立替金の月次管理と仕訳|取引先への請求漏れ・滞留を防ぐ精算プロセス

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

出張の宿泊費や現地での交通費、資料の印刷代など、本来は取引先が負担する費用を会社がいったん支払うことがあります。これを処理する科目が立替金です。金額は小さくても件数が多く、請求書に載せ忘れたまま何か月も残っている、という例は珍しくありません。

結論からいえば、立替金は支払依頼書・仮払金精算書・立替経費精算書の3つの入口で「請求可」の印を付けて拾い、締め日に取引先ごとに請求し、月末には残高一覧で滞留を報告する仕組みにします。会計処理は、支払ったときの費目を減らして立替金に付け替えるやり方が、月次の分析を崩さない点で最も適しています。

立替金とは:損益に影響しない取引先への債権

立替金とは、取引先などが負担すべき代金を会社が一時的に肩代わりして支払ったときに使う資産の科目です。最終的には相手から返してもらうお金なので、正しく処理していれば会社の損益には影響しません。取引先へそのまま請求する費用という意味で、パススルーコストと呼ばれることもあります。

ただし、損益に影響しないからといって放置してよいわけではありません。立て替えてから回収するまでの間は会社の資金が外に出たままで、回収が遅れれば資金繰りを圧迫し、最悪の場合は回収できずに貸倒れになります。

立替金の発生から回収までのタイムライン(架空例)9月5日出張先で立替払9月8日経理が立替金を計上9月30日締め日に取引先へ請求10月31日入金・立替金を消込資金が出ている期間:56日(この間、貸借対照表に立替金120,000円が残る)

図1 立て替えてから入金されるまでの56日間、会社の資金が外に出たままになります

似た科目に仮払金と前払金があります。どれも一時的に資産に置く科目ですが、相手と最後の行き先が違います。混同すると、どれを誰に請求するのかが分からなくなります。

立替金・仮払金・前払金の違い科目相手中身最後の行き先立替金取引先・従業員他人の代金の肩代わり相手からの入金仮払金自社の従業員金額・内容が未確定の支払費用・資産へ振替前払金仕入先商品やサービスの代金の前渡し仕入・資産へ振替

図2 いずれも一時的な勘定ですが、相手と最後の行き先が違います

場面 立替金になるか 理由
取引先の指示で現地調査に行った交通費 なる(契約で先方負担の場合) 取引先が負担すると決まっている
自社の営業担当の訪問交通費 ならない 自社の営業活動の費用
取引先の会議で使う資料の印刷代 なる(見積に実費精算と明記) 実費を請求する取り決めがある
役員の私的な買い物の代金 なるが避けるべき 私的な支払の肩代わり

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立替金が発生する3つの入口

立替金は、主に3つの経路から生まれます。1つ目は請求書払いの支払依頼書、2つ目は出張などで仮払いした現金を精算する仮払金精算書、3つ目は従業員が自分で立て替えた経費を精算する立替経費精算書です。

どの書類にも「請求可/請求不可」の欄を設け、取引先に請求できる費用には「請求可」の印を付けてもらいます。この印が、経理が立替金として処理する合図になります。支払依頼の流れは費用と未払金の月次計上プロセス、仮払金と立替経費精算の書類は仮払金と立替経費精算のルールで詳しく説明しています。

立替金が生じる3つの入口支払依頼書(請求書払い)仮払金精算書(出張などの仮払い)立替経費精算書(従業員の立替え)「請求可」の印立替金取引先への債権

図3 どの書類から入っても「請求可」の印が付いたものだけが立替金になります

「請求可」にしてよいのは、契約書や見積書で取引先が負担すると決まっている費用だけです。営業担当の「たぶん請求できる」という判断で印を付けると、後で取引先に断られ、結局自社の費用に戻すことになります。案件番号と領収書で、どの取引先のどの案件の費用かを特定できることも条件にしておきます。

「請求可/請求不可」の判定フロー契約・見積書で取引先負担と決まっている?請求不可自社の費用で処理案件番号と領収書で取引先別に特定できる?いったん保留営業担当に確認請求可立替金で処理いいえはいいいえはい

図4 取引先が負担すると契約などで決まっていることが、立替金にする前提です

「請求可」の印で立替金を拾い、締め日に請求する流れ

立替金の請求と精算は、次の5つの手順で進めます。①部門が書類に「請求可」の印を付けて申請する、②経理が書類を確かめて、請求不可なら費用、請求可なら立替金として仕訳する、③締め日に立替金を取引先ごとに集計して請求書を出す、④取引先が振込で支払う、⑤入金時に立替金を消し込む、という流れです。

立替金の請求・精算の流れ(部門・経理・取引先)部門経理取引先①申請請求可の印を付ける②仕訳費用か立替金か③請求取引先別に集計④支払振込で精算⑤消込立替金を消し込む

図5 経理は締め日に取引先ごとに集計し、通常の請求とあわせて請求書を出します

ポイントは③の集計です。経理は請求書を作る前に、立替金の明細を取引先・案件ごとに集計し、請求書の立替金欄と突き合わせます。集計表に「請求済/未」の欄を付けておけば、どれが漏れているかがすぐ分かります。売上の請求と消込の手順は売上・売掛金の計上プロセスと入金消込とあわせて設計すると効率的です。

取引先別の立替金集計表(ひな型・架空例)取引先案件番号立替日内容金額請求D社P-26099月5日出張の宿泊費・交通費90,000済D社P-26099月12日資料の印刷費30,000済E社P-26119月20日現地調査の交通費18,000未合計―――138,000―

図6 請求書を作る前に、この集計表と請求書の立替金欄を突き合わせます

請求書には、業務の対価と立替金を分けて書きます。立替金の精算は取引の対価ではないため、消費税の課税売上には含めず、領収書の写しを添付して実費であることを示します。インボイス制度のもとでは、立替払いをした会社が立替金精算書と、支払先が発行した適格請求書の写しを取引先に渡せば、取引先は仕入税額控除の要件を満たせるとされています(国税庁のインボイスQ&A)。

立替金を通常の請求と分けて書く請求書の例内容金額税区分備考コンサルティング業務(9月分)500,000課税10%―消費税50,000――立替金(宿泊費・交通費・印刷費)120,000対象外領収書写し添付ご請求額合計670,000――

図7 立替金は対価ではないため、課税売上と分けて記載し、領収書の写しを添付します

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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滞留管理:月末残高の一覧化と報告

立替金も、売掛金や在庫と同じように滞留を管理します。経理の担当者は毎月、立替金の元帳を見て、立て替えたまま請求も入金もされていないものがないかを確かめます。月末には残高を一覧にし、経過日数の長い順に並べて上長や経営者に報告します。

月末の立替金残高一覧(経過日数つき・架空例)取引先立替日残高経過日数状況・対応E社9月20日18,00010日10月締めで請求予定F社7月28日64,00064日請求済・入金遅れ。担当が督促G社5月10日25,000143日負担者が未確定。部長と協議合計―107,000――

図8 経過日数が長いものから並べ、対応状況を一言で書いて報告します

一覧を作るだけでは督促が担当者任せになりがちです。経過日数に応じて「誰が何をするか」「どこまで報告するか」を決めておきましょう。90日を超えたものは、回収できるかどうかを検討し、必要なら評価の見直しも考えます。

立替金の滞留期間別の対応ルール(例)経過日数対応報告先30日以内通常の締め日に請求不要31〜60日営業担当が取引先へ確認部門長61〜90日督促し、回収予定日を記録経理部長90日超回収可能性を検討・評価経営者・取締役会

図9 期間ごとに誰が何をするかを決めておくと、督促が担当者任せになりません

請求漏れを防ぐ月次のチェックの流れ抽出請求可の明細突合請求書の立替金欄追加請求漏れを次の請求へ残高一覧経過日数を記入報告上長・経営者へ

図10 請求書を発行する前に、立替金の明細と請求書を必ず突き合わせます

長期のプロジェクトでは、業務が終わるまで売上を請求できず、立替金も一緒に何か月も残ることがあります。このような案件では、立替金だけでも売上債権と分けて毎月請求できるよう、契約の段階で支払条件を見直すことを検討します。下の架空例では、毎月請求に変えた8月から立替金残高が大きく減っています。

立替金残高の推移と資金繰りへの影響01002003004004月5月6月7月8月9月80万円150万円230万円310万円120万円90万円8月から立替金を売上債権と分けて毎月請求に変更(架空例)

図11 長期案件で立替金が積み上がり、月次精算に変えた後に減っています

長期案件の支払条件の見直し例項目見直し前見直し後立替金の請求業務完了時に一括毎月の締め日に請求支払期日完了後60日請求月の翌月末取引先の確認完了時にまとめて毎月、明細と領収書で

図12 立替金だけでも月次で精算してもらえるよう、契約の段階で取り決めます

役員・従業員への立替えは避ける

会社が役員や従業員の私的な買い物の代金を立て替えるケースもありますが、これは極力避けるべきです。特に役員への立替金が長く精算されないと、税務調査で実質的な貸付金と判断され、受け取るべき利息相当額の計上漏れを指摘されることがあります。役員側でも、無利息で借りている経済的利益が問題になる場合があります。

役員・従業員への立替えが長引くと何が起きるか私的な支払を会社が立替え精算されず数か月残る税務上貸付金と判断利息相当額の計上漏れを指摘あわせて、不明金や未承認の貸付が紛れ込む温床にもなる

図13 私的な支払の立替えは原則として行わず、やむを得ない場合も月内に精算します

また、立替金や仮払金は、架空の売掛金の消込や承認のない貸付けなど、不正が紛れ込みやすい科目でもあります。長期間残った残高は中身が分からない「不明金」になりかねません。個人への立替金は、月末の残高ゼロを原則とし、残るものは理由と精算予定日を書かせて毎月確認します。現金や経費精算の監査の視点は現金預金と経費精算の内部監査も参考になります。

役員・従業員の立替金の月次確認表(例)相手残高経過日数理由・精算予定役員H40,00035日私的な購入の立替え。10月10日精算従業員I8,50012日給与控除で10月25日に精算合計48,500――

図14 個人への立替金は月末残高ゼロが原則。残るものは理由と精算日を書かせます

会計処理3方法の比較(費目マイナス・他勘定振替・売上計上)

立替金の仕訳には、大きく3つのやり方があります。支払時はいずれも、旅費交通費や印刷費などの費目で処理しておき、請求可と分かった段階で立替金に振り替えます。違うのは、振替の相手科目です。

立替金の会計処理3方法の仕訳(架空例)支払時(共通):旅費交通費 90,000・印刷費 30,000 / 現金預金 120,000①同じ費目のマイナス立替金 120,000/旅費交通費 90,000/印刷費 30,000②他勘定振替高立替金 120,000/他勘定振替高120,000③売上に計上立替金 120,000/売上高 120,000①が望ましい方法。②③は費目管理や予実分析が難しくなる

図15 支払時の仕訳は同じで、振替の相手科目だけが違います

①は、支払ったときに使った費目をそのまま減らし、相手を立替金にするやり方です。費目の残高には自社で使った分だけが残るので、予算と実績の比較がそのままできます。②は「他勘定振替高」という科目のマイナスで振り替える方法で、費目には立替分も含んだ額が残り、自社の分と取引先の分が混ざります。③は立替金を売上高として計上する方法で、最も手間はかかりませんが、売上も費用も立替分だけ膨らみます。

3方法で損益計算書はどう見えるか(架空例)科目①費目マイナス②他勘定振替③売上計上売上高00120,000旅費交通費090,00090,000印刷費030,00030,000他勘定振替高―△120,000―損益への影響000

図16 どの方法でも利益は0で同じですが、売上と費用の見え方が大きく変わります

観点 ①費目マイナス ②他勘定振替 ③売上計上
費目別の予実分析 そのままできる 立替分が混ざる 立替分が混ざる
売上高の正しさ 影響なし 影響なし 立替分だけ過大
消費税への影響 なし なし 課税売上が増える
処理の手間 やや多い 中程度 少ない

③の方法には、消費税の問題もあります。立替分も課税売上となり、支出は課税仕入れとして扱うことになるため、簡易課税を選んでいる会社では、実際の仕入れではなくみなし仕入率で控除するぶん納付額が増えます。原則課税でも、課税売上割合や簡易課税を使えるかどうかの判定の基になる売上高に影響します。

売上計上方式にすると消費税はどうなるか(簡易課税の例)売上計上方式立替分も課税売上売上の消費税12,000円控除(第5種50%)6,000円納付額が増える6,000円原則課税でも、課税売上割合や簡易課税の判定の基になる売上高に影響します

図17 立替分(税抜120,000円)が課税売上になり、簡易課税では納付額が増えます(架空例)

会計基準の面からも、③は慎重に考える必要があります。収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)と適用指針(企業会計基準適用指針第30号)では、顧客に提供する財やサービスを自社が支配しているかどうかで「本人」か「代理人」かを判定し、本人なら総額、代理人なら純額で収益を計上します。取引先の代わりに代金を払っただけの単なる立替えは、自社が提供するサービスとはいえないため、売上に含めるべきではありません。本人・代理人の判定の詳細は収益認識の本人と代理人で解説しています。

本人・代理人の判定と立替金処理の関係取引先に提供する財・サービスを自社が支配している?本人:総額で売上費用は売上原価など代理人・単なる立替え立替金(純額)で処理※売上計上方式は「本人」に当たらない立替えまで売上を膨らませてしまうはいいいえ

図18 自社が提供するサービスの一部なら総額で売上、単なる肩代わりなら立替金です

なお、宿泊や交通の手配そのものを自社のサービスとして提供し、その価格を自社で決めているような場合は、立替金ではなく自社の売上と原価として扱うことになります。契約の中身を見て判断しましょう。上場準備会社や上場会社では、売上が過大に見える③の方法は、会計監査の観点からも採りにくいと考えておくのが無難です。

  • 3つの精算書類すべてに「請求可/請求不可」の欄がある
  • 「請求可」は契約や見積で取引先負担と決まっているものに限っている
  • 締め日に取引先・案件別の集計表を作り、請求書と突き合わせている
  • 月末に立替金残高を経過日数つきの一覧にして報告している
  • 役員・従業員への立替金は月末残高ゼロを原則にしている
  • 立替金は同じ費目のマイナスで振り替え、売上に計上していない

よくある質問

Q1. 取引先に立替金を請求するとき、消費税は上乗せしますか。

単なる立替えの精算は対価ではないため、消費税を上乗せせず実費を請求します。支払先の領収書や適格請求書の写しを添付し、立替金精算書で内訳を示します。

Q2. 立替金を請求したのに、取引先から支払を断られました。

契約上の根拠を確認し、それでも回収できない場合は自社の費用に振り替えます。月をまたいだら、元の費目で処理し直すか、雑損失とするかを社内ルールで決めておきます。

Q3. 少額の立替金も一件ずつ管理する必要がありますか。

件数が多い場合でも、取引先・案件ごとに集計できれば十分です。案件番号を必ず入力させれば、集計はシステムで自動化できます。

Q4. 他勘定振替高で処理している会社は、すぐに変更すべきですか。

損益への影響はないため急ぐ必要はありませんが、予実分析で費目の数字が使いにくい場合は、次の期首から①の方法に変更するのがよいでしょう。

最初の一歩は、今月末の立替金残高を経過日数つきで一覧にすることです

一覧を作ると、請求漏れや負担者が決まっていないものが見えてきます。そこから精算書の「請求可」欄と、締め日の突合の手順を整えていきましょう。月次の確認項目全体は月次決算のチェックリストにまとめています。

まとめ

立替金は損益に影響しない取引先への債権ですが、請求漏れや滞留があると資金繰りを圧迫し、回収不能のリスクも生じます。3つの入口で「請求可」の印を付けて拾い、締め日に取引先別に請求し、月末には残高一覧で滞留を報告します。役員・従業員への立替えは避け、会計処理は同じ費目のマイナスで振り替える方法を基本にしましょう。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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