J-KISSは株式ではありません。会社法上の新株予約権です。正式にはJ-KISS型新株予約権と呼ばれます。
ここを取り違えると、資本政策表も登記も会計処理も全部ずれます。払込みを受けた時点で投資家は株主になっていません。
会社法第236条第1項は、新株予約権の内容として、目的である株式の数またはその算定方法、行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法を定めることを求めています。J-KISSはこの算定方法のところに転換の式を書き込む設計です。
- J-KISSが株式ではなく新株予約権であること
- 会社法のどの手続で発行するのか
- 誰が決議するのか
- 発行時に何を書き切っておく必要があるか
- 登記が必要であること
📌 結論 新株予約権として発行する
発行の時点で株価を決めません。決めるのは、次回ラウンドで株価が決まったときにいくらで転換するかという算定式だけです。
J-KISSは、Coral Capitalが公開しているシード投資のための投資契約のひな形です。現在の最新版はJ-KISS 2.0です。
形としては新株予約権です。投資家は払込みを行いますが、その時点では株主になりません。次の大きな資金調達のときに、あらかじめ定めた算定式にしたがって株式に転換します。
経済産業省は、株式取得に先立って機動的な資金供給を実現する新株予約権等をコンバーティブル投資手段と呼び、令和2年12月に活用ガイドラインを公表しています。転換価額の算定式のみが設定された新株予約権等により資金供給を行い、将来企業価値評価の正確性が高まったタイミングで株式転換を行う手法だと整理されています。
🧭 発行から転換までの流れ
転換の条件を発行時に書き切っておくことが要です。あとから決めることはできません。
会社法第238条第1項は、募集新株予約権について、募集新株予約権の内容および数、払込みを要しないこととする場合はその旨、払込金額またはその算定方法、割り当てる日などを定めることを求めています。
順番としては、募集事項を決定し、投資家が払込みを行い、新株予約権の発行を登記します。そして次回の資金調達などの事由が生じたときに、算定式にしたがって株式が交付されます。
大事なのは、転換の条件を発行のときに書き切っておくことです。あとから決めることはできません。次回ラウンドがどうなるか分からない段階で、どういう場合にいくらで転換するのかを式として確定させておきます。
J-KISSは法務のひな形が整っている一方で、会計処理と税務の整理、そして資本政策表への反映は各社で作ることになります。次のラウンドや上場準備に入ってから直すのは大変です。公認会計士・税理士が発行の段階からご一緒します。初回のご相談は無料です。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🧾 誰が決議するのか
スタートアップの多くは公開会社ではないため、株主総会の決議が必要です。有利発行にあたるかどうかの整理は、ここで避けて通れません。
会社法第238条第2項は、募集事項の決定は株主総会の決議によらなければならないとしています。
公開会社については第240条第1項が特則を置いていて、第238条第3項各号に掲げる場合を除き、株主総会とあるのは取締役会とすると読み替えます。スタートアップの多くは公開会社ではないため、株主総会の決議が必要になります。
そして第238条第3項は、払込みを要しないこととすることが引受人に特に有利な条件であるとき、または払込金額が引受人に特に有利な金額であるときは、取締役が株主総会で理由を説明しなければならないとしています。有利発行にあたるかどうかの整理は、ここで避けて通れません。
📅 発行時に書き切っておくもの
会社法第236条第1項です。J-KISSで肝になるのは第1号と第2号の算定方法です。金額そのものではなく、式を書きます。
会社法第236条第1項が、新株予約権の内容として定める事項を号で列挙しています。J-KISSで肝になるのは第1号と第2号です。
第1号は目的である株式の数またはその数の算定方法、第2号は行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法です。どちらも、金額や株数そのものではなく算定方法を書くことが認められています。この作りがあるから、企業価値の評価を先送りできます。
第4号の行使することができる期間も重要です。転換されないまま期間が過ぎればどうなるのかを、発行の段階で決めておく必要があります。
新株予約権は登記事項です。発行したら登記をしてください。転換して株式になったときも、発行済株式総数と資本金の額の変更登記が生じます。
❓ よくある質問
A. 違います。会社法上の新株予約権です。払込みの時点で投資家は株主になりません。
A. 企業価値の評価を先送りできるためです。シード期は評価が難しく、無理に決めると後の調達が制約されることがあります。
A. 公開会社でない会社は株主総会です。公開会社は取締役会ですが、有利発行にあたる場合は別の扱いになります。
A. できません。新株予約権の内容として発行時に定めます。会社法第236条第1項です。
A. 必要です。新株予約権の発行と、転換後の株式数や資本金の変更で登記が生じます。
A. 行使することができる期間の定めと、期間満了時の取扱いによります。契約と新株予約権の内容を確認してください。
A. 新株予約権のままでは株主ではないため、株主としての議決権はありません。
A. Coral Capitalが公開しています。ただし自社の事情にあわせた条項の調整は必要です。
📄 まとめ
J-KISSは株式ではなく新株予約権です。払込みの時点では投資家は株主になりません。
会社法第238条の募集新株予約権の手続で発行します。公開会社でない会社は株主総会の決議が必要です。
転換の条件は、第236条第1項の算定方法として発行時に書き切ります。あとから決めることはできません。
まず自社が公開会社かどうかと、有利発行にあたるかどうかの2点を確認してください。ここが決まらないと決議の準備が進みません。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の発行にあたっては、弁護士および司法書士にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 会社法(e-Gov法令検索) 第236条、第238条、第240条
- コンバーティブル投資手段活用ガイドライン(経済産業省)