相続で株主が増えた。遠方に住む株主がいる。高齢の株主が出席できない。非上場の会社で定時株主総会を開こうとすると、こうした事情で委任状を使う場面が出てきます。
委任状は自由に作れるようで、会社法にいくつか決まりがあります。授与は総会ごとであること、会社が3か月間備え置く義務があること、そして他の株主から閲覧を請求されうることです。この記事では、310条から312条までを順に見ていきます。
- 代理権を証明する書面の提出が必要であること(会社法310条1項)
- 包括的な委任ができない理由(同条2項の総会ごと)
- 代理人を株主に限る定款の定めの扱い
- 委任状と議決権行使書面を3か月備え置く義務(310条6項、311条3項)
この記事の見出し
代理人による行使は認められている
会社法310条1項は、株主は代理人によってその議決権を行使することができると定めています。そして、この場合には株主または代理人が代理権を証明する書面を会社に提出しなければならないとしています。この書面が委任状です。
提出は会社に対して行います。総会の受付で回収する運用が一般的ですが、事前に郵送で受け付ける会社もあります。どちらでもかまいませんが、提出がなければ代理行使を認めることはできません。
同条3項により、書面の提出に代えて、政令で定めるところにより会社の承諾を得て、記載すべき事項を電磁的方法で提供することもできます。この場合、書面を提出したものとみなされます。同条4項により、株主が299条3項の承諾をした者、つまり招集通知を電磁的方法で受けることを承諾している株主である場合には、会社は正当な理由がなければ電磁的方法による提供を拒めません。
授与は株主総会ごとに
会社法310条2項は、前項の代理権の授与は株主総会ごとにしなければならないと定めています。短い条文ですが、実務では効きます。
今後の株主総会すべてについて委任します、という包括的な委任状は使えません。総会が開かれるたびに、その総会についての委任状を取り直すことになります。相続で株式が親族に分散した会社で、代表者が他の相続人からまとめて委任を受けている場合、毎年の総会ごとに委任状を集める必要があるということです。
この規定があるのは、株主が会社の状況を見て、その都度誰に委ねるかを判断できるようにするためです。会社側から見れば、毎年の総会準備に委任状の回収という作業が必ず入ることを意味します。招集通知に委任状の用紙を同封する会社が多いのは、この手間を減らすためです。
代理人を株主に限れるか
会社法310条5項は、会社は株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができると定めています。人数の制限についてはこの条文があります。
では、代理人の資格を株主に限ることはどうか。会社法に直接の規定はありません。実務では、代理人は当会社の議決権を有する株主1名に限る、という定款の定めを置く会社が多くあります。総会が株主以外の者によってかき乱されることを防ぐという合理的な理由があるため、こうした定めは有効と解されています。
ただし、この定めをそのまま貫くと不都合が生じる場面もあります。法人株主が従業員を代理人として出席させる場合や、株主本人が高齢や病気で出席できず親族に委ねる場合です。定款の定めがある会社でも、こうした場面では代理出席を認める運用をしている例が多くあります。自社の定款にどう書いてあるか、そして実際にどう運用しているかを、総会の前に確認しておいてください。
書面投票と電磁的方法による議決権行使
代理行使とは別に、株主が自分で議決権を行使する方法があります。会社法298条1項3号の書面による議決権の行使と、同項4号の電磁的方法による議決権の行使です。招集を決めるときに定めます。
会社法311条1項は、書面による議決権の行使は、議決権行使書面に必要な事項を記載し、法務省令で定める時までに会社に提出して行うと定めています。同条2項により、書面によって行使した議決権の数は出席した株主の議決権の数に算入されます。定足数に入るということです。
会社法312条1項は電磁的方法による行使を定めています。同条3項により、こちらも出席した株主の議決権の数に算入されます。
会社法298条2項は、議決権を行使することができる株主の数が1,000人以上である場合には、書面による議決権行使を定めなければならないとしています。非上場の会社ではまず該当しませんが、株主が増えていく局面では確認が要ります。
なお、書面投票または電磁的方法による議決権行使を定めると、会社法299条1項により招集通知を1週間前に短縮することができなくなり、300条ただし書により招集手続の省略もできなくなります。導入するかどうかは、この2点も含めて判断してください。
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3か月の備置きと閲覧請求
会社法310条6項は、会社は株主総会の日から3か月間、代理権を証明する書面と電磁的方法により提供された事項が記録された電磁的記録を本店に備え置かなければならないと定めています。
議決権行使書面も同じです。会社法311条3項が株主総会の日から3か月間の備置きを、312条4項が電磁的記録について同じ期間の備置きを定めています。
そして閲覧請求があります。会社法310条7項は、株主は営業時間内はいつでも、代理権を証明する書面の閲覧または謄写を請求することができるとしたうえで、その請求は理由を明らかにしてしなければならないとしています。311条4項と312条5項も同じ構造です。
会社法310条8項は、会社が請求を拒める場合を定めています。請求者が権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、会社の業務の遂行を妨げまたは株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったときなどです。拒めない場合が原則で、拒める場合が例外という書き方になっています。
実務上の意味は明確です。委任状は、他の株主に見られる可能性のある書類だということです。誰が誰に委任したかが分かります。同族会社で株主間の関係が微妙な場合、この点を委任を受ける側が理解しているかを確認しておくとよいでしょう。
| 書類 | 備置期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 代理権を証明する書面(委任状) | 株主総会の日から3か月 | 310条6項 |
| 議決権行使書面 | 株主総会の日から3か月 | 311条3項 |
| 電磁的方法による行使の記録 | 株主総会の日から3か月 | 312条4項 |
| 株主総会議事録 | 本店に10年、支店に写しを5年 | 318条2項・3項 |
委任状に書いておくこと
会社法は委任状の様式を定めていません。実務では、委任者である株主の氏名または名称と住所、議決権の数、代理人の氏名、どの株主総会についての委任かを特定する記載、そして日付と押印を入れます。
議案ごとの賛否を書く欄を設けるかどうかは会社によります。書かない場合、代理人が自分の判断で賛否を決めることになります。株主の意思を明確にしたいのであれば、賛否の欄を設けるか、委任の範囲を書面に明記してください。
どの株主総会についての委任かを特定する記載は必ず入れてください。310条2項が総会ごとの授与を求めている以上、それが特定できない委任状は有効性に疑いが生じます。招集通知に同封する用紙には、あらかじめ総会の日付を印字しておくのが確実です。
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❓ よくある質問
A. 作れません。会社法310条2項が、代理権の授与は株主総会ごとにしなければならないと定めています。総会のたびに委任状を取り直してください。
A. 会社法に直接の規定はありませんが、総会の秩序を守るという合理的な理由があるため有効と解されています。ただし法人株主の従業員や、本人が出席できない場合の親族について、運用で認めている会社が多くあります。
A. 会社法310条6項により、株主総会の日から3か月間、本店に備え置かなければなりません。議決権行使書面も311条3項により同じ期間です。この間、他の株主から理由を明らかにした閲覧請求を受けることがあります。
📄 まとめ
議決権の代理行使には、代理権を証明する書面の提出が必要で、その授与は株主総会ごとに行います。包括的な委任は使えませんので、毎年の総会準備に委任状の回収が入ります。
回収した委任状は3か月間本店に備え置き、他の株主から理由を明らかにした閲覧請求を受けることがあります。誰が誰に委任したかが見られうる書類だという点は、委任を受ける側にも共有しておいてください。
⚖ 本記事の根拠
- 会社法310条1項(代理人による議決権行使と、代理権を証明する書面の提出)
- 会社法310条2項(代理権の授与は株主総会ごと)、同条5項(代理人の数の制限)
- 会社法310条3項・4項(電磁的方法による提供と、承諾を拒めない場合)
- 会社法310条6項・7項・8項(3か月の備置き、閲覧謄写の請求、拒める場合)
- 会社法311条1項から4項(書面による議決権の行使、出席議決権への算入、3か月の備置き)
- 会社法312条1項から5項(電磁的方法による議決権の行使)
- 会社法298条1項3号・4号、同条2項(書面投票を定めなければならない場合)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
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