小売・外食・サービス業の経理担当者の方から、「オフィスは何とか整理できたが、店舗のリース期間がどうしても決まらない」というご相談をいただきます。店舗の賃貸借契約は契約期間1年・毎年更新という形式が多く、契約書だけを見ても答えが出ないためです。
本記事では、新リース会計基準(企業会計基準第34号)と適用指針(企業会計基準適用指針第33号)に基づき、店舗・商業施設の借手のリース期間をどう決めるかを、公認会計士・税理士が条項番号付きで整理します。同じ契約書でも「戦略的に重要な店舗かどうか」で結論が変わる理由と、売上歩合賃料の扱いが中心です。
結論:店舗のリース期間は「契約期間」でも「内装の耐用年数」でもない
先に結論を3点にまとめます。
① 借手のリース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えて決定します(基準31項)。契約期間1年・毎年更新の店舗であっても、リース期間が1年になるとは限りません。
② 店舗では、経済的インセンティブを生じさせる要因のうち「大幅な賃借設備の改良の有無」(指針17項(2))と「企業の事業内容に照らした原資産の重要性」(指針17項(4))が結論を左右します。適用指針は、契約条件がほぼ同一でありながら、戦略的に重要でない店舗を5年(指針[設例8-2])、戦略的に重要な店舗を10年(指針[設例8-3])とする2つの思考プロセスを示しています。
③ 売上高に連動する歩合賃料は、借手のリース料を構成する「指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料」(基準35項(2))に当たらないため、リース負債の計上額に含めず、発生時に損益に計上します(指針51項)。
なお、適用指針の設例は借手のリース期間の決定に至る思考プロセスや判断のための手掛かりの例示であり、前提条件や企業のビジネスモデルが異なる場合には結論も異なり得るとされています(指針[設例8])。「戦略店舗だから10年」という機械的なあてはめはできない、という点は最初に押さえておきたいところです。
出発点:解約不能期間と延長オプションの確認
店舗の賃貸借契約でよく見るのは、契約期間1年・期間中の中途解約不可・1年経過後は更新時の市場レートの賃料で毎年更新可、という形です。この場合、契約期間の途中で解約できないため解約不能期間は1年と判断され、1年経過後は毎年更新できることから、1年を超える期間について借手のリース期間を決定するために考慮すべき延長オプションを有すると判断されます(指針[設例8-2])。そのうえで解約不能期間を超えて、行使が合理的に確実である延長オプションの対象期間等を考慮して借手のリース期間を決定します(基準31項)。ここが、契約書の「1年」をそのまま使えない理由です。
解約不能期間を出発点に、延長オプションの対象期間をどこまで加えるかを判断します(基準31項)。
結論を分けるのは「賃借設備の改良」と「原資産の重要性」
店舗で特に効く2つの要因
延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたっては、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します(指針17項)。適用指針は、契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、解約に関連して生じるコスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性、行使条件の5つを例示しています(指針17項(1)〜(5))。店舗では、更新時の市場レートで更新でき対象期間に係るその他の契約条件が特に設定されていないケースが多く、契約条件と行使条件については特に考慮すべきものはないと判断される例が示されており(指針[設例8-2])、実質的には残る2つの要因が結論を決めることになります。
| 指針17項の要因 | 店舗での着眼点 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| (1) 対象期間に係る契約条件 | 更新時の賃料が市場レートか、違約金・残価保証・購入オプションの定めがあるか | 賃貸借契約書、覚書、更新条項 |
| (2) 大幅な賃借設備の改良の有無 | 内装造作・厨房設備等の投資額、移設できるか、除去にいくらかかるか | 固定資産台帳、工事請負契約、原状回復の見積り |
| (3) 解約に関連して生じるコスト | 原状回復費用、移転費用、造作の除却損 | 資産除去債務の見積資料 |
| (4) 事業内容に照らした原資産の重要性 | 戦略的に重要な店舗か、損益の状況のみで撤退を判断するか | 出店戦略資料、取締役会・経営会議の議事録 |
| (5) 行使条件 | 延長に条件が付されているか、条件が借手に有利か | 賃貸借契約書の更新・特約条項 |
ここで注意したいのが、(2)の「大幅な賃借設備の改良」に該当するかどうかの判断です。適用指針の結論の背景では、賃借設備の改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実及び状況に基づく総合的な判断が必要になると考えられる、とされています(指針BC34項(2)①)。金額の大小だけで決まるものではない、という点が実務上の勘所です。
戦略店舗か否かで結論が変わる仕組み
適用指針は、契約条件がほぼ同一の2つの店舗について、異なる結論に至る思考プロセスを示しています。整理すると次のようになります。
要因(4)の評価が変わることで、延長オプションを行使する可能性の判断が変わります。
戦略的に重要ではない店舗では、企業の事業内容に照らした原資産の重要性は必ずしも高くないと判断され、損益の状況によってはリニューアルを行ってまで延長オプションを行使しない可能性があるとして、リニューアル前までの5年が借手のリース期間とされています(指針[設例8-2])。これに対し戦略的に重要な店舗では、損益の状況のみで撤退の判断を行わない位置付けであることから、リニューアルによる追加コストが発生したとしても延長オプションを行使する可能性は合理的に確実よりも高いと判断され、物理的使用可能期間である10年までが借手のリース期間とされています(指針[設例8-3])。ただし10年目以後も営業を継続する場合には全面的な建物附属設備の再設置が必要となるため、20年までの延長は合理的に確実よりも低いと判断されています(指針[設例8-3])。
シナリオを比較するという思考プロセス
いずれの設例も、解約不能期間を出発点として、その期間までは延長する可能性が合理的に確実といえるまで高いが、その期間を超えると合理的に確実よりは延長する可能性が低下すると判断される期間を借手のリース期間とする、という考え方をとり、現実的に想定し得る複数のシナリオを設定して順に検討しています(指針[設例8-2][設例8-3])。監査対応の場面では、この「シナリオを立てて比較した記録」の有無が問われます。年数そのものより、なぜその時点で線を引いたのかを説明できるかどうかが分かれ目になります。
内装造作の耐用年数と一致させてよいか
借手のリース期間と附属設備の耐用年数は相互に影響を及ぼす可能性はあるものの、それぞれの決定における判断及びその閾値は異なるため、必ずしも整合しない場合があるとされています(指針BC34項(2)②)。一方、当該附属設備についてリース期間中の除去及びリース期間後の使用を見込んでいない場合には、耐用年数がリース期間と整合する場合もあると考えられるとされています(指針BC34項(2)②)。「造作が10年だからリース期間も10年」と短絡せず、両者を別々に検討した記録を残しておくことが望まれます。
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売上歩合賃料はリース負債に含まれない
商業施設への出店では、固定賃料に加えて売上高の一定割合を支払う契約が一般的です。借手のリース料は、借手の固定リース料、指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料、残価保証に係る借手による支払見込額、行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額、リースの解約に対する違約金の借手による支払額の5つで構成されます(基準35項(1)〜(5))。売上高に連動する歩合賃料はこのいずれにも該当せず、リース負債の計上額に含めなかった借手の変動リース料は発生時に損益に計上します(指針51項)。
一方、消費者物価指数などの指数又はレートに応じて決まる変動リース料はリース料に含まれ(基準35項(2))、リース開始日には、借手のリース期間にわたりリース開始日現在の指数又はレートに基づきリース料を算定します(指針25項)。ここには、市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料が含まれるとされており(指針24項)、商業施設の賃料改定条項の読み方に直結します。
歩合賃料の割合が高い契約ほど、オンバランスされる金額は小さくなります。
なお、合理的な根拠をもって指数又はレートの将来の変動を見積ることができる場合には、見積られた指数又はレートに基づきリース料及びリース負債を算定することを、リースごとにリース開始日に選択できるとされています(指針26項)。これはIFRS第16号には置かれていない取扱いです(指針BC49項)。この選択を採用する場合は「合理的な根拠」の説明を求められる点に留意が必要です。
数値例:同じ契約書でリース期間が約1.8倍変わる
設例の考え方を、当事務所で設計した数値例で確認します。前提は次のとおりです。
年額賃料18,000千円(後払い、固定)、契約期間1年・中途解約不可・毎年更新可、割引率3%。店舗Aは郊外ロードサイドの標準店で、内装造作への投資40,000千円、概ね6年ごとにリニューアルを行い、損益が想定を下回れば撤退があり得る。店舗Bは都心一等地の旗艦店で、内装造作への投資150,000千円(物理的使用可能期間12年)、損益の状況のみでは撤退を判断しない位置付け。
| 比較項目 | 店舗A(標準店) | 店舗B(旗艦店) |
|---|---|---|
| 解約不能期間 | 1年 | 1年 |
| 要因(2) 賃借設備の改良 | 40,000千円。移設不可だが、6年ごとに一部を入替え | 150,000千円。移設不可で、全面再設置には多額の追加投資が必要 |
| 要因(4) 原資産の重要性 | 損益次第で撤退があり得るため、高いとはいえない | 損益の状況のみでは撤退を判断せず、重要性は高い |
| 判断した借手のリース期間 | 6年 | 12年 |
| リース負債(現在価値) | 97,509千円 | 179,172千円 |
| 解約不能期間だけで測った場合 | 17,476千円(1年分)にとどまり、実態を表しません | |
店舗Aと店舗Bの差は81,663千円、約1.8倍です。契約書の条件は同じでも、出店戦略と造作投資の内容が違えば計上額はこれだけ変わります。多店舗展開している企業では、この判断を全店舗について行い、根拠を残す必要があります。
自社だけで対応すると負担が大きい箇所
店舗を多数展開する企業では、実務負荷は次の3点に集中します。
1. 契約の棚卸しと条項の読み取り 覚書・更新合意書・特約が別紙になっていることが多く、解約不能期間の起点や賃料改定条項を1件ずつ確認する必要があります。歩合賃料の有無と料率も契約ごとに異なります。
2. 「戦略的に重要な店舗か」の社内定義づくり この要因は会計部門だけでは判断できません(指針17項(4))。出店・撤退の意思決定を担う部門と共通の基準を作り、店舗を区分し、その根拠を文書化する作業が必要になります。
3. 判断の文書化と更新 リースの契約条件の変更が生じていない場合でも、借手の統制下にあり、かつ延長オプションを行使すること等が合理的に確実であるかどうかの借手の決定に影響を与える重要な事象又は重要な状況が生じたときには、判断を見直すことが求められます(基準41項)。一度作って終わりにはできません。
店舗のリース期間 判断チェックリスト
- 契約期間ではなく、借手が解約できない期間として解約不能期間を特定したか(基準31項)
- 更新条項から、1年を超える期間についての延長オプションの有無を確認したか(指針[設例8-2])
- 内装造作・厨房設備等の投資額、移設の可否、除去に要する金額を把握したか(指針BC34項(2)①)
- リニューアルの周期と、その時点で発生する除却・追加コストを見積もったか(指針17項(2)(3))
- 当該店舗が戦略的に重要な店舗に当たるかを、社内の意思決定資料で裏付けたか(指針17項(4))
- 複数のシナリオを設定し、どこから合理的に確実に届かなくなるかを比較したか(指針[設例8-2][設例8-3])
- 造作の耐用年数とリース期間を、別々の判断として検討し記録したか(指針BC34項(2)②)
- 売上歩合賃料と指数・レート連動賃料を区分し、後者のみをリース料に含めたか(基準35項(2)、指針51項)
- 借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まない場合に、短期リースの取扱いを検討したか(指針4項(2)・20項)
- 判断を見直すべき重要な事象又は重要な状況が生じていないかを、期中もモニタリングする体制があるか(基準41項)
よくある質問
設例は借手のリース期間の決定に至る思考プロセスの例示であり、前提条件や企業のビジネスモデルが異なる場合には結論も異なり得るとされています(指針[設例8])。一律の年数を置く運用は、要因の総合的な勘案を行っていないことになりかねません。店舗の属性ごとに区分し、区分ごとの判断根拠を示す進め方が現実的と考えられます。
両者は相互に影響を及ぼす可能性はありますが、判断及びその閾値が異なるため、必ずしも整合しない場合があるとされています(指針BC34項(2)②)。ただし、リース期間中の除去及びリース期間後の使用を見込んでいない場合には、整合する場合もあると考えられるとされています(指針BC34項(2)②)。
借手のリース料の構成に売上連動の変動リース料は含まれていません(基準35項(1)〜(5))。リース負債の計上額に含めなかった借手の変動リース料は、発生時に損益に計上します(指針51項)。見積もって負債に含める処理は想定されていません。
短期リースはリース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースをいいます(指針4項(2))。判定の対象は契約期間ではなく借手のリース期間です。延長オプションを行使することが合理的に確実と判断されて期間が12か月を超えるのであれば短期リースには当たらず(指針4項(2))、使用権資産及びリース負債を計上しない簡便的な取扱いは適用できません(指針20項)。
まとめ
店舗・商業施設のリース期間は、契約書の期間でも造作の耐用年数でもなく、解約不能期間を出発点に経済的インセンティブを生じさせる要因を総合勘案して決まります(基準31項、指針17項)。分岐点になるのは大幅な賃借設備の改良の有無(指針17項(2))と、企業の事業内容に照らした原資産の重要性(指針17項(4))です。売上歩合賃料はリース負債に含めず発生時に損益に計上します(指針51項)。多店舗展開の企業ほど、会計判断そのものより、その前提となる社内情報を集めて整える工程に時間がかかるのが実情です。
店舗の契約棚卸しからリース期間の判断根拠の文書化まで、監査対応を見据えた形で整えるお手伝いをしています。導入対応でお困りの場合はお問い合わせからご相談ください。
本連載の全体像は新リース会計基準の連載目次から、前回の内容は新リース会計基準でオフィス賃貸借のリース期間は?普通借家を解説からご確認ください。次回は「【事例研究③】工場・物流倉庫」を予定しています。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」31項、35項(1)〜(5)、41項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(2)、17項(1)〜(5)、20項、24項、25項、26項、51項、BC34項(2)①②、BC49項、[設例8]、[設例8-2]、[設例8-3]
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理の判断を保証するものではありません。最終的な会計処理及び投資判断にあたっては、監査人その他の専門家にご相談ください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。