J-KISSの税務でまず押さえるのは、発行と転換が資本の取引だということです。
法人税法第22条第2項は、益金に算入すべき金額を、資本等取引以外の取引に係る収益の額としています。そして同条第5項は、資本等取引を、法人の資本金等の額の増加または減少を生ずる取引などと定義しています。
ただし、払込金額が新株予約権の価値に照らして低いと評価される場合の取扱いは別に検討が必要です。会社法の有利発行の手続を踏んだかどうかとは、切り分けて考えてください。
- 発行時に会社側で何を見るか
- 会社法の有利発行と税務の論点が別であること
- 発行時にそろえておくべき資料
- 投資家の属性で結論が変わること
- 上場準備でさかのぼって聞かれること
📌 結論 資本の取引として整理する
会社側と投資家側で見るところが違います。どちらか一方だけを整理しても足りません。
法人税法第22条第2項は、益金の額に算入すべき金額を、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡または役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る収益の額としています。
そして第5項は、資本等取引を、法人の資本金等の額の増加または減少を生ずる取引ならびに法人が行う利益または剰余金の分配および残余財産の分配または引渡しをいう、としています。
新株予約権の発行による払込みをこの枠組みでどう位置づけるかが出発点です。個別の事情によって結論が変わりうるところなので、発行の前に顧問税理士と整理してください。
🧭 有利発行の話は2つある
会社法の手続を踏んだから税務も問題ない、とはなりません。逆に、税務で説明できるから会社法の手続が省ける、ということもありません。
会社法第238条第3項は、募集新株予約権について、払込みを要しないこととすることが引受人に特に有利な条件であるとき、または払込金額が引受人に特に有利な金額であるときは、取締役が株主総会で理由を説明しなければならないとしています。
これは既存株主を保護するための手続です。株主総会での説明と決議を求めるものであって、税務上の評価を決めるものではありません。
税務では、払込金額が新株予約権の価値に照らしてどうかという評価の問題が別に立ちます。会社法の手続を踏んだから税務も問題ない、とはなりません。逆もまた同じです。
ですから、払込金額をどう決めたのかという根拠資料を発行時に残しておくことが要になります。数年後の上場準備で聞かれてから作れる資料ではありません。
J-KISSは法務のひな形が整っている一方で、払込金額の根拠と税務の整理は各社で作ることになります。上場準備でさかのぼって聞かれる項目なので、発行時に手を打っておくのが結局いちばん安く済みます。公認会計士・税理士が直接お受けします。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この論点だけのご相談を承ります。初回のご相談は無料です。
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🧾 発行時にそろえておく資料
上場準備に入ると、数年前の発行についてこの5点を求められます。あとから作れる資料ではありません。
議事録、払込金額の算定根拠、投資契約と新株予約権の内容、払込みの記録、登記事項証明書。この5点です。
いちばん抜けやすいのが算定根拠です。ひな形に沿って発行すると、金額の決め方だけは自社で決めることになるため、記録が残らないまま進みがちです。
そして会計処理との整合も確かめてください。純資産の部の新株予約権の残高と、契約書に書かれた払込金額が一致していないケースを見かけます。
📅 投資家側は属性で変わる
投資家の属性で結論が変わります。会社側で一律の説明をしないでください。
法人の投資家であれば、新株予約権の取得価額の計上と、転換時に株式の取得価額へどう引き継ぐかが論点になります。
個人の投資家であれば、取得価額と将来の譲渡所得の計算、そしてエンジェル税制の適用の可否が関心事になります。適用要件は制度ごとに細かく定められているため、投資家の側で確認してもらうことになります。
会社側から投資家に一律の税務説明をするのは避けてください。属性によって結論が変わりますし、説明の責任を負うことにもなります。
❓ よくある質問
A. 資本等取引にあたるかどうかで整理します。法人税法第22条第2項と第5項の枠組みで、顧問税理士と確認してください。
A. 別の話です。会社法は既存株主の保護のための手続、税務は評価の問題です。
A. 決め方そのものより、どう決めたかの根拠を残すことが重要です。あとから作れません。
A. 会社側と投資家側で見る場所が違います。個別に検討が必要です。
A. 会計上の利益と課税所得の関係を個別に確認してください。
A. 制度の要件を満たすかどうかによります。投資家の側で確認してもらってください。
A. 避けてください。属性によって結論が変わります。
A. 発行の前です。条件を決めたあとでは選択肢がありません。
📄 まとめ
J-KISSの発行と転換は資本の取引として整理します。法人税法第22条第2項と第5項が出発点です。
会社法の有利発行の手続と、税務上の評価の問題は別に検討します。片方を済ませても、もう片方は残ります。
投資家側の結論は属性によって変わります。会社から一律の説明をしないでください。
いちばん大切なのは、払込金額をどう決めたのかを発行時に文書で残すことです。数年後に効いてきます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。実際の取扱いは事実関係によって異なります。必ず顧問税理士にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) 第22条第2項、第5項
- 会社法(e-Gov法令検索) 第238条第3項
- コンバーティブル投資手段活用ガイドライン(経済産業省)