募集株式の発行の日程表|決議から払込みまでの最短スケジュール

増資の日程は、資金が必要な日から逆算して組みます。ところが会社法には、期限が定められている手続と、定められていない手続が混在しています。どこが動かせてどこが動かせないのかを知らないと、逆算ができません。

この記事では、募集株式の発行について、条文が期限を置いている手続だけを抜き出して並べます。会社が公開会社かどうか、総数引受契約を使うかどうかで、日程の長さが大きく変わります。

この記事でわかること

  • 募集事項として決める5つの項目(会社法199条1項)
  • 誰が決めるのか。非公開会社と公開会社の違い
  • 公開会社に課される2週間前の通知(201条3項)
  • 総数引受契約を使うと省ける手続(205条1項)

まず、募集事項を決める

会社法199条1項は、株式を引き受ける者の募集をしようとするときに、その都度定めなければならない事項を5つ挙げています。募集株式の数、払込金額またはその算定方法、金銭以外の財産を出資の目的とするときはその旨と内容と価額、払込みまたは給付の期日またはその期間、株式を発行するときは増加する資本金および資本準備金に関する事項です。

4号の書き方に注目してください。期日または期間、となっています。1日に定めることも、幅を持たせることもできます。会社法209条1項は、期日を定めた場合はその期日に、期間を定めた場合は出資の履行をした日に株主となるとしていますので、どちらを選ぶかで株主となる日が変わります。

5号は資本金の話です。会社法445条1項は、資本金の額は払込みまたは給付をした財産の額とすると定めたうえで、同条2項で、その2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができるとしています。計上しなかった分は同条3項により資本準備金になります。登録免許税や外形標準課税を見て、どこまで資本準備金に振るかを先に決めておきます。

誰が決めるのか

会社法199条2項は、募集事項の決定は株主総会の決議によらなければならないとしています。この決議は309条2項5号により特別決議です。

例外が2つあります。ひとつは200条1項で、株主総会の決議によって募集事項の決定を取締役会に委任できます。この場合、募集株式の数の上限と払込金額の下限を定めなければなりません。同条3項により、この委任の決議は、払込期日が決議の日から1年以内である募集についてのみ効力を有します。

もうひとつが201条1項です。公開会社では、199条2項の株主総会が取締役会に読み替えられます。ただし冒頭に、199条3項に規定する場合を除き、と書かれています。有利発行の場合は公開会社でも株主総会の特別決議が必要だということです。

期限が定められている手続だけを並べる1 募集事項の決定非公開会社は株主総会の特別決議、公開会社は取締役会(有利発行を除く)2 株主への通知または公告公開会社のみ。払込期日の2週間前まで(201条3項・4項)3 申込みと割当て割当ての通知は払込期日の前日まで(204条3項)。総数引受契約なら不要4 払込みと登記払込期日に効力発生。変更登記は本店で2週間以内(915条1項)

動かせないのは2と3の通知、そして払込み後の登記です

申込みと割当ての手続

会社法203条1項は、募集に応じて申込みをしようとする者に対し、商号、募集事項、払込みの取扱いの場所、その他法務省令で定める事項を通知しなければならないとしています。同条2項により、申込みをする者は氏名または名称と住所、引き受けようとする募集株式の数を記載した書面を会社に交付します。

会社法204条1項は、申込者の中から割当てを受ける者と、その者に割り当てる数を定めるとしています。同条2項により、募集株式が譲渡制限株式である場合には、この決定は株主総会、取締役会設置会社では取締役会の決議によらなければなりません。ただし書で、定款に別段の定めがある場合は除かれます。株主総会で決める場合は、309条2項5号により特別決議です。

そして同条3項が期限を置いています。払込期日、期間を定めた場合はその初日の前日までに、申込者に対して割り当てる数を通知しなければなりません。申込みと割当てを払込みの当日にまとめることはできない、ということです。

総数引受契約を使うと2つの手続が消える

会社法205条1項は、募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合には、203条と204条を適用しないと定めています。申込みの手続も、割当ての決定も、前日までの通知も不要になります。

第三者割当てで引受先が決まっている場合、この総数引受契約を使うのが実務の標準です。ただし同条2項により、募集株式が譲渡制限株式であるときは、株主総会、取締役会設置会社では取締役会の決議によって、その契約の承認を受けなければなりません。定款に別段の定めがある場合を除きます。非公開会社の増資では、この承認決議を忘れないでください。

手続 申込みと割当てによる場合 総数引受契約による場合
引受先への通知 203条1項の通知が必要 不要(205条1項)
割当ての決定 204条1項・2項の決議が必要 不要。ただし契約の承認決議(205条2項)
前日までの通知 204条3項により必要 不要

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公開会社の2週間前の通知

会社法201条3項は、公開会社が取締役会の決議で募集事項を定めたときは、払込期日、期間を定めた場合はその初日の2週間前までに、株主に対して募集事項を通知しなければならないと定めています。同条4項により、通知は公告に代えることができます。

この2週間は、株主に210条の差止請求を検討する時間を与えるための期間です。会社法210条は、法令もしくは定款に違反する場合、または著しく不公正な方法により行われる場合に、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株式の発行をやめることを請求できるとしています。

同条5項に例外があります。募集事項について、その期日の2週間前までに金融商品取引法4条1項から3項までの届出をしている場合など、法務省令で定める場合には通知は不要です。上場会社の公募増資では有価証券届出書の提出がこれに当たります。

非公開会社にはこの通知の規定がありません。募集事項を株主総会の特別決議で決めているため、株主はすでにその内容を知っているからです。したがって、非公開会社では決議から払込みまでを短く組むことができます。

払込みから登記まで

会社法208条1項は、引受人は払込期日または期間内に、会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において払込金額の全額を払い込まなければならないと定めています。同条3項により、この払込みの債務と会社に対する債権を相殺することはできません。役員借入金を資本に振り替えるいわゆるデットエクイティスワップを行う場合は、金銭債権の現物出資として組み立てることになります。

同条5項は、出資の履行をしないときは株主となる権利を失うと定めています。失権です。期日までに入金がなければ、その引受人の分は発行されません。

効力が生じたら登記です。発行済株式の総数と資本金の額は登記事項ですので、会社法915条1項により、本店の所在地において2週間以内に変更の登記をします。払込期間を定めた場合の起算点は期間の末日になりますので、期日方式か期間方式かで登記の期限も変わります。

逆算のしかた

資金が必要な日を払込期日に置き、そこから戻します。公開会社であれば、まず2週間前に通知または公告の日を置きます。その前に募集事項を決める取締役会を置き、招集通知の1週間前を確保します。非公開会社であれば2週間の通知が不要ですので、株主総会の招集通知の期間だけを見ればよいことになります。

非公開会社で急ぐ場合、会社法300条の招集手続の省略や319条1項の決議の省略を使えば、総会にかかる日数を圧縮できます。株主全員の同意が前提ですが、株主が創業者と数名の投資家に限られる段階では現実的な選択肢です。ただし、上場準備で株主総会の運営を正常化していく方向とは逆向きの手続ですので、常用しないでください。

第三者割当てで支配株主の異動を伴う場合には、公開会社に別の2週間の通知が課されます。この点は別の記事で扱います。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 払込期日と払込期間はどちらがよいですか。

A. 期日を定めれば全員がその日に株主となり、権利関係が単純です。期間を定めると出資の履行をした日ごとに株主となりますので、登記の起算点も期間の末日になります。引受先が1社なら期日方式が扱いやすいでしょう。

Q. 役員からの借入金を資本に振り替えられますか。

A. 会社法208条3項により払込みの債務と会社に対する債権を相殺することはできませんので、金銭債権の現物出資として組み立てます。現物出資には検査役の調査の問題がありますので、別途の検討が必要です。

Q. 非公開会社でも株主へ通知が必要ですか。

A. 会社法201条3項は公開会社を対象とした規定ですので、非公開会社には適用されません。募集事項を株主総会の特別決議で決めるためです。

📄 まとめ

募集株式の発行で期限が定められているのは、公開会社の2週間前の通知、割当ての前日までの通知、そして払込み後2週間以内の登記です。ほかの手続には条文上の期限がありません。

総数引受契約を使えば申込みと割当ての手続が省け、日程が短くなります。ただし譲渡制限株式では契約の承認決議が必要です。資金が必要な日を払込期日に置き、公開会社かどうかで2週間の通知を挟むかを判断して逆算してください。

⚖ 本記事の根拠

記載内容の根拠

  • 会社法199条1項(募集事項として定める5項目)、同条2項(株主総会の決議)、309条2項5号(特別決議)
  • 会社法200条1項・3項(募集事項の決定の委任と、1年以内という制限)
  • 会社法201条1項・3項・4項・5項(公開会社の特則と、2週間前の通知または公告)
  • 会社法203条1項・2項、204条1項から3項(申込みと割当て、前日までの通知)
  • 会社法205条1項・2項(総数引受契約による適用除外と、譲渡制限株式の承認決議)
  • 会社法208条1項・3項・5項、209条1項(払込み、相殺の禁止、失権、株主となる時期)
  • 会社法210条(募集株式の発行等をやめることの請求)、445条1項から3項(資本金と資本準備金)、915条1項(2週間以内の変更登記)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

このテーマの全体像は上場準備の会社法|定款・機関・株主総会・株式の手続にまとめています。

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