有利発行はどこからか|特別決議と取締役の説明義務

増資の払込金額をいくらにするか。上場準備の会社では、前回のラウンドの価格、直近の業績、投資家との交渉で決まっていきます。そこで避けて通れないのが有利発行の判定です。

会社法は、特に有利な金額で募集をするときは、取締役がその理由を株主総会で説明しなければならないと定めています。公開会社であっても、この場合は取締役会では決められません。この記事では、どこからが有利発行になり、当たった場合に何をするのかを条文に沿って整理します。

この記事でわかること

  • 特に有利な金額を何と比べて判定するのか(会社法199条3項)
  • 公開会社でも株主総会の特別決議に戻る仕組み(201条1項)
  • 取締役会に委任する場合の下限にも同じ規制がかかること(200条2項)
  • 手続を欠いた場合の差止請求と、引受人の支払義務(210条・212条)

条文はどう定めているか

会社法199条3項は、199条1項2号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、同条2項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならないと定めています。

この条文が置いているのは説明義務です。有利発行を禁じているわけではありません。既存株主に持分の希薄化という不利益が生じるので、なぜその価格で発行する必要があるのかを株主に説明し、判断してもらう建て付けです。

説明の相手は199条2項の株主総会、すなわち募集事項を決める株主総会です。この決議は309条2項5号により特別決議ですので、議決権の3分の2以上の賛成が必要になります。

公開会社でも株主総会に戻る

会社法201条1項は、公開会社では199条2項の株主総会を取締役会と読み替えると定めています。ところがこの条文は、第百九十九条第三項に規定する場合を除き、という書き出しになっています。

つまり、有利発行に当たる場合は読替えが働かず、公開会社であっても募集事項の決定は株主総会の特別決議によることになります。同項後段により、200条の委任の規定も適用されません。

上場会社の第三者割当てで有利発行かどうかが激しく争われるのは、この一線をまたぐかどうかで手続がまったく変わるからです。取締役会だけで済むはずだった増資が、株主総会の招集から必要になります。

有利発行に当たるかどうかで手続が変わる有利発行に当たらない公開会社は取締役会の決議非公開会社は株主総会の特別決議有利発行に当たる公開会社も株主総会の特別決議取締役会への委任もできない共通して必要になることその払込金額で募集をすることを必要とする理由の説明(199条3項)手続を欠くと210条の差止請求の対象になり、引受人にも212条の支払義務が生じ得ます

この一線をまたぐかどうかで、必要な機関決定がまるごと変わります

何と比べて有利かを判定するのか

比較の対象は公正な発行価格です。公正な発行価格と比べて、引受先に特に有利な金額であるかどうかを見ます。条文が特にという語を置いていることから、公正な価格を多少下回るだけでは足りず、相当程度の乖離が求められると理解されています。

市場価格のある株式であれば、公正な発行価格の出発点は市場価格です。会社法201条2項は、公開会社が取締役会の決議で募集事項を定める場合に、市場価格のある株式を引き受ける者の募集をするときは、払込金額に代えて、公正な価額による払込みを実現するために適当な払込金額の決定の方法を定めることができるとしています。上場会社の公募増資でブックビルディングが使われるのは、この規定を根拠にしています。

問題は非上場株式です。市場価格がありません。実務では、純資産をもとにする方法、将来のキャッシュフローを割り引く方法、類似する上場会社の指標と比べる方法などを、会社の状況に応じて選び、あるいは併用します。どの方法を選ぶかで結果が大きく変わりますので、選んだ理由と計算の前提を文書に残すことが実質的な防御になります。第三者機関による株価算定書を取得する会社が多いのは、このためです。

委任の場合の下限にも同じ規制がかかる

会社法200条2項は、募集事項の決定を取締役会に委任する場合において、定めた払込金額の下限が引受先に特に有利な金額であるときは、取締役は同条1項の株主総会において、その払込金額で募集をすることを必要とする理由を説明しなければならないと定めています。

委任の決議で下限を低く置いておけば説明を回避できる、とはならない仕組みです。委任のときに下限で判定し、その時点で説明義務が生じます。ラウンドの条件が固まりきらないうちに委任決議を取る場合は、下限の置き方が説明義務の有無を決めることになります。

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手続を欠いたらどうなるか

会社法210条は、募集株式の発行または自己株式の処分が法令もしくは定款に違反する場合、または著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対してこれをやめることを請求できると定めています。有利発行なのに株主総会の特別決議を経ていなければ、法令違反として差止めの対象になります。

引受人の側にも規定があります。会社法212条1項1号は、取締役と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合には、その払込金額と公正な価額との差額に相当する金額を会社に支払う義務を負うとしています。取締役と通じて、という要件がありますので適用の場面は限られますが、引受先が役員の関係者である場合には現実味を帯びます。

なお、払込みが完了して株式が発行された後は、発行そのものを無効にするには新株発行無効の訴えによることになり、要件も出訴期間も限られます。差止めは払込みの前でなければ意味がありませんので、手続の瑕疵に気づいたら速やかに判断する必要があります。

場面 必要な手続 根拠
非公開会社 もともと株主総会の特別決議。加えて理由の説明 199条2項・3項、309条2項5号
公開会社 取締役会では決められず、株主総会の特別決議に戻る 201条1項
委任する場合 下限が有利な金額なら委任の総会で理由を説明 200条2項
欠いた場合 差止請求。引受人には差額の支払義務 210条、212条1項1号

上場準備の現場で問われること

直前期と直前々期の増資価格は、引受審査で必ず確認されます。同じ時期に異なる価格で発行していないか、役員や従業員に対して外部投資家より低い価格で発行していないか、その差に合理的な説明があるか、という点です。

説明の材料は、決議の時点でしか作れません。あとから株価算定書を用意しても、決議の前に取締役会や株主総会がそれを見て判断したという事実は作れないからです。増資のたびに、算定の前提、選んだ方法、他の方法との比較、そして決議の場での説明の要旨を、議事録に残してください。

役員や従業員に対する低い価格での発行には、会社法の有利発行とは別に、税務上の取扱いという論点も生じます。両者は判断の枠組みが異なりますので、会社法の手続を整えれば税務も問題ないということにはなりません。実際の設計にあたっては、それぞれの専門家に個別に確認してください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 何パーセント下回ると有利発行になりますか。

A. 会社法に数値の基準はありません。公正な発行価格と比べて特に有利かどうかで判断します。上場会社では市場価格からの乖離が手がかりになりますが、非上場会社では算定方法の選択と前提の合理性が問われます。

Q. 株価算定書があれば有利発行にならないと言えますか。

A. 算定書は判断の材料であって、それ自体が結論を保証するものではありません。ただし、合理的な方法で算定し、その前提を決議の前に取締役会が確認していれば、説明の裏づけになります。

Q. 有利発行の決議を経ていれば問題ありませんか。

A. 会社法上の手続としては整います。取締役が理由を説明し、株主総会の特別決議を経たという記録を議事録に残してください。なお、税務上の取扱いは会社法の判断とは別の枠組みになります。

📄 まとめ

有利発行かどうかは、公正な発行価格と比べて引受先に特に有利な金額かで判定します。当たる場合は、公開会社であっても取締役会では決められず、株主総会の特別決議に戻り、取締役はその価格で募集をすることを必要とする理由を説明しなければなりません。

非上場株式には市場価格がありませんので、算定方法の選択と前提の合理性がすべてです。決議の前に算定を済ませ、選んだ理由と説明の要旨を議事録に残してください。手続を欠けば差止めの対象になり、引受人にも差額の支払義務が生じ得ます。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 会社法199条1項2号・3項(払込金額と、特に有利な金額である場合の説明義務)
  • 会社法200条2項(委任する場合の下限に対する説明義務)
  • 会社法201条1項(公開会社の特則と、有利発行の場合の適用除外)、同条2項(払込金額の決定の方法)
  • 会社法309条2項5号(募集事項の決定は特別決議)
  • 会社法210条(募集株式の発行等をやめることの請求)
  • 会社法212条1項1号(取締役と通じて著しく不公正な払込金額で引き受けた者の支払義務)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。

📚 参考(公的な一次情報)

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