小規模宅地等の特例の要件とは?自宅330㎡まで8割減額をやさしく解説

「自宅の土地に相続税がかかると聞いて、家を売らないと払えないのではないかと不安です」——相続のご相談で、いちばん多いお悩みのひとつです。

この不安に応えるために設けられているのが、小規模宅地等の特例です。亡くなった方が住んでいた自宅の土地について、一定の面積までの評価額を8割減らすことができます。5,000万円の土地なら1,000万円として計算できる、という非常に大きな制度です。

ただし、誰が相続しても使えるわけではありません。この記事では、特例の中身と「誰が相続すれば使えるのか」という取得者の要件を、条文と国税庁の資料に沿ってやさしく整理します。

この記事でわかること

  • 自宅の土地は330㎡までの部分について評価額が80%減額される
  • 使えるのは配偶者・同居していた親族・一定の要件を満たす別居親族(いわゆる家なき子)
  • 老人ホームに入所していた場合でも、一定の要件を満たせば自宅として扱われる
  • 相続税がゼロになる場合でも、申告書を提出しなければこの特例は適用されない

🏠 小規模宅地等の特例とは?自宅の土地が8割引きになる制度

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)または被相続人と生計を一にしていた親族が、住まいや事業に使っていた土地について、一定の面積までの評価額を大きく減額できる制度です(租税特別措置法69条の4、国税庁タックスアンサー No.4124)。

条文は「課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に……各号に定める割合を乗じて計算した金額とする」という書き方をしており、自宅の土地(特定居住用宅地等)については「百分の二十」と定めています(措法69条の4第1項1号)。つまり、評価額の20%だけを相続税の計算に入れればよい=80%減額される、ということです。

※ 特例の対象になるのは、建物または構築物の敷地として使われていた宅地等(土地または土地の上に存する権利)です。更地や農地・採草放牧地は対象外です(No.4124)。

自宅の土地の評価額はどこまで下がるか(特定居住用宅地等) 相続税評価額 5,000万円 面積200㎡(330㎡以内) 80%を減額 ▲4,000万円 課税価格に入れるのは20% 課税価格に入る金額 1,000万円 5,000万円 × 20% 注意:330㎡を超える部分は減額されません。また、この特例は相続税の申告書を 提出することが適用の条件です(措法69条の4第7項)。

面積200㎡・評価額5,000万円の自宅土地に特例を適用した場合の考え方(当事務所作成)

📐 限度面積と減額割合:区分ごとの一覧

特例は自宅だけの制度ではありません。土地の使われ方によって、限度面積と減額割合が次のように分かれています(No.4124)。

土地の利用区分 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等(自宅) 330㎡ 80%
特定事業用宅地等(商店・工場など) 400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など) 200㎡ 50%

この記事で扱うのは、いちばん相談の多い1行目の「特定居住用宅地等」です。商店やアパートの敷地については、第30回「商店・アパートオーナーの相続税:事業用・貸付用の小規模宅地」で改めて取り上げます。

なお、自宅と事業用の土地を両方選ぶ場合、貸付事業用の土地がなければ330㎡と400㎡を合わせて最大730㎡まで使えます。一方、貸付事業用の土地を選ぶ場合は「(特定事業用等×200/400)+(特定居住用×200/330)+貸付事業用 ≦ 200㎡」という調整計算が必要になります(措法69条の4第2項、No.4124)。複数の土地がある場合は、どれを選ぶかで税額が変わるため、早めに専門家へご相談ください。

👤 誰が相続すれば使える?取得者ごとの要件

特定居住用宅地等は「被相続人の配偶者」または一定の要件を満たす親族が取得した場合に限って適用されます(措法69条の4第3項2号)。取得者ごとに要件が異なるのがこの特例の難しいところです。

取得する人 満たすべき要件
① 配偶者 取得者ごとの要件はありません。同居していなくても、申告期限前に売っても適用されます。
② 同居していた親族 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつその宅地等を申告期限まで持ち続けていること。
③ 別居の親族
(いわゆる家なき子)
被相続人に配偶者がおらず、同居していた相続人もいないことに加え、相続開始前3年以内に自分・配偶者・3親等内の親族・特別の関係がある法人が所有する家屋に住んでいないこと、いま住んでいる家をこれまで所有したことがないこと、宅地等を申告期限まで持ち続けていることなど、すべての要件を満たすこと。

③はもともと「持ち家のない子が親の家を引き継ぐ」ケースを想定した規定で、実務では「家なき子特例」と呼ばれています。要件が細かく、自分の持ち家を親族へ売って形式的に借家住まいにする、といった対応は封じられています(No.4124、措法69条の4第3項2号ロ)。

自宅の土地に特例が使えるか(取得者からみた判定の流れ) 自宅の土地を取得したのは誰か 配偶者 同居していた親族 別居の親族 追加の要件なし 適用できる 申告期限まで住み続け 土地を持ち続ける 満たせば適用できる 配偶者・同居相続人が おらず持ち家もない等 全要件を満たせば適用 注意:同居していない子が相続した場合、原則として特例は使えません。分け方を決める前に確認を。

特定居住用宅地等の取得者ごとの判定(措法69条の4第3項2号・No.4124をもとに当事務所作成)

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🏘️ 二世帯住宅・老人ホーム入所中の自宅はどうなる

二世帯住宅は「区分所有の登記があるか」で変わる

玄関が別々の二世帯住宅でも、建物全体が被相続人名義などで一棟の建物として登記されていれば、その建物に居住していた親族が取得した部分は特例の対象になり得ます。一方、建物の区分所有等に関する法律1条に該当する建物、つまり区分所有建物である旨の登記がされている建物の場合は、被相続人が居住していた部分だけが判定の対象となります(No.4124 注2・注3)。同じ建物の形でも、登記の仕方で結論が変わる点に注意が必要です。

老人ホームに入所していても対象になる場合がある

亡くなる直前は老人ホームで暮らしていた、というケースは少なくありません。この場合でも、次の要件を満たせば、入所直前の自宅の利用状況をもって「被相続人の居住の用」として扱われます(No.4124 注1)。

  • 被相続人が介護保険法上の要介護認定・要支援認定等を受けていたこと
  • 養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅などに入居・入所していたこと
  • 自宅を事業用や被相続人等以外の人の居住用に転用していないこと

※ 認定を受けずに入所していた場合や、空いた自宅を第三者に貸してしまった場合は対象外となります。空き家になった実家の扱いに迷ったら、貸す前にご相談ください。

🧾 申告が適用の条件:税額ゼロでも申告書を出す

もっとも見落とされやすいのがここです。措法69条の4第7項は、この特例は「相続税の申告書に適用を受けようとする旨を記載し、計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する」と定めています。特例を使った結果として相続税がゼロになる場合でも、申告書を出さなければ特例は適用されず、結果として税額が発生してしまいます。

また、この特例は原則として申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)までに遺産分割が終わっていることが必要です。未分割の場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておけば、申告期限から3年以内に分割されたときに特例を適用できます(措法69条の4第4項ただし書、No.4208)。訴訟などやむを得ない事情があるときは、税務署長の承認を受けて期間を延ばす取扱いもあります。

未分割のまま申告期限を迎えたときの流れ 相続開始 申告期限(10か月) 申告期限から3年 分割見込書を添付して いったん特例なしで申告 納税もこの時点で必要 3年以内に分割できれば 特例を適用して更正の請求 払いすぎた税額が戻る 遺産分割の協議 まとまれば通常どおり適用

申告期限までに分割できないときの取扱い(措法69条の4第4項・No.4208をもとに当事務所作成)

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自宅の土地に特例が使えるかどうかは、同居の有無・登記の状況・分け方によって変わります。分割の話し合いを始める前にご相談ください。

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📅 手続きのポイント:どこで・いつまでに・何を

📍 どこで:被相続人(亡くなった方)の住所地を所轄する税務署へ相続税の申告書を提出します。

いつまでに:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相法27条)。未分割のときは分割見込書を添えて、いったん期限内に申告します。

🧾 何を:相続税の申告書(特例の適用を受ける旨の記載)、小規模宅地等についての課税価格の計算明細書、遺産分割協議書の写しなど一定の書類(措法69条の4第7項、No.4124)。

❓ よくある質問

Q. 自宅を売る予定ですが、特例は使えますか。

配偶者が取得した場合は、取得者ごとの追加要件がないため、申告期限前に売却しても特例の適用が否定されるものではありません。一方、同居親族や別居親族が取得する場合は「申告期限まで宅地等を有していること」が要件ですので、申告期限前に売ると適用できません(措法69条の4第3項2号、No.4124)。売却の時期は申告の見通しを立ててから決めることをおすすめします。

Q. 相続税がゼロになるなら、申告しなくてもよいですか。

いいえ。この特例を使ってゼロになる場合は、申告書の提出が適用の条件です(措法69条の4第7項)。申告しなければ特例は適用されず、本来の評価額で税額が計算されることになります。

Q. 自宅の土地が330㎡を超えています。まったく使えないのですか。

使えます。330㎡までの部分について80%減額され、超える部分は減額されない、という形になります。面積が大きい土地ほど、限度面積の範囲でどの土地を選ぶかが重要になります。

📝 まとめ

  • 自宅の土地は330㎡までの部分について評価額が80%減額される(措法69条の4、No.4124)
  • 使えるのは配偶者・同居していた親族・要件を満たす別居親族(家なき子)に限られる
  • 二世帯住宅は区分所有登記の有無、老人ホームは要介護認定等の有無で結論が変わる
  • 税額がゼロでも申告書の提出が適用の条件。未分割なら分割見込書で3年以内の分割に備える

相続手続き全体の流れは第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」、財産の調べ方は第7回「相続財産の調べ方は?」で解説しています。連載全30回の一覧は相続税 完全ガイドからご覧ください。次回は第17回「不動産の相続税評価:路線価の調べ方とマンションの新ルール」を取り上げます。

監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷1丁目)。上野・浅草・入谷を中心に、相続税の申告と生前対策のご相談をお受けしています。

優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は2026年9月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

参考国税庁タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)同 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告e-Gov法令検索 租税特別措置法(69条の4)

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