電子データの提示を求められたら|電帳法対応後の調査実務

税務調査で、調査担当者から「会計ソフトのデータをそのままいただけますか」と言われた。どこまで応じる必要があるのか、断ることはできるのか。紙の帳簿とファイルだけで調査が進んでいた頃には、まず出てこなかった問いです。

電子帳簿保存法への対応が進み、帳簿も請求書も領収書も画面の中にある会社が増えました。調査の現場でも電子データのやり取りが当たり前になっています。ところが、何をどこまで渡すのかという線引きは共有されていないことが多く、その場の空気で決まってしまいがちです。

この記事では、電子データの提示や提出を求められる根拠がどの条文にあるのか、提示と提出で求められることがどう違うのか、そして応じない場合に何が起きるのかを、法令と国税庁の公表資料で確認できた範囲に絞って整理します。

🧭 電子データも帳簿書類その他の物件に含まれます

出発点は、質問検査権を定めた国税通則法第74条の2です。法人税の調査であれば、次の範囲で検査と提示・提出の求めができると書かれています。

その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる(国税通則法第74条の2第1項)

押さえておきたいのは、条文が「帳簿書類その他の物件」と書いていて、紙に限っていないことです。国税庁の法令解釈通達(手続通達)5-4は、この範囲に、法令で備付け・記帳・保存が義務づけられている帳簿書類のほか、調査の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれるとし、注書きで、国外において保存するものも含まれることに留意すると述べています。

電子帳簿保存法が電磁的記録を帳簿書類とみなしています

では、会計ソフトの中のデータは「帳簿書類」なのでしょうか。ここをつないでいるのが電子帳簿保存法の第8条です。

第4条第1項、第2項若しくは第3項前段又は第5条各項のいずれかに規定する財務省令で定めるところに従って備付け及び保存が行われている国税関係帳簿又は保存が行われている国税関係書類に係る電磁的記録……に対する他の国税に関する法律の規定の適用については、当該電磁的記録……を当該国税関係帳簿又は当該国税関係書類とみなす(電子帳簿保存法第8条第1項)

同条第2項は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録を「国税関係書類以外の書類」とみなすと定めています。要件に従って保存されている電磁的記録は、他の法律を適用するときには帳簿や書類として扱われます。その他の法律には国税通則法も含まれますから、質問検査権の対象になる、という順番です。

図1 電子データが調査で見られるまでの道すじ電帳法 第4条・第7条帳簿や書類を電磁的記録で保存する電子取引は保存が義務電帳法 第8条その電磁的記録を帳簿書類とみなす電子取引は書類以外通則法 第74条の2帳簿書類その他の物件として検査され提示・提出を求められる※ 条文は「帳簿書類その他の物件」と書いており、紙に限っていません。電磁的記録は電帳法第8条のみなし規定を経て、この範囲に入ります。

電磁的記録が質問検査権の対象になるまでの条文のつながり

電子帳簿保存法には3つの区分があります

電子帳簿保存法は、電磁的記録の扱いを大きく3つに分けています。自社がどの区分の話なのかがはっきりすると、調査で求められる範囲も見通せます。

区分 根拠と内容
電子帳簿等保存 自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する帳簿について、電磁的記録の備付けと保存をもって帳簿の備付けと保存に代えることができます(法第4条第1項)。書類にも同様の定めがあります(同条第2項)。任意です。
スキャナ保存 紙で受け取った書類を、財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合に、その電磁的記録の保存をもって書類の保存に代えることができます(法第4条第3項)。これも任意です。
電子取引 所得税(源泉徴収に係るものを除く)と法人税の保存義務者は、電子取引を行った場合、財務省令で定めるところにより取引情報に係る電磁的記録を保存しなければなりません(法第7条)。こちらは義務です。

前の2つは「代えることができる」、最後の1つは「保存しなければならない」と書かれています。定めの性格が違うため、調査で確認される角度も変わります。電子取引だけは、対応していないこと自体が保存義務違反になり得ます。

📁 提示と提出は求められることが違います

条文は「提示若しくは提出を求めることができる」と2つを並べています。日常語では区別しにくいのですが、国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問5では、電磁的記録の場合の方法がそれぞれ説明されています。

求められ方 電磁的記録の場合にすること
提示 その内容をディスプレイの画面上で調査担当者が確認し得る状態にして示す、とされています。データそのものは会社の側にとどまります。
提出 確認し得る状態でプリントアウトしたものを渡す、調査担当者が持参した記録媒体への保存(コピー)に応じる、e-Taxやオンラインストレージサービス、メールを利用して提出する、といった方法が挙げられます。

同じFAQには、提出を求める際には税務当局における電磁的記録の取扱いを説明することとしている旨と、提出された電磁的記録は国税庁で定めた規則等に基づき厳重に管理し、保存期間満了後に確実に廃棄(消去)する旨の注記も置かれています。

図2 提示と提出はやることが違う提示画面に表示して見せる担当者が内容を確認できる状態にするデータは会社の側にとどまる提出印刷したものを渡す持参した記録媒体に保存するe-Taxやメールで送るデータが手元を離れる※ 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問5の説明にもとづく整理

同じ求めでも、提示と提出では手元に残るものが変わる

🖥️ 会計データをそのまま渡してよいのでしょうか

会計ソフトの全期間の仕訳をまとめて書き出したファイルを求められることがあります。応じるかどうかを考える手がかりは、条文の書き方の中にあります。

第74条の2は「調査について必要があるとき」に「その者の事業に関する」帳簿書類その他の物件について求めることができる、という組み立てで、必要性と事業関連性という2つの枠がかかっています。一方で手続通達5-5は、事前通知した課税期間の調査のために必要があるときは、その前後の課税期間の物件も質問検査等の対象になるとしています。通知された期間の外だから当然に対象外、とはなりません。

調査は承諾を得て行うことになっています

国税庁の事務運営指針「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について」は、提示・提出の求めについて次のように書いています。

調査について必要がある場合において、質問検査等の相手方となる者に対し、帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)の提示・提出を求めるときは、質問検査等の相手方となる者の理解と協力の下、その承諾を得て行う。

ですから、いきなり全部を渡すか、いっさい渡さないかの二択にする必要はありません。何を確認したいのかを聞いたうえで、その確認に足りる範囲を切り出して出す、という進め方ができます。実務では、次の3点を押さえておくと後で困りません。

確認すること 具体的にすること
対象の範囲 どの税目・どの事業年度・どの科目を見たいのかを聞き、その範囲でデータを書き出します。範囲が広がるときは、その都度理由を聞きます。
渡した内容の控え 提出したファイル名、対象期間、件数、渡した日を記録し、同じものを社内に残します。後の説明が食い違いません。
必要のない情報の混入 調査に必要のない情報が同じファイルに混ざっていないかを確認し、分けられるものは分けて出します。

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🔎 ダウンロードの求めに応じられる状態とは

電子帳簿保存法に戻ります。電磁的記録で保存するときの要件のひとつが、次の定めです。

国税に関する法律の規定による当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしておくこと(電子帳簿保存法施行規則第2条第2項第3号)

国税庁の一問一答では、この求めを「ダウンロードの求め」と呼んでいます。中身は条文どおり、電磁的記録の提示または提出を求められたときに応じられる状態にしておく、という要件です。調査で急に持ち出される話ではなく、保存の段階から織り込まれている点が実務上は重要です。

電子取引のデータに求められること

電子取引のデータについては、施行規則第4条第1項が、真実性を確保するための措置と、検索や出力に関する要件を定めています。真実性の措置は、次のいずれかを行うこととされています。

図3 電子取引のデータをどう保存するか① 真実性の措置タイムスタンプ/訂正削除の履歴が残るシステム/事務処理規程のいずれか② 見読できる状態画面と書面に、整然とした形式で明瞭に、速やかに出力できるようにしておく③ 検索機能取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を条件に検索できるようにしておく

電子取引のデータに求められる3つの柱(施行規則第4条第1項ほか)

検索機能については、日付または金額の範囲を指定して条件を設定できること、2以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できることも求められます。ただし、この部分には緩和の定めがあります。

場合 検索機能について緩和されること
提示または提出の要求に応じられるようにしている 範囲指定と項目の組合せに係る部分の要件が除かれます。
判定期間に係る基準期間における売上高が5,000万円以下の事業者 提示または提出の要求に応じられるようにしているときは、検索機能に係る要件が除かれます。
出力書面を日付と取引先ごとに整理して提示・提出できる 整然とした形式および明瞭な状態で出力され、日付および取引先ごとに整理された書面の提示・提出の要求に応じられ、かつ電磁的記録の提示等の要求にも応じられるときは、検索機能に係る要件が除かれます。

いずれの緩和も、電磁的記録そのものの提示または提出の要求に応じられることが土台です。検索機能を作り込まない代わりに、求められたらデータを出せるようにしておく、という組み立てになっています。

📦 データを留め置かれるとき

提出した物件は、留め置かれることがあります。根拠は国税通則法第74条の7で、条文は「国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる」とだけ定めています。

実際の運用は事務運営指針に書かれています。調査を行うスペースがない場合、写しの作成が必要だが調査先にコピー機がない場合などに、留め置く必要性を説明し、提出した者の理解と協力の下、その承諾を得て実施する、とされています。留め置く際は預り証を交付し、必要がなくなったときは遅滞なく、預り証と引換えに返還することになっています。

返還の求めがあったときは、特段の支障がない限り速やかに返還することに留意する、とされています。引き続き留め置く必要があり返還の求めに応じられない場合には、その旨と理由の説明に加えて、不服申立てに係る教示を行う必要があるとされています。返してもらえないまま話が進むことがないよう、必要になった時点で求めてかまいません。

なお、同じFAQの問4では、調査担当者に提出するために新たに作成した写しの提出は留置きに当たらない一方、自社が事業のために保有している写しを預ける場合は留置きの手続によることになる、と説明されています。

⚖️ 応じない場合に生じること

求めに応じないことには、2つの方向の影響があります。

方向 確認できる定め
罰則 第74条の2などの規定による物件の提示・提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、または偽りの記載もしくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む)を提示・提出した者は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処するとされています(国税通則法第128条第3号)。
青色申告の承認 電子帳簿保存法第8条第3項第3号は、法人税法第127条第1項第1号(青色申告の承認の取消し)の適用について、同号の「前条第一項」に電帳法第4条第1項・第2項・第3項前段、第5条各項、第7条を加えて読み替えるとしています。帳簿書類の保存が財務省令で定めるところに従って行われていない場合の取消しの規定に、電磁的記録の保存要件も読み込まれる形です。

もっとも、罰則があるからといって強引に進められるわけではありません。FAQ問3は、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしている、と述べています。

また、問6は「正当な理由」について、個々の事案に即して具体的に判断する必要があり最終的には裁判所が判断するとしたうえで、例として、求められた帳簿書類等が災害等により滅失・毀損するなどして直ちに提示・提出することが物理的に困難であるような場合を挙げています。段取りが整わないという事情は、この例とは性質が異なります。応じられないときは、断るのではなく、いつまでに何を出せるのかを具体的に伝えるほうが実務に沿います。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

会計ソフトのIDとパスワードを渡してほしいと言われました

条文が定めているのは、帳簿書類その他の物件の検査と、その提示または提出の求めです。会社のシステムに担当者が自ら接続することを求める規定は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。必要な範囲のデータを書き出して提示または提出する形で足りるかを、確認したい内容を聞いたうえで相談するのが現実的です。

調査で見せたデータを、後から使われることはありますか

提出した電磁的記録については、国税庁で定めた規則等に基づき厳重に管理を行い、保存期間満了後に確実に廃棄(消去)する、とFAQの注記に書かれています。また、提出を求める際には税務当局における電磁的記録の取扱いを説明することとされていますので、その場で確認できます。

紙で保存していれば電子データを出す必要はありませんか

電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、電子帳簿保存法第7条が保存しなければならないと定めています。紙に出力して保存していることをもってこの保存が不要になるとは、条文からは読み取れません。一方、帳簿や書類を電磁的記録で保存するかどうかは任意です。区分を分けて考えてください。

通知された事業年度より前のデータまで求められました

手続通達5-5は、事前通知した課税期間の調査のために必要があるときは、その課税期間以外の課税期間に係る帳簿書類その他の物件も質問検査等の対象になるとしています。ただし前提として、通知された課税期間の調査のために必要であることが求められます。なぜ必要なのかを聞いておくと、範囲の話がしやすくなります。

提出したデータを返してもらえますか

留置きの対象になっている物件であれば、返還の求めがあったときは特段の支障がない限り速やかに返還することに留意する、とされています。他方、調査担当者に提出するために新たに作成した写しは留置きに当たらず、返還を予定しないものと扱われます。渡すときにどちらの扱いになるのかを確認しておくと行き違いが減ります。

📄 まとめ

電子データの提示・提出をめぐる話は、感覚で答えると際限がなくなります。条文の並びで整理すると、次の4点に収まります。

1つめは、電磁的記録が質問検査権の対象になるのは、電子帳簿保存法第8条のみなし規定を経て国税通則法第74条の2の「帳簿書類その他の物件」に入るからだということ。2つめは、提示と提出は求められることが違い、提示なら画面で見せる形で足りるとされていること。3つめは、求めは理解と協力の下、承諾を得て行うこととされており、何を確認したいのかを聞いたうえで範囲を決められること。4つめは、応じない場合には罰則と青色申告の承認という2つの方向の影響があるということです。

調査の場でその都度考えると、どうしても言われるままになります。日頃の保存が要件に沿っているか、求められたときに範囲を切って出せるかを、平時のうちに一度確かめておくことをおすすめします。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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