会社を買ったら、支払った金額よりも受け入れた純資産のほうが大きかった。会計上、負ののれんが出る場面です。
この額をそのまま特別利益に計上してよいのか。答えは、条件つきでよい、です。ただしその前に、必ず踏むべき手順があります。企業会計基準第21号の第33項が、まず取得原価の配分を見直せと定めているからです。
この記事では、見直しで何を確認するのか、表示区分と科目名の根拠がどこにあるのか、そして税務でどうずれるのかを、条文と項番号で整理します。
- 負ののれんの処理は企業会計基準第21号 第33項にあること
- まず識別可能資産・負債の把握と取得原価の配分を見直すこと(第33項(1))
- 見直してもなお残る場合に、発生した事業年度の利益とすること(第33項(2))
- 重要性が乏しい場合のただし書きがあること
- 表示区分は特別利益(第48項)、科目名の根拠は財務諸表等規則第95条の2であること
- 税務では差額負債調整勘定として60か月で益金算入されること(法人税法第62条の8)
この記事の見出し
📌 結論 まず配分を見直す。残った額を当期の利益にする
第33項の(1)を飛ばして(2)だけを行うことはできません。まず配分の見直しです。ここを省くと監査で必ず指摘されます。
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」の第31項が、取得原価が受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合はのれん、下回る場合は負ののれんとして第33項に従い処理する、としています。
その第33項は2段構えです。
(1)が、すべての識別可能資産および負債(第30項の負債を含む)が把握されているか、それらへの取得原価の配分が適切に行われているかを見直す、という定めです。
(2)が、(1)の見直しを行ってもなお負ののれんが生じる場合は、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理する、という定めです。
そしてただし書きがあります。下回る額に重要性が乏しい場合は、(1)と(2)の処理を行わず、当該額を当期の利益として処理することができる、とされています。
つまり、重要な金額であれば見直しは省けません。見直しをしないまま特別利益に計上すると、監査で必ず戻されます。
🔍 何を見直すのか
負ののれんは、多くの場合「見落とした負債があるのではないか」というサインです。利益が出たと喜ぶ前に、この4点を確認してください。
実務でいちばん多いのは、負債の見落としです。買った会社の帳簿に載っていない債務が後から出てくる。偶発債務、未払残業代、係争案件、退職給付債務の不足。これらを把握していれば、そもそも負ののれんは出なかった、ということが起こります。
資産の側では、無形資産の識別が論点になります。商標権、顧客関連資産、技術、仕掛研究開発。これらを識別可能資産として把握したうえで時価を配分すると、純資産の額が変わります。
時価が一義的に定まりにくい資産
企業会計基準適用指針第10号の第55項に、実務上役に立つ定めがあります。大規模工場用地や未開発の郊外地のように時価が一義的に定まりにくい資産を評価した結果、負ののれんが多額に発生すると見込まれる場合についてのものです。
当該固定資産等に合理的に配分した評価額も「合理的に算定された時価」と考えられるとして、取得原価の配分額を、負ののれんが発生しない範囲で評価した額とすることができる、とされています。
ただし条件があります。交渉の過程で取得企業が利用可能な独自の情報等の合理的な基礎にもとづき価額を算定し、それが対価の算定で考慮されている場合には、その価額を配分額とすることになります。
なお、適用指針第10号の目次では「(14) 負ののれんの会計処理」が第78項です。
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📑 どこに表示するのか
基準の公表は平成15年10月31日(企業会計審議会)、最終改正は平成31年1月16日(企業会計基準委員会)です。
負ののれん発生益という科目名は、会計基準ではなく内閣府令に由来します。基準を引いて科目名を説明すると、根拠がずれます。
表示区分は特別利益です。企業会計基準第21号の第48項が、負ののれんは原則として特別利益に表示する、としています。営業外収益ではありません。
科目名については、根拠が別のところにあります。財務諸表等規則の第95条の2が、特別利益に属する利益は、固定資産売却益、負ののれん発生益その他の項目の区分に従い、名称を付した科目をもって掲記しなければならない、としています。特別利益の総額の10分の1以下のものは一括掲記が認められています。
ここで注意したいのは、「負ののれん発生益」という語が企業会計基準第21号にも適用指針第10号にも出てこないことです。基準が使っている呼称は「負ののれん」です。科目名の根拠は内閣府令の側にあります。社内資料で基準を引いて科目名を説明すると、根拠がずれます。
のれんの場合
対になる定めが第47項です。のれんは無形固定資産の区分に表示し、のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示する、とされています。のれんの償却は第32項で、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却します。償却年数の決め方はのれんの償却年数は何年にする?で扱っています。
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🔗 連結でも同じ処理になる
連結財務諸表でも扱いは同じです。企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」の第24項が、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本との相殺消去にあたって差額が生じる場合、当該差額をのれん(または負ののれん)とし、企業結合会計基準の第32項(または第33項)に従って会計処理する、としています。
つまり、連結上の負ののれんも、見直しをしたうえで残額を発生年度の利益とする、という同じ道筋になります。
💰 税務は5年で均等に益金算入される
会計は一括、税務は5年均等です。この差が申告調整として毎期出てきます。取得の意思決定の段階で、この差を織り込んだ税負担の試算をしておいてください。
会計と税務がずれる論点です。ここを知らずに買収の税負担を試算すると、狂います。
根拠は法人税法の第62条の8で、条見出しは非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等です。
第1項が、非適格合併等で交付対価が時価純資産価額を超える部分を資産調整勘定とする定めです。第3項が、交付対価が時価純資産価額に満たない部分を差額負債調整勘定とする定めで、会計上の負ののれんに対応します。第2項に、退職給与債務引受け等に係る退職給与負債調整勘定と短期重要負債調整勘定の定めがあります。
償却の仕組みは、資産調整勘定について第4項が、当初計上額を60で除し、当該事業年度の月数を乗じた額を減額するとし、第5項がその減額額を損金の額に算入するとしています。差額負債調整勘定についても第7項が同じく60で除して月数を乗じた額を減額するとし、第8項がその減額額を益金の額に算入するとしています。
会計は発生年度に一括して利益、税務は60か月にわたって均等に益金算入。この差が申告調整として毎期出てきます。あわせて税効果会計の検討も必要になります。分類の考え方は繰延税金資産の分類は過去3年か過去5年かで扱っています。
🌍 IFRSでも見直しは必要
IFRS第3号でも枠組みは同じです。IFRS 3.34が、識別可能純資産が移転対価等を超過する場合、取得企業は取得日に当該利得を純損益に認識するとしています。
そして IFRS 3.35 が、利得を認識する前に、取得した資産および引き受けた負債をすべて正しく識別したかを再評価することを求めています。対象は、識別可能資産・負債、非支配持分、段階取得における既保有持分、移転対価の4区分です。IFRS 3.36 が、これら4区分について取得日に測定した手続を見直すことを求めています。
IFRSは見直しが不要ですぐ利益になる、という説明を見かけますが、事実に反します。日本基準との違いは、日本基準に重要性が乏しい場合の簡便な取扱いがあること、そして日本基準が特別利益という表示区分を持つのに対し、IFRSには特別損益の区分自体が存在しないことです。
❓ よくある質問
A. それは旧基準の処理です。現行の企業会計基準第21号第33項(2)は、見直しを行ってもなお生じる場合に、発生した事業年度の利益として処理するとしています。
A. 重要性が乏しい場合を除き、まず第33項(1)の見直しが必要です。識別可能資産と負債の把握、取得原価の配分の適切性を確認してください。
A. 特別利益です。企業会計基準第21号 第48項が原則として特別利益に表示するとしています。
A. ありません。基準と適用指針の本文に出てくるのは「負ののれん」です。負ののれん発生益は財務諸表等規則第95条の2に挙げられた科目です。
A. なりません。法人税法第62条の8第3項の差額負債調整勘定として、第7項により60で除して月数を乗じた額を減額し、第8項により益金の額に算入します。
A. 申告調整で処理します。あわせて税効果会計の検討が必要です。
A. 同じです。企業会計基準第22号 第24項が、企業結合会計基準の第32項または第33項に従って処理するとしています。
A. 時価が一義的に定まりにくい資産については、適用指針第10号 第55項に定めがあります。ただし交渉過程で独自情報にもとづき価額を算定し対価の算定で考慮している場合は、その価額によります。
A. 不要ではありません。IFRS 3.35と3.36が再評価と測定手続の見直しを求めています。
📄 まとめ
負ののれんが生じると見込まれる場合、まず識別可能資産と負債がすべて把握されているか、取得原価の配分が適切かを見直します(企業会計基準第21号 第33項(1))。見直してもなお生じる場合に、発生した事業年度の利益として処理します(第33項(2))。重要性が乏しい場合のただし書きがあります。
表示区分は原則として特別利益で、根拠は第48項です。負ののれん発生益という科目名は財務諸表等規則第95条の2に由来し、基準の呼称は負ののれんです。
税務では差額負債調整勘定となり、60で除して月数を乗じた額が毎期益金に算入されます(法人税法第62条の8第3項・第7項・第8項)。会計の一括処理との差が申告調整として出てきます。
負ののれんは、多くの場合、見落とした負債があるのではないかというサインです。利益として認識する前に、見直しの記録を残してください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第30項・第31項・第32項・第33項・第47項・第48項(平成15年10月31日、最終改正 平成31年1月16日)
- 企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」第55項、第78項
- 企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第24項
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第95条の2
- 法人税法 第62条の8 第1項から第8項
- IFRS 3 Business Combinations 34項・35項・36項
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