未払計上が認められる3つの要件
決算日までに通知し、翌事業年度に支払う賞与について、通知をした日の属する事業年度の損金に算入するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
ひとつめは、その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していることです。総額だけを伝えたり、一部の職員にだけ通知したりしたのでは要件を満たしません。
ふたつめは、通知した金額を、通知したすべての使用人に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていることです。3月決算であれば4月30日までに支払う必要があります。
みっつめは、その支給額につき通知した日の属する事業年度において損金経理していることです。決算で未払賞与として計上しておくということです。
表 3つの要件
📌 支給日在籍要件があると使えない
実務でもっとも多い失敗が、支給日在籍要件です。就業規則や賞与規程に、支給日に在職している者にのみ賞与を支給する旨の定めがある場合、決算日に行った通知は、要件でいうところの支給額の通知に該当しません。
理由は、支給日に在職しているかどうかで支給の有無が決まるのであれば、通知の時点では支給額が確定していないからです。債務として確定していないものを損金にすることはできません。
決算賞与を未払計上する方針であれば、賞与規程を確認してください。支給日在籍要件を外すか、決算賞与についてはその要件を適用しない旨を明確にしておく必要があります。ただし、要件を外すということは、通知後に退職した職員にも支払う義務を負うということです。労務管理の観点も含めて判断してください。
また、いわゆるパートタイマーや臨時雇いの身分で雇用している者と、その他の職員とを区分して賞与の支給を行っている場合には、その区分ごとに通知を行ったかどうかを判定できるとされています。雇用関係が継続的で、他の職員と同様に賞与の対象としている者は、この区分から除かれます。
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📌 役員には使えない
ここまでの取扱いは使用人に対する賞与のものです。理事などの役員に対する賞与は、まったく別の枠組みで判断されます。
役員に対して賞与を支給する場合、法人税法34条1項2号の、所定の時期に確定した額の金銭を交付する旨の定めに基づいて支給する給与、いわゆる事前確定届出給与に該当しなければ損金に算入できません。あらかじめ所轄税務署へ届出書を提出しておく必要があり、決算間際に支給を決めることはできません。
また、使用人としての職務も持つ使用人兼務役員に対する使用人分の賞与についても注意が必要です。他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものは、法人税法施行令70条3号により損金の額に算入されません。使用人兼務役員に賞与を支給するのであれば、他の職員と同じ時期に支給してください。
📌 決算賞与を使うときの考え方
決算賞与は、その事業年度の利益を職員に還元しながら、損金を1年前倒しできる仕組みです。ただし、資金の支出を伴いますので、税負担が減る金額よりも支出のほうが大きいことは当然です。節税のためだけに行うものではありません。
意味があるのは、もともと職員に還元する意思があり、その時期を決算に合わせる場合です。想定より業績がよかった年に、職員の頑張りに報いながら、損金の計上時期も前倒しできるという整理です。
医療法人の場合、剰余金の配当が医療法54条で禁止されていますので、利益を出資者に還元する道がありません。その分、職員への還元と役員報酬の設計が、利益の使い道として重要になります。決算賞与はその選択肢のひとつです。
なお、支給の対象となる職員の範囲や金額の決め方は、毎年の運用として一貫させてください。特定の年だけ特定の職員に集中して支給するような形は、賞与としての性格を疑われる余地があります。
図 実施の手順
決算賞与を使えるかどうかは、賞与規程の書き方で決まります。決算が近づいてからでは間に合わないことがありますので、期中にご相談ください。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. あたりません。要件は、支給額を各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していることです。総額の発表では各人別の通知になりませんので、一人ひとりに金額を示した通知書を交付し、その控えまたは受領の記録を残してください。
A. そのままでは使えません。支給日に在職しているかどうかで支給の有無が決まるのであれば、通知の時点では支給額が確定していないためです。決算賞与を実施する方針であれば、賞与規程を見直す必要があります。ただし、要件を外すと通知後に退職した職員にも支払う義務を負う点に注意してください。
A. 通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内ですので、4月30日までに支払う必要があります。1人でも支払が遅れると、その事業年度の損金として認められません。
A. いわゆるパートタイマーや臨時雇いの身分で雇用している者と、その他の職員とを区分して賞与の支給を行っている場合には、その区分ごとに通知を行ったかどうかを判定できるとされています。ただし、雇用関係が継続的であり、他の職員と同様に賞与の支給の対象としている者は、この区分から除かれます。
A. 使用人賞与の取扱いは役員には適用されません。役員に対する賞与は、法人税法34条1項2号の所定の時期に確定した額の金銭を交付する旨の定めに基づいて支給する給与、いわゆる事前確定届出給与に該当しなければ損金に算入できません。あらかじめ届出書の提出が必要ですので、決算間際に決めることはできません。
📄 まとめ
使用人賞与の損金算入時期は法人税法施行令72条の3が定めており、決算日までに支給額を通知し翌事業年度に支払う決算賞与については、各人別に対象者全員へ通知していること、事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること、通知した事業年度に損金経理していることという3つの要件を満たす必要があります。
注意すべきは支給日在籍要件です。就業規則に支給日に在職する者のみに支給する旨の定めがあると、決算日の通知は支給額の通知に該当せず、未払計上は認められません。決算賞与を実施するのであれば、賞与規程の確認が先です。
理事への賞与は事前確定届出給与の枠組みで判断され、あらかじめ届出書の提出が必要です。使用人兼務役員の使用人分賞与も、他の使用人と支給時期が異なると損金に算入されません。医療法人は剰余金の配当ができませんので、職員への還元と役員報酬の設計が利益の使い道として重要になります。
⚖ 本記事の根拠法令
- 法人税法施行令72条の3(使用人賞与の損金算入時期)
- 法人税基本通達9-2-43および9-2-44(使用人賞与の支給額の通知に関する取扱い)
- 法人税法34条1項2号
- 法人税法施行令70条3号
- 法人税法36条(過大な使用人給与の損金不算入)
- 医療法54条(医療法人は、剰余金の配当をしてはならない)
- 使用人賞与の損金算入時期の3つの要件は、国税庁タックスアンサーNo.5350によります
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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