令和8年度の税制改正で創設された大胆な投資促進税制の申請受付が、2026年7月31日に始まりました。経済産業大臣の確認を受けた投資計画に従って設備を取得すると、即時償却または取得価額の7%の税額控除を受けられます。
投資の総額の下限は大企業で35億円、中小企業者等で5億円です。年平均の投資利益率が15%以上となることも要件とされています。
この記事では、制度の内容と手続の流れ、そして実務で問題になりやすい意思決定の日の要件を整理します。
- 対象になる設備と、1件あたりおよび投資総額の金額の要件
- 即時償却と税額控除のどちらを選ぶかの考え方
- 投資計画の意思決定の日に関する要件
- 確認を受ける前に設備を発注してよいかという論点
図 大胆な投資促進税制を使えるかの判定
📌 制度の概要
令和8年度の税制改正で創設された制度です。租税特別措置法第42条の12の7に規定されており、正式には特定生産性向上設備等投資促進税制といいます。産業競争力強化法にもとづいて経済産業大臣の確認を受けた投資計画に従って設備を取得した場合に、即時償却または税額控除を受けられます。
申請の受付は2026年7月31日に始まりました。申請の窓口は本社の所在地を管轄する経済産業局です。
特徴は期間の長さです。計画の提出ができる期間は3年、確認を受けてから設備を取得して事業に使うまでの期間は最大5年あります。経済産業大臣の確認を令和11年3月31日までに受け、その確認を受けた日から5年を経過する日までに取得して事業の用に供した設備が対象になります。大型の投資は意思決定から稼働まで数年かかることを踏まえた設計です。
📌 対象になる設備と金額の要件
表 国税庁の令和8年度改正の概要をもとに作成
個別の資産の金額に加えて、投資の総額にも下限があります。大企業は35億円以上、中小企業者等は5億円以上です。さらに、年平均の投資利益率が15%以上となることが見込まれることが要件とされています。
原則としてすべての業種が対象になります。ただし、資金の調達の手段を計画に記載することや、取締役会などの適切な機関の意思決定にもとづくものであることが求められます。
📌 即時償却か税額控除か
表 国税庁の令和8年度改正の概要をもとに作成
即時償却は課税の繰延べであり、償却が前倒しされるだけで通算の損金の額は変わりません。税額控除は税額そのものが減るため、長い目で見れば有利です。ただし控除限度額があるため、その事業年度に十分な法人税額がなければ使い切れません。今回の制度では控除しきれない額を3年間繰り越せるため、この点は使いやすくなっています。
資金繰りを優先するなら即時償却、通算の税負担を優先するなら税額控除という選び方が基本になります。上場準備の会社では、利益の水準を安定して見せることが重視される場面もあるため、どちらを選ぶかは事業計画とあわせて判断することになります。
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📌 意思決定の日という要件
この制度で実務上の関門になっているのが、投資計画の意思決定がいつ行われたかという点です。
制度の考え方としては、この税制があるから投資を決めたという関係が求められます。そのため、計画の策定の決議または決定が令和7年12月26日以後にされたものであることが確認の基準とされています。令和7年12月25日以前に意思決定していた投資計画を変更したものである場合には、経済産業大臣が定める基準に該当するかどうかを申請書に記載することとされています。
この取扱いについては、経済産業省が公表している申請の手引きと様式で最新の内容を確かめてください。すでに社内で投資の方針を固めていた案件については、いつの機関決定を計画の意思決定とするかによって結論が変わります。申請の前に経済産業局に確認しておくのが安全です。
📌 確認の前に発注してよいか
よくある質問が、計画の確認を受ける前に設備を発注してよいかというものです。
制度の条文で明らかなのは、経済産業大臣の確認を受けた日から5年を経過する日までの間に取得して事業の用に供した設備が対象になるということです。つまり、取得と事業供用が確認の日より後である必要があります。
発注や契約の締結そのものを否定する規定は、公表されている資料からは確認できませんでした。ただし、確認を受ける前に取得まで進んでしまうと対象になりません。納期が長い設備では、発注から納品まで年単位でかかることもあります。確認の申請と発注の順序は、納期を踏まえて設計してください。
図 大胆な投資促進税制の申請から適用までの流れ
📌 上場準備の会社が使う場面
投資の下限が中小企業者等でも5億円ですから、使える会社は限られます。それでも、製造設備を持つ会社、物流の拠点を作る会社、大規模なシステム投資を予定している会社では検討の余地があります。
上場準備の観点では、税額控除を選んだ場合の繰越しの管理が論点になります。控除しきれなかった額を翌期以後3年間繰り越すことになり、繰延税金資産の回収可能性の判断にも関わります。監査法人との協議が必要な項目です。
また、投資計画を取締役会で決議することが要件に含まれているため、決議の記録が残ります。上場審査では、重要な投資の意思決定がどのような手続で行われたかが確認されます。この制度を使うこと自体が、意思決定の手続を整える機会にもなります。
即時償却と税額控除のどちらが有利か、申請の時期をいつにするかは、事業計画と資金繰りを踏まえた判断になります。計画の組み立てから対応できます。上場準備会社の会計と税務の実務に携わっている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
❓ よくある質問
A. 原則としてすべての業種が対象とされています。ただし投資の総額の下限や投資利益率の要件があるため、実際に使えるのは一定規模以上の投資に限られます。
A. 控除限度額は調整前法人税額の20%です。控除しきれなかった額は翌期以後3年間繰り越すことができます。
A. 計画の策定の決議または決定が令和7年12月26日以後にされたものであることが確認の基準とされています。それ以前に意思決定していた計画を変更した場合の取扱いも定められていますので、経済産業省の様式と手引きで確認したうえで、経済産業局に相談してください。
A. 対象になるのは、確認を受けた日から5年を経過する日までの間に取得して事業の用に供した設備です。取得が確認の日より前になると対象外になります。納期の長い設備では、申請と発注の順序を事前に設計してください。
📄 まとめ
大胆な投資促進税制は、経済産業大臣の確認を受けた投資計画にもとづく設備投資について、即時償却または7%(建物等は4%)の税額控除を認める制度です。申請の受付は2026年7月31日に始まりました。
投資の総額は大企業で35億円以上、中小企業者等で5億円以上、年平均の投資利益率は15%以上が要件です。確認を受けてから5年以内に取得して事業に使うという長い期間が認められています。
実務では、投資計画の意思決定の日と、確認を受ける前の発注の扱いが論点になります。いずれも申請の前に経済産業局に確認しておくことをお勧めします。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
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