「本社オフィスの賃貸借契約は2年更新。契約書には5年とも10年とも書いていない。では、使用権資産は何年で計上すればよいのか」——新リース会計基準の導入準備を進めるIPO準備会社・上場企業の経理部門から、最も多く寄せられる論点の一つがこれです。
オフィスの賃貸借は、ほぼすべての会社が保有し、金額も大きく、しかも契約書だけを読んでも期間が決まりません。本稿では、公認会計士・税理士として監査対応と決算実務の両面から、普通借家契約のオフィスについて借手のリース期間をどう決めるかを、判定手順・自作の数値例・チェックリストで整理します。
結論:オフィスのリース期間は「契約期間」ではなく3ステップで決める
先に結論を述べます。借手のリース期間は、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間の両方を加えて決定します(基準31項)。つまり、契約書の「契約期間」欄に書かれた年数をそのまま使う場面は、実はそれほど多くありません。
オフィス賃貸借では、この定めを次の3つのステップに分解して当てはめると整理しやすくなります。
借手のリース期間の枠組み(基準31項)をオフィス賃貸借の手順に置き換えたもの
STEP 1 解約不能期間はどこから数えるか
最初のつまずきどころが、この解約不能期間です。契約書に「契約期間 3年」と書かれていても、それが直ちに解約不能期間になるとは限りません。借手のリース期間は、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間を出発点とします(基準31項)。
オフィス賃貸借でよく見るのは、「契約期間は2年。ただし借主は6か月前に書面で通知することにより解約できる」という条項です。このとき借手が拘束されるのは、通知から解約が効力を生じるまでの期間にとどまります。適用指針の設例でも、契約期間が1年であっても借手が3か月前に解約の旨を通知すれば解約できる普通借家契約について、解約不能期間を3か月と判断する思考プロセスが示されています(指針[設例8-1])。契約期間の欄だけを見て台帳を作ると、この時点で誤りが生じます。
解約権が貸手だけにある場合の扱いも押さえておく必要があります。借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手はリース期間を決定するにあたってこれを考慮します(基準31項)。一方、貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は借手の解約不能期間に含まれます(基準31項)。貸手が解約できるという事実は、借手のリース期間を短くする理由にはなりません。
| 契約条項のパターン | 解約不能期間の考え方 |
|---|---|
| 契約期間5年・中途解約条項なし | 借手は5年間解約できないため、解約不能期間は5年になると考えられます |
| 契約期間2年・借主は6か月前通知で解約可 | 借手が拘束されるのは通知後6か月であり、解約不能期間は6か月にとどまる可能性があります |
| 契約期間3年・貸主のみ中途解約可 | 貸手のみが解約権を有する場合、当該期間は借手の解約不能期間に含まれます(基準31項) |
| 契約期間2年・借主は違約金を支払えば解約可 | 解約は可能でも、違約金は判断に影響する契約条件として考慮されます(指針17項(1)) |
4番目のパターンでは、違約金があるから解約不能、と一足飛びに結論づけないことが大切です。まず解約権の有無で解約不能期間を切り分け、違約金の水準はSTEP 3で織り込む、という二段構えで考えます。
STEP 2 普通借家では「契約書にない延長オプション」に注意
オフィス賃貸借が他のリースと決定的に違うのが、この点です。日本の普通借家契約では、賃貸人は正当の事由があると認められる場合でなければ、更新をしない旨の通知をすることができません(借地借家法28条)。適用指針の設例でも、契約期間は1年であるものの、貸手が更新を拒絶する正当な事由があると認められるとは考えられない状況において、借手が借地借家法を根拠として契約期間である1年を超える期間についてリース期間を決定するための延長オプションを有すると判断する例が示されています(指針[設例8-1])。
言い換えれば、契約書に更新を認める条項がなくても、法律上の更新の仕組みによって延長オプションが存在すると評価され得るということです。契約書の文言だけを機械的に拾う契約棚卸しでは、この延長オプションを取りこぼします。
普通借家と定期借家では出発点が変わる
一方、定期建物賃貸借(いわゆる定期借家)は、契約の更新がないこととする旨を定めることができる類型です(借地借家法38条1項)。更新がない前提の契約であれば、法律上の更新を根拠とする延長オプションは想定しにくくなります。契約類型の識別を棚卸しの最初の設問に置いておくと、後戻りが減ります。
普通借家と定期借家で、延長オプションの検討の出発点がどう変わるかを整理したもの
なお、適用指針の設例は、借手のリース期間の判断に資するために示すものであり、借地借家法等の法的解釈を示すものではないとされています(指針[設例8])。会計上の判断と法的な権利関係の評価は別物である、という前提は共有しておく必要があります。
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STEP 3 オフィスで効きやすい経済的インセンティブ
延長オプションを行使すること、または解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたっては、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します(指針17項)。適用指針は、その例として、対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)、大幅な賃借設備の改良の有無、リースの解約に関連して生じるコスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性、行使条件の5つを挙げています(指針17項(1)〜(5))。オフィス賃貸借に引き付けると、次のような着眼点になります。
| 要因(指針17項) | オフィス賃貸借での着眼点 |
|---|---|
| (1) 対象期間の契約条件 | 更新後の賃料が市場レートか固定か、中途解約違約金の有無と水準、フリーレントの付与条件 |
| (2) 大幅な賃借設備の改良 | 内部造作・会議室・サーバールーム・什器造作の投資額、移設できる仕様かどうか |
| (3) 解約に関連するコスト | 原状回復費用、移転費用、業務停止に伴う機会損失、通信・入退室設備の再構築費用 |
| (4) 原資産の重要性 | 本社機能か一時的なサテライトか、立地の代替可能性、採用・ブランド上の位置づけ |
| (5) 行使条件 | 更新の可否に付された条件、更新時の賃料改定ルール、更新拒絶の通知期限 |
「大幅な賃借設備の改良」をどう見るか
オフィスで最も判断が割れるのが(2)です。「大幅な賃借設備の改良」に該当するか否かは、例えば、賃借設備の改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実及び状況に基づく総合的な判断が必要になると考えられるとされています(指針BC34項(2)①)。金額だけで線を引かず、移設できるか、外すのにいくらかかるか、という三つの角度から見ると実務では扱いやすくなります。
併せて押さえたいのが、内部造作の耐用年数との関係です。借手のリース期間と附属設備の耐用年数は、相互に影響を及ぼす可能性がありますが、それぞれの決定における判断及びその閾値は異なるため、必ずしも整合しない場合があると考えられるとされています(指針BC34項(2)②)。一方で、当該附属設備について、リース期間中の除去及びリース期間後の使用を見込んでいない場合には、その耐用年数がリース期間と整合する場合もあると考えられるとされています(指針BC34項(2)②)。「造作の耐用年数=リース期間」と自動的に揃える運用は、この記述と整合しません。
「これまで10年入居してきた」は根拠になるか
過去の慣行及び経済的理由はオプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性がありますが、一概に過去の慣行に重きを置いて判断することを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとされています(指針BC33項)。適用指針の設例にも、過去に他の立地でオフィスを10年間賃借した経験があっても、代替立地を探すことが可能で将来の見積りに焦点を当てると考慮すべき要因が特にないため、解約不能期間である5年を超えて延長する可能性は合理的に確実より低いと判断する例が示されています(指針[設例8-5])。なお、解約不能期間が短いほど延長オプションを行使する可能性が高くなる場合があるとされている点にも注意が必要です(指針BC31項)。
自作の判定例:本社オフィス2ケースの比較
ここまでの枠組みを、当事務所で設計した2つのケースに当てはめてみます。いずれも架空の設定であり、実際の判断は個々の事実及び状況によります。
共通の前提 年額賃料24,000千円(年1回期末払い)。更新後の賃料は市場レート。残価保証・購入オプションなし。割引率は年2%。
ケースA(標準仕様の拠点オフィス) 普通借家契約、契約期間5年・中途解約条項なし。内部造作は貸主提供の標準仕様のみで、借手による重要な造作投資はない。同条件の代替物件を探すことは可能。営業拠点の一つで、事業上の位置づけは特に高くない。
ケースB(造作投資を行った本社オフィス) 普通借家契約、契約期間3年・中途解約条項なし。入居時に内部造作・会議室・サーバールームへ120,000千円を投資し、いずれも移設できない仕様。中途退去時の原状回復費用は15,000千円と見積られる。ワークプレイス方針では概ね8年ごとに全面的なレイアウト刷新を行い、その際に造作の相当部分の除却と追加投資が生じる。本社機能であり、移転は当面想定していない。
要因別の当てはめ
| 要因(指針17項) | ケースA | ケースB |
|---|---|---|
| (1) 契約条件 | 市場レート更新、違約金なし。考慮すべきものは特にない | 同左 |
| (2) 設備の改良 | 重要な造作投資がない | 120,000千円・移設不可。金額と移設の可否から大幅と評価し得る |
| (3) 解約コスト | 特段の原状回復負担は見込まれない | 原状回復15,000千円に加え造作の除却が生じる |
| (4) 原資産の重要性 | 代替立地の確保が可能で、必ずしも高くない | 本社機能であり、重要性は高い |
| (5) 行使条件 | 特段の条件なし | 特段の条件なし |
| 判断の帰結 | 解約不能期間5年を超えて延長する経済的インセンティブは見出しにくい | 造作の除却を避ける観点から、刷新時期である8年経過時点までの延長は合理的に確実といえる水準にあると考えられる |
ケースBで8年を超えて延長するかどうかは、全面的なレイアウト刷新の追加投資を負担してでも同じ物件に残るかという判断であり、その時点の事業環境や賃料水準に左右されます。したがって8年超の延長の可能性は、8年経過時点までの延長の可能性よりも相対的に低く、合理的に確実とまではいえないと整理しています。結果として、ケースAは5年、ケースBは8年をリース期間としました。
自作の数値例。割引率年2%、年1回期末払いを前提に算定したもの
ケースBを契約期間の3年で測れば69,213千円、8年で測れば175,812千円と、約2.5倍の開きが生じます。リース期間の判断は、注記の数字を少し動かす話ではなく、貸借対照表の資産・負債そのものを決めています。監査法人との協議でも、金額の大きい本社オフィスについては、まずここの根拠資料を求められます。
実務上の留意点と、自社だけでは負担が大きい部分
リース期間の判断が波及する3つの論点
使用権資産の当初測定 使用権資産は、リース負債に、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により計上します(基準33項、指針18項)。フリーレント、内装工事負担金、原状回復義務に係る除去費用が、ここで一気に関わってきます。
短期リースの判定 短期リースとは、リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースをいいます(指針4項(2))。判定の対象は契約期間ではなく借手のリース期間です(指針4項(2))。1年契約のオフィスでも、STEP 2で延長オプションが識別されその行使が合理的に確実と判断されれば、使用権資産を計上しない簡便的な取扱い(指針20項)は使えません。
期中の見直し 契約条件の変更が生じていない場合でも、借手の統制下にあり、かつ、オプションに関する借手の決定に影響を与える重要な事象または重要な状況が生じたときには、判断を見直してリース期間を変更し、リース負債の計上額の見直しを行います(基準41項)。本社の大規模リニューアルや拠点集約の意思決定は、この契機になり得ます。
自社だけで対応すると負担が大きいところ
実務の作業量という観点で、負担が集中するのは次の3か所です。
①契約書のローラー 賃貸借契約書・覚書・更新合意書・原状回復の特約を一件ずつ読み、契約類型、中途解約条項、通知期間、更新条項、違約金、フリーレントを抽出します。拠点数が数十を超えると、この作業だけで数か月かかります。
②判断根拠の文書化 要因ごとの評価と検討過程を残さなければ、監査法人に「なぜ8年なのか」を説明できません。適用指針の設例は思考プロセスを示すことに重点を置き、事実及び状況によって判断が異なり得ることを示すものとされています(指針BC34項(1))。自社の事実関係に即した説明が必要です。
③非経理部門との連携 造作の移設可否、原状回復の見積り、拠点戦略は経理部門の外にある情報です。総務・不動産・事業部門から必要な情報を引き出す設計が、プロジェクトの成否を分けます。
オフィス賃貸借の判定チェックリスト
- 契約類型を確認したか(普通借家か定期建物賃貸借か)
- 契約期間ではなく、借手が解約できない期間を解約不能期間として把握したか
- 中途解約条項の通知期間と、違約金の有無・水準を抽出したか
- 貸手のみが解約権を有する期間を、借手の解約不能期間に含めたか(基準31項)
- 契約書に更新条項がない場合でも、延長オプションの有無を検討したか
- 内部造作の投資額・移設の可否・除去見込額を把握したか(指針BC34項(2)①)
- 原状回復費用と移転費用を、解約に関連するコストとして見積ったか(指針17項(3))
- 過去の入居年数に依拠せず、将来の見積りに焦点を当てた検討を行ったか(指針BC33項)
- フリーレント・内装負担金・原状回復義務を当初測定に織り込んだか(基準33項)
- 短期リースの判定を、契約期間ではなく借手のリース期間で行ったか(指針4項(2))
- 判断の前提を毎期見直す運用ルールを定めたか(基準41項)
拠点数が多い会社ほど、契約棚卸しと判断根拠の文書化に時間がかかります。公認会計士・税理士が、契約の読み込みから監査法人への説明資料の設計まで支援します。
よくある質問
契約期間が2年でも、それが直ちにリース期間になるわけではありません。借手のリース期間は、解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの対象期間等を加えて決定します(基準31項)。普通借家契約では、契約書に更新条項がなくても法律上の更新を根拠として延長オプションを有すると判断される場合があります(指針[設例8-1])。2年を超える期間の検討が必要になると考えられます。
必ずしも一致しません。借手のリース期間と附属設備の耐用年数は相互に影響を及ぼす可能性がありますが、それぞれの決定における判断及び閾値は異なるため、必ずしも整合しない場合があると考えられるとされています(指針BC34項(2)②)。ただし、リース期間中の除去及びリース期間後の使用を見込んでいない場合には、整合する場合もあると考えられるとされています(指針BC34項(2)②)。
有用な情報にはなりますが、それだけでは足りません。過去の慣行及び経済的理由はオプションの行使可能性を評価する上で有用な情報を提供する可能性がありますが、一概に過去の慣行に重きを置くことを要求するものではなく、将来の見積りに焦点を当てる必要があるとされています(指針BC33項)。判断は諸要因を総合的に勘案して行います(指針BC33項)。
定期建物賃貸借は契約の更新がないこととする旨を定めることができる類型であり(借地借家法38条1項)、法律上の更新を根拠とする延長オプションは想定しにくくなります。もっとも、契約上、借手に再契約や延長の権利が付与されている場合や、借手に中途解約権がある場合には、その内容に応じた検討が必要になると考えられます。
まとめ
オフィス賃貸借のリース期間は、契約書の契約期間欄を転記して終わる作業ではありません。借手が解約できない期間を出発点に(基準31項)、法律上の更新まで含めて延長オプションを識別し(指針[設例8-1])、5つの経済的インセンティブ要因を総合的に勘案して決定します(指針17項)。造作投資が大きい本社オフィスでは、この判断ひとつで使用権資産とリース負債の計上額が倍以上変わり得ます。だからこそ、判断の根拠を残す作業が重要になります。設例に自社を当てはめて答えを写すのではなく、自社の事実関係から筋の通った説明を組み立てる必要があります。
次回は、【事例研究②】店舗・商業施設を取り上げ、オフィスとは異なる判断のポイントを整理します。連載全体の流れは新リース会計基準 連載目次から、前回の総論は第10回(「行使することが合理的に確実」とは──経済的インセンティブの判断枠組み)からご確認いただけます。
参考
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」 第31項、第33項、第41項
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」 第4項(2)、第17項、第18項、第20項、第BC31項、第BC33項、第BC34項(1)、第BC34項(2)①②、[設例8]、[設例8-1]、[設例8-5]
借地借家法 第28条、第38条第1項
本記事は2026年8月時点の公表資料に基づく一般的な解説です。最終的な会計処理及び経営判断にあたっては、個別の事実関係を踏まえ、公認会計士・税理士等の専門家にご相談ください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。