小規模企業共済と経営セーフティ共済|医療法人化で使えなくなる

個人で開業している医師が使える節税の手段として、中小機構が運営する小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)があります。年間で合わせて324万円まで所得を圧縮できる制度です。

ところが、この2つはいずれも医療法人になると使えません。小規模企業共済は医療法人の役員が加入できず、経営セーフティ共済は医療法人そのものが加入できる中小企業者に含まれないためです。

この記事では、2つの制度の内容と課税関係を整理したうえで、医療法人化を検討している開業医が法人化の前後で何に注意すべきかを説明します。

この記事でわかること

  • 小規模企業共済と経営セーフティ共済の掛金の上限と税法上の扱いの違い
  • 小規模企業共済の共済金を受け取るときの課税関係と、任意解約が不利になる理由
  • 経営セーフティ共済の解約手当金の支給率と、40か月という節目
  • 令和6年10月以降の解約と再加入に関する取扱いの変更
  • 医療法人化するとどちらの共済も継続できないことと、その前後で必要な準備
2つの共済制度に加入できるかの判定医師が共済制度への加入を検討するすでに医療法人を設立し役員になっているどちらも加入できないはいいいえ常時使用する従業員が5人を超えている小規模企業共済は対象外はいいいえ開業から1年を経過していないセーフティ共済は加入できないはいいいえ数年以内に解約する可能性が高い元本割れの確認が必要はいいいえ小規模企業共済と経営セーフティ共済の両方を活用できる

図 共済制度の加入可否の判定(中小機構の公表資料にもとづき作成)

📌 開業医が使える2つの共済制度

個人で開業している医師が使える節税の手段として、中小機構が運営する2つの共済制度があります。小規模企業共済と、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)です。

どちらも掛金を支払った時点で所得を圧縮でき、将来まとまった金額を受け取れます。ただし、税法上の位置づけも、受け取ったときの課税関係も異なります。そして重要なことに、どちらも医療法人になると使えなくなります。

この記事では2つの制度の内容を整理したうえで、医療法人化を検討している開業医が、法人化の前後で何に注意すべきかを説明します。

小規模企業共済と経営セーフティ共済の比較項目小規模企業共済経営セーフティ共済制度の目的廃業や退職に備える個人事業主の退職金制度取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐ制度掛金の範囲月1,000円から7万円まで(500円単位)月5,000円から20万円まで(5,000円単位)年間の上限84万円240万円積立の上限上限なし掛金総額800万円まで税法上の扱い小規模企業共済等掛金控除として所得から控除事業所得の必要経費に算入加入資格常時使用する従業員が5人以下の個人事業主引き続き1年以上事業を行っている中小企業者医療法人の扱い医療法人の役員は加入できない医療法人は加入できない

表 2つの共済制度の比較(中小機構の公表資料にもとづき作成)

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📌 小規模企業共済は個人事業主の退職金制度

小規模企業共済は、個人事業主が廃業したときや退職したときに、それまで積み立てた掛金に応じた共済金を受け取れる制度です。国がつくった個人事業主向けの退職金制度といえます。

掛金は月額1,000円から7万円までの範囲で、500円単位で自由に設定できます。年間では最大84万円です。この掛金は所得税の計算上、その全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から控除できます。事業の必要経費ではなく所得控除である点に注意してください。1年以内の前納掛金も同様に控除の対象になります。

たとえば年間84万円の掛金を支払い、所得税と住民税の適用税率が合計で50%を超える水準にあるのであれば、40万円を超える税負担の軽減につながります。開業医は所得が高くなりやすいため、この制度の効果は相対的に大きくなります。

加入資格は、常時使用する従業員が5人以下の個人事業主です。ここでいう常時使用する従業員には、事業主本人、家族従業員、パートやアルバイトなど臨時に期間を定めて雇い入れている者は含まれません。常勤スタッフを何人も抱えているクリニックでも、この定義にあてはめると加入できる場合があります。ご自身の医院が該当するかは中小機構に確認してください。

📌 受け取り方で課税が変わる

小規模企業共済は、掛金を支払ったときに所得控除できる一方、共済金を受け取ったときには課税されます。この意味で、税金がなくなるのではなく、支払うタイミングを後ろにずらす繰延べの性格を持ちます。

ただし、受け取り方によって課税される所得の種類が変わり、そこに大きな差が生まれます。

小規模企業共済の受取方法と課税関係受取方法税法上の扱い共済金または準共済金を一括で受け取る退職所得共済金を分割で受け取る公的年金等の雑所得一括と分割を併用して受け取る一括分は退職所得、分割分は公的年金等の雑所得遺族が共済金を受け取るみなし相続財産(死亡退職金の非課税枠が使える)65歳以上で任意解約する退職所得65歳未満で任意解約する一時所得

表 共済金等の課税関係(中小機構の公表資料にもとづき作成)

退職所得は、収入金額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1が課税対象になり、他の所得と分離して課税されます。退職所得控除額は、勤続年数20年以下の部分は1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円です。長く続けるほど控除額が積み上がります。

遺族が受け取る場合は死亡退職金としてみなし相続財産になり、法定相続人の数に500万円を乗じた金額までは相続税がかかりません。

一方、65歳未満で任意に解約した場合は一時所得になります。一時所得の計算では、受け取った解約手当金から払い込んだ掛金の総額を控除することができません。さらに掛金納付月数が12か月未満であれば解約手当金は支払われず、240か月未満で任意解約すると掛金の合計額を下回ります。長く続けることが前提の制度です。

📌 経営セーフティ共済は必要経費になる

経営セーフティ共済は、取引先が倒産して売掛金債権等の回収が困難になったときに、掛金総額の10倍に相当する額を限度として共済金の貸付けを受けられる制度です。診療報酬が主な収入である開業医にとって、貸付けそのものを使う場面は多くありませんが、掛金の税法上の扱いに意味があります。

掛金は月額5,000円から20万円までの範囲で、5,000円単位で設定できます。年間では最大240万円、掛金総額は800万円まで積み立てられます。この掛金は、租税特別措置法28条1項2号により、支払った年の事業所得の必要経費に算入できます。所得控除である小規模企業共済とは異なり、事業の必要経費になる点が特徴です。

前納掛金も、前納期間が1年以内であれば支払った年の必要経費に算入できます。年末に加入して1年分240万円を前納すれば、その年に480万円を必要経費にすることも可能です。

ただし解約したときには、解約手当金が事業所得の収入金額になります。掛金を支払った年の所得は減りますが、解約した年の所得は増えます。この点でも繰延べの性格が強い制度です。

経営セーフティ共済の解約手当金の支給率掛金納付月数任意解約みなし解約1か月から11か月0%0%12か月から23か月80%85%24か月から29か月85%90%30か月から35か月90%95%36か月から39か月95%100%40か月以上100%100%

表 解約手当金の支給率(中小機構の公表資料にもとづき作成)

掛金納付月数が40か月以上であれば、任意解約でも掛金の全額が戻ります。逆に12か月未満で解約すると1円も戻りません。加入するのであれば、最低でも40か月は続けられる金額に設定してください。

なお、令和6年10月1日以降に共済契約を解除し、再度加入した場合には、その解除の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金を必要経費または損金に算入できません。解約と再加入を繰り返して所得を平準化する使い方はできなくなりました。

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📌 医療法人化すると2つとも使えなくなる

ここがもっとも見落とされやすい点です。個人開業のうちに使えていた2つの共済は、医療法人を設立すると、いずれも継続できません。

小規模企業共済は、直接営利を目的としない法人の役員は加入できないとされており、医療法人の役員はここに含まれます。中小機構も、開業医には加入資格があるのに医療法人の役員には加入資格がない理由として、医療法人が営利を目的として事業活動を行うものではないことを挙げています。医療法54条が医療法人による剰余金の配当を禁止していることが、その背景にあります。

経営セーフティ共済も、医療法人は加入できる中小企業者に含まれません。個人で加入していた開業医が医療法人成りをした場合は、その日にみなし解除の事由が発生したものとして扱われます。

つまり、医療法人化のタイミングで、両方の共済契約に決着をつける必要があります。

📌 医療法人化の前後で気をつけること

小規模企業共済については、個人事業を廃止して医療法人を設立した場合、廃業を理由とする共済金の請求ができます。この場合は退職所得として課税されますので、退職所得控除を使えます。65歳未満の任意解約として一時所得になる場合と比べて、税負担は大きく変わります。請求の理由をどう整理するかで結果が変わりますので、法人化の手続と並行して確認してください。

経営セーフティ共済については、みなし解除により解約手当金が支払われます。掛金納付月数が40か月に達していれば全額が戻りますが、この解約手当金は個人事業の最後の年の事業所得の収入金額になります。医療法人化する年は、個人事業としての最終年分の所得が大きく膨らむ可能性があります。

医療法人化を数年先に見据えているのであれば、掛金の設定額と加入時期を逆算しておくとよいでしょう。とくに経営セーフティ共済は、40か月に届かない時期に法人化すると、掛金の一部が戻らないまま解約になります。

医療法人化を見据えた共済の使い方開業から1年を経過した時点で経営セーフティ共済への加入を検討する医療法人化の想定時期から逆算し、40か月以上納付できる時期に加入する小規模企業共済は掛金を長期間続けられる金額に設定する医療法人化の年は、解約手当金が事業所得に加わることを織り込んで所得を見積もる個人事業の廃止に伴う共済金の請求方法を、法人化の手続と並行して確認する法人化後は共済に代わる退職金の準備として、役員退職金の積立てを設計する

図 共済制度の使い方の流れ

📌 法人化後の退職金は別の設計が必要になる

医療法人化した後は、理事長個人の退職金を医療法人が支給する形になります。医療法人が支給する役員退職金は、法人税法34条2項および同法施行令70条2号の定めにより、不相当に高額な部分が損金不算入となる範囲で損金になります。

受け取る理事長の側では退職所得となり、退職所得控除と2分の1課税を使えます。小規模企業共済で得ていた効果は、医療法人の役員退職金という形に置き換わると考えるとわかりやすいでしょう。

ただし、共済のように毎年の掛金で自動的に積み上がるものではありません。医療法人の内部留保として計画的に貯めるのか、養老保険や定期保険を活用するのかを、法人化の段階で設計しておく必要があります。

共済と医療法人化のタイミングをご相談ください

小規模企業共済と経営セーフティ共済をいつまで続け、医療法人化のタイミングでどう決着させるかは、所得の水準と法人化の時期によって最適解が変わります。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。顧問業務の内容と進め方は税務顧問業務のページにまとめています。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 開業医は小規模企業共済に加入できますか。

A. 個人で開業している医師は加入できます。加入資格は常時使用する従業員が5人以下の個人事業主とされていますが、この常時使用する従業員には事業主本人、家族従業員、パートやアルバイトなど臨時に期間を定めて雇い入れている者は含まれません。ご自身の医院が該当するかは中小機構に確認してください。

Q. 医療法人の理事長は小規模企業共済に加入できますか。

A. 加入できません。中小機構は、直接営利を目的としない法人の役員等として、協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人などの役員を加入資格のない類型に挙げています。医療法人が営利を目的として事業活動を行うものではないことが理由とされています。

Q. 医療法人化すると経営セーフティ共済はどうなりますか。

A. 医療法人は加入できる中小企業者に含まれないため、医療法人成りをした日にみなし解除の事由が発生したものとして扱われます。掛金納付月数が40か月以上であれば掛金の全額が解約手当金として戻りますが、その解約手当金は個人事業の最後の年の事業所得の収入金額になります。

Q. 経営セーフティ共済をいったん解約して再加入すれば、また必要経費にできますか。

A. 令和6年10月1日以降に共済契約を解除して再度加入した場合、その解除の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は必要経費または損金に算入できません。解約と再加入を繰り返す使い方はできなくなっています。

Q. 2つの共済の掛金は、どちらも事業の必要経費になりますか。

A. いいえ。経営セーフティ共済の掛金は事業所得の必要経費に算入しますが、小規模企業共済の掛金は必要経費ではなく、小規模企業共済等掛金控除として所得から控除します。掛金を事業用の口座から支払っても、経理処理は事業主貸として扱う点に注意してください。

📄 まとめ

小規模企業共済は年間84万円まで、経営セーフティ共済は年間240万円まで掛金を支払うことができ、合わせて324万円の所得を圧縮できます。小規模企業共済の掛金は所得控除、経営セーフティ共済の掛金は事業所得の必要経費という違いがあります。

どちらも受け取ったときに課税されますので、税負担がなくなるのではなく後ろにずれる制度です。小規模企業共済は共済金を一括で受け取れば退職所得になりますが、65歳未満の任意解約では一時所得になり、掛金を控除できません。経営セーフティ共済は40か月以上納付しなければ掛金の一部が戻りません。

そして両制度とも、医療法人になると継続できません。医療法人化を検討しているのであれば、加入の時期と掛金の額を法人化の時期から逆算し、法人化する年に解約手当金が事業所得に加わることまで織り込んで判断してください。法人化後は、医療法人が支給する役員退職金という別の形で退職金を設計することになります。

⚖ 本記事の根拠法令

記載内容の根拠

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。

📚 参考(公的な一次情報)

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