工場や事業所を閉鎖すると決めたとき、会計上は複数の論点が同時に立ち上がります。減損、資産除去債務、割増退職金、取壊費用、そして決算日後の決定なら後発事象。どれから手をつけるかで整理の見通しが変わります。
この記事では、閉鎖の意思決定から決算までを時系列で追いながら、それぞれの基準の項番号にあたって整理します。混同されやすい論点、たとえば遊休化と除去の違い、割増退職金の費用計上時点、そして減損会計基準の章立てについても正確に扱います。
- 閉鎖が減損の兆候に当たる根拠(適用指針第6号 第13項(1))
- 遊休化は除去に該当しないこと(企業会計基準第18号 第3項(2))
- 資産除去債務の見積り変更は将来に向かって処理すること(第10項・第11項)
- 早期割増退職金は応募かつ合理的に見積られる時点で費用処理すること(適用指針第25号 第10項)
- 決算日後の決定なら開示後発事象の側の論点になること
- 減損損失は原則として特別損失に表示すること(減損会計基準 四 2)
📌 結論 同じ資産に複数の基準が同時に効く。順序を決めて進める
先に全体像を書きます。工場を閉鎖すると決めた瞬間に、その工場の建物と設備には少なくとも3つの論点が立ちます。減損、資産除去債務、そして取壊費用です。ここに人の問題として割増退職金が加わり、決算日後の決定であれば後発事象の論点が乗ります。
整理の順序としては、まず意思決定の日を特定し、それが決算日の前か後かを確認します。決算日前であれば当期の会計処理の問題、決算日後であれば後発事象の問題です。次に減損の兆候の判定に進み、そのうえで資産除去債務の見積りを見直すかを検討します。人件費と取壊費用は、それぞれ別の基準で費用計上時点が決まります。
🔻 減損
順序が大事です。減損を先に入れるのか、資産除去債務を先に見直すのか。同じ資産に対して複数の基準が同時に効いてくるので、整理せずに進めると二重計上や漏れが起きます。
資産のグルーピングは「二 6」、共用資産は「二 7」、のれんは「二 8」です。「六 1」ではありません。
閉鎖の決定が減損の兆候になる根拠は、企業会計基準適用指針第6号の第13項です。同項は、使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合として7つを挙げており、その(1)が事業を廃止または再編成することです。工場の閉鎖はここに当たります。
兆候があれば、減損損失の認識の判定に進みます。減損会計基準の二 2は、割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に減損損失を認識するとしています。見積期間は、経済的残存使用年数(資産グループの場合は主要な資産の経済的残存使用年数)と20年のいずれか短い方です。閉鎖が決まっていれば、この期間そのものが短くなります。
グルーピングは二 6
減損会計基準の章立てを正確に押さえておいてください。二 1が減損の兆候、二 2が認識、二 3が測定、二 4が将来キャッシュ・フロー、二 5が割引率、二 6が資産のグルーピング、二 7が共用資産の取扱い、二 8がのれんの取扱いです。三が減損処理後の会計処理、四が財務諸表における開示です。
資産のグルーピングを「六 1」と書いている解説をときどき見かけますが、正しくは二 6です。二 6(1)が、他の資産または資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うとしています。
表示は原則として特別損失
減損会計基準の四 2が、減損損失は原則として特別損失とすると定めています。財務諸表等規則第95条の3は、特別損失に属する損失について、固定資産売却損、減損損失、災害による損失その他の項目の区分に従い、当該損失を示す名称を付した科目をもって掲記しなければならないとしています。
なお、事業構造改善費用という科目を法令が義務づけているわけではありません。第95条の3は例示列挙で、その他の項目も含んでいます。実務でこの科目が使われることは多くありますが、根拠として法令を引くのは正確ではありません。
意思決定の日、減損の兆候の判定、資産除去債務の見積りの見直し、割増退職金の費用計上時点、そして表示と注記。どの基準がどの順序で効くのかを1枚に整理し、監査法人への説明資料の形にしてお返しします。税務上の損金算入時期の整理もあわせて行います。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🏭 資産除去債務
閉鎖を決めたことで除去の時期や金額の見込みが変われば、第10項の見積りの変更として将来に向かって処理します。過去に遡って直すのではありません。
資産除去債務については、まず定義を正確に押さえる必要があります。企業会計基準第18号の第3項(1)が、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものと定義しています。
第3項(2)が「除去」の定義です。用役提供から除外することとされ、一時的な除外は除かれます。売却、廃棄、リサイクル等を含みますが、転用や用途変更は含まないとされ、そして遊休状態になる場合は除去に該当しないと明記されています。
閉鎖だけでは除去にならない
ここが実務でいちばん誤解される点です。工場を閉鎖して稼働を止めただけでは、除去には当たりません。遊休化しただけだからです。除去に該当するのは、売却する、廃棄する、あるいは契約上の原状回復義務を履行するといった場面です。
もっとも、賃借している建物であれば、賃貸借契約に原状回復義務が定められていることが多く、その場合はもともと資産除去債務が計上されているはずです。閉鎖を決めたことで、その履行の時期や金額の見込みが変わるという形で影響が出ます。
見積りの変更は将来に向かって
第10項は、割引前将来キャッシュ・フローの重要な見積りの変更による調整額を、資産除去債務の帳簿価額および関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理するとしています。過去に遡って修正するのではありません。
第11項が割引率の定めです。キャッシュ・フローが増加する場合はその時点の割引率、減少する場合は負債計上時の割引率を用います。過去に増加があり、減少部分の割引率を特定できないときは加重平均した割引率によります。この非対称性は見落とされやすいので、計算表を作るときに気をつけてください。
実際に除去を行ったときは、第15項の履行差額の処理になります。履行時の債務残高と実際の支払額との差額は、原則として当該債務に対応する除去費用の費用配分額と同じ区分に計上します。
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👥 人件費と取壊費用
割増退職金を退職給付債務に含めて期間配分するのは誤りです。逆に、支給時まで費用にしないというのも不正確です。
閉鎖に伴う人件費で問題になるのが、早期退職優遇制度による割増退職金です。企業会計基準適用指針第25号の第10項が、これを扱っています。
同項は、一時的に支払われる早期割増退職金について、勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生した退職給付という性格を有さず、将来の勤務を放棄する代償や失業期間中の補償等の性格を有するとしています。そのうえで、退職給付見込額の見積りには含めず、従業員が早期退職金制度に応募し、かつ当該金額が合理的に見積られる時点で費用処理するとしています。
したがって、退職給付債務に含めて期間配分するのは誤りです。逆に、実際に支給した時点まで費用にしないというのも不正確です。応募があり金額が見積れる時点、というのが判断の基準になります。
取壊費用と原状回復費用
これらを引当金として計上できるかは、企業会計原則注解 注18の4要件で判断します。将来の特定の費用または損失であること、その発生が当期以前の事象に起因すること、発生の可能性が高いこと、金額を合理的に見積ることができること。この4つです。あわせて、発生の可能性の低い偶発事象に係る費用または損失については引当金を計上できないとされています。
閉鎖の意思決定がなされ、取壊しの計画が具体化していれば、4要件を満たす方向に傾きます。逆に、閉鎖は決めたが取壊すか売却するかまだ決めていないという段階では、金額を合理的に見積ることができるかが問題になります。
税務上の損金算入時期
会計上の費用計上時期と税務上の損金算入時期は一致するとは限りません。役員退職金については、国税庁のタックスアンサーが、原則として株主総会の決議等により退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度としています。実際に支払った事業年度で損金経理した場合はその事業年度も認められますが、取締役会で内定した金額を未払金に計上しても、確定前は損金算入できません。根拠は法人税法34条、法人税法施行令70条、法人税基本通達9-2-28および9-2-29です。
建物の取壊しについては、土地とともに取得した建物を取り壊した場合の取扱いが、国税庁のタックスアンサーと法人税基本通達7-3-6に示されています。取得後おおむね1年以内に取壊しに着手するなど、初めから取り壊して土地を利用する目的が明らかな場合は、建物の帳簿価額と取壊費用の合計額を土地の取得価額に算入します。ただし、当初は事業供用目的で取得したがその後やむを得ない理由で使用を断念した場合は、おおむね1年以内の取壊しでも取り壊した時の損金算入が可能とされています。
なお、既存の自社工場を取り壊す場合の損金算入時期については、この通達がそのまま当てはまるわけではありません。個別の事情に応じて整理してください。
📅 決算日後に決めた場合
決算日後の意思決定なら通常は開示後発事象の側の論点です。ただし、実質的な原因が決算日現在に既に存在していたかで判断が分かれるため、一律には決められません。
閉鎖の意思決定が決算日後だった場合は、後発事象の論点になります。日本公認会計士協会の監査基準報告書560実務指針第1号が、修正後発事象と開示後発事象を定義しています。
修正後発事象は、決算日後に発生した会計事象だが、実質的な原因が決算日現在に既に存在し、決算日現在の状況に関連する会計上の判断や見積りに追加的ないしより客観的な証拠を提供するものです。開示後発事象は、決算日後に発生し、当該事業年度の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす会計事象です。
同実務指針の開示後発事象の例示には、重要な事業の譲渡、重要な事業からの撤退、重要な事業部門の操業停止が掲げられています。決算日後に閉鎖を決定した場合は、通常はこちら側の論点です。
一律には決まらない
ただし、決算日後の決定だから必ず開示後発事象、とは言い切れません。判断の分かれ目は、実質的な原因が決算日現在に既に存在していたかどうかです。たとえば、決算日前から工場の稼働率が著しく低下しており、決算日後の取締役会は形式的な追認にすぎないという状況であれば、減損の判断に影響する可能性があります。
注記の根拠は財務諸表等規則第8条の4です。貸借対照表日後、翌事業年度以降の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象が発生したときは注記しなければならないとしています。金融庁の財務諸表等規則ガイドラインの8の4に、重要な後発事象の例示が置かれています。
🏢 上場準備会社の場合
上場準備中に事業所の閉鎖を行うと、いくつかの追加論点が生じます。
ひとつは、申請期や直前期の損益が大きく振れることです。減損損失、割増退職金、取壊費用が同じ期に重なると、特別損失が膨らみます。利益計画との関係を主幹事証券会社にどう説明するかは、早い段階で整理しておいてください。
もうひとつは、意思決定の記録です。いつ、どの機関が、どういう検討を経て閉鎖を決めたのか。取締役会議事録と付議資料が、会計処理の時期を裏づける証拠になります。監査法人から必ず求められますし、上場審査でも見られます。
そして、閉鎖の理由そのものです。事業の見直しは前向きな判断であることも多いのですが、審査の場では収益構造の変化として説明を求められます。会計処理の議論と並行して、事業側の説明を用意しておいてください。関連する論点はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 企業会計基準適用指針第6号の第13項(1)が、事業を廃止または再編成することを、使用範囲または方法について回収可能価額を著しく低下させる変化の例として挙げています。
A. 閉鎖して遊休化しただけでは除去に該当しません(企業会計基準第18号 第3項(2))。契約上の原状回復義務など、除去に該当する義務があるかどうかで判断します。
A. 遡りません。第10項により、見積りの変更による調整額を資産除去債務の帳簿価額および関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して、将来に向かって処理します。
A. 含めません。企業会計基準適用指針第25号 第10項が、退職給付見込額の見積りには含めず、応募があり金額が合理的に見積られる時点で費用処理するとしています。
A. 企業会計原則注解 注18の4要件で判断します。取壊しの計画が具体化し金額が合理的に見積れるかがポイントになります。
A. 通常は開示後発事象の側の論点です。実務指針の例示に重要な事業からの撤退や重要な事業部門の操業停止が挙げられています。ただし実質的な原因が決算日現在に既に存在していたかで判断が分かれます。
A. 減損会計基準の四 2により、原則として特別損失です。財務諸表等規則第95条の3が特別損失の表示方法を定めています。
A. 法令が特定の科目名を義務づけているわけではありません。財務諸表等規則第95条の3は固定資産売却損、減損損失、災害による損失その他の項目を例示しています。
A. 減損会計基準の二 6です。共用資産の取扱いが二 7、のれんの取扱いが二 8です。
📄 まとめ
工場を閉鎖するときは、意思決定の日を特定し、それが決算日の前か後かを確認するところから始めます。決算日前なら当期の会計処理、決算日後なら後発事象の論点です。
減損については、閉鎖が適用指針第6号 第13項(1)の兆候に当たります。認識の判定と測定は減損会計基準の二 2と二 3、グルーピングは二 6、表示は四 2です。資産除去債務は、遊休化だけでは除去に該当しない点(第3項(2))と、見積りの変更を将来に向かって処理する点(第10項・第11項)を押さえてください。
早期割増退職金は、応募があり金額が合理的に見積られる時点で費用処理します(適用指針第25号 第10項)。取壊費用は企業会計原則注解 注18の4要件で判断します。会計上の費用計上時期と税務上の損金算入時期は一致するとは限らないので、別に整理してください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」二 1・二 2・二 3・二 6・二 7・二 8、四 2
- 企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」第11項から第18項、第48項から第54項
- 企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」第3項・第10項・第11項・第15項
- 企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」第10項、企業会計基準第26号 第3項
- 企業会計原則注解 注18、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第8条の4・第95条の2・第95条の3
- 日本公認会計士協会 監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」
- 国税庁タックスアンサー No.5401、No.5208、法人税基本通達7-3-6・9-2-28・9-2-29
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