相続税はいくらから?基礎控除3,600万円の壁をやさしく解説

「相続税って、うちにもかかるのでしょうか」。ご家族を亡くされたあと、多くの方が最初に不安になるのがこの点です。テレビでは「相続税は大変」と聞くけれど、自分の家がその対象なのかどうかは誰も教えてくれません。

実は、相続税がかかるかどうかを決めるラインははっきり決まっています。それが「基礎控除額」です。この金額を超えなければ、原則として相続税の申告も納税も必要ありません。

この記事では、相続税の知識がまったくない方に向けて、基礎控除のしくみと「いくらから相続税がかかるのか」を、図と早見表でやさしく整理します。

この記事でわかること

  • 相続税がかかる基準ライン「基礎控除額」の計算式
  • 家族構成別の基礎控除額(早見表つき)
  • 基準と比べる「正味の遺産額」の出し方
  • 5分でできる簡易判定フローと、判定でつまずきやすい点
  • 東京都の課税割合と、台東区で注意したい理由

💰 相続税は「いくらから」かかる?答えは基礎控除を超えたときだけ

相続税は、亡くなった方(被相続人)の財産すべてに一律でかかる税金ではありません。相続や遺贈によって取得した財産などの合計額が「基礎控除額」を超える場合に、その超える部分に対して課税されます(国税庁タックスアンサー No.4102「相続税がかかる場合」)。基礎控除額は次の式で計算します(相続税法15条1項)。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

根拠:相続税法15条1項(e-Gov法令検索・相続税法)/国税庁タックスアンサー No.4152「相続税の計算」

法定相続人(民法で決められた相続人)が1人であれば、3,000万円+600万円×1人=3,600万円。これが基礎控除の最低ラインです。「相続税は3,600万円から」と言われるのは、この計算によるものです。

相続税がかかるかどうかの判定式 正味の遺産額 (財産の合計-債務・葬式費用 ほか) 基礎控除額 3,000万円+600万円×法定相続人の数 超えた部分(課税遺産総額)に相続税がかかります ※ 法定相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円が基礎控除額です(相法15条)

正味の遺産額が基礎控除額以下なら、原則として相続税はかかりません。

👤 家族構成別・基礎控除額の早見表

基礎控除額は法定相続人の人数だけで決まります。ご自身の家族構成にあてはめてみてください。

法定相続人の数 基礎控除額 家族構成の例
1人 3,600万円 配偶者のみ/子1人のみ
2人 4,200万円 配偶者+子1人/子2人
3人 4,800万円 配偶者+子2人/子3人
4人 5,400万円 配偶者+子3人/子4人
5人 6,000万円 配偶者+子4人/子5人

「法定相続人の数」の数え方に注意

基礎控除の計算に使う「法定相続人の数」には、民法上の相続人の数とは少し違う、相続税法だけのルールがあります(相続税法15条2項・3項)。

  • 相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます(相法15条2項)。放棄をしても基礎控除額は減りません。
  • 養子は無制限には数えられません。実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までです(相法15条2項各号、国税庁 No.4170)。
  • ただし、特別養子縁組による養子、配偶者の実子で被相続人の養子となった人、代襲相続人となった直系卑属などは実子とみなされ、この人数制限を受けません(相法15条3項)。

つまり、まず「法定相続人が誰で何人か」を戸籍で確定させないと、基礎控除額そのものが計算できません。相続人の範囲や戸籍の集め方は、第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」とあわせてご確認ください。

🧾 基準と比べる「正味の遺産額」はこう出す

基礎控除額と比べる相手は、預金残高の単純な合計ではありません。国税庁が「正味の遺産額」と呼ぶ金額で、プラスの財産から一定のものを差し引き、一定のものを足して計算します(No.4102・No.4152)。

正味の遺産額の組み立て方 + 本来の相続財産(土地・建物・預貯金・有価証券など) + みなし相続財産(生命保険金・死亡退職金など) - 非課税財産(お墓・仏壇、保険金などの非課税枠) - 債務(借入金・未払いの医療費など)と葬式費用 + 加算対象期間内に受けた生前贈与(暦年課税分) = 正味の遺産額(課税価格の合計額)

この「正味の遺産額」と基礎控除額を比べます(国税庁 No.4102・No.4152)。

意外と大きい非課税枠

差し引ける非課税財産のうち、金額が大きくなりやすいのが生命保険金と死亡退職金です。相続人が受け取った死亡保険金は、500万円 × 法定相続人の数までが非課税とされています(国税庁 No.4114)。死亡退職金にも同じ算式の非課税枠があります。お墓や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝している物も、原則として相続税がかかりません(国税庁 No.4108、相法12条)。

この非課税枠を使えるのは相続人が受け取った場合に限られ、相続を放棄した人が受け取った保険金には適用がありません(No.4114)。

また、亡くなる前に子や孫へ贈与していた財産は、一定期間分を足し戻します。国税庁は、相続開始日が令和8年(2026年)12月31日以前なら加算対象期間は相続開始前3年以内としています(国税庁 No.4161)。この期間は改正により段階的に7年へ延びていきます。

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⏰ 5分でできる簡易判定フロー

ここまでの内容を、判定の順番に並べ替えると次のようになります。

相続税がかかるかどうかの簡易判定フロー STEP1 法定相続人が誰で何人かを戸籍で確定する STEP2 基礎控除額=3,000万円+600万円×人数 を計算する STEP3 自宅・預貯金・保険金などから正味の遺産額を概算する 正味の遺産額 ≦ 基礎控除額 → 原則として申告は不要 正味の遺産額 > 基礎控除額 → 10か月以内に申告・納付 注意:配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で税額が0円になる場合でも、 その特例を受けるには相続税の申告書の提出が必要です。

STEP1から順に確認します。特例を使う場合の申告義務にご注意ください。

「税額0円だから申告しなくていい」は誤解になりやすい

フロー図の下段は、実務でもっとも多い誤解です。配偶者の税額軽減は、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度ですが、適用には税額軽減の明細を記載した申告書の提出が必要です(相法19条の2、国税庁 No.4158)。自宅の土地の評価額を減らす小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等は330平方メートルまで80%減額)も、適用を受ける旨を申告書に記載することなどが必要とされています(措法69条の4、国税庁 No.4124)。

つまり、「特例を使う前の金額」が基礎控除を超えているなら、結果として税額が0円でも申告が必要です。2つの特例の要件は第15回・第16回で取り上げます。

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📍 東京都は5人に1人。「うちは関係ない」が危ない理由

相続税は一部のお金持ちだけの話、というイメージがあります。しかし国税庁が公表した令和6年分の統計を見ると、地域によって様子がかなり違います。

区分 課税割合(令和6年分) 亡くなった方のうち
全国 10.4% およそ10人に1人
東京国税局管内
(東京・千葉・神奈川・山梨)
16.2% およそ6人に1人
東京都 20.0% およそ5人に1人

出典:国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)および東京国税局の同資料。課税割合は「相続税の申告書の提出に係る被相続人数 ÷ 被相続人数(死亡者数)」で計算されています。

全国では10.4%ですが、東京都では20.0%。亡くなった方のおよそ5人に1人のご家庭で相続税の申告書が提出されている計算です。理由は土地の評価額の高さにあり、同資料でも東京都の相続財産の構成比は土地が35.6%と最も大きく、現金・預貯金等の30.7%を上回っています。

台東区は上野・浅草・入谷・蔵前など、都内でも地価水準の高いエリアが続きます。「預金はそれほど多くないから大丈夫」と思っていても、自宅の土地の相続税評価額を加えると基礎控除を超えてしまうケースは珍しくありません。土地の評価は路線価をもとに計算するため、ご自身の感覚とは一致しないことがあります。路線価の調べ方は第17回、台東区の路線価と自宅の相続税は第29回で取り上げます。

📅 超えていたら10か月以内に申告・納付

正味の遺産額が基礎控除額を超えるときは、相続税の申告と納税が必要です。期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日から10か月以内で、相続税法27条1項に定められています。納付も同じ期限までに行います(相法33条)。

📍 どこで 被相続人(亡くなった方)の住所地を所轄する税務署。相続人の住所地ではありません(相法27条1項「納税地の所轄税務署長」)。台東区内は下谷地区が東京上野税務署(台東区池之端1-2-22 上野合同庁舎)、浅草地区が浅草税務署(台東区蔵前2-8-12)と分かれています。ご住所がどちらの管轄かは国税庁のページでご確認ください。

⏰ いつまでに 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相法27条1項)。申告書の提出と納付の両方がこの期限です(相法33条)。

🧾 何を持って 相続税の申告書、被相続人の出生から死亡までの戸籍関係書類、遺産分割協議書または遺言書の写し、不動産・預貯金・保険金の資料、債務や葬式費用の領収書など。くわしくは第20回で整理します。

なお、申告が必要かどうかを自分で試算したい場合は、国税庁の相続税の申告要否判定コーナーで、財産の金額などを入力しておおよその要否を判定できます。

🗒️ よくある質問

Q. 相続放棄をした人がいると、基礎控除額は減りますか。

減りません。基礎控除の計算に使う「法定相続人の数」は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます(相法15条2項、No.4152)。ただし、生命保険金の非課税枠そのものを使えるのは相続人が受け取った場合に限られ、放棄した人が受け取った保険金には適用がありません(No.4114)。

Q. 基礎控除以下なら、税務署に何も出さなくてよいのですか。

正味の遺産額が基礎控除額以下で、かつ特例の適用を受ける必要もない場合は、原則として相続税の申告は不要です(No.4102)。ただし、配偶者の税額軽減(相法19条の2)や小規模宅地等の特例(措法69条の4)を使って税額が0円になるケースは、特例の適用を受けるために申告書の提出が必要です。判定の前提となる不動産の評価額に不安がある場合は、専門家にご確認ください。

Q. 孫を養子にすると基礎控除は増えますか。

法定相続人の数に含められる養子の数には制限があり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです(相法15条2項、No.4170)。養子を増やしても基礎控除が無制限に増えることはありません。

📄 まとめ

  • 相続税は、正味の遺産額が基礎控除額を超えた部分にだけかかります(No.4102)
  • 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数(相法15条1項)。相続人1人なら3,600万円
  • 法定相続人の数は、相続放棄がなかったものとして数え、養子は実子ありで1人・実子なしで2人まで(相法15条2項)
  • 比べる相手は預金残高ではなく「正味の遺産額」(保険金の非課税枠500万円×法定相続人の数などを反映)
  • 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で税額0円になる場合は、申告書の提出が必要(No.4158・No.4124)
  • 超えているときは、知った日の翌日から10か月以内に申告・納付(相法27条・33条)
  • 東京都の課税割合は20.0%(令和6年分)。台東区は土地の評価額で基礎控除を超えやすい地域です

次回は、基礎控除を超えたときに税額をどう計算するのかを、5つのステップと具体例で解説します(第12回「相続税の計算方法:5つのステップと速算表・具体例」)。連載の全体像は「相続税 完全ガイド」から、手続きの流れは第1回、期限が近い手続きは第8回(相続放棄の期限は3か月)第9回(準確定申告の期限4か月)もあわせてご覧ください。

⚖️ 参考

👤 監修者
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷1丁目)
上野・浅草・入谷を中心に、相続税申告と生前対策のご相談に対応しています。

優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。

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