※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
「有価証券報告書を株主総会の3週間前に出せと言われても、今の日程では到底間に合わない」。CGコードの2026年改訂を受けて、経理部門からこうした声が上がっています。
結論からいえば、改訂後のコードが示す「総会開催日の3週間以上前」は、すべての会社に一律に課される法定期限ではなく、株主の権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として示された「最も望ましい」姿です。ただし、その実現には決算・監査・開示・株主総会の日程全体の見直しが必要になります。本記事では、期限の整理と、実務で取り組むべき事項を解説します。
この記事の見出し
改訂で有報の総会前開示はどう位置付けられたか
改訂後の原則1-2は、上場会社は、株主総会が株主との建設的な対話の場であることを踏まえ、株主の視点に立って、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出するなど株主総会において株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報を必要に応じ適確に提供する、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日をはじめとする株主総会関連の日程を適切に設定するなど、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきであるとしています。
そのうえで、原則1-2の解釈指針では、有価証券報告書は株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましく、株主総会の開催時期の後ろ倒しも含めて検討することが考えられる旨が補足的に記載されています。
図1 法定の提出期限と、コードが示す望ましい時期、要請の水準は性格が異なります。
| 区分 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 法定の提出期限 | 事業年度経過後3か月以内(金融商品取引法) | 法令上の義務 |
| 2025年3月の要請 | 総会の前日または数日前の提出を検討するよう要請 | 金融担当大臣からの要請 |
| CGコード原則1-2 | 総会開催日前の提出を権利行使の環境整備の例として記載 | コンプライ・オア・エクスプレインの対象(市場区分による) |
| 原則1-2の解釈指針 | 3週間以上前が最も望ましい。総会時期の後ろ倒しも含め検討 | 原則への対応を支援する補足 |
なお、改訂版コードの公表にあわせて、上場会社は遅くとも2027年7月31日までに改訂後のコードに基づくコーポレート・ガバナンス報告書を提出する扱いとされています。これは報告書の更新期限であり、有報の提出時期とは別の論点です。日程を議論する際には、これらを混同しないよう注意が必要です。
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なぜ総会前開示が求められるのか
有報の総会前開示が求められる背景には、株主総会を実質的な意思決定の場と位置付けようとする近年のコーポレートガバナンス改革の流れがあります。従来の株主総会では、株主は招集通知を中心とした限られた情報を前提として議決権を行使することが一般的でした。一方、有報には、役員報酬、政策保有株式、内部統制、サステナビリティ、リスク情報など、経営陣を評価するうえで重要な情報が数多く記載されているにもかかわらず、その多くは総会終了後に初めて開示されていました。
図2 提出時期を早めること自体ではなく、議決権行使前に判断材料を届けることが目的です。
このような状況では、株主は十分な情報を得ないまま取締役の選任等について判断せざるを得ず、「株主が適切な情報に基づいて議決権を行使する」というCGコードの基本的な考え方との整合性が課題となっていました。もっとも、この議論自体は今回初めて登場したものではなく、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループや、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議でも、株主が議決権を適切に行使するためには議決権行使時点において十分な企業情報が提供されていることが望ましいとの議論が行われてきました。
図3 実務解説で挙げられている例です。取締役候補者の適格性を判断するうえで重要な情報となり得ます。
総会前開示の意義は、単に提出時期を早めることではありません。最も重要なのは、株主が経営陣を適切に評価するために必要な情報を、議決権行使前に入手できるようにする点にあります。また、機関投資家との対話においても、総会前に十分な情報が提供されることにより、建設的なエンゲージメントが促進されることが期待されます。
2025年の要請と実施状況
2025年3月28日には、金融担当大臣から上場会社に対し、「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」が出されました。本来は3週間以上前の開示が望ましいとしつつも、実務上の課題を踏まえ、まずは総会の前日または数日前に有報を提出することを検討するよう求める段階的な内容です。この結果、2025年3月期決算会社では、総会前に有報を開示した会社が大幅に増加したと報告されています。もっとも、その多くは総会の数日前の開示にとどまっています。
実現を阻むのはスケジュール
総会前開示の実現は容易ではありませんが、その最大の課題はスケジュールです。現在、多くの上場会社では、①決算確定、②監査(金商法監査・会社法監査)、③取締役会決議(招集決定)、④招集通知発送、⑤有報提出、⑥株主総会という流れで実務が行われています。ただし、⑤有報提出は⑥株主総会の数営業日前にとどまることが多いのが実情です。
図4 実務解説で示されている一般的な流れです。有報提出は総会の数営業日前にとどまることが多いとされます。
3週間以上前の提出を目指すには、この流れのどこかで時間を生み出す必要があります。考えられる選択肢は、決算と監査を早期化すること、株主総会の基準日と開催日を後ろ倒しにすること、そして各部門が個別に作成している開示資料を一体的に作成して作業を効率化することです。原則1-2が、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日をはじめとする株主総会関連の日程を適切に設定することに言及しているのは、この点に関係します。
図5 どの組合せが適するかは、各社の事業内容や決算日程によって異なります。
社内での調整|全社の体制に移る
さらなる総会前開示を実現するためには、まずもって会社内部での調整が必要となります。有報の作成には、経理部門のみならず、法務部門、人事部門、経営企画部門、IR部門およびサステナビリティ推進部門など多数の部署が関与します。したがって、開示時期を前倒しするためには、会社全体の情報収集・確認プロセスを見直す必要があります。
図6 各部門が個別に資料を作る運用から、年間を通じて情報を共有する体制へ移ります。
また、近年は統合報告書やサステナビリティ開示との整合性も重要となっていることから、各部門が個別に資料を作成する従来型の運用ではなく、年間を通じて情報を共有しながら整合的な開示資料を作成する全社的な体制への転換が望まれます。その意味で、総会前開示は、結果として企業全体のディスクロージャー・ガバナンスを見直す契機にもなり得ます。
| 部門 | 主な担当範囲 | 前倒しのための工夫 |
|---|---|---|
| 経理 | 財務諸表、注記、経理の状況 | 決算の早期化、論点の事前協議 |
| 法務・総務 | 役員の状況、株主総会関連 | 招集通知との記載の共通化 |
| 人事 | 人的資本、従業員の状況 | 指標の集計時期の前倒し |
| 経営企画・IR | 事業の状況、経営方針 | 統合報告書との原稿共有 |
| サステナビリティ推進 | サステナビリティ情報 | 非財務データの早期確定 |
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監査法人との連携
監査法人との連携も懸念点となります。有報には監査報告書が添付されるため、監査手続が完了していなければ提出することはできません。有報の提出時期を早めるためには、その分監査スケジュールも厳しくなるため、会社側だけがスケジュールを前倒ししても十分ではなく、監査法人との間で年間スケジュールを共有し、双方が同じ認識のもとで準備を進める必要があります。
図7 有報には監査報告書が添付されるため、監査手続の完了が前提になります。
また、近年はサステナビリティ情報など、監査対象外ではあるものの有報に記載される情報も増加しているため、こうした情報についても、監査法人との間で認識を早期に共有しておくことが望ましいでしょう。監査法人との調整が難しいということになれば、決算の早期化か、総会基準日の後ろ倒しを検討する必要があります。
図8 架空の3月決算会社の例です。期間の長さは説明のための仮定で、実際の日程は各社の状況によります。
具体的なイメージを持つために、架空の3月決算会社で日程を比べてみます。日付はあくまで説明のための仮定です。
| 工程(架空の3月決算会社) | 現状の例 | 見直し後の例 |
|---|---|---|
| 決算確定 | 5月中旬 | 5月上旬(決算の早期化) |
| 監査報告書の受領 | 6月上旬 | 5月下旬 |
| 有報の提出 | 総会の数日前 | 総会の3週間以上前 |
| 株主総会 | 6月下旬 | 7月中旬(基準日の後ろ倒し) |
この例では、決算と監査を一定程度早めたうえで、株主総会の開催時期を後ろへ動かし、有報との間に3週間以上の間隔を確保しています。どちらか一方だけで3週間を生み出すのは難しい会社も多く、複数の手段を組み合わせて検討するのが現実的です。
なお、総会日を後ろ倒しにすると、決算期末から総会までの期間が長くなります。配当の基準日や支払時期、役員の任期の始期と終期、事業年度の業績を踏まえた役員人事のタイミングなど、波及する論点を一覧にして、関係者と一つずつ確認していく必要があります。
基準日を後ろ倒しにする場合は、定款の定めや株主名簿管理人との調整、配当の基準日との関係など、検討すべき事項が多くあります。総会日を動かすと、取締役の任期や役員の異動時期、株主への通知のタイミングにも影響します。関係者が多い論点であるため、検討を始めてから結論が出るまでに時間を要することを前提に、早めに着手することが大切です。
制度面の検討も並行して進んでいる
序文では、金融庁は法務省とも連携しつつ、法制審議会において議論されている事業報告等と有価証券報告書の一本化等の制度的な検討も並行して進める旨が留意事項として記載されています。このような企業負担の緩和策も踏まえつつ、各社においては、現行法制下で一般化している実務運用にとらわれることなく、総会開催日や議決権行使に係る基準日をはじめとする株主総会関連の日程を適切に設定することも含めて検討し、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備に取り組むことが期待されています。
日本の上場企業は、会社法に基づく事業報告等と、金融商品取引法に基づく有価証券報告書の二つの作成が求められるという、世界的にみても特殊な状況にあります。一本化の議論の状況については「有価証券報告書と事業報告の一本化はどこまで進んだか|総会前開示の実務と法制審の中間試案」で詳しく解説しています。
企業が今後取り組むべき事項
総会前開示への対応に関して、各社の事業内容や決算スケジュールは異なるため、総会前開示の実現方法も一様ではありません。しかし、少なくとも、開示資料の作成を年間スケジュールのなかで計画的に管理し、各部門が早い段階から情報共有を行う体制を整備することは、多くの企業に共通する課題です。
そして、各社においては、まず現状の年間スケジュールを可視化し、どの工程がボトルネックとなっているかを把握することが重要です。そのうえで、部門間の情報共有は十分か、監査法人とのスケジュール調整が必要か、決算確定時期の前倒しや基準日の後ろ倒しが可能かといった点を検証していくことが望ましいでしょう。
図9 まず現状の年間スケジュールを可視化し、どの工程が詰まっているかを把握します。
一度に3週間前の提出を目指すことが難しい場合は、段階的に前倒しする計画を立てる方法もあります。まず総会の数日前の提出を確実にし、翌年は1週間以上前、その次は2週間以上前というように目標を設定すれば、各年の課題を一つずつ解消しながら進められます。
図10 一度に3週間前を目指すのが難しい場合の進め方の例です。
企業としては、形式的に提出時期を早めることだけを目標とするのではなく、経理・法務・IR・経営企画・サステナビリティ部門および監査法人が連携し、開示資料全体の質を高めるという観点から、開示体制の見直しを進めることが重要です。今後、有報の総会前開示を実現する企業が増加すれば、株主との対話の質が向上するとともに、企業自身のガバナンス体制の高度化にもつながることが期待されます。
- 法定期限、要請の水準、コードの望ましい時期を区別して社内に説明しているか
- 現状の決算・監査・開示・総会の年間スケジュールを可視化したか
- 有報作成に関わる部門の情報共有の仕組みがあるか
- 監査法人と年間スケジュールと論点を早期に共有しているか
- 基準日・総会日の後ろ倒しの可否を検討したか
よくある質問
3週間以上前は解釈指針で「最も望ましい」とされた姿であり、法定期限ではありません。原則1-2への対応として、自社の取組みと今後の方針を説明することが考えられます。
今回のコード改訂によって、金融商品取引法上の提出期限が変わったわけではありません。事業年度経過後3か月以内という期限は別の制度です。
定款や基準日の定め、配当や役員の任期などを確認する必要があります。法令上の制約と実務上の影響を整理し、関係者と調整したうえで検討します。
非財務データの集計時期の前倒しや、統合報告書との原稿共有など、年間を通じた準備の仕組みを整えることが有効です。
最初の一歩は、昨年の日程表に「待ち時間」を書き込むこと
取組みの出発点として、昨年の決算から株主総会までの日程表を作り、各工程で誰が何を待っていたかを書き込んでみることをお勧めします。待ち時間の長い工程が分かれば、どこから手を付けるべきかが具体的になります。
まとめ
CGコードの2026年改訂は、有価証券報告書の株主総会前提出を、株主の権利行使に係る環境整備の重要な例として原則1-2に位置付け、3週間以上前を最も望ましい姿としました。法定期限とは区別しつつ、決算・監査・開示・総会の日程全体を見直し、全社と監査法人が連携して開示の質を高めることが、改訂後の実務の要点です。
現状の年間スケジュールの可視化、ボトルネックの特定、監査法人との調整論点の整理まで、現在の日程を基に支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)(序文14項、原則1-2およびその解釈指針)
- コーポレートガバナンス・コード改訂(2026年)の概要
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について」(2026年7月21日更新)
- EY「有価証券報告書の株主総会前開示について」(2025年3月の要請と実施状況)
- 新谷亜紀子・福田輝人・金子慧史・日野雄介「コーポレートガバナンス・コード改訂版の解説」『経理情報』No.1787(2026年9月20日号)42〜46頁
- 樋口隆明「CGコード改訂に伴う有報の総会前開示への対応」『経理情報』No.1787(2026年9月20日号)54〜55頁
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。