役員報酬を未払計上したら?損金算入と源泉徴収の落とし穴

資金繰りが苦しく、社長の役員報酬を支払わないまま未払費用として計上している。決算書には毎月同じ金額が積み上がっているが、これは損金になるのだろうか。源泉所得税はいつ納めればよいのか。

役員報酬の未払計上は、中小企業の決算でよく見かける状態です。ところがこの一つの事実から、会社の損金算入、源泉徴収、役員個人の所得税という三つの別々の問題が同時に立ち上がります。判断の基準が違うため、ひとまとめに考えると必ずどこかでずれます。

この記事では、条文と通達で確認できる範囲に絞って整理します。全体像は役員給与の税務 完全ガイドに、毎月同額で支給する仕組みは定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールにまとめています。

🧭 未払にしたときに動く三つのこと

役員報酬を未払にすると、まず会社の側で、その未払分を今期の損金にできるかという問題が生じます。次に、給与を支払う者としての源泉徴収義務がいつ発生するのかという問題。そして、報酬を受け取るはずだった役員個人が、いつの年分の所得として申告するのかという問題が残ります。

この三つは別の法律で判断します。会社の損金は法人税法、源泉徴収と役員個人の所得は所得税法です。法人税では損金になり、所得税では源泉徴収がまだ発生していない状態はふつうに起こります。矛盾ではなく物差しが違うだけです。

図1 役員報酬を未払にすると動く三つのこと会社の損金期末までに債務が確定していればその期の損金法人税法第22条第3項第2号法基通2-2-12源泉徴収支払の際に徴収し翌月10日までに納付する所得税法第183条第1項賞与は同条第2項役員個人の所得支給日が定められていればその日に収入計上所得税法第36条第1項所基通36-9

未払という一つの事実から、判断の物差しが異なる三つの問題が同時に生じます。

🏛 会社の損金:未払でも損金になるのか

法人税では、費用が損金になるかどうかを、支払ったかどうかではなく債務が確定したかどうかで判断します。

……損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。二 ……当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額(法人税法第22条第3項第2号)

期末までに債務が確定していない費用は、償却費を除いて損金になりません。裏を返せば、債務が確定してさえいれば、実際に支払っていなくても損金になります。その中身を定めているのが法人税基本通達2-2-12です。

……当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。(1) 債務が成立していること。(2) 当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。(3) その金額を合理的に算定することができるものであること。(法人税基本通達2-2-12。いずれも当該事業年度終了の日までに、という限定が付いています)

三つの要件を役員報酬にあてはめる

株主総会で月額を決議し、役員がその月の職務を実際に行っているのであれば、支払いが済んでいなくても、その月分の報酬は債務として確定していると読むのが自然です。会計上も未払費用として計上する場面です。

債務確定の要件 役員報酬でのあてはめ
債務が成立していること 定款の定めまたは株主総会の決議により、支給する月額が定まっていること
給付をすべき原因となる事実が発生していること その月について役員が現に職務を執行していること
金額を合理的に算定できること 決議された月額により支給額が一義に定まること

定期同額給与としての要件は別に満たす必要がある

債務が確定していても、それだけでは終わりません。役員給与には法人税法第34条という別段の定めがあり、同条第1項が掲げる給与のいずれにも該当しないものは損金に算入されないからです。

その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(……「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(法人税法第34条第1項第1号)

条文が求めているのは、支給時期が一月以下の一定の期間ごとであることと、各支給時期における支給額が同額であることです。支給額が同額かどうかを見るのであって、実際に振り込まれたかどうかを見る規定ではありません。

ただし、未払が長期に滞留し支払う見込みも意思も認められない状態になると、報酬を支給する定めが実体を伴っていたのかが問われます。この点について金額や期間の基準を示した条文や通達は見当たりません。断定できるのは、債務の確定と定期同額給与の要件の二つを満たす必要があるという構造までです。

💴 源泉徴収は「支払の際」に行う

ここからは所得税法の話です。源泉徴収義務が生じる時点は、条文にはっきり書かれています。

居住者に対し国内において……給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。(所得税法第183条第1項)

徴収するのは「その支払の際」です。支払っていない以上、徴収すべき時点はまだ来ていません。国税庁のタックスアンサーでも、源泉徴収した所得税等は原則として給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納めると説明されています。

支払の意味は現金の交付だけではない

ここで注意したいのが、支払という言葉の広さです。所得税基本通達は次のように定めています。

……「支払の際」又は「支払をする際」の支払には、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰り入れ又は預金口座に振り替えるなどその支払の債務が消滅する一切の行為が含まれることに留意する。(所得税基本通達181〜223共-1)

支払の債務が消滅する一切の行為が支払にあたります。未払報酬を役員からの借入金に振り替える、役員貸付金と相殺するといった処理をした時点で、その分は支払があったものとして源泉徴収が必要になります。帳簿の中で科目を動かしただけのつもりでも、債務が消滅していれば支払です。

図2 支払った場合と未払の場合で源泉徴収の時点はどう違うか支給日が到来実際に支払う翌月10日会社の損金 債務が確定していればその事業年度の損金になる源泉徴収 支払の際に徴収し徴収の日の属する月の翌月10日に納付未払を借入金へ振り替える、貸付金と相殺するなど支払の債務が消滅する行為をした時点で支払があったものとして源泉徴収が必要になります(所得税基本通達181〜223共-1)

損金算入の時点と源泉徴収の時点は一致しません。ずれること自体は制度の予定するところです。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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⏰ 役員賞与にだけある一年ルール

ここが最も誤解の多いところです。所得税法第183条には第2項があります。

法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員に対する賞与については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があったものとみなして、前項の規定を適用する。(所得税法第183条第2項)

支払っていなくても、一年を経過した日に支払があったものとみなして源泉徴収をせよ、という規定です。ただし対象は「役員に対する賞与」です。毎月の役員報酬について、この一年のみなし規定を適用する旨は同条にはありません。

この一年ルールを毎月の役員報酬にまで広げて説明されることがありますが、条文が対象としているのは役員に対する賞与です。どちらの話をしているのかを、まず確かめてください。

比べる点 毎月の役員報酬を未払にした場合 役員に対する賞与を未払にした場合
源泉徴収の時点 支払の際に徴収する(法第183条第1項) 支払の際に徴収する。ただし支払の確定した日から一年を経過した日までに支払われないときは、その日に支払があったものとみなされる(同条第2項)
条文上の一年のみなし規定 同条に定めは見当たらない 同条第2項に定めがある
法人税での損金 債務の確定と定期同額給与の要件の両方を満たすかで判断 事前確定届出給与または業績連動給与に該当するかで判断

👤 役員個人はいつ課税されるか

会社が支払っていないのだから役員個人にも所得は生じていない。そう考えたくなりますが、所得税は現金の受け取りではなく収入すべき金額で計算します。

その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額……は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額……とする。(所得税法第36条第1項)

では、給与についての「収入すべき時期」はいつか。所得税基本通達36-9が、次のように定めています。

給与所得の収入金額の収入すべき時期は、それぞれ次に掲げる日によるものとする。(1) 契約又は慣習その他株主総会の決議等により支給日が定められている給与等……についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日(所得税基本通達36-9)

支給日が定められている給与は、その支給日に収入すべき時期が到来します。毎月25日払いと決めている役員報酬なら、未払のままでもその年の給与収入に含まれます。一方で会社は源泉徴収をしていません。未払が年をまたぐときは、役員個人の申告まで含めて確認しておく必要があります。

🔁 未払を解消する三つの道

積み上がった未払報酬をどう片づけるか。実務でとられる方法は、支払う、免除してもらう、受領を辞退してもらうの三つに整理できます。それぞれ課税の扱いが違います。

図3 未払の役員報酬を解消する三つの道と、そのときの扱い未払の役員報酬支払う支払の際に源泉徴収徴収の日の属する月の翌月10日までに納付所得税法第183条第1項免除してもらう免除を受けた時に支払があったものとして源泉徴収ただし書に例外あり所基通181〜223共-2受領を辞退する特殊な事情のもとでの未払賞与等の辞退なら源泉徴収しなくてよい所基通181〜223共-3

どの道を選ぶかで、源泉徴収の要否も、会社側で認識する損益も変わります。

免除してもらう場合

役員が未払報酬の債権を放棄すると、会社の債務はなくなります。源泉徴収については次の通達があります。

給与等……の支払者が、……未払のものにつきその支払債務の免除を受けた場合には、当該債務の免除を受けた時においてその支払があったものとして源泉徴収を行うものとする。ただし、当該債務の免除が当該支払者の債務超過の状態が相当期間継続しその支払をすることができないと認められる場合に行われたものであるときは、この限りでない。(所得税基本通達181〜223共-2)

原則は、免除を受けた時に支払があったものとして源泉徴収を行うことです。ただし書が例外としているのは、債務超過の状態が相当期間継続し、その支払をすることができないと認められる場合の免除です。単に赤字である、資金繰りが苦しいという説明では、このただし書には届きません。

受領を辞退してもらう場合

辞退についての通達もあります。役員が、特殊な事情のもとにおいて、一般債権者の損失を軽減するためその立場上やむなく、未払の賞与等の受領を辞退した場合には、辞退により支払わないこととなった部分について源泉徴収をしなくて差し支えないとされています(所得税基本通達181〜223共-3)。掲げられている事情は、特別清算開始の命令、破産手続開始の決定、再生手続開始の決定、更生手続の開始決定、事業不振のため会社整理の状態に陥り債権者集会等の協議決定により債務の切捨てを行ったこと、の五つです。

この通達が想定しているのは、法的整理やそれに準じる場面です。通常の事業を続けている会社で、社長が「今期は要らない」と言って未払分を落とすような処理は、ここには当てはまりません。

解消の方法 源泉徴収の扱い 会社側で確認すること
現金や振込で支払う 支払の際に徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付する 納期の特例を受けている場合は期間の区切りに注意する
役員借入金などへ振り替える 支払の債務が消滅した時点で支払があったものとして徴収する 振替の日付と金額を議事録や稟議で残す
役員に債権を放棄してもらう 免除を受けた時に支払があったものとして徴収する。ただし書に該当する場合を除く 債務超過の状態と期間を決算書で示せるようにする
受領を辞退してもらう 通達が掲げる特殊な事情のもとでの辞退であれば徴収しなくて差し支えない 五つの事情のいずれに当たるのかを特定する

未払のまま相続が起きたとき

未払報酬は、役員個人から見れば会社に対する債権です。その役員に相続が起きれば相続財産として評価の対象になります。財産評価基本通達204は、貸付金、売掛金、未収入金などの価額を元本の価額と利息の価額との合計額で評価するとし、元本の価額はその返済されるべき金額であるとしています。

元本の価額に算入しない場合を定めているのが同通達205です。取引停止処分、更生手続開始の決定、再生手続開始の決定、特別清算開始の命令、破産手続開始の決定、業況不振のため事業を廃止し又は6か月以上休業していることなどが挙げられ、その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときも対象です。赤字が続いているというだけでは、ここに掲げられた事実には届きません。

そろえておくもの 何を示すための資料か
株主総会議事録と各人別の月額 債務が成立していること、支給額が同額であること
未払金の年度別・役員別の内訳 どの期のどの月分が残っているか
源泉徴収簿と納付書の控え 支払った分について徴収と納付ができていること
振替や相殺の稟議・仕訳の記録 支払の債務が消滅した日と金額
繰越欠損金の残高と債務超過の状況 免除を選んだ場合の税負担と、ただし書の該当可能性
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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

資金がないので、今月から役員報酬を未払にしても定期同額給与のままですか

定期同額給与の定義は、各支給時期における支給額が同額であることです(法人税法第34条第1項第1号)。支給額を変えずに未払として計上しているだけであれば、この文言からは外れないと読めます。一方、支給額そのものを下げる場合は改定にあたります。法人税基本通達9-2-13は、経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由に、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは含まれないとしています。

未払のあいだは源泉所得税を納めなくてよいのですか

所得税法第183条第1項は、支払の際に徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付することを定めています。支払っていない段階では、徴収すべき時点が到来していないことになります。ただし役員に対する賞与には同条第2項の一年のみなし規定があり、借入金への振替や相殺のように支払の債務が消滅する行為があれば、その時点で支払があったものとされます。

未払報酬を役員に放棄してもらえば、源泉徴収は不要になりますか

原則として不要にはなりません。所得税基本通達181〜223共-2は、免除を受けた時に支払があったものとして源泉徴収を行うとしています。例外は、債務超過の状態が相当期間継続し、その支払をすることができないと認められる場合の免除に限られます。

会社側では、放棄してもらった未払報酬はどう扱いますか

債務が消滅する以上、会社にはその分の利益が生じます。法人税法第22条第2項は、益金の額に算入すべき金額を、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る収益の額としています。繰越欠損金の残高によって実際の税負担は大きく変わります。放棄の時期は欠損金を見てから決めるべき論点です。

未払報酬が数年分たまっています。まず何から手をつけるべきですか

年度ごとの内訳と、根拠になった決議の記録を突き合わせるところからです。どの期のどの役員のどの月分がいくら残っているかが特定できないと、支払うにしても放棄してもらうにしても源泉徴収の計算ができません。あわせて繰越欠損金の残高と債務超過の有無を確認しておくと、選べる道が見えてきます。

📄 まとめ

役員報酬を未払にすると、会社の損金、源泉徴収、役員個人の所得という三つが同時に動きます。会社の損金は債務の確定で判断し、期末までに確定していれば支払っていなくても損金になりうる一方、役員給与としては定期同額給与などの要件を別に満たす必要があります。源泉徴収は支払の際に行うため未払の段階では発生しませんが、役員に対する賞与には一年のみなし規定があり、借入金への振替や相殺も支払にあたります。役員個人は支給日に収入すべき時期が到来します。

積み上がった未払をどう解消するかで、源泉徴収の要否も会社の損益も変わります。免除も辞退も、通達が定める場面はかなり限定されています。決算前に内訳と根拠書類、繰越欠損金の残高をそろえておくことが、選択肢を残す近道です。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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