資産除去債務を計上するとき、割引率に何を使えばよいのか。ここでつまずくと、計上額そのものが変わります。
会計基準の答えは明確です。貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率。そして適用指針の結論の背景が、利付国債の流通利回りなどを参考にすると述べています。
この記事では、条文を確認したうえで、実際に何年の利回りを見るのか、見積りを変更したときはどうするのかを整理します。
- 割引率が無リスクの税引前の利率とされていること
- 期間に対応した利率であること
- 利付国債の流通利回りなどを参考にすると述べられていること
- 自社の借入金利ではないこと
- 時の経過による調整額は当初負債計上時の割引率で算定すること
- 見積りの変更では、増加と減少で使う率が違うこと
📌 結論 無リスク、税引前、期間対応
無リスク、税引前、そして期間に対応したもの。この3つが条件です。自社の借入金利や加重平均資本コストではありません。
企業会計基準第18号の第6項(2)は、割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とする、としています。
適用指針第21号の第5項は、これをより具体的にしています。将来キャッシュ・フローが発生すると予想される時点までの期間に対応する貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の割引率とする、とされています。
そして結論の背景の第23項が、原則として、将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の流通利回りなどを参考に割引率を決定することとなる、と述べています。
ですから実務では、除去の時期に対応する年限の国債利回りを見ることになります。
🔢 何年の利回りを見るか
あとから説明を求められるのは、なぜその率なのかという点です。年限と参照時点、そして出所。この3つを記録しておけば説明は短く済みます。
期間に対応するというのは、除去がいつ行われると見積もったかに対応する、ということです。オフィスの原状回復であれば、賃貸借契約の期間と、更新の見込みから決めます。
10年後の除去を見積もったのであれば、10年の利回りを見ます。20年後なら20年です。一律に10年債の利回りを使う、という運用は条文に沿っていません。
参照する時点は、負債を計上した時点です。使った利回りと、参照した日付、そして出所を必ず記録に残してください。数年後に監査法人から聞かれたときに、これがないと再現できません。
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🏢 賃借オフィスの場合
いちばん多いのが、賃借しているオフィスの原状回復です。ここでの難しさは、いつ出ていくかが決まっていないことにあります。
定期借家であれば、契約期間の満了時が一応の目安になります。普通借家で、更新を重ねる前提であれば、何年後に除去するのかを合理的に見積もる必要があります。移転の計画があるか、事業所の統廃合の方針があるか。そうした社内の資料が根拠になります。
見積りができない場合の取扱いは別にあります。合理的に見積ることができないときの注記については新リース会計基準で普通借家の資産除去債務は計上必要かで扱っています。
敷金がある場合
敷金を差し入れている場合には、簡便法という選択肢があります。どちらを選ぶかで割引率を使う場面そのものが変わりますから、先に方法を決めてください。原則法と簡便法の選び方は資産除去債務の原則法と簡便法にまとめています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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🔄 見積りを変更したとき
増えるときは新しい率、減るときは元の率です。方向によって使う率が変わります。ここは間違えやすいところです。
企業会計基準第18号の第10項は、割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更による調整額は、資産除去債務の帳簿価額および関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理する、としています。
そして第11項が、キャッシュ・フローが増加する場合はその時点の割引率を適用し、減少する場合には負債計上時の割引率を適用する、としています。
増えるときは新しい率、減るときは元の率。ここは方向で分かれます。原状回復費用の見積りが上がったときと下がったときで、使う率が違うということです。
時の経過による調整額は当初の率
第9項は、時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理し、当該調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定する、としています。
毎期の利息費用は、当初の率で計算し続けます。金利が動いたからといって付け替えるものではありません。
⚠️ よくある誤り
借入金利を使ってしまうケースが実務では多く見られます。無リスクという条件を外すと、金額そのものが変わります。
いちばん多いのが、自社の借入金利を使ってしまうケースです。無リスクという条件が入っていますから、信用リスクを反映した率は使えません。
金額への影響も小さくありません。借入金利が2パーセント、国債利回りが0.5パーセントであれば、10年で割り引いた現在価値はかなり変わります。
計上額が変われば、対応する除去費用の資産計上額も変わり、その後の減価償却費も変わります(第7項)。最初に間違えると、影響が長く続きます。
❓ よくある質問
A. 貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率です(第6項(2))。適用指針の結論の背景は、利付国債の流通利回りなどを参考にすると述べています。
A. 将来キャッシュ・フローが発生すると予想される時点までの期間に対応する年限です。
A. 無リスクの利率とされています。信用リスクを反映した率は条件に合いません。
A. 税引前の利率です。
A. 時の経過による調整額は、当初負債計上時の割引率を乗じて算定します(第9項)。
A. その時点の割引率を適用します(第11項)。
A. 負債計上時の割引率を適用します(第11項)。
A. 使った利率、参照した日付、出所、そして年限の決め方です。後年の説明で必要になります。
📄 まとめ
割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率です。期間に対応した率であることも条件になります。
実務では、除去時期に対応する年限の利付国債の流通利回りなどを参考にします。自社の借入金利ではありません。
毎期の利息費用は当初負債計上時の割引率で計算します。見積りを変更したときは、増加ならその時点の率、減少なら負債計上時の率です。
そして、使った利率と参照時点と出所を記録に残してください。数年後に説明を求められます。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」第6項、第7項、第9項、第10項、第11項
- 企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」第5項、結論の背景第23項
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