子会社を買って計上したのれんが、期末に減損しなければならないのか。判定を始める前に、どの単位で見るのかを決める必要があります。ここを間違えると、そもそも結論が変わります。
のれんの減損は、原則としてのれんを含むより大きな単位で判定します。各資産グループに配分する方法も認められていますが、それには要件があります。この順序と要件を条文で確認するのが、この記事の目的です。
あわせて、減損の兆候の4つの例示と、割引前将来キャッシュ・フローの見積期間についても整理します。
- のれんの減損の原則は「より大きな単位」で判定すること(適用指針第52項)
- 各資産グループに配分する方法には要件があること(第53項)
- 減損の兆候は適用指針第12項から第15項に4つ例示されていること
- 市場価格の著しい下落は帳簿価額から50パーセント程度以上の下落であること(第15項)
- 割引前将来キャッシュ・フローの見積期間は、主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方であること
- 減損損失の戻入れは行わないこと(基準 三2)
この記事の見出し
📌 結論 原則はより大きな単位。配分は要件を満たす場合に限る
配分する方法を選ぶには要件があります。管理会計上の実績か、寄与度と強い相関関係をもつ配賦基準です。これがないまま配分すると、方法の選択そのものが問題になります。
「固定資産の減損に係る会計基準」は、企業会計審議会が平成14年8月9日に公表した意見書に添付されているものです。のれんに関する定めは、基準の「二 8 のれんの取扱い」にあり、4つの項目で構成されています。対応する注解は注7、注9、注10、注11です。
基準 二8第2項と適用指針第6号の第52項が、のれんに減損の兆候がある場合、のれんが帰属する事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えた「より大きな単位」で認識の判定と測定を行う、としています。これが原則です。
一方、適用指針第53項が、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する方法が認められる場合を定めています。認められるのは、管理会計上、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分している実績がある場合、または、のれんの帳簿価額を各資産グループに配分する合理的な配賦基準が存在し、その基準が寄与度と強い相関関係をもつ場合です。継続して適用することも求められます。
配分するほうが分かりやすいので、そちらを選びたくなりますが、要件を満たしていなければ選べません。方法の選択そのものが監査で問われます。
🧭 判定の順序
順番が決まっています。いきなりのれんを含む大きな単位だけで判定することはできません。まず各資産グループ、次により大きな単位です。
順序が決まっています。
まず、のれんの帳簿価額の分割です。基準 二8第1項が、のれんが認識された取引において取得された事業の単位が複数ある場合、のれんの帳簿価額を合理的な基準で分割するとしています。注9と注10がこれを補い、適用指針の第51項が、分割し帰属させる事業の単位は「取得の対価が概ね独立して決定され、かつ、取得後も内部管理上独立した業績報告が行われる単位」であるとし、取得時の時価の比率にもとづく方法その他合理的な方法によるとしています。
兆候はどの単位で見るのか
ここは混同されやすいところです。適用指針の第17項が、のれんを含むより大きな単位について第12項から第15項の事象がある場合に、のれんに減損の兆候があるものとして、より大きな単位で認識の判定を行うとしています。つまり、兆候の把握も「のれんを含むより大きな単位」です。
「のれんが認識された取引において取得された事業の単位」という表現は、兆候の把握についてのものではなく、のれんの帳簿価額の分割に関する文脈で出てくる言葉です。ここを取り違えている解説をよく見かけます。
まず資産グループ、次により大きな単位
基準の注7が、より大きな単位でグルーピングする場合、減損の兆候の把握、減損損失の認識の判定、減損損失の測定は、まず資産または資産グループごとに行い、その後により大きな単位で行うとしています。いきなり大きな単位だけで判定することはできません。
のれんをどの単位に分割するのか、より大きな単位で見るのか配分するのか、兆候があると言えるのか、将来キャッシュ・フローをどう見積もるのか。判定の設計から、監査法人に提出する資料の作成までお引き受けします。買収の前段階での試算もご相談ください。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🔔 減損の兆候をどう拾うか
第15項の50パーセント程度以上という水準は、市場価格の著しい下落についてのものです。他の兆候にこの数値を当てはめないでください。
減損の兆候は、基準の「二 1 減損の兆候」に4つ例示され、適用指針の第12項から第15項が対応しています。
第12項が、営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合です。「継続して」という点が要件です。
第13項が、使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合です。事業の廃止や再編成、著しく早期の処分、異なる用途への転用、遊休状態、稼働率の著しい低下、建設計画の中止や延期などが挙げられています。
第14項が、経営環境の著しい悪化の場合です。市場環境、技術的環境、法律的環境の著しい悪化とされています。
第15項が、市場価格の著しい下落の場合です。帳簿価額から50パーセント程度以上の下落が該当するとされています。この50パーセントという水準は、市場価格の著しい下落についてのものです。他の兆候にこの数値を当てはめないでください。
第16項が共用資産の減損の兆候、第17項がのれんの減損の兆候です。
実務での拾い方
買収した事業について、買収時に作った事業計画と実績を毎期比較する仕組みを作っておくのが実務です。計画に届いていない状態が続けば、第12項または第14項の兆候として拾うことになります。
この比較を仕組みにしていない会社は、監査で兆候の有無を問われたときに答えられません。買収の翌期から、計画対比の資料を残してください。
📐 割引前将来キャッシュ・フローの見積期間
減損損失を認識するかどうかは、割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較して判定します。この見積期間について、基準の「二 2 減損損失の認識」が、資産の経済的残存使用年数または資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と、20年のいずれか短い方としています。
一律20年ではありません。ここを固定の年数として扱うと誤ります。
適用指針の第18項が、割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積りについて定めており、主要な資産の経済的残存使用年数が20年以下の場合は当該年数経過時点の正味売却価額を加算し、20年を超える場合は20年経過時点の回収可能価額を加算するとしています。
経済的残存使用年数については第21項、主要な資産については第22項に定めがあります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🔀 共用資産との違い
似ていますが、事前の分割の有無と、減損損失の配分の順序が違います。
共用資産とのれんは、どちらもより大きな単位で判定するという点で似ています。ただし違いが2つあります。
ひとつは、事前の分割です。のれんには、取得された事業の単位が複数ある場合に帳簿価額を分割するという手続がありますが、共用資産にはこれに相当する規定がありません。
もうひとつは、減損損失の配分です。共用資産については、注8が、共用資産の帳簿価額と正味売却価額の差額を超える部分は各資産グループに配分するとしています。のれんについては、注11が、のれんの帳簿価額を超過する額を各資産グループに配分するとしています。また、配分する方法による場合、のれんには「優先的に配分する」という定めがあります(基準 二8第4項、適用指針第54項)。
📊 表示と戻入れ
減損損失は、基準の「四 2 損益計算書における表示」により、原則として特別損失とします。
貸借対照表については、四1と適用指針の第57項に定めがあります。原則は取得原価から減損損失を直接控除する形式ですが、有形固定資産については減損損失累計額を控除する形式で表示することもできます。
戻入れは行いません。基準の「三 2 減損損失の戻入れ」がこれを明確にしています。意見書では、減損の存在が相当程度確実な場合に限って認識と測定を行っていること、戻入れが事務的負担を増大させるおそれがあることなどが理由として述べられています。
なお、適用指針の第56項に、減損処理を行った遊休資産の減価償却費は原則として営業外費用とする旨の定めがあります。
🏢 IPO準備会社が気をつける点
上場準備の局面でのれんの減損が問題になるのは、買収した事業が計画どおりに伸びていないときです。減損すれば利益が落ち、形式要件の利益基準に影響します。減損しなければ、審査で説明を求められます。
大事なのは、どちらを選ぶかではなく、判定の過程を残しておくことです。どの単位で見たのか、兆候をどう検討したのか、将来キャッシュ・フローをどう見積もったのか。この記録がないと、結論が正しくても説明ができません。
のれんの償却年数の決め方はのれんの償却年数は何年にする?、償却か非償却かの議論の現状はのれんは償却しなくてよくなるのかで扱っています。
❓ よくある質問
A. 原則は、のれんが帰属する事業に関連する複数の資産グループにのれんを加えたより大きな単位です(基準 二8第2項、適用指針第52項)。
A. 適用指針第53項の要件を満たす場合に認められます。管理会計上の配分実績があるか、寄与度と強い相関関係をもつ合理的な配賦基準があることが必要で、継続適用も求められます。
A. のれんを含むより大きな単位について第12項から第15項の事象があるかを見ます(適用指針第17項)。
A. 基準の注7が、まず資産または資産グループごとに行い、その後により大きな単位で行うとしています。
A. 適用指針第15項は、帳簿価額から50パーセント程度以上の下落が該当するとしています。ただし他の兆候に当たるかどうかは別に検討が必要です。
A. 主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方です。一律20年ではありません。
A. 配分する方法による場合は、のれんに優先的に配分し、残額を比例配分等で構成資産に配分します(基準 二8第4項、適用指針第54項)。
A. 戻せません。基準の三2が減損損失の戻入れを行わないとしています。
A. 基準の四2により、原則として特別損失です。
A. 判定の過程を説明できるかどうかです。どの単位で見たのか、兆候をどう検討したのか、将来キャッシュ・フローの前提は何かを資料として残してください。
📄 まとめ
のれんの減損は、原則としてのれんを含むより大きな単位で判定します(基準 二8第2項、適用指針第52項)。各資産グループに配分する方法は、第53項の要件を満たす場合に認められる方法です。
順序は、帳簿価額の分割、より大きな単位での兆候の把握、まず各資産グループ、次により大きな単位での判定、そしてのれんへの配分です。
兆候は適用指針の第12項から第15項に4つ例示され、市場価格の著しい下落は帳簿価額から50パーセント程度以上の下落とされています。割引前将来キャッシュ・フローの見積期間は、主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方です。
表示は原則として特別損失、戻入れは行いません。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(平成14年8月9日)および同基準 二1・二2・二7・二8、三2、四、注7から注11
- 企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第11項から第18項、第21項・第22項、第48項から第54項、第56項・第57項
あわせて読みたい