遺産分割協議書の作り方とは?相続人全員の署名押印と進め方を解説

相続人どうしで話し合って財産の分け方を決める——それが遺産分割協議です。とはいえ「誰と、どこまで話し合えばいいのか」「協議書はどう書けばいいのか」「話がまとまらなかったらどうなるのか」と、不安に感じる方は少なくありません。

実は、遺産分割協議そのものに法律上の期限はありません。しかし相続税の申告期限(10か月)や相続登記の申請義務(3年)は待ってくれないため、放っておくと不利になる場面があります。この記事では、協議の進め方4ステップ、協議書に書くべき内容、まとまらないときの家庭裁判所の手続きまでを整理します。

🗒️ この記事でわかること

  • 遺産分割協議は誰が参加し、いつまでにすればよいのか(民法907条)
  • 遺産分割協議の進め方4ステップと、分け方の3つの方法
  • 遺産分割協議書に書くべき内容と、実印・印鑑証明書のルール
  • まとまらないときの家庭裁判所の調停・審判の使い方と費用
  • 10か月の申告期限に間に合わないときの「未分割申告」と分割見込書

📄 遺産分割協議とは?相続人全員でする話し合い

人が亡くなると、その方の財産に属した一切の権利義務は、相続開始の時から相続人が承継します(民法896条)。相続人が複数いれば、財産はいったん全員の共有状態になります。この共有を解いて「誰が何を取得するか」を決める話し合いが遺産分割協議です。

民法907条1項は、共同相続人は「いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定めています。つまり協議そのものに法律上の期限はありません(被相続人が遺言で分割を禁じた場合などは除かれます/民法908条)。

分け方の基準については、民法906条が「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定めています。法定相続分はあくまで目安であり、相続人全員が納得すれば、どのような割合で分けてもかまいません。なお遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼって生じます(民法909条)。

参加が必要なのは「相続人全員」

遺産分割協議は、相続人のうち1人でも欠けていると無効になります。連絡が取れない相続人がいる、遠方に住んでいる、といった事情があっても、全員の合意が必要です。誰が相続人になるかは戸籍で確定します(第1回:親が亡くなったら何をする?相続手続きの流れと期限一覧もあわせてご覧ください)。

未成年者や判断能力が十分でない方が相続人に含まれる場合は、特別代理人や成年後見人などの選任が必要になることがあります。該当しそうなときは早めに専門家にご相談ください。

📅 遺産分割協議の進め方4ステップ

遺産分割協議は、いきなり「誰が何をもらうか」から始めるとつまずきます。相続人と財産を確定させてから話し合うのが順序です。

遺産分割協議の進め方 4ステップSTEP 1相続人を確定戸籍をたどって全員を確認するSTEP 2財産を確定残高証明や登記で財産目録を作るSTEP 3分け方を協議相続人全員の合意が必要STEP 4協議書を作成実印を押して印鑑証明を添付協議自体に法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限は10か月です(相法27条)

相続人と財産を確定させてから分け方を話し合うのが基本の順序です。

STEP1 相続人を確定する

被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)をすべて集め、相続人が誰かを確定します。法務局の法定相続情報証明制度を使うと、一覧図の写しを各種手続で使い回せて便利です。

STEP2 財産を確定する

預貯金の残高証明書、不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書、証券会社の残高報告書などを集め、財産目録を作ります。借金などのマイナスの財産も忘れずに確認してください。借金が多いときは3か月以内の判断が必要です(第8回:相続放棄の期限は3か月!手続き・費用・限定承認との違い)。

STEP3 分け方を話し合う

分け方には主に次の3つの方法があり、組み合わせて使うこともできます。

分け方 内容 向いている場面・留意点
現物分割 財産をそのままの形で、誰がどれを取得するかを決める方法 もっとも一般的。財産の種類が多いほど、金額のバランスを取りにくくなります
代償分割 特定の相続人が不動産などを取得し、他の相続人へ代償金を支払う方法 自宅を分けたくないときに使われます。代償金を用意できるかが前提になります
換価分割 財産を売却して現金化し、その代金を分ける方法 公平に分けやすい一方、売却に時間がかかり、譲渡所得税が生じる場合があります

STEP4 遺産分割協議書を作成する

合意した内容を書面にします。口約束でも協議自体は成立しますが、預貯金の解約や相続登記、相続税の申告では書面の提出を求められるため、必ず作成してください。

🧾 遺産分割協議書に書くべきこと

決まった書式はありません。ただし、金融機関や法務局に提出して通用する内容である必要があります。最低限、次の項目を押さえておきましょう。

  • 被相続人の氏名・死亡年月日・最後の本籍・最後の住所
  • 相続人全員が協議して合意した旨
  • 不動産は登記事項証明書のとおりに(所在・地番・家屋番号・地目・地積など)記載
  • 預貯金は金融機関名・支店名・預金種別・口座番号まで記載
  • 後日判明した財産を誰が取得するかを定める条項
  • 作成年月日と、相続人全員の住所・氏名の記載および実印による押印

不動産を「自宅の土地建物」といった曖昧な書き方にすると、相続登記が受け付けられないことがあります。登記事項証明書を手元に置き、記載を書き写してください。

実印と印鑑証明書のルール

法務局の案内では、遺産分割協議書には印鑑証明書と同じ印(実印)を押し、相続人各1通の印鑑証明書を添付するとされています。相続登記に使う印鑑証明書については、作成から3か月以内のものでなくてもよいとされています。

印鑑証明書の有効期限の扱いは提出先(金融機関・法務局・税務署など)によって異なる場合があるため、事前にご確認ください。印鑑登録・印鑑証明書の取得は、お住まいの区市町村(台東区にお住まいなら台東区役所)の窓口で行います。

遺産分割の内容で相続税額は大きく変わります

誰がどの財産を取得するかによって、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えるかどうかが変わります。台東区(上野・浅草・入谷)で相続税のご相談は当事務所へ。お問い合わせフォームからご連絡ください。

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⚖️ まとまらないときは家庭裁判所へ

話し合いがつかないときは、家庭裁判所の遺産分割の調停または審判の手続を利用できます。民法907条2項は、協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求できると定めています。

段階 どこで・誰が決めるか 費用・進み方
遺産分割協議 相続人どうしの話し合い。全員の合意で成立します 費用はかかりません。合意できれば協議書を作成します
遺産分割調停 相続人の1人または何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立て、調停委員を交えて話し合います 被相続人1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手(郵便料は裁判所ごとに異なります)
遺産分割審判 調停が不成立になると自動的に審判手続が開始され、裁判官が判断します 裁判官が、遺産に属する物や権利の種類・性質その他一切の事情を考慮して審判します

📍 どこで 相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所。台東区にお住まいの方が相手方なら東京家庭裁判所(千代田区霞が関)です。

⏰ いつまでに 申立て自体に期限はありませんが、相続税の申告期限(10か月)と相続開始から10年の区切りを意識して動きます。

🧾 何を持って 申立書、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と住民票(または戸籍附票)、遺産に関する証明書(登記事項証明書・固定資産評価証明書・残高証明書など)。戸籍等に代えて法定相続情報一覧図の写しを提出できる場合もあります。

10年を過ぎると「具体的相続分」を主張できなくなる

令和3年の民法改正で新設された民法904条の3により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割では、原則として特別受益や寄与分を反映した「具体的相続分」による分割を主張できず、法定相続分(または指定相続分)が基準になります。ただし、10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたときなどは例外とされています。

長く放置するほど選択肢が狭まる、と考えておくとよいでしょう。

⏰ 10か月に間に合わないときの「未分割申告」

相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行います。分割が終わっていないことを理由に、この期限が延びることはありません。

協議が成立していないときは、各相続人が民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税を計算し、申告と納税をします(相続税法55条)。これを未分割申告といいます。

申告期限に間に合わないときの流れ(未分割申告)相続開始10か月3年以内+4か月亡くなった日相続税の申告期限法定相続分で申告し分割見込書を添付申告期限から3年以内に分割が成立特例を適用できる更正の請求または修正申告をする更正の請求は、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です(No.4208)

未分割のまま申告し、後から分割が成立したときに税額を精算する流れです。

未分割だと使えない特例がある

未分割申告では、次のような特例を当初申告で適用できません。相続税額が本来より大きくなり、いったん多めに納税することになります。

特例 内容 未分割のときの扱い
配偶者の税額の軽減(相法19条の2) 配偶者が取得した財産について相続税額を軽減する制度 当初の未分割申告では適用できません
小規模宅地等の特例(措法69条の4) 自宅や事業用の宅地等の評価額を減額できる制度 当初の未分割申告では適用できません

ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割が成立した場合にこれらの特例の適用を受けられます。当初の税額より少なくなる場合は「更正の請求」を、多くなる場合は「修正申告」を行います。更正の請求ができるのは、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内です。

3年を経過してもなお訴訟中などやむを得ない事情で分割できないときは、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出して承認を受ける手続があります。

相続税の申告先は、被相続人の死亡の時における住所地を所轄する税務署です。台東区の下谷地区は東京上野税務署(台東区池之端1-2-22)、浅草地区は浅草税務署(台東区蔵前2-8-12)が管轄です。期限の異なる手続として第9回:準確定申告とは?期限4か月・必要な人と不要な人もあわせてご確認ください。

なお、不動産を相続したときは3年以内に相続登記を申請する義務があります(不動産登記法76条の2)。期限内の申請が難しい場合は、不動産を管轄する法務局(台東区の不動産は東京法務局台東出張所)への「相続人申告登記」の申出で義務を果たせますが、これで遺産分割に基づく相続登記の申請義務まで履行できるわけではありません。

❓ よくある質問

Q. 遺産分割協議書は相続人全員が集まって同時に作らないといけませんか?

A. 必ずしも一堂に会する必要はありません。書面を各相続人が順番に署名・押印していく持ち回りの方法や、同一内容の書面を人数分作成して各自が署名・押印する方法も実務上使われています。いずれの場合も、相続人全員の合意が前提である点は変わりません。

Q. いったん成立した遺産分割協議をやり直せますか?

A. 相続人全員が合意すれば、変更すること自体は可能です。ただし税務上は、当初の分割で取得した財産をあらためて相続人間で贈与・譲渡したものとして扱われる場合があり、贈与税や譲渡所得税の問題が生じ得ます。やり直しの前に税理士にご相談ください。

Q. 相続税がかからない場合でも協議書は必要ですか?

A. 相続税の申告が不要な場合でも、預貯金の解約や不動産の相続登記の場面で提出を求められます。相続税の有無にかかわらず、書面にしておくことをおすすめします。

📝 まとめ

  • 遺産分割協議は相続人全員で行い、1人でも欠けると無効になります(民法907条1項)
  • 進め方は、相続人の確定→財産の確定→分け方の協議→協議書の作成の順です
  • 不動産は登記事項証明書のとおりに特定し、実印を押して印鑑証明書を添付します
  • まとまらないときは家庭裁判所の調停(収入印紙1,200円+郵便切手)、不成立なら審判です
  • 相続開始から10年を過ぎると、原則として具体的相続分を主張できなくなります(民法904条の3)
  • 10か月に間に合わなければ法定相続分で未分割申告し、分割見込書を添付します(相法55条・No.4208)

連載の全体像は相続税 完全ガイド(全30回の目次)でご確認いただけます。次回は第11回「相続税はいくらから?基礎控除3,600万円の壁をわかりやすく」をお届けします。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷1丁目)

優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

台東区(上野・浅草・入谷)を中心に、相続税の申告・生前対策のご相談を承っています。

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、記事の内容は執筆時点の法令等に基づいています。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。

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🔗 参考

e-Gov法令検索:民法(896条・904条の3・906条〜909条)
国税庁 タックスアンサー No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
国税庁 B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続
国税庁 B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続
裁判所:遺産分割調停
法務省:相続人申告登記について
法務局:登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)

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