社長からの借入金はどう扱う?債務免除益と貸付金の相続への影響

資金繰りが苦しかった時期に社長が個人の預金を会社に入れた。そのまま返済されず、決算書の負債の部に「役員借入金」「短期借入金(代表者)」として何千万円かが残っている。中規模の会社でも、決して珍しい話ではありません。

この借入金は、会社から見れば負債ですが、社長から見れば会社に対する債権です。放っておくと相続財産として額面で評価され、納税資金の当てがないまま相続税の課税対象になることがあります。だからといって安易に免除すれば、会社に債務免除益が立ち、場合によっては他の株主への贈与とみなされます。

この記事では、社長借入金をめぐる税務を、無利息のまま置いた場合、免除した場合、相続が起きた場合の3つの局面に分けて整理します。連載の全体像は役員給与の税務 完全ガイドにまとめています。

🧭 まず整理|同じお金が会社と個人で別の顔を持つ

社長借入金は、一つの取引が会社と個人の両方に足跡を残します。会社の帳簿では負債、社長の側では会社に対する貸付金債権です。税務の論点はこの2つの側面から出てきます。

同じ社長借入金が、会社と個人で別の意味を持つ 会社から見ると 負債(役員借入金) 返済すれば負債が減る 免除されれば 債務免除益が立つ 純資産と株価にも影響する 社長から見ると 会社に対する貸付金債権 回収できれば現金になる 残したまま相続が起きれば 相続財産として評価される 免除すれば債権を手放す

会社の対策だけを考えると個人側で問題が出る。両側を同時に見る必要がある。

💡 無利息のまま置いておくとどうなるか

社長が会社に無利息で貸している状態は、実務では広く見られます。この点は、会社が役員に貸す場合とは扱いが異なります。

法人税法第22条第2項は、益金の額に算入すべき金額を、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る収益の額としています。列挙されているのは、無償による資産の譲受けであって、無償で役務の提供を受けることは現れません。会社が役員から無利息で借り入れている場合に、支払利息と受贈益を両建てする処理が一般に求められないのは、この条文の建て付けによるものと説明されます。

社長の側でも、所得税法第36条第1項は、収入金額とすべき金額を、その年において収入すべき金額とし、経済的な利益の場合はその価額としています。実際に利息を受け取っていない以上、収入すべき金額は生じません。

逆に、社長が会社から利息を受け取れば、その利息は社長の所得として課税されます。無利息にするか利息を取るかは、会社の損金と個人の所得のどちらに置くかという選択でもあります。役員報酬の水準とあわせて考えたほうが、全体としての負担を見誤りません。

つまり、無利息であること自体は多くの場合に問題になりません。問題が表面化するのは、免除するときと、相続が起きるときです。

⚠️ 債務免除をしたときに会社で起きること

社長が「もう返してもらわなくてよい」と債権を放棄すると、会社の負債が消えます。消えた分は会社の利益です。法人税法第22条第2項は、資本等取引以外の取引に係る収益を益金とすると定めていますので、債務免除益は原則として益金に算入されます。

5,000万円の借入金を免除すれば、5,000万円の利益が計上されます。現金は1円も入ってきませんが、課税所得は増えます。ここで頼りになるのが繰越欠損金です。

法人税法第57条第1項は、各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額があるときは、その金額を損金の額に算入するとしたうえで、ただし書で控除できる額を損金算入限度額までとしています。この損金算入限度額は、一定の規定を適用しないものとして計算した場合のその事業年度の所得の金額の100分の50に相当する金額です。もっとも同条第11項は、各事業年度終了の時において中小法人等に該当する内国法人については、この「所得の金額の100分の50に相当する金額」を「所得の金額」と読み替えるとしています。中小法人等には、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下である普通法人(一定の法人を除く)が含まれます。

項目 金額
免除する社長借入金 5,000万円
債務免除益(益金) 5,000万円
10年以内に生じた繰越欠損金 3,000万円
控除できる欠損金(資本金1,000万円の中小法人等の場合) 3,000万円(所得の金額まで控除できる)
差引きの課税所得 2,000万円

上の設例は、他に所得がないという単純化した前提です。実際には当期の損益や別表四の他の加減算があり、この数字どおりにはなりません。控除できる欠損金の有無と金額を先に確かめてから、免除する金額と時期を決める順序になります。

10年という期間の縛りもあります。古い赤字は使えません。何年も前から借入金が積み上がっている会社ほど、免除のタイミングを誤ると課税が生じやすくなります。

👪 債務免除が他の株主への贈与とみなされる場合

もう一つ、見落とされやすいのが相続税法の論点です。社長が債務を免除すると会社の純資産が増え、株式の価値が上がります。社長以外の株主がいれば、その株主は何もしていないのに持分の価値が増えることになります。

相続税法第9条は、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合には、その利益を受けた時に、利益の価額に相当する金額を、利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなすと定めています。これを受けて、相続税法基本通達9-2は次のように定めています。

同族会社の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。…(3)対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者(相続税法基本通達9-2)

贈与による財産の取得の時期は、通達では、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとされています。

社長が債務を免除したときに動く3つの課税 会社(法人税) 債務免除益が益金に 算入される 10年以内の繰越欠損金 があれば控除できる 中小法人等は 所得の金額まで控除可 他の株主(贈与税) 株式の価額のうち 増加した部分を 免除した者から 贈与により取得したと して取り扱う (相基通9-2の(3)) 免除した社長 債権を手放すだけで 対価を得ていない 将来の相続財産から その債権が外れる 代わりに保有株式の 評価は上がりうる

法人税だけを見て免除を決めると、他の株主に贈与税が生じる可能性を見落とす。

ただし例外があります。相続税法基本通達9-3は、同族会社の取締役、業務を執行する社員その他の者が、その会社が資力を喪失した場合において9-2の(1)から(4)までに掲げる行為をしたときは、その行為により会社が受けた利益に相当する金額のうち、会社の債務超過額に相当する部分の金額については、9-2にかかわらず、贈与によって取得したものとして取り扱わないとしています。

この「資力を喪失した場合」について、通達はなお書きで、法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合をいうのであって、単に一時的に債務超過となっている場合はこれに該当しないと明記しています。

債務超過だから贈与にならない、と単純化するのは危険です。通達は、単に一時的に債務超過となっている場合は該当しないとしています。株主が社長ひとりであれば他の株主への贈与という問題自体が生じませんが、後継者や配偶者が株式を持っている会社では、免除の前に必ず確認してください。

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⚰️ 免除しないまま相続が起きたら

社長借入金を残したまま相続が起きると、その債権は相続財産になります。財産評価基本通達204は、貸付金債権等の価額について、元本の価額はその返済されるべき金額、利息の価額は課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額とし、その合計額によって評価するとしています。

原則は額面です。会社の業績が悪くても、株式の評価がゼロでも、債権は返済されるべき金額で評価されるのが出発点になります。3,000万円を貸したまま相続が起きれば、3,000万円の財産として相続税の計算に入ります。現金は入ってこないのに課税だけが生じるという、いちばん困る形です。

相続が起きたとき、社長の貸付金債権はどう評価されるか 会社に対する貸付金債権が残っている 課税時期に通達205が挙げる事実があるか 取引停止処分、法的整理の開始、事業の廃止や6か月以上の休業など 当てはまらない 返済されるべき金額で評価する 当てはまる その金額は元本の価額に算入しない

額面での評価が原則で、外れるのは通達が挙げる事実に当てはまるときだけ。赤字が続いているというだけでは足りない。

例外を定めているのが財産評価基本通達205です。債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するとき、その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときは、それらの金額は元本の価額に算入しないとしています。

区分 通達が挙げている事実(債務者について生じているもの)
手形 手形交換所(これに準ずる機関を含む)において取引停止処分を受けたとき
法的整理の開始 会社更生法の更生手続開始の決定、民事再生法の再生手続開始の決定、会社法の特別清算開始の命令、破産法の破産手続開始の決定があったとき
事業の廃止・休業 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
債権の切捨て等 更生計画認可の決定などにより債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合の、切り捨てられる部分などの金額

会社の株式の評価がゼロであっても、貸付金債権の評価は別に行われます。株価対策だけを進めて債権を残すと、相続財産が減らないという結果になりかねません。

これらは、事業を続けている会社にはそのまま当てはまりません。赤字が続いているだけでは、通達が挙げる事実には届かないのが通常です。相続まで放置するという選択は、実質的に額面での課税を受け入れる選択に近くなります。

🧰 社長借入金を整理する選択肢

結論として、社長借入金は「気づいたときに、時間をかけて減らす」のが基本になります。使われる手は次のとおりです。

方法 押さえておく点
会社が返済する もっとも素直。資金繰りが許す範囲で計画的に返す。社長個人に現金が戻るので、その後の使途も含めて設計する
債務免除する 会社に債務免除益。控除できる繰越欠損金の範囲と、他の株主への贈与とみなされないかを事前に確認する
数年に分けて一部ずつ免除する 各期の繰越欠損金や当期損益の範囲に収めやすい。免除ごとに株価への影響を確認する
債権を生前に贈与する 後継者などに債権そのものを移す。贈与税の課税対象になるため、基礎控除や特例の適用可否を含めて検討する
役員報酬を見直して返済原資を作る 報酬を上げれば個人の所得税と社会保険料が増える。改定できる時期の制約もあるため、期首から3か月以内の設計に合わせる

どれを選ぶにしても、会社の法人税、他の株主の贈与税、社長個人の相続税という3つを同時に見る必要があります。片側だけを最適化すると、もう片側で想定外の税負担が出ます。

🗂️ 残しておく記録

社長借入金は、金額が大きいわりに書類が薄いことが多い項目です。調査で最初に問われるのは、そもそもいつ、いくら、どのように入れたのかという事実関係です。

目的 用意しておくもの
借入れの事実 金銭消費貸借契約書、入金の通帳記録、取締役会議事録
返済の履歴 返済計画書、実際の出金記録、残高の推移表
免除の事実と時期 債務免除の意思表示を示す書面(内容証明郵便など)、取締役会または株主総会の記録
株価への影響 免除の前後の株式評価、株主構成が分かる資料

とくに免除の時期は重要です。相続税法基本通達9-2は、贈与による財産の取得の時期を、債務の免除があった時などによるとしています。いつ免除したのかが書面で示せなければ、法人税の計上時期も贈与の時期も宙に浮きます。

❓ よくある質問

社長借入金に利息を付けるべきですか

付けなければならないという定めがあるわけではありません。無利息のまま置いても、会社側で受贈益を認識する処理は一般に求められていません。利息を払えば会社の損金になりますが、社長個人の所得として課税されます。会社と個人のどちらで負担するかという設計の問題です。

債務免除をすれば必ず法人税がかかりますか

債務免除益は益金に算入されますが、10年以内に生じた繰越欠損金があれば控除できます。資本金1億円以下の普通法人など中小法人等に当たれば、所得の金額まで控除できるため、欠損金の範囲内であれば課税が生じないこともあります。免除する金額を欠損金の範囲に収める、複数期に分ける、といった調整が実務では行われます。

株主が社長ひとりなら贈与の心配はありませんか

相続税法基本通達9-2は、株式の価額が増加したときに、その株主が増加した部分に相当する金額を免除した者から贈与により取得したものとして取り扱うという定めです。株主が免除した本人だけであれば、他人に利益が移りません。ただし名義株がある場合や、少数でも親族が株式を持っている場合は確認が必要です。

会社が債務超過なら免除しても贈与になりませんか

相続税法基本通達9-3は、会社が資力を喪失した場合の私財提供等について、債務超過額に相当する部分の金額は贈与として取り扱わないとしています。ただし、なお書きで、単に一時的に債務超過となっている場合はこれに該当しないと明記されています。債務超過という一事で結論が出るものではありません。

相続の直前に免除すれば相続財産を減らせますか

債権が消えるので、その債権は相続財産から外れます。ただし会社に債務免除益が立ち、他の株主に贈与とみなされる可能性があり、社長が保有する株式の評価は上がる方向に働きます。相続財産全体で見て減るとは限りません。株式評価への影響も含めて試算してから判断してください。

相続人が会社に返済を求めたらどうなりますか

会社の負債ですので、返済を求める権利はあります。もっとも、会社に資金がなければ現実には回収できません。相続税は額面で課税され、回収は進まないという状態になりかねないため、生前に方向を決めておくことが大切です。

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📄 まとめ

社長からの借入金は、無利息のまま置いておくこと自体はさほど問題になりません。動くのは、免除するときと相続が起きるときです。免除すれば会社に債務免除益が立ち、繰越欠損金の残りが結論を左右します。同時に、他の株主がいれば株式の価値が上がった部分が贈与とみなされる可能性があります。

放置して相続が起きれば、貸付金債権は原則として返済されるべき金額で評価されます。回収不能として元本から外せる場面は、通達が挙げる限られた事実に当てはまるときだけです。残高が大きい会社ほど、数年単位の計画を立てて減らしていく価値があります。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

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