質問応答記録書にサインを求められたら|署名前に確認すること

税務調査の終盤に、調査担当者が用紙を取り出して、これまでのやり取りを読み上げ、最後に「内容に間違いがなければ、ここに署名と押印をお願いします」と言う。質問応答記録書と呼ばれる書面です。

その場では、自分が話したことがそのまま書かれているだけに見えます。断ると心証が悪くなるのではないかとも思います。しかし、この書面は後になって、重加算税を課すかどうかの判断材料として出てきます。署名した時点では気づかなかった一文が、意図的に隠したという評価につながることがあります。

この記事では、この書面が法令の中でどう位置づけられるのか(あるいは位置づけの規定が見当たらないのか)、署名を求められたときに何を確認すればよいのか、そして調査の最後に交付される別の書面との違いを、条文と国税庁の公表資料で確認できた範囲に絞って整理します。

🧭 質問応答記録書は法令にどう書かれているか

先に、確認できたことと確認できなかったことをはっきりさせておきます。

項目 確認できた範囲
調査で質問できる根拠 国税通則法第74条の2が、調査について必要があるときに質問し、帳簿書類その他の物件を検査し、その提示または提出を求めることができると定めています。
質問応答記録書という書面の根拠 国税通則法および国税庁が公表している法令解釈通達(手続通達)、事務運営指針「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について」、税務調査手続に関するFAQを確認した範囲では、この名称の書面について定めた規定は見当たりませんでした。
署名を義務づける規定 同じ範囲を確認しましたが、調査の相手方に書面への署名を求めることができる、あるいは署名しなければならないとする規定は見当たりませんでした。

確認できなかったことを「存在しない」と言い切ることはできません。ここで述べているのは、公表されている法令と国税庁の資料をあたった範囲では根拠が見当たらなかった、ということです。

この整理は、書面を軽く見てよいという話ではありません。むしろ逆で、法令上の義務として求められているものでないのなら、署名するかどうかは自分で判断できる、ということを意味します。判断できる以上、判断するための材料を持っておく必要があります。

🗣️ 罰則の対象になるのは何をしたときか

調査に協力しないと罰則がある、という話は広く知られています。ただ、条文が何を対象にしているかまでは意外と知られていません。国税通則法第128条は、次の行為を1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象としています。

第七十四条の二……の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査……を拒み、妨げ、若しくは忌避した者(第2号)/第七十四条の二から第七十四条の六まで……の規定による物件の提示若しくは提出……の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出し……た者(第3号)

並んでいるのは、答弁しないこと、偽りの答弁をすること、検査を拒み妨げ忌避すること、正当な理由なく提示・提出に応じないこと、偽りの記載をした物件を提示・提出することです。書面に署名しないことは、ここに挙がっていません。

図1 条文が求めていることと、罰則の対象法第74条の2が定めること質問する帳簿書類その他の物件を検査するその提示または提出を求める書面への署名は挙がっていない法第128条の罰則の対象答弁しない・偽りの答弁をする検査を拒み、妨げ、忌避する正当な理由なく提示・提出に応じない署名しないことは挙がっていない※ 公表されている法令と国税庁の資料を確認した範囲での整理です。

条文に書かれていることと、書かれていないこと

国税庁の税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)の問3も、罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず、必要とされる趣旨を説明し、納税者の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしている、と述べています。書面への署名も、この「理解と協力」の延長線上にある求めだと考えると位置づけが見えてきます。

🔥 なぜ作られるのか|重加算税との関係

調査の指摘の中でも、重加算税がかかるかどうかは金額の影響が大きく違います。国税通則法第68条第1項は、課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠蔽し、または仮装し、かつ、その隠蔽し、または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに、過少申告加算税に代えて100分の35の重加算税を課すと定めています。無申告の場合は同条第2項で100分の40です。

ここで問題になるのは、隠蔽または仮装があったかどうかを、どうやって示すかです。帳簿を破棄した、二重帳簿を作ったといった痕跡が残っていれば書類で示せますが、そこまで明確でない場合、本人が何を認識してその処理をしたのかが争点になります。調査での受け答えが記録として残されるのは、この文脈においてです。

図2 調査での受け答えが判断材料になるまで調査での受け答えなぜその処理をしたか誰が知っていたか書面に記録される問いと答えの形で残る署名を求められる重加算税の判断隠蔽・仮装があったか法第68条第1項・第2項※ 帳簿の破棄や二重帳簿のような痕跡がない場合ほど、本人が何を認識していたかが争点になります。

署名する場面と、その書面が使われる場面は離れている

国税庁が示している不正事実の例

国税庁の事務運営指針「法人税の重加算税の取扱いについて」は、隠蔽または仮装に当たる事実(不正事実)として、次のようなものを挙げています。

類型 指針が挙げている例
二重帳簿 いわゆる二重帳簿を作成していること。
帳簿書類の隠匿、虚偽記載等 帳簿、原始記録、証ひょう書類、決算に関係のある書類を破棄または隠匿していること。帳簿書類の改ざん、虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。帳簿書類の作成または記録をせず、売上げその他の収入の脱ろうまたは棚卸資産の除外をしていること。
簿外の資産・資金 簿外資産に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。簿外資金をもって役員賞与その他の費用を支出していること。

反対に、同じ指針は、次に掲げる場合で、その行為が相手方との通謀または証ひょう書類等の破棄、隠匿もしくは改ざんによるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない、としています。

場合 指針の書き方
売上げ等の繰延べ 売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき。
経費の繰上計上 経費の繰上計上をしている場合において、その経費がその翌事業年度に支出されたことが確認されたとき。
科目の付替え 確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等または寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合。

この2つの表の距離が、そのまま重加算税の分かれ目です。同じ期ズレでも、翌期に計上されていることが確認されれば隠匿・虚偽記載等に当たらないとされる一方、相手方との通謀や証ひょう書類の破棄が絡めば評価が変わります。記録書に書かれた一文が、どちらの側に寄せる材料になるのかという視点で読む必要があります。

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✍️ 署名を求められたら確認する5つのこと

署名するかどうかを決める前に、書面そのものを確かめます。読み上げを聞いただけで内容を判断するのは難しいので、自分の目で通して読ませてもらってください。

図3 署名を求められたときの進め方① 何のための書面で、どこに使われるのかを聞く② 読み上げを聞くだけでなく、自分で最初から最後まで読む③ 事実と、評価や推測が混ざっていないかを分けて見る④ 違うところ、言っていないことは、その場で直してもらう⑤ 迷うときは、その場で署名せず持ち帰って相談する

読み上げを聞くだけで判断しないための手順

確認する点 見るところ
言っていないことが入っていないか 要約の過程で、話していない言い回しが加わることがあります。とくに「わかっていた」「承知のうえで」といった認識に関する語は、自分の言葉かどうかを確かめます。
断定になっていないか 覚えていない、記録を見ないと分からない、と答えたはずの点が、断定の文になっていないかを見ます。記憶が曖昧なら、曖昧なままで書いてもらってかまいません。
前提が正しいか 質問の前提そのものが事実と違うことがあります。前提が誤ったままの問答は、答えだけを直しても意味が通りません。
期間や金額の特定 どの事業年度の、どの取引の話なのかが特定されているかを見ます。特定されていないと、他の期間にまで及ぶ話として読まれかねません。
写しをもらえるか 署名した書面の写しを受け取れるかを聞きます。手元に残らないと、後で何に署名したのかを確かめられません。

その場で署名しない選択をしたとしても、答弁自体を拒んだことにはなりません。答弁しないことと、書面への署名を留保することは別の話です。ただし、署名を断る理由をていねいに伝えないと、非協力的だと受け取られることがあります。内容を確かめたいので持ち帰りたい、と具体的に伝えるのが実務的です。

📝 事実と評価を分けて答える

署名の場面より前に、答え方の段階で分かれ道があります。調査で聞かれることには、事実を尋ねるものと、評価や意図を尋ねるものが混ざっています。

「この請求書はいつ受け取りましたか」は事実です。記録を見れば答えられます。一方、「この処理は売上を翌期に回すためですよね」は、事実の確認ではなく評価です。ここに同意すると、意図をもって処理したという記録が残ります。

答えられることは答え、分からないことは分からないと答える。この単純な線引きが、後になって効きます。記録や資料を確認しないと答えられない質問には、確認して回答すると伝えて、後で書面や数値をそろえて答えるほうが、正確な記録になります。

また、社長ひとりで答えるのではなく、その処理を実際に行った担当者に事実関係を確認したうえで答えることも大切です。経理の実務を離れている経営者が記憶で答えると、事実と違う内容が記録に残ってしまうことがあります。

📑 調査の最後に交付される書面とは別のものです

調査の終盤には、もうひとつ署名を求められる場面があります。こちらは根拠がはっきりしています。

国税通則法第74条の11第3項は、調査結果の説明をする際に修正申告または期限後申告を勧奨することができるとし、その場合には、修正申告書等を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならないと定めています。事務運営指針は、この書面を教示文と呼び、対面で交付する場合は交付送達の手続としての署名を求めることに留意する、としています。

比べる点 2つの書面の違い
根拠 教示文は国税通則法第74条の11第3項に交付が定められています。質問応答記録書については、確認した範囲では根拠となる規定が見当たりませんでした。
署名の意味 教示文への署名は、事務運営指針において交付送達の手続としての署名と位置づけられています。書かれている内容に同意したという意味ではありません。
内容 教示文の内容は、修正申告書等を提出した場合の法的効果です。調査でのやり取りは書かれていません。

同じ日に2つの書面へ署名を求められることがあります。どちらの書面なのかを確かめてから署名してください。

税務調査の連絡が来たら、まずご相談ください

事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

署名を断ると調査が長引きますか

署名しないことによる取扱いを定めた規定は、確認した範囲では見当たりませんでした。ただし調査は理解と協力を得て行うものとされていますから、断り方は結果に影響します。応じないという伝え方ではなく、内容を確認したいので時間をいただきたい、と具体的に伝えるほうが話が進みます。

訂正してほしいと言ったら応じてもらえますか

書面は自分が答えた内容を記録したものとして示されます。事実と違うのであれば、その旨を伝えて訂正を求めるのが筋です。応じてもらえない場合に、そのまま署名する義務があるかというと、署名を義務づける規定は確認できませんでした。訂正されないまま署名すると、その内容を認めたものとして扱われる余地が残ります。

顧問税理士がいない場でも署名してよいですか

その場に立ち会う人がいなければ、内容を落ち着いて確かめることが難しくなります。持ち帰って確認したい、税理士に見てもらいたいと伝えることは、答弁を拒むこととは別の話です。日程を改めて説明を受けることを相談してみてください。

従業員が署名した書面も会社に影響しますか

調査では、経理担当者や取引に関わった従業員が質問の相手方になることがあります。そこで残された記録も、会社の処理の経緯を示す材料として扱われます。誰に何を聞かれ、どう答えたのかを社内で共有しておくと、後の説明が食い違いません。

署名してしまったあとにできることはありますか

署名した書面そのものを取り消す手続は、確認した範囲では見当たりませんでした。もっとも、重加算税の賦課は書面ひとつで決まるものではなく、隠蔽または仮装の事実があったかどうかが問われます。事実関係を示す資料をそろえて説明することはできますし、更正処分がされた場合には不服申立ての手続もあります。早い段階で専門家に相談してください。

📄 まとめ

質問応答記録書について押さえておきたいのは3点です。1つめは、この書面や署名を義務づける規定が、公表されている法令と国税庁の資料を確認した範囲では見当たらなかったこと。第128条の罰則が対象としているのは答弁や検査、提示・提出に関する行為で、署名は挙がっていません。

2つめは、この書面が使われる場面が、署名する場面から離れていること。重加算税の判断は、隠蔽または仮装の事実があったかどうかで決まります。痕跡が残る類型ばかりではないため、本人が何を認識していたかを示す記録の比重が高くなります。

3つめは、事実と評価を分けて答えること。事実は答え、評価や意図の決めつけには同意しない。この線引きは、署名の場面より前から始まっています。迷ったときは、その場で決めずに持ち帰る選択肢があることを覚えておいてください。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

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