経理を外部に委託している。記帳も、給与計算も、決算資料の作成も、外の会社にお願いしている。この状態のまま上場準備を進められるのか。よく受ける質問です。
委託していること自体が問題になるわけではありません。ただし、委託した業務の内部統制を評価する責任は、委託した会社の側にあります。ここを取り違えると、準備の前提が崩れます。
この記事では、実施基準のどこに何が書かれているのかを番号で確認し、受託会社の保証報告書の種類、そして帳簿をどこに置かなければならないのかまでを整理します。
- 委託業務の評価は実施基準 II.2(1)② に定めがあること
- 委託した会社の側が内部統制の有効性を評価する責任を有すること
- 2023年の改訂でIT関連業務の外部委託が例示に加わったこと
- 受託業務の保証報告書は保証業務実務指針3402にもとづくこと
- タイプ1とタイプ2の違い
- 帳簿と決算関係書類の保存場所は納税地であること(法人税法施行規則第59条第1項)
- 電子データの場合の考え方
📌 結論 委託しても、評価の責任は自社に残る
外部に出したから自社の評価範囲から外れる、という理屈は通りません。ここが出発点です。
根拠は、財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の II.2(1)② です。見出しは「委託業務の評価」で、II が財務報告に係る内部統制の評価及び報告の章、その2が財務報告に係る内部統制の評価とその範囲、(1)が有効性の評価という構造の中にあります。
ここには、委託業務も評価範囲に含まれ、委託業務が重要な業務プロセスの一部を構成する場合には、経営者は受託会社の業務に関しその内部統制の有効性を評価しなければならない、という趣旨の記述があります。責任は委託した側にあります。
2023年4月7日の企業会計審議会の意見書による改訂で、委託業務の例示に、情報システムの開発・運用・保守などIT関連業務の外部委託が追加されました。経理業務だけの話ではありません。SaaSやクラウドのベンダーに任せている部分も、同じ枠組みで考えることになります。
章番号について一点。委託業務の評価は II にあります。I は内部統制の基本的枠組み、III は財務報告に係る内部統制の監査です。内部監査人の役割について定めた I.4(4)とは別の箇所です。
📄 受託会社の保証報告書
根拠は保証業務実務指針3402「受託業務に係る内部統制の保証報告書に関する実務指針」です。日本公認会計士協会の監査・保証基準委員会が2019年8月1日に制定し、2023年3月16日に最終改正されています。
受託会社の内部統制を評価する手段のひとつが、受託会社が監査人から入手した保証報告書を使うことです。この報告書について定めているのが、日本公認会計士協会の保証業務実務指針3402「受託業務に係る内部統制の保証報告書に関する実務指針」です。監査・保証基準委員会が2019年8月1日に制定し、その後の改正を経て2023年3月16日が最終改正です。
報告書には2つの型があります。タイプ1は、受託会社のシステムに関する記述書と内部統制のデザインについて、基準日現在の状況を対象とするものです。運用状況の評価は含まれません。タイプ2は、記述書とデザインに加えて運用状況も対象とし、一定の期間にわたって有効に運用されていたかどうかを扱います。運用評価手続とその結果の記述を含みます。
自社の内部統制の評価に使いたいのであれば、必要になるのはタイプ2です。タイプ1では、設計されているかどうかまでしかわかりません。
報告書が出てこない場合
実務では、委託先が保証報告書を作っていないことのほうが多いのが実情です。中小規模の記帳代行会社に頼んでいる場合、まず期待できません。
その場合は、自社側の統制でどこまで担保できるかを組み立てることになります。委託先から受け取った試算表を自社で照合する、支払データを自社で承認する、残高を自社で確認する、といった手続です。委託先の中を見られないなら、出てきた成果物と自社側の記録を突き合わせる仕組みを作る、という考え方になります。
なお、金融庁の内部統制報告制度に関するQ&Aにおける委託業務の取扱いについては、この記事の作成時点で一次情報を確認できませんでした。実務書で見かける問番号を引き写すことは避け、監査人と直接協議してください。
どこまでを外に出したままでよいのか、自社側にどの統制を置くのか、委託先とどう分担するのか。上場審査で説明できる形に設計します。記帳代行から自社経理への移行計画づくりもお手伝いします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🧩 何をどう評価するか
実務では、受託会社から保証報告書が出てこないケースが多くあります。その場合は自社側の統制でどこまで担保できるかを組み立てることになります。
作業は、まず委託の範囲を書き出すところから始まります。記帳、給与計算、支払処理、経費精算、決算資料の作成、税務申告。それぞれについて、どこからどこまでを外に出しているかを整理します。
次に、それが重要な業務プロセスの一部を構成するかを判定します。売上や売掛金といった重要な勘定に直接つながる処理を委託しているなら、構成すると考えるのが自然です。
自社に残す機能
上場準備の局面で必ず問われるのが、自社に経理の判断ができる人がいるか、という点です。仕訳を切る作業を外に出すことと、会計処理の方針を外に委ねることは別の話です。
収益をいつ認識するか、引当金をいくら積むか、資産計上するかどうか。こうした判断は自社で行い、その根拠を自社の資料として残す必要があります。委託先に判断させて結果だけ受け取っている状態では、審査で説明ができません。
いつまでに自社経理へ移行するかについては、会社の規模と委託の範囲によります。少なくとも、決算を自社で締められる体制と、判断の根拠を自社で作れる体制は、N-2期には整えておきたいところです。準備全体の順序はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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🗄️ 帳簿はどこに置くのか
第三号の書類だけ保存場所に幅があります。帳簿と決算関係書類は納税地です。第2項に起算日の定義があります。
もうひとつ、委託でよく問題になるのが帳簿の保存場所です。委託先に置いたままでよいのか、という論点です。
法人税法施行規則第59条第1項が、青色申告法人について、帳簿書類を整理し、起算日から7年間、これを納税地に保存しなければならないと定めています。第2項に起算日の定義があります。
ただし括弧書きがあります。第三号に掲げる書類、つまり注文書、契約書、領収書などの取引関係書類については、納税地または、その取引に係る国内の事務所・事業所その他これらに準ずるものの所在地での保存が認められています。
第一号の帳簿と第二号の決算関係書類には、この幅がありません。納税地です。
なお、経理業務を外部に委託した場合に帳簿を委託先に置くことの可否について、国税庁の明示的な見解は、この記事の作成時点で確認できませんでした。断定的な説明を見かけたら、根拠を確認してください。
💾 電子データで持っている場合
クラウド会計やBPOを使っていても、納税地から画面と書面に速やかに出せる状態であればよい、という整理です。物理的にどこにデータがあるかだけで判断するものではありません。
クラウド会計やBPOを使っている会社は、そもそも紙の帳簿を持っていないことが多いはずです。この場合の考え方は、国税庁の電子帳簿保存法一問一答(電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係)の問13にあります。
問は、クラウドサービスの利用や、サーバを海外に置くことの可否を扱っています。回答の趣旨は、保存場所は電子帳簿保存法ではなく所得税法・法人税法等の各税法で定められているものであり、保存場所に備え付けられた電子計算機と通信回線で接続され、保存場所において電磁的記録をディスプレイの画面および書面に速やかに出力できる状態にあれば、クラウドの利用や海外にサーバがあることは差し支えない、というものです。
つまり、データが物理的にどこにあるかだけで判断するものではありません。納税地から画面と書面に速やかに出せる状態にあるかどうかです。
実務上は、委託先のシステムに自社からアクセスできるか、退去時にデータを引き渡してもらえるか、契約書にその定めがあるかを確認しておいてください。委託先を変えるときに帳簿が取り出せない、という事態を避けるためです。
❓ よくある質問
A. 委託していること自体を問題とする定めは、東証の資料では確認できませんでした。ただし委託業務の内部統制を評価する責任は委託した会社の側にあります(実施基準 II.2(1)②)。
A. II.2(1)②「委託業務の評価」です。II は財務報告に係る内部統制の評価及び報告の章です。
A. 逆です。実施基準は、委託した会社の側が受託会社の業務に関し内部統制の有効性を評価しなければならないとしています。
A. タイプ1は基準日現在のデザインが対象で、運用状況の評価を含みません。運用状況まで確認したい場合はタイプ2が必要です。
A. 自社側の統制で担保する方向を検討することになります。成果物の照合、承認、残高確認などを自社に置き、その記録を残してください。具体的な進め方は監査人と協議が必要です。
A. 現行の日本公認会計士協会の実務指針一覧に第86号は掲載されていません。受託業務の保証報告書については保証業務実務指針3402を参照してください。
A. 法人税法施行規則第59条第1項は、帳簿と決算関係書類を納税地に保存すべきものとしています。取引関係書類には保存場所の幅があります。委託先保管の可否についての国税庁の見解は確認できませんでした。
A. 国税庁の一問一答 問13は、保存場所の電子計算機と通信回線で接続され、画面と書面に速やかに出力できる状態であれば差し支えないとしています。
A. 同じ問13が、上記の状態にあれば海外にサーバがあっても差し支えないとしています。
A. 一律の期限を定めた公的な基準は見当たりません。決算を自社で締められ、会計処理の判断根拠を自社で作れる体制は、遅くともN-2期には整えておくのが実務です。
📄 まとめ
経理を外部に委託していても、その業務に係る内部統制の有効性を評価する責任は委託した会社の側にあります。根拠は実施基準の II.2(1)②「委託業務の評価」です。2023年の改訂で、IT関連業務の外部委託が例示に加わりました。
受託会社の保証報告書は保証業務実務指針3402にもとづくもので、タイプ1はデザイン、タイプ2はデザインと運用状況が対象です。報告書が入手できない場合は、自社側の統制で担保する設計になります。
帳簿と決算関係書類の保存場所は納税地です(法人税法施行規則第59条第1項)。取引関係書類には幅があります。電子データの場合は、国税庁の一問一答 問13が、通信回線で接続され画面と書面に速やかに出力できる状態であればクラウドや海外サーバでも差し支えないとしています。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに実施基準の改訂について(意見書)」令和5年4月7日、および新旧対照表 実施基準 II.2(1)② 委託業務の評価
- 日本公認会計士協会 保証業務実務指針3402「受託業務に係る内部統制の保証報告書に関する実務指針」(2019年8月1日制定、2023年3月16日最終改正)
- 法人税法施行規則第59条第1項・第2項
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答(電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係)」問13
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