※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
受託開発やWeb制作、コンサルティングなどの会社では、「売上は増えているのに利益が残らない」「どの案件が儲かっているのかわからない」という声をよく聞きます。モノを作らない業種では原価計算になじみがなく、社員の給与や外注費を部門単位でまとめて原価にしている会社が少なくないためです。
結論からいえば、サービス業でもプロジェクト別原価計算は必須で、その中心は社員ごとのプロジェクト従事時間を集計し、時間単価を掛けてプロジェクト別の人件費をつかむことです。外注費や経費は申請書類にプロジェクト番号を書かせて直接費とし、残りは間接費として配賦し、月末に未完了のプロジェクトは仕掛品(契約の内容によっては進捗に応じた収益・原価)として処理します。上場準備ではこの仕組みが必ず確認されます。本記事では架空の数値例で手順を解説します。
この記事の見出し
サービス業でも原価計算が要る理由:部門まとめの原価では損益がわからない
サービス業の原価の大半は人件費と外注費です。これを部門全体や会社全体でまとめて「当月の原価」とすると、売上との対応が崩れます。完了して売上になった案件の原価と、まだ作業中の案件の原価が区別されないため、案件が重なる月は赤字、完了が重なる月は大きな黒字というように、損益が実態とかけ離れて上下します。
架空のB社の例で比べてみます。当月はP-101とP-102の2案件が完了し、P-103が作業中です。部門まとめで支出をすべて原価にすると当月は305,000円の赤字に見えますが、プロジェクト別に集計すると245,000円の黒字で、赤字はP-102の1案件だけだとわかります。
図1 同じ月の同じ支出でも、プロジェクト別に集計すると赤字案件と進行中の案件が見えるようになる
プロジェクトの原価は、そのプロジェクトに直接ひもづけられる「直接費」と、ひもづけられない「間接費」に分けて考えます。直接費は従事した社員の人件費(直接労務費)と、そのプロジェクトのための外注費・経費です。間接費は社内会議や研修の時間に対応する人件費、共用のツールや事務所家賃などで、部門で集めてから各プロジェクトに配ります(配賦)。
図2 プロジェクトに直接ひもづくものは直接費、ひもづかないものは部門で集めて配賦する
売上をいつ計上するか(検収基準など)は月次決算の売上計上基準|現金主義をやめて出荷・検収など年度と同じ基準へで解説しています。売上の計上時期が正しくても、原価がプロジェクトごとに対応していなければ、案件ごとの損益は出ません。
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プロジェクト別原価計算の6ステップ
プロジェクト別原価計算は、次の6つのステップで組み立てます。①従事者にプロジェクト別の作業時間を記録・提出させる、②従事者の人件費を集計して総勤務時間で割り、1時間当たりの人件費を出す、③その単価に従事時間を掛けて直接労務費を出す、④外注費と経費を申請書類のプロジェクト番号で直接費として集計する、⑤それ以外の原価を部門で集めて間接費として配賦する、⑥月末に未完了のプロジェクトを仕掛品として処理する、という流れです。
図3 最も大切なのは①の従事時間の記録。ここが不正確だと、後のすべての数字が狂う
6ステップの結果は、プロジェクトごとの損益一覧表にまとめます。売上、直接労務費、外注費・経費、間接費、損益を横に並べるだけの表ですが、赤字の案件や原価が膨らんでいる案件がひと目でわかるようになります。
図4 6ステップの結果をプロジェクトごとに並べた表。赤字のP-102がひと目でわかる
工数(従事時間)の集計表と1時間当たり人件費の計算
6ステップの中で最も重要なのが、従事時間の記録です。ここでいう工数とは、ある作業にかかった人の時間のことです。社員一人ひとりが、どのプロジェクトに何時間使ったかをタイムシート(従事時間集計表)に記録し、月末に上長の承認を受けて提出します。プロジェクト以外の社内会議や研修の時間も「間接作業」として記録し、合計が勤怠記録の総勤務時間と一致するようにします。
図5 社内会議や研修などプロジェクト以外の時間も必ず記録し、合計を総勤務時間と一致させる
次に、従事者ごとの人件費を集計します。時間単価に含めるのは、基本給だけではありません。賞与の月割り額、退職給付費用、残業代、会社負担の社会保険料などの法定福利費も含めます。これらを漏らすと時間単価が低く出て、プロジェクトの原価が実態より小さく見えてしまいます。
図6 給与だけでなく、賞与の月割り・退職給付費用・法定福利費まで含めて単価を出す
人件費の月額合計を、その月の総勤務時間で割ると1時間当たりの人件費(時間単価)が出ます。社員Aは600,000円÷160時間=@3,750円、社員Bは480,000円÷160時間=@3,000円です。月ごとの給与や残業時間の変動を反映するため、単価は毎月計算し直すのが基本ですが、変動が小さければ期首に決めた予定単価を使い、差額を期末に調整する方法もあります。賞与や法定福利費の月次計上は人件費の月次計上|締め日後の未払給与・社会保険料・労働保険料の処理で解説しています。
図7 分母の総勤務時間には、プロジェクト作業以外の時間も含める
時間単価にプロジェクトごとの従事時間を掛けたものが直接労務費です。社員Aの間接作業20時間と社員Bの間接作業20時間に対応する135,000円は、特定のプロジェクトには入れず、間接費として集めます。
図8 間接作業の時間に対応する人件費は、プロジェクトに直接ではなく間接費として配賦する
工数の集計は、入力が遅れると月次決算そのものが遅れます。入力の頻度、締め日、承認者、入力単位、勤怠との照合方法をルールとして決め、周知しておきましょう。
図9 月次決算の締めに間に合うよう、入力期限と承認者を決めておく
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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外注費・経費にプロジェクト番号を付ける仕組み
外注費や、そのプロジェクトのためだけに使った交通費・ソフトウェア利用料などは、直接費として各プロジェクトに集計します。そのための仕組みは単純で、支出の入口となる書類にプロジェクト番号の欄を設け、記入を必須にすることです。対象となる書類は、支払依頼書、仮払金精算書、立替経費精算書の3つです。
図10 支払先は取引先マスターから選び、プロジェクトNo.は必須項目にする
書類にプロジェクト番号があれば、経理は仕訳を入力するときに番号を付けるだけで、プロジェクト別の原価台帳に自動的に集計できます。番号のない支出は、部門の間接費として扱います。支払依頼の流れ全体は費用と未払金の月次計上プロセス|請求書締切ルール・自動引落し・概算計上で、仮払金と立替経費の精算ルールは仮払金と立替経費精算のルール|月末に残さない申請・精算と規程のひな型で解説しています。
図11 支出の入口となる書類にプロジェクト番号を書かせれば、直接費は自動的に仕分けられる
間接費の配賦と、未完了プロジェクトの仕掛品計上
直接費以外の原価は、部門ごとに集めて間接費とし、一定の基準で各プロジェクトに配賦します。人の作業が原価の中心になるサービス業では、直接作業時間を基準にするのが一般的です。B社では間接費280,000円を直接作業時間280時間で割り、1時間当たり@1,000円で配賦しています。
図12 人が原価の中心になるサービス業では、直接作業時間を基準にするのが一般的
月末にまだ完了していないプロジェクトの原価は、当月の費用にせず、プロジェクト仕掛品として貸借対照表に資産計上するのが基本です。ただし、収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)のもとでは、契約の内容によって扱いが変わる点に注意が必要です。
受託開発のように、作業が進むにつれて顧客のための成果物ができあがり、他に転用できず、途中までの作業分の対価を請求できる契約は、「一定の期間にわたり充足される履行義務」に当たる場合があります。この場合は、進捗度(たとえば見込総原価に対する発生原価の割合)に応じて毎月収益を計上し、発生した原価はその月の売上原価になります。進捗度を合理的に見積れないものの、発生した原価は回収できると見込まれるときは、発生した原価の額で収益を計上する原価回収基準を使います。一方、成果物を検収した時点で収益を計上する契約では、完成までの原価を仕掛品として集計します。
図13 収益認識基準のもとでは、契約の性質によって仕掛品として残すか、進捗に応じて収益と原価を計上するかが分かれる
どちらの処理でも、プロジェクトごとの原価が正確に集まっていることが前提です。進捗度を原価で測る場合はなおさらで、工数集計の精度がそのまま売上の精度になります。完成時に収益を計上する場合の仕訳は、次のようになります。
図14 月末に未完了の原価は仕掛品として資産に残し、完成・検収の月に売上原価へ振り替える
同じ3か月の案件でも、収益の認識方法によって月次の売上の出方は大きく違います。進捗度の測り方は既存記事の収益認識の進捗度の測定|アウトプット法とインプット法で、工事や受注制作で損失が見込まれる場合の扱いは工事契約の収益認識|進行基準からの移行と工事損失引当金で詳しく解説しています。
図15 契約額2,000千円・3か月の受託開発。原価比例で進捗を測ると、毎月の売上と原価が対応する
| 契約のタイプ | 月末の未完了分 | 月次の損益 |
|---|---|---|
| 完成・検収時に収益認識 | 原価を仕掛品として資産計上 | 完成月に売上と原価がまとめて立つ |
| 一定期間で収益認識(進捗度を見積れる) | 進捗に応じ収益と原価を計上(未請求分は契約資産) | 毎月、進捗に応じた損益が出る |
| 一定期間で収益認識(見積れない) | 発生原価と同額の収益を計上 | 利益はゼロで、見積れるようになってから計上 |
Excelか専用システムか
プロジェクト別原価計算は、Excelでも十分に始められます。タイムシート、時間単価の計算表、プロジェクト別の集計表を連動させれば、少人数の会社なら運用できます。ただし、人数や案件が増えると、入力ミスや集計の手間、改ざんのリスクが大きくなります。プロジェクト別原価計算の専用パッケージや、その機能を持つERP(統合基幹業務システム)を使うのも一つの方法です。
図16 少人数のうちはExcelで十分。人数や案件が増えたら、承認と履歴が残る仕組みへ移る
仕組みを作ったら、完了後に損益を確認するだけでなく、作業中の案件の原価消化率を毎月追いかけることが大切です。見込原価の8割を使った時点で残作業がまだ多ければ、赤字の兆候です。早めに手を打てば、追加の請求や体制の見直しで損失を抑えられます。
図17 完了してから赤字に気づくのでは遅い。見込原価に対する消化率を毎月確認する
| 確認される点 | 整備の目安 |
|---|---|
| 工数集計 | 全従事者がタイムシートを提出し、承認を受けている |
| 時間単価 | 法定福利費・賞与等を含めて算定し、根拠が残っている |
| 直接費の集計 | 申請書類にPJ番号があり、原価台帳と一致する |
| 間接費の配賦 | 配賦基準が文書化され、継続して適用している |
| 仕掛品・収益認識 | 契約ごとに処理方法を判定し、月次で計上している |
- 全従事者がプロジェクト別の従事時間を記録し、上長が承認している
- 時間単価に賞与の月割り・退職給付費用・法定福利費を含めている
- 支払依頼書・仮払金精算書・立替経費精算書にプロジェクト番号欄がある
- 間接費の配賦基準を決め、継続して使っている
- 未完了プロジェクトの原価を月末に仕掛品などとして処理している
- 作業中の案件の原価消化率を毎月確認している
よくある質問
入力の目的(案件の採算を守ること)を説明したうえで、入力期限を決め、未入力者を毎週一覧にして上長に共有すると定着しやすくなります。勤怠の総時間と一致しない場合は差し戻すルールも有効です。
プロジェクトの作業に実際に従事した時間があれば、その分は直接労務費に入れます。営業活動や管理業務の時間は原価ではなく販売費及び一般管理費とするのが一般的です。区分のルールを決めておきましょう。
金額の小さい定型作業は、まとめて一つのプロジェクト番号にする方法でも構いません。管理の手間と得られる情報のバランスで、番号の付け方を決めてください。
最初の一歩は、来月からタイムシートの提出を始めることです
仕組みの中で最も時間がかかるのは、社員が工数を記録する習慣づくりです。まずは来月から全従事者にタイムシートを提出してもらい、1〜2か月かけて精度を上げながら、時間単価と直接費の集計を加えていくのが現実的です。
まとめ
サービス業でも、支出を部門単位でまとめて原価にするとプロジェクトごとの損益はわからず、月次の損益も実態から離れます。プロジェクト別原価計算の要は、社員ごとの従事時間を集計し、人件費の総額を総勤務時間で割った時間単価を掛けて直接労務費を出すことです。外注費・経費は申請書類のプロジェクト番号で直接費とし、残りは間接費として配賦します。月末に未完了のプロジェクトは仕掛品として資産計上するのが基本ですが、収益認識基準のもとで一定期間にわたり収益を認識する契約は、進捗度に応じて収益と原価を計上します。どちらの処理でも工数集計が前提であり、上場準備でも必ず確認される仕組みです。
月次決算の手順づくり、締めの早期化、月次報告資料の設計、上場準備に向けた体制整備まで、公認会計士・税理士が個別にご相談をお受けします(全国対応・オンライン完結)。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」
- e-Gov法令検索 法人税法(第22条の2 収益の額)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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