※本記事は2026年10月12日時点の公表資料に基づきます。
利益相反取引とは
利益相反取引とは、取締役が会社と取引をする場合(直接取引)や、会社が取締役の債務を保証するなど会社と取締役の利益がぶつかる取引(間接取引)のことです。会社法356条1項2号・3号に定めがあり、取締役は取引の前に重要な事実を開示して、取締役会(取締役会を置かない会社では株主総会)の承認を受けなければなりません。
- 直接取引は2号、間接取引は3号。どちらも事前の承認が必要です
- 取締役会設置会社では、取引の後に遅滞なく取締役会へ報告します(365条2項)
- 会社に損害が出ると、承認に賛成した取締役も任務懈怠を推定されます(423条3項)
2026年10月12日更新
会社が社長から事務所を借りている。社長が代表を務める別会社に仕事を出している。社長の銀行借入を会社が保証している。中小企業では珍しくない取引ですが、会社法ではこれらをまとめて「利益相反取引」と呼び、承認の手続を求めています。
結論からいえば、利益相反取引は「会社と取締役が当事者になる直接取引」と「会社が取締役のために負担を負う間接取引」の2つで、どちらも取引の前に重要な事実を開示して承認を受け、取締役会設置会社では取引の後に報告します。この記事では、条文に沿って対象の見分け方、承認と報告の手続、承認がない場合の効力と責任、監査役の役割、上場準備で何が問われるかを順に整理します。
この記事の見出し
利益相反取引とは何か|会社法356条1項2号・3号
会社法356条1項は、取締役が株主総会において重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない場面を3つ挙げています。1号が競業取引、2号が会社との取引、3号が会社と取締役の利益が相反する取引です。一般に、2号を直接取引、3号を間接取引と呼び、この2つをあわせて利益相反取引といいます。
取締役が自ら取引の相手方になると、会社に不利な条件でも自分には有利という状況が生まれます。そこで取引の内容を開示させ、会社として是非を判断させる仕組みにしています。取引そのものを禁止しているわけではありません。
図1 2号の直接取引と3号の間接取引をあわせて利益相反取引と呼びます
直接取引(2号)
2号は、取締役が「自己又は第三者のために」株式会社と取引をしようとするときです。取締役本人が会社から物を買う、会社に土地を貸す、会社からお金を借りるといった取引が典型です。「第三者のために」には、取締役が別の会社の代表者として会社と取引をする場面が含まれます。社長が代表取締役を務める乙社と、社長が取締役である甲社の取引は、甲社にとって直接取引になります。
図2 取締役本人が相手方になる場合も、取締役が代表する別会社が相手方になる場合も直接取引です
間接取引(3号)
3号は、株式会社が取締役の債務を保証することその他、取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするときです。契約の当事者は会社と銀行などの第三者で、取締役は当事者ではありません。それでも、会社が負担を負い、取締役が利益を受ける関係にあるため、承認の対象になります。社長の借入を会社が保証する、社長の債務を会社が引き受ける、社長の借入のために会社の資産に担保を設定する、といった取引が該当します。
図3 会社と取締役は契約の当事者ではありませんが、会社が負担を負い取締役が利益を受けます
| 項目 | 直接取引 | 間接取引 |
|---|---|---|
| 条文 | 356条1項2号 | 356条1項3号 |
| 契約の当事者 | 会社と取締役(または取締役が代表する会社) | 会社と第三者(銀行など) |
| 典型例 | 役員からの賃借、役員への貸付、役員が代表する会社との売買 | 役員の借入の保証、役員の債務の引受け、役員のための担保提供 |
| 承認 | 取引の前に必要 | 取引の前に必要 |
| 428条の無過失責任 | 自己のためにした取引は対象 | 対象外(423条3項の推定は及ぶ) |
判定は、まず取引の相手方を見ます。相手方が取締役本人か取締役が代表する会社なら直接取引、そうでなければ会社と取締役の利益が相反するかを考えます。保証や債務引受のように会社の負担と取締役の利益が表裏の関係にあれば間接取引です。
図4 直接取引・間接取引のどちらに当たっても、取引の前に承認を受けます
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承認の手続|取締役会設置会社と取締役会を置かない会社
356条1項の条文上、承認をするのは株主総会です。ただし、取締役会設置会社では365条1項によって「株主総会」が「取締役会」に読み替えられます。つまり、取締役会を置く会社では取締役会の承認、置かない会社では株主総会の承認です。株主総会で承認する場合は、309条1項の普通決議(定款に別段の定めがなければ、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数で決議)によります。
図5 取締役会を置く会社では取締役会が承認し、取引後の報告義務も加わります
条文は「取引をしようとするとき」に承認を受けると定めていますので、事前の承認が原則です。継続的な取引をまとめて承認する運用も見られますが、その場合は対象と基準を取締役会で決めておくと説明がしやすくなります。運用の詳細は利益相反取引の承認と事後報告|取締役会の決議と報告のタイミングで取り上げています。
重要な事実を開示する
承認を求める取締役は、取引の「重要な事実」を開示します。条文に列挙はありませんが、承認する側が是非を判断できるだけの情報と考えるのが素直です。相手方、取引の種類と目的、数量と金額、期間、支払や担保などの条件は最低限そろえます。
あわせて、条件が会社にとって不利でないことを示す資料(賃借なら近隣の賃料相場、外注なら他社の見積など)も用意します。条文上の開示事項ではありませんが、後で監査役や上場審査で説明を求められたときに、承認の時点で何を見て判断したのかを示せます。
図6 取締役会が取引の是非を判断できるだけの情報を、資料にして配ります
当事者の取締役は議決に加われない
369条2項は、決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないと定めています。利益相反取引の当事者となる取締役はこれに当たります。369条1項の定足数と決議要件は「議決に加わることができる取締役」を基準に数えますので、当事者は分母からも外れます。
取締役が3人で、そのうち1人が当事者なら、残る2人のうち過半数、つまり2人の出席と2人の賛成が必要です。1人でも欠席すれば決議ができません。取締役会の議事録には、特別の利害関係を有する取締役の氏名を記載します(会社法施行規則101条3項5号)。
図7 特別の利害関係を有する取締役は定足数の計算からも外れます(369条1項・2項)
図8 承認は取引の前、報告は取引の後です。どちらも議事録に残します
取引後の報告|365条2項
取締役会設置会社では、356条1項各号の取引をした取締役は、取引の後、遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。承認とは別の義務で、承認を受けた取引でも、実際に行ったら報告します。報告で述べられた内容の概要は取締役会議事録の記載事項です(会社法施行規則101条3項6号イ)。
「遅滞なく」は日数で決まっていません。取引を行った後の最初の取締役会で報告する運用が分かりやすく、議事録にも残しやすい方法です。継続的な取引では、契約の締結時・更新時・条件の変更時など、報告の単位を決めておきます。
図9 社長から事務所を借りる契約を、承認してから結び、次の取締役会で報告した例です
| 場面 | やること | 根拠 |
|---|---|---|
| 取引の前 | 重要な事実を開示し、承認を受ける | 356条1項2号・3号、365条1項 |
| 決議のとき | 当事者の取締役は議決に加わらない。氏名を議事録に記載 | 369条2項、施行規則101条3項5号 |
| 取引の後 | 遅滞なく重要な事実を取締役会へ報告 | 365条2項、施行規則101条3項6号イ |
| 決算のとき | 重要な関連当事者との取引を注記(注記が求められる会社) | 会社計算規則112条 |
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承認がない取引の効力と取締役の責任
取引の効力
承認を受けずにした利益相反取引がどうなるかについて、会社法に直接の規定はありません。手がかりになるのは356条2項で、承認を受けた2号・3号の取引には民法108条を適用しないと定めています。民法108条は、自己契約・双方代理(1項)と、代理人と本人の利益が相反する行為(2項)を、代理権を有しない者がした行為とみなす規定です。取締役が会社を代表して自分と契約するような場面で承認がなければ、この規律が働く余地が残ることになります。
第三者との関係については判例があります。最高裁昭和46年10月13日大法廷判決は、会社が取締役あてに振り出した約束手形を裏書で取得した第三者に対し、会社は、取締役あての振出しであることと取締役会の承認がなかったことについて第三者が悪意であったことを主張・立証しない限り、振出人としての責任を免れないとしました(当時の商法265条の事案)。
図10 承認の有無は、責任だけでなく取引の効力にもかかわります
損害が生じたときの責任
423条3項は、2号・3号の取引によって会社に損害が生じたとき、①取引をした取締役、②会社が取引をすることを決定した取締役、③取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役は、任務を怠ったものと推定すると定めています。承認を受けていても、損害が出れば責任の問題は残ります。
賛成した取締役が含まれる点は見落とされがちです。しかも369条5項により、決議に参加して議事録に異議をとどめない取締役は、その決議に賛成したものと推定されます。議案の説明を聞いて黙っていた取締役も、賛成した側に数えられるおそれがあるということです。
さらに428条1項により、356条1項2号の取引のうち自己のためにした取引をした取締役は、責めに帰することができない事由によることをもって責任を免れることができません。いわゆる無過失責任です。同条2項により、425条から427条まで(責任の一部免除や責任限定契約)の規定も適用されません。なお、監査等委員会設置会社では、監査等委員以外の取締役が監査等委員会の承認を受けたときは423条3項の推定が適用されません(同条4項)。
図11 承認に賛成した取締役も任務懈怠を推定されます。自己のための直接取引はさらに重くなります
監査役・監査役会の役割
監査役は、取締役の職務の執行を監査する立場から、利益相反取引にもかかわります。取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べなければなりません(383条1項)。承認の議案で条件の根拠が示されていなければ、資料の追加を求めたり、懸念を述べたりする場面です。
取締役が不正の行為をし、もしくはそのおそれがあると認めるとき、または法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なくその旨を取締役会に報告しなければなりません(382条)。承認を受けずに利益相反取引が行われていた場合は、この報告の対象になりえます。さらに、法令・定款に違反する行為によって会社に著しい損害が生じるおそれがあるときは、その行為をやめることを請求できます(385条1項)。
監査役会を置く会社でも、監査役会が定める監査の方針や調査の方法などの決定は、個々の監査役の権限の行使を妨げることはできません(390条2項ただし書)。各監査役は単独で上の権限を使えます。監査では、取締役会議事録に承認と報告の記録がそろっているかを確かめるのが基本です。
図12 取締役会での意見、取締役会への報告、差止めの順に強い手段になります
上場準備での利益相反取引と関連当事者取引
上場準備に入ると、利益相反取引は「関連当事者取引」という切り口でも見られます。会社計算規則112条は関連当事者との取引のうち重要なものの注記を求めており、関連当事者には役員とその近親者(二親等内の親族)などが含まれます(同条4項)。同条1項は、第三者との取引でも会社と関連当事者の利益が相反するものを含むとしています。会社法の利益相反取引と範囲は同じではありませんが、多くの取引が両方に当たります。
上場審査では、関連当事者等との取引について、取引を行うこと自体の合理性と、取引条件の妥当性が確認されます。審査の考え方はIPO審査の「企業経営の健全性」とは?関連当事者取引の合理性と取引条件の妥当性を解説、開示の範囲は関連当事者との取引はどこまで開示するか|範囲と重要性の基準を条文で確認するで整理しています。
進め方は、まず棚卸しです。契約書と総勘定元帳から、役員本人、役員が代表する会社、役員の近親者との取引を拾い出し、会社が差し入れている保証や担保も一覧にします。次に、それぞれについて取締役会の承認と報告の記録が議事録に残っているかを確かめます。記録がないものは、取引を解消するか、条件を見直したうえで承認を取り直すかを決めます。
図13 まず棚卸しをして、解消するか承認を取り直すかを1件ずつ決めます
架空の甲社の例で考えてみます。棚卸しの結果、次の4件が見つかったとします。社長への貸付金や社長の個人債務の保証は、上場までに解消を求められることが多い取引です。事業に必要な取引を残す場合は、第三者と比べて不利でない条件であることを資料で示し、承認と報告の流れに乗せます。社長個人との取引の解消の進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するか|取締役会の承認と注記にまとめています。
図14 区分を決めたうえで、上場申請までに何をするかを取引ごとに決めます
棚卸しの後は、新しい取引が漏れない仕組みを作ります。取締役会規程の付議事項に利益相反取引を明記し、役員に年1回、兼任先や近親者が関与する会社を記入してもらう調査票を配る方法がよく使われます。社長が別会社を持っている場合は競業取引の承認|社長が別会社を持ったままでよいかの論点もあわせて確認します。
※本記事の計算例・事例は、説明のために作成した架空のものです。
- 役員本人・役員が代表する会社・近親者との取引を一覧にした
- 会社が差し入れている保証・担保を洗い出した
- 各取引について、取引前の承認決議が議事録にある
- 取引後の報告(365条2項)が議事録に残っている
- 当事者の取締役を除いて定足数を数え、氏名を議事録に記載した
- 条件の妥当性を示す資料(相場・見積)を保管している
よくある質問
はい。取締役が第三者(別会社)のために会社と取引をする場合も356条1項2号の直接取引に当たります。取締役会設置会社では取引の前に取締役会の承認を受け、取引の後に報告します。
株主総会です。356条1項は株主総会の承認を定めており、365条1項の読替えは取締役会設置会社にだけ適用されます。株主総会の普通決議によります。
承認は手続の要件で、責任を免除するものではありません。取引で会社に損害が生じれば、取引をした取締役や承認に賛成した取締役は任務懈怠を推定されます(423条3項)。自己のためにした直接取引は無過失責任です(428条1項)。
最初の一歩は、保証と賃貸借の確認から
見落としが多いのは、会社が社長のために差し入れている保証と、社長個人から借りている不動産です。金融機関との契約書と賃貸借契約書を取り出し、取締役会議事録に承認の記録があるかを確かめるところから始めてください。
まとめ
利益相反取引は、会社と取締役が当事者になる直接取引(356条1項2号)と、会社が取締役のために負担を負う間接取引(同項3号)の2つです。取引の前に重要な事実を開示して取締役会(取締役会を置かない会社では株主総会)の承認を受け、取締役会設置会社では取引の後に遅滞なく報告します。
当事者の取締役は議決に加われず、承認に賛成した取締役も損害が生じれば任務懈怠を推定されます。上場準備では関連当事者取引として合理性と条件の妥当性が問われますので、棚卸しと議事録の確認を早めに進めてください。
役員との取引の棚卸し、承認・報告の手続の整備、関連当事者取引の注記まで、上場準備の実務を経験した公認会計士・税理士が直接対応します。支援の内容はIPO支援業務のページにまとめています。初回のご相談は無料です。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- e-Gov法令検索 会社法(309条、356条、365条、369条、382条、383条、385条、390条、423条、428条)
- e-Gov法令検索 会社法施行規則(101条3項)
- e-Gov法令検索 会社計算規則(112条)
- e-Gov法令検索 民法(108条)
- 裁判所 最高裁判所大法廷 昭和46年10月13日判決(昭和42(オ)1464)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。