※本記事は2026年10月12日時点の公表資料に基づきます。
常勤監査役と常任監査役の違い
常勤監査役は、会社法390条の「常勤の監査役」のことで、監査役会設置会社では監査役会が監査役の中から選定しなければなりません。一方の「常任監査役」は、会社法・会社法施行規則・会社計算規則のいずれにも出てこない語で、法令上の地位ではなく会社が任意に付ける呼称です。
- 常勤の監査役の選定・解職は監査役会の職務で、選定しないと百万円以下の過料の対象になります(会社法390条・976条24号)
- 会社法に「常勤」の定義はなく、週何日以上といった基準も条文にはありません
- 「常任監査役」の意味は会社ごとに違うため、監査役会の選定決議があるかどうかで扱いを確かめます
2026年10月12日更新
役員の一覧を見ていると、「常勤監査役」と書く会社もあれば、「常任監査役」と書く会社もあります。字面が似ているため同じものだと受け取られがちですが、法令上の扱いはまったく違います。上場準備で監査役会を置くときに、この区別があいまいなまま呼称だけを決めてしまうと、会社法が求める手続を踏んだかどうかが分からなくなります。
結論からいえば、常勤監査役は会社法に根拠がある役割で、監査役会の決議で選びます。常任監査役は会社法令に出てこない社内の呼称で、そう呼ぶだけでは常勤の選定をしたことになりません。この記事では、条文で確認できる事実だけを使って、2つの違いと、あわせて出てくる非常勤・社外・特定監査役などの呼称を整理します。
常勤監査役とは
常勤監査役は、会社法390条に出てくる「常勤の監査役」のことです。同条は監査役会の権限等を定めた条文で、1項が監査役会はすべての監査役で組織すると定め、2項が監査役会の職務として、監査報告の作成、常勤の監査役の選定及び解職、監査の方針などの決定を掲げています。そして3項が、監査役会は監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならないとしています。
図1 常勤の監査役の選定は、監査役会の職務として定められています。
つまり、常勤監査役は株主総会が直接選ぶ地位ではありません。株主総会で選任された監査役の中から、監査役会が選定する役割です。監査役会の決議は、会社法393条1項により監査役の過半数をもって行います。
選定を怠った場合の定めもあります。会社法976条24号は、390条3項の規定に違反して常勤の監査役を選定しなかったときを、百万円以下の過料に処すべき行為として挙げています。監査役会設置会社にとって、常勤の選定は任意の工夫ではなく法律上の義務です。
「常勤」の定義は会社法にない
会社法には「常勤」の定義規定が置かれていません。週何日以上勤務すれば常勤といった数値の基準も、条文には見当たりません。常勤監査役を置く義務がどの機関設計にあるのか、常勤の意味をどう考えるかは、常勤監査役は必要か|置く義務があるのは監査役会設置会社で詳しく扱っています。
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常任監査役とは
「常任監査役」という語は、会社法令に出てきません。e-Gov法令検索の法令データで会社法、会社法施行規則、会社計算規則を検索すると、「常勤」は会社法に3回、会社法施行規則に2回出てくるのに対して、「常任」はいずれの法令にも1回も出てきませんでした。
図2 e-Gov法令検索の法令データで語を検索した結果です(2026年10月12日時点)。施行規則の2回は、常勤の監査等委員・監査委員に関する規定です。
会社法の3回は、390条2項2号、同条3項、976条24号です。会社法施行規則の2回は、事業報告に常勤の監査等委員・常勤の監査委員の選定の有無とその理由を書かせる規定(121条10号イ・ロ)です。法令のどこにも根拠がない以上、「常任監査役」は会社が任意に付けている呼称であり、その意味は会社ごとの定めで決まります。
日本監査役協会の監査役監査基準も、2021年12月の改定で、第4条の「常勤監査役」という表記を、会社法390条と同じ「常勤の監査役」に改めています。
図3 呼称ではなく、監査役会の選定決議があるかどうかで判断します。
実務で気をつけたいのは、呼称と法的な手続を取り違えないことです。社内で「常任監査役」と呼ばれている人がいても、監査役会で常勤の監査役として選定する決議がなければ、390条3項の選定をしたことにはなりません。逆に、選定決議があれば、名刺や社内文書での呼び方が「常任」でも、その人が常勤の監査役です。
図4 常勤監査役は法令上の役割、常任監査役は社内の呼称です。
監査役に付くほかの呼称との関係
監査役には、常勤・常任のほかにも、非常勤、社外、独立役員、特定監査役といった呼称が付きます。このうち法令に根拠があるものと、そうでないものを分けておくと、役員一覧や議事録を読むときに迷いません。
図5 法令に根拠がある区分と、会社が任意に付ける呼称が混在しています。
| 呼称 | 法令上の根拠 | だれが決めるか | 押さえておく点 |
|---|---|---|---|
| 常勤監査役 | 会社法390条2項2号・3項 | 監査役会 | 監査役会設置会社では選定が義務 |
| 非常勤監査役 | 会社法令に「非常勤」の語はない | - | 常勤に選定されていない監査役を実務上こう呼ぶ |
| 社外監査役 | 会社法2条16号 | 要件を満たすかで決まる | 監査役会設置会社では半数以上が必要(335条3項) |
| 独立役員 | 取引所の有価証券上場規程 | 会社が確保する | 上場会社は1名以上の確保が必要 |
| 特定監査役 | 会社法施行規則132条5項ほか | 監査役会が定める(定めなければ全員) | 監査報告の内容を通知する役割 |
| 常任監査役 | 会社法令に規定なし | 会社の定めによる | 意味は会社ごとに異なる |
「非常勤」という語も、会社法と会社法施行規則には出てきません。常勤の監査役に選定されていない監査役を、実務上そう呼んでいるだけです。社外監査役は会社法2条16号の要件、たとえば就任の前10年間その会社や子会社の取締役・使用人等でなかったことなどを満たす監査役で、常勤かどうかとは別の軸です。社外監査役を常勤に選定することを禁じる規定はなく、390条3項は「監査役の中から」選定するとだけ定めています。
特定監査役は監査報告の通知役
特定監査役は、会社法施行規則132条5項に定義がある語です。監査報告の内容を特定取締役に通知する役割の監査役を指し、監査役会設置会社では、監査役会が通知をすべき監査役を定めた場合はその監査役、定めていない場合は全ての監査役が特定監査役になります。会計監査人からの会計監査報告の通知を受ける監査役についても、会社計算規則130条5項に同じ形の定めがあります。
図6 特定監査役は、監査報告の内容を特定取締役に通知する役割を担う監査役です。
常勤の監査役を特定監査役に定めることはできますが、法令が常勤であることを求めているわけではありません。日本監査役協会の監査役監査基準は、特定監査役などを選定する際に、社内・社外や常勤・非常勤の別、専門知識の有無などを考慮するものとしています。
架空のC社で整理する
監査役会設置会社のC社(架空)には、社内出身のA氏と、社外のB氏・C氏の3人の監査役がいます。社外監査役が2人で、335条3項の「3人以上で、そのうち半数以上は社外監査役」を満たしています。監査役会はA氏を常勤の監査役に選定し、社内ではA氏を「常任監査役」と呼んでいます。
図7 社外監査役2人で半数以上を満たし、監査役会がA氏を常勤に選定した例です。
この場合、A氏が常勤の監査役であることの裏付けは、監査役会の選定決議と議事録です。「常任監査役」という呼び方は社内の慣行で、それ自体に法的な意味はありません。仮にA氏が退任して後任が決まらないまま、社内で別の人を「常任」と呼び始めても、監査役会で選定し直さなければ常勤の監査役は欠けたままです。
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常勤監査役の選定・解職の手続
監査役そのものを選ぶ・辞めさせる手続と、その中から常勤を選ぶ・外す手続は、決める機関が違います。監査役の選任は株主総会の決議で行い(329条1項)、取締役が選任議案を株主総会に出すには監査役会の同意が必要です(343条1項・3項)。監査役の解任は株主総会の特別決議です(309条2項7号)。
図8 常勤を解職しても、監査役の地位を失わせることにはなりません。
| 手続 | 決める機関 | 決議の方法 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 監査役の選任 | 株主総会 | 株主総会の決議(議案には監査役会の同意) | 会社法329条1項・343条 |
| 監査役の解任 | 株主総会 | 特別決議 | 会社法339条1項・309条2項7号 |
| 常勤の監査役の選定 | 監査役会 | 監査役の過半数 | 会社法390条2項2号・3項、393条1項 |
| 常勤の監査役の解職 | 監査役会 | 監査役の過半数 | 会社法390条2項2号、393条1項 |
常勤の選定と解職は、監査役会の職務です。決議は監査役の過半数で行い、議事録を作成します(393条2項)。常勤を解職しても、その人は監査役のままです。監査役の地位を失わせるには、株主総会での解任決議が要ります。
図9 選定の決議を議事録に残すことで、常勤の監査役がだれかを後から確かめられます。
決議に必要な賛成の数を、監査役の人数ごとに確かめておきましょう。
図10 会社法393条1項の「監査役の過半数」にあてはめた数です。
監査役の任期や補欠の選び方は、監査役の任期4年をどう合わせるか|就任時期のずれと補欠監査役で扱っています。
監査等委員会設置会社などの「常勤」
監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社には監査役がいません。そのため「常勤監査役」も「常任監査役」も本来は登場しませんが、「常勤の監査等委員」「常勤の監査委員」という形で常勤が問題になります。
図11 監査等委員会設置会社などでは、選定の有無とその理由を事業報告で説明します。
会社法施行規則121条10号は、事業報告の記載事項として、監査等委員会設置会社では常勤の監査等委員の選定の有無とその理由を、指名委員会等設置会社では常勤の監査委員の選定の有無とその理由を掲げています。選定しないことも制度上想定されており、その場合は理由を説明することになります。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?IPO準備での判断軸をご覧ください。
上場準備と上場審査での常勤監査役
上場審査では、常勤監査役が前に出る場面がはっきり決まっています。東証の新規上場ガイドブックによると、審査期間中の監査役面談は原則として常勤監査役が対象で、実施している監査の状況や会社の課題が確認されます。審査の最後の社長説明会にも、情報取扱責任者となる方とともに常勤監査役の同席が求められています。
図12 新規上場ガイドブックに記載された手続です。
審査担当者は、監査を担当する公認会計士からも、経営者や監査役等とのコミュニケーションの状況を聞き取ります。常勤監査役が会計監査人や内部監査とどう連携してきたかは、ここでも確かめられます。三者の連携は監査役監査・内部監査・会計監査はどう違うか|三様監査の連携で整理しています。
金融庁が公表した有価証券報告書の記述情報の好事例集には、監査役監査の状況として、常勤と非常勤の監査役それぞれの活動状況を書き分けた開示例が載っています。上場後も、常勤の監査役が何をしているかは外から見られるということです。
図13 呼称を使う場合も、法的な裏付けとなる選定決議と記録をそろえておきます。
社内で「常任監査役」などの呼称を使うのは自由です。ただし、使うのであれば、それが常勤の監査役を指すのかどうかを監査役会規程や社内の定めで明らかにし、法的な裏付けとなる選定決議を議事録に残しておいてください。監査役に求められる会計の知見については監査役に会計の知識は必要か|財務及び会計に関する相当程度の知見もあわせてご覧ください。
- 監査役会設置会社であれば、監査役会で常勤の監査役を選定している
- 選定の決議を監査役会の議事録に残している
- 「常任監査役」などの呼称を使う場合、その意味を社内で定めている
- 役員一覧・議事録・社内文書で、だれが常勤かが食い違っていない
- 特定監査役をだれにするかを監査役会で定めている(定めなければ全員)
- 常勤の監査役が退任したとき、後任を選定する手順を決めている
よくある質問
同じではありません。常勤監査役は会社法390条に根拠がある役割で、監査役会が選定します。常任監査役は会社法令に出てこない呼称で、意味は会社ごとの定めによります。社内で常勤の監査役を「常任監査役」と呼んでいる場合もありますが、その場合も法的な裏付けは監査役会の選定決議です。
ありません。会社法、会社法施行規則、会社計算規則のいずれにも「常任監査役」という語は出てきません。義務があるのは、監査役会設置会社における常勤の監査役の選定です(会社法390条3項)。
常勤の監査役の解職は監査役会の職務で、監査役の過半数で決議します(会社法390条2項2号、393条1項)。解職しても監査役の地位は残ります。監査役そのものを解任するには株主総会の特別決議が必要です。
会社法390条3項は「監査役の中から」常勤の監査役を選定すると定めるだけで、社外監査役を除く規定はありません。社内か社外かと、常勤か非常勤かは別の区分です。
最初の一歩は、監査役会の議事録で常勤の選定決議を探すことです
役員一覧で「常勤」や「常任」と書かれている人について、監査役会の議事録に選定の決議があるかを確かめてください。見つからなければ、次回の監査役会で選定を決議し、議事録に残します。あわせて、社内で使っている呼称の意味を監査役会規程にそろえておくと、上場審査の書類との食い違いを防げます。
まとめ
常勤監査役は、会社法390条の「常勤の監査役」で、監査役会設置会社では監査役会が監査役の中から選定しなければならず、怠ると過料の対象になります。会社法に常勤の定義はありません。
常任監査役は、会社法・会社法施行規則・会社計算規則のいずれにも出てこない、会社が任意に付ける呼称です。呼称を使うこと自体は問題ありませんが、法的な裏付けは監査役会の選定決議です。上場準備では、選定決議と議事録、呼称の社内での定義をそろえておきましょう。
※本記事の計算例・事例は、説明のために作成した架空のものです。
機関設計の選択、監査役会規程や監査役監査基準の作成、常勤・非常勤の分担を決めた監査計画づくり、議事録の整備まで、上場審査で説明できる形に整えます。上場準備の実務を経験した公認会計士・税理士が直接対応します。支援の内容と進め方はIPO支援業務のページにまとめています。初回のご相談は無料です。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- e-Gov法令検索「会社法」(2条16号、309条2項7号、329条1項、335条3項、339条1項、343条、390条、393条、976条24号)
- e-Gov法令検索「会社法施行規則」(121条10号、132条5項)
- e-Gov法令検索「会社計算規則」(130条5項)
- 日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」(監査役面談・社長説明会)
- 日本監査役協会「監査役監査基準」新旧対照表(2021年12月16日改定)
- 金融庁「記述情報の開示の好事例集」(監査の状況)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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