診療報酬の請求分や窓口未収金は、一括評価による貸倒引当金の対象になります。実際に貸倒れが起きていなくても、将来の見込額として一定額を経費に計上できます。
ただし、個人開業と医療法人では根拠となる条文も繰入率も異なります。個人であれば所得税法施行令145条により1000分の55、医療法人であれば法定繰入率で1000分の6です。
この記事では、それぞれの要件と繰入率、対象になる債権の範囲を整理します。
- 医業未収金が一括評価の貸倒引当金の対象になること
- 個人開業は青色申告が要件で、繰入率は1000分の55であること
- 医療法人の対象要件と、大法人の完全支配関係にある法人などの除外
- 医療保健業の法定繰入率が1000分の6である理由
- 一括評価の対象にならない債権
図 貸倒引当金の判定(所得税法、法人税法および租税特別措置法にもとづき作成)
📌 医業未収金は貸倒引当金の対象になる
診療報酬の請求から入金までには時間がかかります。社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会に対する請求分は、月末で締めて翌々月に入金されるのが通常です。窓口負担分の未収金もあります。
これらの医業未収金は、売掛金その他これらに準ずる金銭債権として、一括評価による貸倒引当金の対象になります。実際に貸倒れが起きていなくても、将来の貸倒れの見込額として一定額を経費に計上できるということです。
支出を伴わずに経費を計上できる数少ない仕組みですので、要件を満たすのであれば使わない理由はありません。ただし、翌年度には前年度に繰り入れた金額を戻し入れますので、毎年同じ水準の未収金であれば、初年度以降の効果は差額分にとどまります。
📌 個人と医療法人で根拠が違う
個人開業の場合、根拠は所得税法52条2項です。青色申告書を提出する居住者で事業所得を生ずべき事業を営むものが、その有する売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権について、貸倒れによる損失の見込額として繰り入れることができます。青色申告書を提出していることが要件ですので、白色申告では使えません。
繰入率は所得税法施行令145条が定めており、一般には1000分の55です。金融業は1000分の33とされていますが、医業には関係しません。法人と比べてかなり高い率です。
医療法人の場合、根拠は法人税法52条です。同条1項1号イは、普通法人のうち資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないものを対象としています。持分なし医療法人は資本または出資を有しない法人にあたりますので、この文言に照らせば対象となります。
ただし、資本金1億円以下であっても、大法人による完全支配関係がある法人や大通算法人は除かれます。医療法人でこれに該当する例は多くありませんが、条文上の除外があることは押さえておいてください。
表 個人と医療法人の違い
📌 法定繰入率と実績繰入率
医療法人の場合、繰入限度額の計算方法が2つあります。実際の貸倒れの実績にもとづく実績繰入率による方法と、租税特別措置法57条の9にもとづく法定繰入率による方法です。有利なほうを選べます。
法定繰入率は租税特別措置法施行令33条の7第4項が事業の種類ごとに定めています。卸売及び小売業(飲食店業および料理店業を含む)が1000分の10、製造業(電気業、ガス業、熱供給業、水道業および修理業を含む)が1000分の8、金融及び保険業が1000分の3、割賦販売小売業ならびに包括信用購入あっせん業および個別信用購入あっせん業が1000分の7、そしてこれら以外の事業が1000分の6です。
医療保健業はこれらの号に列挙されていませんので、前各号に掲げる事業以外の事業として1000分の6になります。
なお、租税特別措置法57条の9第1項は、適用除外事業者を対象から除いています。過去3年間の所得金額の平均が15億円を超えるような法人が該当しますので、通常のクリニックで問題になることはありませんが、条文上の除外として押さえておいてください。
表 法定繰入率(租税特別措置法施行令33条の7第4項)
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📌 対象になる債権とならない債権
一括評価の対象になるのは、事業の遂行上生じた売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権です。診療報酬の請求分や窓口未収金はこれにあたります。
一方で、預け金や保証金、前払金のように、そもそも貸倒れが想定されないものは対象になりません。医療機器のリース保証金や建物の敷金は、一括評価の基礎となる金銭債権には含まれません。
また、回収の見込みがないことが明らかになっている特定の債権については、一括評価ではなく個別評価の対象になります。長期にわたって回収できていない窓口未収金がある場合は、個別に検討してください。
貸倒引当金を計上する際は、決算書に繰入額を計上し、申告書に明細を添付します。個人であれば青色申告決算書に記載欄があります。
貸倒引当金は、支出を伴わずに経費を計上できる仕組みです。対象となる債権の範囲や繰入率の選択を含め、決算前に確認しておくべき項目のひとつです。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 一括評価による貸倒引当金は、所得税法52条2項により青色申告書を提出する居住者が対象です。白色申告では使えません。回収不能が明らかになった債権について貸倒損失を計上することはできますが、見込額としての繰入はできません。
A. 法人税法52条1項1号イは、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないものを対象としています。持分なし医療法人は資本または出資を有しない法人にあたりますので、条文の文言に照らせば対象になります。
A. 租税特別措置法施行令33条の7第4項の第五号、前各号に掲げる事業以外の事業として1000分の6です。医療保健業は同項の第一号から第四号までに列挙されていません。
A. なりません。一括評価の対象は事業の遂行上生じた売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権です。敷金や保証金は貸倒れが想定される債権ではありませんので含まれません。
A. 翌年度には前年度に繰り入れた金額を戻し入れますので、効果は初年度と、その後は未収金の増加分にとどまります。未収金の水準が横ばいであれば、2年目以降の効果はほとんどありません。
📄 まとめ
医業未収金は一括評価による貸倒引当金の対象になり、支出を伴わずに経費を計上できます。個人開業であれば所得税法52条2項にもとづき青色申告書を提出していることが要件で、繰入率は所得税法施行令145条により1000分の55です。
医療法人であれば法人税法52条1項1号イが根拠となり、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないものが対象です。繰入率は実績繰入率と法定繰入率の有利なほうを選べ、医療保健業の法定繰入率は1000分の6です。
一括評価の対象になるのは事業の遂行上生じた売掛金や貸付金その他これらに準ずる金銭債権であり、敷金や保証金は含まれません。翌年度に戻し入れる仕組みですので、継続的な効果は未収金の増加分に限られます。決算前に対象債権の範囲を確認してください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 所得税法52条2項(青色申告書を提出する居住者で事業所得を生ずべき事業を営むものの一括評価貸金に係る貸倒引当金)、所得税法施行令145条(繰入率1000分の55。金融業は1000分の33)
- 法人税法52条1項1号イ(普通法人のうち資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないもの。大法人による完全支配関係がある法人および大通算法人を除く)
- 租税特別措置法57条の9(中小企業者等の貸倒引当金の特例。適用除外事業者を除く)、同法施行令33条の7第4項(法定繰入率。第五号の前各号に掲げる事業以外の事業は1000分の6)
- 法定繰入率の一覧は、国税庁タックスアンサーNo.5501によります
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。