「相続税の申告って、自分でもできるものなんでしょうか」。ご相談の場で、最初にこう聞かれることがよくあります。税理士に頼むとお金がかかる、でも自分でやって間違えたら怖い。どちらとも決められないまま、日だけが過ぎていく――そんな状態は、とてもつらいものだと思います。
結論からいうと、相続税の申告書を作って出すのは、相続人ご自身でもできます。法律は「財産を取得した人が申告書を提出する」と定めているだけで、税理士に頼まなければならないとは書いていません。ただし、向いているケースとそうでないケースが、はっきり分かれます。
この記事では、自分で申告できるかどうかを見分ける基準と、申告までの流れ・使う書類・提出先を、順番に整理します。
- 相続税の申告書は誰が、いつまでに、どこへ出すのか(相法27条)
- 自分で申告できるケースと、税理士に頼んだほうがよいケースの判断基準
- 申告までの6つのステップと、10か月のスケジュール
- 相続税の申告書はどの表を使うのか(第1表〜第15表の主なもの)
- 自分で進めるときに、特に間違えやすい注意点
この記事の見出し
📄 そもそも相続税の申告は必要?まず要否を確かめる
相続税の申告は、亡くなった人(被相続人)から相続や遺贈で財産を取得した人などについて、その全員に係る課税価格の合計額が「遺産に係る基礎控除額」を超える場合に必要になります(相法27条1項)。基礎控除額の範囲内であれば、申告も納税も必要ありません(国税庁タックスアンサーNo.4205)。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。この考え方は、本連載の第11回「相続税はいくらから?基礎控除3,600万円の壁」で詳しく取り上げます。まずはご自身のケースが基礎控除を超えるのかどうかを確かめるところからです。
※ 小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使って税額がゼロになる場合でも、特例を適用するには申告書の提出が必要です。「税額ゼロ=申告不要」ではない点に注意してください(後述)。
🧭 自分でできる人・税理士に頼んだほうがよい人の判断基準
相続税法27条1項は、申告書を提出する義務を負う人を「相続又は遺贈により財産を取得した者」と定めています。つまり、申告書を作成して提出するのは相続人ご本人の役目であり、ご自身で作成・提出すること自体に法律上の制限はありません。
とはいえ、相続税の申告は「財産をいくらと評価するか」という判断の積み重ねです。判断が必要な場面が少ないほど、自分で進めやすくなります。当事務所では、次のような目安で整理してご説明しています。
自分で申告できるかどうかの目安(当事務所の整理。法令上の区分ではありません)
ポイントは、土地があるかどうかです。預貯金は残高証明書のとおりの金額ですが、土地は路線価や補正率を使って自分で評価額を計算しなければなりません。同じ土地でも、形や接し方によって評価額は変わります。土地の評価については、本連載の第17回「路線価の調べ方とは?不動産の相続税評価とマンションの新ルール」で扱います。
🗒️ 相続税申告までの6ステップ
国税庁は、相続税の申告のために必要な準備として、①相続人の確認 ②遺言書の有無の確認 ③遺産と債務の確認 ④遺産の評価 ⑤遺産の分割 ⑥申告と納税の6つを挙げています(No.4202)。この順番どおりに進めるのが、いちばん迷いません。
申告までの手順。①〜③を先に固めるほど、後の作業が楽になります
自分で進める場合、時間がかかるのは①と③です。戸籍は被相続人の出生から死亡までを連続してそろえる必要があり、金融機関の残高証明書も1行ずつ請求します。この2つは、書き方さえわかれば専門知識がなくても進められる部分です。財産の調べ方は第7回「相続財産の調べ方は?預貯金・不動産・株・借金の調査と財産目録」で解説しています。
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📅 いつまでに・どこへ出す?10か月の期限と提出先
相続税の申告書は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません(相法27条1項)。納付も同じ期限です(相法33条)。
提出先について、国税庁は「被相続人の死亡の時における住所が日本国内にある場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。相続人の住所地を所轄する税務署ではありません」と明示しています(No.4205)。相続税法62条3項も、納税義務者が死亡した場合の納税地は「その死亡した者の死亡当時の納税地」と定めています。相続人が全国に散らばっていても、提出先は1か所です。
📍 どこで:被相続人の住所地を所轄する税務署(相続人の住所地ではありません)
⏰ いつまでに:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内。この日が土曜日・日曜日・祝日などに当たるときは、その翌日が期限になります(No.4205)
🧾 何を:相続税の申告書(第1表ほか必要な表)と、戸籍関係・財産関係の添付書類
期限の例は国税庁No.4205の記載(1月6日に死亡した場合はその年の11月6日が申告期限)によります
🧾 申告書はどの表を使う?主な様式と提出方法
相続税の申告書は、第1表から第15表までの表と付表で構成されています。全部を使うわけではなく、その相続で該当するものだけを使います。国税庁のサイトでは、亡くなった年に対応する「相続税の申告書等の様式一覧」が公開されており、令和8年分用の様式は、令和8年1月1日から令和8年12月31日までの間に亡くなった人に係る申告に使用します。
| 表の番号 | 何を書く表か |
|---|---|
| 第1表 | 相続税の申告書。相続人ごとの課税価格と税額をまとめる、いちばん表になる表です |
| 第2表 | 相続税の総額の計算書。法定相続分で按分して税率を掛け、家族全体の税額を出します |
| 第5表 | 配偶者の税額軽減額の計算書。配偶者の軽減を使うときに添えます |
| 第9表 | 生命保険金などの明細書。非課税枠(500万円×法定相続人の数)もここで計算します |
| 第11表 | 相続税がかかる財産の明細書。財産を1件ずつ書き出す、実質的な財産目録です |
| 第11・11の2表の付表1 | 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書。自宅の土地の減額を使うときに必要です |
| 第13表 | 債務及び葬式費用の明細書。借入金や葬式費用を差し引くときに使います |
| 第15表 | 相続財産の種類別価額表。土地・現預金・有価証券などの種類ごとに集計します |
※ 国税庁「相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)」より、使用頻度の高いものを当事務所で抜粋しました。このほかにも多数の表があります。
提出の方法は3つあります。国税庁は、e-Tax(電子申告)で送信する方法のほか、郵便や信書便による送付、税務署の時間外収受箱への投函ができるとしています(No.4205)。税務署の開庁時間は8時30分から17時までで、土曜・日曜・祝日は受付を行っていませんが、時間外収受箱への投函により提出できます。
| 提出方法 | 特徴 |
|---|---|
| e-Tax(電子申告) | 自宅から送信できます。申告の内容によってはe-Taxを利用できない場合があり、その場合は書面で作成して提出します |
| 郵便・信書便 | 被相続人の住所地を所轄する税務署あてに送付します。控えを残しておくと後で確認しやすくなります |
| 税務署の窓口・時間外収受箱 | 開庁時間は8時30分〜17時。閉庁日でも時間外収受箱への投函で提出できます |
※ 国税庁「B1-2 相続税の申告手続」およびNo.4205の記載に基づいて整理しています。
自分で申告できるかどうかの見極めは、財産の中身によって変わります。判断に迷う段階でも、お問い合わせフォームからご連絡ください。
⚖️ 自分で申告するときに、特に間違えやすい3つのこと
1. 特例を使うなら、税額ゼロでも申告書を出す
配偶者の税額軽減は、その適用を受ける旨と金額の計算に関する明細を記載した書類などの添付がある申告書を提出した場合に限り適用されます(相法19条の2第3項)。小規模宅地等の特例も同じく、申告書に適用を受けようとする旨を記載し明細書等を添付することが要件です(措法69条の4第7項)。特例で税額がゼロになる場合こそ、申告書の提出が必要だと覚えてください。
2. 遺産分割がまとまらなくても、期限は延びない
相続税法55条は、申告書を提出する時点で財産が分割されていないときは、各共同相続人が民法の規定による相続分に従って取得したものとして課税価格を計算する、と定めています。つまり話し合いがつかなくても、10か月以内に申告と納税をすることになります。この場合の取扱いは、次回以降の「申告しない・間に合わないとどうなる?」で詳しく取り上げます。
3. 納税は原則として現金一括、延納・物納は期限までに申請
相続税は金銭で一度に納めるのが原則です。何年かに分けて金銭で納める延納、財産そのもので納める物納という制度がありますが、いずれも申告書の提出期限までに申請書などを提出して許可を受ける必要があります(No.4205)。申告してから資金を考え始めると間に合いません。
- 特例を使うなら、税額ゼロでも申告書の提出が要件
- 未分割でも10か月以内に申告・納税する(相法55条)
- 延納・物納の申請期限も、申告書の提出期限と同じ
👤 よくある質問
国税庁は「相続税の申告要否判定コーナー」を用意しており、画面の案内にしたがって入力すると申告の要否を確認できます。あわせて「相続税の申告のしかた(令和8年分用)」も公開されています。まずはここで概算をつかむのが出発点になります。
相続税法27条1項は、財産を取得した各人が申告書を提出しなければならないと定めています。実務上は、同じ被相続人から財産を取得した人が共同で1通の申告書を作成し、連署して提出する方法が広く使われています。いずれの場合も提出先は被相続人の住所地を所轄する税務署です。
相続税法27条1項の10か月という期限に、遺産分割が難航しているという理由での延長の定めは置かれていません。期限までに申告をしなかった場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合があります(No.4205)。間に合わないと感じた時点で、早めに専門家にご相談ください。
📌 まとめ
- 申告書を提出するのは、相続や遺贈で財産を取得した人自身(相法27条1項)
- 期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内。納付も同じ期限(相法33条)
- 提出先は、被相続人の住所地を所轄する税務署(No.4205、相法62条3項)
- 土地がない・特例を使わない・分割がまとまっている・名義預金の心配がない、この4つがそろえば自分で申告できる可能性がある
- 特例を使うなら、税額ゼロでも申告書の提出が適用の要件
相続税の申告は、時間をかければご自身でできる部分と、判断を誤ると税額が大きく変わる部分が混ざっています。どこまで自分で進め、どこから相談するか。その線引きをはっきりさせるだけでも、気持ちはずいぶん軽くなります。連載の全体像は「相続税 完全ガイド」にまとめていますので、あわせてご覧ください。手続き全体の流れは第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」をご参照ください。
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公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る