※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
月次決算を早く正確に締めるには、各部門から上がってくる支払依頼の段階で、勘定科目と消費税の区分がほぼ正しく入っていることが前提になります。経理が毎月何百件もの依頼を一から直していては、締めが遅れるうえ、税務の誤りも残ります。
結論からいえば、部門向けの「経費の勘定科目マニュアル」を1枚作って配り、租税公課・寄附金・交際費・資本的支出の4つと、消費税区分の例外だけは経理が最終確認する体制にするのが近道です。交際費は2024年4月以後、1人当たり1万円以下の飲食費を除外できるようになっており、精算書の様式もそれに合わせて見直します。
この記事の見出し
支払依頼に出てくる科目は限られる:科目マニュアルを配る効果
支払依頼とは、部門の担当者が請求書を受け取ったときに「この内容で、この口座へ支払ってください」と経理へ依頼する社内手続です。会計ソフトやワークフローで入力する会社なら、担当者が勘定科目と消費税の区分(課税・非課税・不課税・免税)を選ぶことになります。
実際に件数を数えてみると、部門から出てくる科目はそれほど多くありません。旅費交通費・消耗品費・会議費・通信費・支払手数料・交際費といった10前後の科目で、依頼のほとんどが占められます。下の架空例では、240件のうち上位6科目で8割強です。
図1 上位6科目で全体の8割強を占める架空例です。マニュアルはまずこの範囲から作れば足ります
そこで、よく使う科目だけを集めた「科目マニュアル」を作り、部門に配ります。1科目を1行にして、具体例・注意点・消費税区分を並べるだけで十分です。担当者は迷ったときに引けばよく、経理は「マニュアルのこの行を見てください」と差し戻せるので、やり取りが短くなります。
図2 科目ごとに具体例・注意点・消費税区分を1行にまとめると、部門の担当者でも迷いにくくなります
マニュアルは網羅性より「迷いやすいところを書く」ことを優先します。たとえば会議費の行に「社内だけの飲食は対象外」と書いておけば、毎月の差戻しが目に見えて減ります。支払依頼から未払計上までの流れは費用と未払金の月次計上プロセスで整理していますので、あわせてご覧ください。
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主な経費科目と具体例・注意点の一覧
マニュアルに載せる科目の例を、具体例と注意点の形でまとめると次のようになります。会社の業種や規程にあわせて、補助科目(科目の下の内訳)を足して使ってください。
| 科目 | 具体例 | 月次での注意点 |
|---|---|---|
| 福利厚生費 | 健康診断・慶弔・社内行事 | 慶弔金は消費税の対象外 |
| 旅費交通費 | 出張の交通費・宿泊費・日当 | 海外出張分は区分が変わる |
| 通信費 | 電話・郵便・インターネット | 国際分は免税 |
| 広告宣伝費 | 広告掲載料・販促物 | 長期の契約は前払費用に注意 |
| 支払報酬 | 弁護士・税理士・司法書士 | 個人への報酬は源泉徴収が必要 |
| 消耗品費 | 10万円未満の備品・事務用品 | 10万円以上は資産計上を検討 |
| 修繕費 | 修理・保守 | 改良を含むと資本的支出の可能性 |
| 雑費 | どれにも当たらない少額支出 | 罰金等が紛れていないか確認 |
科目ごとに消費税の「標準の区分」を会計ソフトに設定しておくのが普通ですが、同じ科目の中に例外的な区分になる支出が混じります。慶弔金や対価性のない会費は不課税、土地の賃料や社宅家賃は非課税、国際線の運賃や国際電話は免税、といった具合です。こうした例外はマニュアルの注意点欄に明記しておきます。
図3 科目の標準設定と違う区分になる支出を、マニュアルの注意点欄に書いておきます
インボイス制度のもとでは、仕入先が適格請求書発行事業者かどうかも区分に影響します。免税事業者からの仕入れは、経過措置により一定割合だけ仕入税額控除ができます。この割合は2026年9月30日までの80%から、2026年10月1日以後は70%に下がりました(2026年度改正。その後も段階的に縮小)。月次の段階で取引先の登録番号を確認し、区分を分けておくと年度末の集計が楽になります。
図4 部門は科目を選ぶところまで、税区分と資産性の最終判断は経理が持ちます
役割分担としては、部門は科目と税区分を「選ぶ」ところまで、経理は区分と資産性を「確定する」ところまで、と決めておくのが現実的です。誤りの多かった科目は毎月集計して注意点に追記すると、マニュアルが少しずつ実態に合ってきます。
税務で間違えやすい4つ:租税公課・寄附金・交際費・資本的支出
支払依頼の中で、法人税の申告時に調整(申告調整)が必要になりやすいのが、租税公課・寄附金・交際費・資本的支出の4つです。どれも、月次の段階で区分して記録しておけば、年度末にまとめて調べ直す手間がなくなります。
図5 4科目とも「月次で区分しておけば年度末に慌てない」点が共通しています
租税公課は、税金や公的な賦課金をまとめて処理する科目です。固定資産税や印紙税、事業税などは損金(税務上の費用)になりますが、法人税・住民税の本税、延滞税や加算税、罰金・科料・過料は損金になりません。同じ科目のまま混ぜると、申告のときに一件ずつ探すことになります。補助科目で「損金不算入」を分けておくのが簡単な方法です。
図6 損金にならない税金や罰金等は、別の補助科目にしておくと申告調整の集計が簡単です
寄附金は、相手先によって損金にできる範囲が変わります。国や地方公共団体への寄附金と財務大臣の指定寄附金は原則として全額損金、特定公益増進法人等への寄附金は別枠の限度額まで、それ以外の一般の寄附金は通常の限度額までです。支払依頼に相手先の区分を書かせ、3つの補助科目で集計しておきましょう。
図7 区分ごとに損金にできる範囲が違うため、支払の段階で相手先の区分を記録しておきます
交際費と資本的支出は判定の手順が少し長いので、このあと見出しを分けて説明します。
交際費・会議費・接待飲食費・社内飲食費の区分
税務上の交際費等とは、得意先や仕入先など事業に関係のある相手に対する接待・供応・慰安・贈答などのための支出をいいます。法人税では原則として損金になりませんが、例外がいくつかあります。月次で迷いやすいのは飲食費で、次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 区分 | 中身 | 税務上の扱い |
|---|---|---|
| 会議費等 | 社外の者を含む飲食で1人1万円以下 | 記録を残せば交際費等から除外 |
| 接待飲食費 | 社外の者を含む飲食で1人1万円超 | 交際費等。50%損金の対象 |
| 社内飲食費 | 役員・従業員だけの飲食 | 金額にかかわらず交際費等 |
| その他の交際費 | 贈答品・ゴルフ・慶弔金など | 交際費等 |
判定は「社外の者が参加しているか」「1人当たり1万円以下か」「記録を保存しているか」の順に進めます。社内の者だけの飲食(社内飲食費)は、1人当たりの金額がいくら少なくても除外の対象になりません。なお、全従業員を対象にした忘年会のように、福利厚生費として扱える社内行事は別の論点です。
図8 社内だけの飲食か、1人当たり金額、記録の有無の順で判定します
1人当たりの金額は、飲食代の合計を社内外の参加者全員の人数で割って計算します。社内の参加者も人数に含める点に注意してください。金額は、会社が採用している消費税の経理方式(税込経理か税抜経理か)にあわせて判定します。
図9 社内の参加者も人数に含めて割ります。ケースBは1人当たり1万円を超えるため接待飲食費です
交際費等のうち損金にできる額は、会社の規模で変わります。資本金1億円以下の中小法人(大法人の100%子会社などを除く)は、年800万円までの定額控除と、接待飲食費の50%損金算入のどちらかを選べます。資本金1億円超100億円以下の法人は接待飲食費の50%のみ、100億円超の法人はどちらも使えません。中小法人の特例と50%の特例は、2027年3月31日までに開始する事業年度まで延長されています。
図10 中小法人は定額控除と接待飲食費50%のどちらか有利なほうを選べます
中小法人がどちらを選ぶかは、接待飲食費の年間額で決まります。接待飲食費が1,600万円以下なら定額控除のほうが損金が多くなり、それを超えると50%のほうが有利です。接待飲食費を補助科目で別集計しておけば、月次の段階で年間の見込みを立てられます。
図11 接待飲食費が1,600万円を超えると50%のほうが有利になります(架空例)
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少額の飲食費を交際費から外すための記録事項と精算書
1人1万円以下の飲食費を交際費等から除くには、一定の事項を書いた書類を保存することが条件です。記録がなければ、金額が基準内でも交際費等のままになります。必要な事項は、飲食の年月日、参加した得意先等の氏名または名称とその関係、参加人数、金額、店の名称と所在地、その他参考になる事項です。
図12 記録事項は精算書の様式に入れておき、経理は領収書との一致を確かめます
こうした記録を後から集めるのは大変なので、交際費の精算に使う精算書の様式に、記録事項を最初から欄として入れておきます。申請者は欄を埋めて領収書を添付するだけでよく、経理は記載内容から会議費等・接待飲食費・社内飲食費・その他の交際費のどれに当たるかを判定できます。
図13 「区分」欄を経理記入にしておくと、申請者に税務判断を求めずに済みます
「区分」欄を経理の記入欄にしておくのがポイントです。申請者に税務の判断を求めると、判断が人によってばらつきます。精算書の流れや仮払金との関係は仮払金と立替経費精算のルールで詳しく説明しています。
固定資産か費用かの判断は経理が最終確認する
パソコンや什器、内装工事の支払は、金額によって「その月の費用」か「固定資産として数年かけて費用化」かが分かれます。資本的支出(固定資産の価値を高めたり使える期間を延ばしたりする支出)を修繕費で処理すると、月次の利益が一時的に小さく出て、年度末に修正が必要になります。
図14 特例は青色申告の中小企業者等に限られ、年間300万円の上限があります
取得価額が10万円未満なら消耗品費、20万円未満なら一括償却資産として3年で均等に費用化できます。青色申告の中小企業者等には、一定額未満の資産を年300万円まで一度に損金にできる特例があり、2026年度改正で基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、期限も2029年3月31日まで延長されました。どの資産から新しい基準が使えるかは取得日で確認します。具体的な使い分けは少額減価償却資産は10万・20万・30万のどれを使うかも参考にしてください。
修理や改良の支払は、さらに判定が必要です。税務には、1件20万円未満や3年以内の周期で行う修理なら修繕費、資本的支出か修繕費か明らかでないものは60万円未満か前期末の取得価額の10%以下なら修繕費にできる、といった形式的な目安があります。
図15 金額の目安は税務上の形式基準です。上から順に当てはめ、最後は実質で判断します
これらの判定を部門の担当者に任せるのは無理があります。科目マニュアルには「10万円以上の物品や工事は、科目にかかわらず経理が確認する」と1行書いておき、経理が最終判断します。判定の考え方は修繕費と資本的支出はどちらかで詳しく解説しています。
科目マニュアルは税制改正にあわせて毎年見直す
科目マニュアルは作って終わりではありません。交際費の飲食費基準、少額減価償却資産の基準、インボイスの経過措置の割合など、マニュアルに書く金額基準の多くは税制改正で変わります。古い版が配られたままだと、部門は古い基準で科目を選び続けます。
図16 古い科目マニュアルを使い続けると、これらの基準がずれたままになります
毎年12月に税制改正大綱を確認し、改正法が成立したら4月に版を改め、部門へ説明する、という年間の流れにしておくと漏れがありません。月次では誤りの多かった点を追記していきます。月次の確認項目全体は月次決算のチェックリストに、税金科目の月次計上は税金の月次計上にまとめています。
図17 税制改正は4月施行が多いため、春に改訂して周知する流れにしておきます
- 部門が使う上位10前後の科目について、具体例・注意点・消費税区分を1行ずつ書いたマニュアルがある
- 租税公課の損金不算入分(法人税等・延滞税・罰金等)を補助科目で分けている
- 寄附金を相手先の3区分で集計している
- 接待飲食費を補助科目で別集計し、定額控除と50%の有利判定ができる
- 交際費精算書に記録事項の欄があり、区分欄は経理が記入している
- 10万円以上の物品・工事は経理が資産計上の要否を最終確認している
よくある質問
会社が採用している消費税の経理方式に従います。税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額で1人当たりの額を計算します。
会議に際して通常出される程度の弁当や飲み物は、会議費として扱えるのが一般的です。問題になるのは、役員・従業員だけで行う飲食を接待のように行うケースで、これは社内飲食費として交際費等になります。
A4で1〜2枚、15〜20科目程度が使いやすい分量です。全科目を載せるより、部門が実際に使う科目と迷いやすい点に絞るほうが参照されます。
2024年3月31日以前に支出した飲食費は改正前の5,000円基準が適用されるため、直す必要はありません。新しい基準は2024年4月1日以後の支出から使えます。
最初の一歩は、直近3か月の支払依頼を科目別に数えることです
件数の多い科目と、経理が差し戻した理由を数えるだけで、マニュアルに載せるべき科目と注意点が見えてきます。そこから1枚目の版を作り、部門の意見を聞きながら直していきましょう。
まとめ
部門から出てくる経費科目は限られるため、科目マニュアルを配れば支払依頼の質が上がり、月次決算の手戻りが減ります。税務で誤りやすい租税公課・寄附金・交際費・資本的支出と消費税区分の例外は、月次の段階で区分して記録し、経理が最終確認します。飲食費は1人1万円以下の基準と記録事項を精算書に組み込み、マニュアルは税制改正にあわせて毎年見直しましょう。
月次決算の手順づくり、締めの早期化、月次報告資料の設計、上場準備に向けた体制整備まで、公認会計士・税理士が個別にご相談をお受けします(全国対応・オンライン完結)。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 国税庁 タックスアンサーNo.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
- 中小企業庁 中小企業の交際費課税の特例
- 中小企業庁 少額減価償却資産の特例(令和8年度改正)
- 国税庁 タックスアンサーNo.5402 修繕費とならないものの判定
- 国税庁 タックスアンサーNo.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算
- 国税庁 インボイス制度について
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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