クリニックが医療機器を導入するとき、どの税制が使えるのかは資産の区分によって決まります。医療機器の多くは器具及び備品にあたるため、器具備品を対象外としている制度は使えません。
医療機関のために用意されている医療用機器等の特別償却は使えますが、中小企業投資促進税制は器具備品が対象資産に含まれておらず、中小企業経営強化税制は医療保健業を行う事業者が取得する医療機器を除いています。
この記事では、取得価額別の4つの入口を整理したうえで、使える制度と使えない制度を一覧にし、中古機器という選択肢と、医療法人と個人での違いを説明します。
- 医療機器が器具及び備品にあたることが、使える制度を左右すること
- 10万円未満、20万円未満、40万円未満という3つの金額基準と、それぞれの根拠
- 令和8年度改正で40万円未満、従業員400人以下になった少額減価償却資産の特例
- 医療用機器等の特別償却の要件と、対象から外れる制度
- 中古の医療機器を取得したときの耐用年数の簡便法
図 取得価額別の処理の判定(法人税法施行令および租税特別措置法にもとづき作成)
この記事の見出し
📌 医療機器は器具備品である
クリニックの設備投資で使える税制を整理するうえで、出発点になるのが資産の区分です。医療機器の多くは、減価償却資産の区分でいうと器具及び備品にあたります。この一点が、使える制度と使えない制度を分けています。
中小企業向けの優遇税制は、対象となる資産の種類を条文で限定しているものが多く、器具備品が入っているかどうか、医療保健業が除かれていないかどうかで結論が変わります。カタログや業者の説明を鵜呑みにせず、自院が取得する資産がどの区分にあたるかを確認してください。
なお、レントゲン装置やCTのように建物と一体になる工事を伴うものは、機械装置や建物附属設備に区分されることがあります。区分が変われば使える制度も耐用年数も変わりますので、見積書の内訳を確認しておく必要があります。
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📌 取得価額による4つの入口
まず、金額による処理の選択肢を整理します。取得価額がいくらかによって、その年に一度に経費にできるかどうかが決まります。
表 取得価額別の処理
少額減価償却資産の特例は、令和8年度の税制改正により、対象となる取得価額の上限が40万円未満に、常時使用する従業員数の要件が400人以下(特定法人は300人以下)になりました。適用期限は令和11年3月31日までです。国税庁のタックスアンサーには改正前の内容が残っている場合がありますので、条文または中小企業庁の資料で確認してください。
年間300万円という限度額は、その事業年度または年分の合計額です。事業年度が1年に満たない場合は月数按分になります。決算前に複数の機器をまとめて購入すると、この300万円を超えて特例を使えない部分が出てきますので、購入の時期を分けることも検討の余地があります。
📌 高度医療用機器の特別償却は使える
医療機関のための制度として用意されているのが、租税特別措置法45条の2の医療用機器等の特別償却です。青色申告書を提出する法人で医療保健業を営むものが、昭和54年4月1日から令和9年3月31日までの間に、医療用の機械装置および器具備品のうち高度な医療の提供に資するものまたは先進的なものとして政令で定めるものを取得して事業の用に供した場合に、普通償却限度額に取得価額の12%に相当する金額を加えた金額まで償却できます。
条文の見出しは高度医療用機器ではなく医療用機器等であり、対象は高度な医療の提供に資するものまたは先進的なものとされています。1台または1基の取得価額が500万円以上という規模の要件は、条文ではなく租税特別措置法施行令28条の10第1項に定められています。
対象となる機器は告示で個別に定められていますので、購入予定の機種が該当するかどうかは、メーカーや販売業者に確認するとともに、取得前に税理士に相談してください。取得してから該当しないことがわかっても、後から変更はできません。
この特別償却は、あくまで償却を前倒しする制度です。耐用年数を通じた損金の総額は変わりませんので、税負担を先送りする効果にとどまります。それでも、機器の導入初年度に大きな損金を計上できることは、資金繰りの面で意味があります。
📌 使えない制度に注意する
一方で、中小企業向けの代表的な優遇税制には、医療機関が使えないものがあります。ここを誤解したまま設備投資の計画を立てると、想定していた税額控除が受けられません。
表 主な優遇税制と医療機関での可否
中小企業経営強化税制については、指定事業に医療、福祉業が含まれていますので、医療機関だから一律に使えないということではありません。除かれているのは事業ではなく資産です。中小企業庁の資料には、医療保健業を行う事業者が取得または製作をする器具備品(医療機器に限る)、建物、建物附属設備を除く、と明記されています。
つまり、電子カルテなどのソフトウェアや、医療機器に該当しない設備であれば、要件を満たすことで即時償却または税額控除の対象になり得ます。何が除かれているのかを正確に押さえておくことが大切です。
中小企業投資促進税制については、平成29年度の税制改正で器具及び備品が対象資産から外れています。医療機器の大半は器具備品ですので、この制度で医療機器の税額控除を受けることはできません。
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📌 中古の医療機器という選択肢
新品にこだわらなければ、中古の医療機器を取得する方法もあります。中古資産は、法定耐用年数ではなく、使用可能期間として見積もった年数で償却できます。見積もりが困難な場合には、減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号の簡便法によることができます。
簡便法では、法定耐用年数の全部を経過した資産は法定耐用年数の20%に相当する年数、一部を経過した資産は法定耐用年数から経過年数を控除した年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数となります。計算した年数に1年未満の端数があるときは切り捨て、その年数が2年に満たないときは2年とします。
たとえば法定耐用年数6年の器具備品を、4年経過した中古で取得した場合、6年から4年を引いた2年に、4年の20%である0.8年を加えて2.8年となり、端数を切り捨てて2年で償却できます。新品で6年かけて償却するのに比べ、早期に損金を計上できます。
ただし、中古資産の取得価額に対して再取得価額の50%を超える資本的支出を行った場合には、簡便法を使えません。整備や修理に多額の費用をかけるのであれば、事前に確認しておいてください。
📌 医療法人と個人でどちらが有利か
これらの制度は、個人開業医でも医療法人でも使えるものが大半です。医療用機器等の特別償却は医療保健業を営む青色申告者を対象としており、少額減価償却資産の特例も個人には租税特別措置法28条の2が用意されています。
違いが出るのは、損金や必要経費が増えたときにどれだけ税負担が減るかという点です。個人の場合は超過累進税率ですので、所得が高い時期に大きな償却費を計上すれば効果は大きくなります。医療法人の場合は法人税率が一定の範囲で決まっていますので、効果は個人ほど大きく振れません。
また、社会保険診療報酬の所得計算の特例を選択している場合は注意が必要です。概算経費を使うということは実額経費を使わないということですので、保険診療部分については、償却費を積み増しても所得は変わりません。設備投資を行う年は、実額経費のほうが有利になるかどうかを必ず計算し直してください。
図 設備投資の検討手順
どの制度が使えるかは、資産の区分と取得価額、そして事業の形態によって変わります。取得してからでは変更できない判断がありますので、購入の前にご相談ください。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
A. 受けられません。中小企業投資促進税制の対象資産は、機械および装置、測定工具および検査工具、ソフトウェア、貨物自動車、船舶に限られており、平成29年度の税制改正で器具及び備品が対象から外れています。医療機器の大半は器具備品ですので、この制度の対象にはなりません。
A. 指定事業には医療、福祉業が含まれていますので、事業として除かれているわけではありません。除かれているのは資産です。中小企業庁の資料には、医療保健業を行う事業者が取得または製作をする器具備品(医療機器に限る)、建物、建物附属設備を除く、と記載されています。電子カルテなどのソフトウェアや機械装置であれば、要件を満たすことで対象になり得ます。
A. 令和8年度の税制改正により、対象となる取得価額の上限は40万円未満、年間の合計額の限度は300万円です。常時使用する従業員数の要件は400人以下(特定法人は300人以下)で、適用期限は令和11年3月31日までとされています。国税庁のタックスアンサーには改正前の内容が残っている場合がありますので注意してください。
A. 医療保健業を営む青色申告者が取得する医療用の機械装置および器具備品のうち、高度な医療の提供に資するものまたは先進的なものとして政令で定めるものです。1台または1基の取得価額が500万円以上であることが施行令に定められています。対象機種は告示で個別に定められていますので、取得の前に確認してください。
A. 社会保険診療報酬の所得計算の特例を選択すると、保険診療部分については概算経費で計算しますので、償却費を積み増しても保険診療分の所得は変わりません。設備投資を行った年は実額経費のほうが有利になることが多いため、必ず両方を計算して比較してください。この特例は年ごとに選択できます。
📄 まとめ
クリニックの設備投資で使える制度は、資産の区分によって決まります。医療機器の多くは器具及び備品にあたるため、器具備品を対象資産としていない中小企業投資促進税制は使えず、中小企業経営強化税制も医療保健業を行う事業者が取得する医療機器を対象から除いています。
一方で、医療保健業を営む青色申告者を対象とする医療用機器等の特別償却は使えます。1台500万円以上で、高度な医療の提供に資するものまたは先進的なものとして定められた機器について、取得価額の12%を上乗せして償却できます。少額減価償却資産の特例も、40万円未満の資産について年間300万円まで使えます。
中古の医療機器を取得すれば、簡便法により短い年数で償却できます。ただし、社会保険診療報酬の所得計算の特例を選択している場合は、償却費を増やしても保険診療分の所得が変わりません。設備投資の年は、実額経費と概算経費の有利判定をやり直してください。
⚖ 本記事の根拠法令
- 租税特別措置法45条の2(医療用機器等の特別償却)
- 租税特別措置法施行令28条の10第1項(1台または1基の取得価額が500万円以上であること)
- 租税特別措置法67条の5および同法28条の2(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)
- 租税特別措置法施行令39条の28第1項(常時使用する従業員の数が400人以下の法人)
- 租税特別措置法42条の12の4および同法10条の5の3
- 租税特別措置法42条の6および同法10条の3(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却または税額控除)
- 法人税法施行令133条および所得税法施行令138条(取得価額10万円未満の少額の減価償却資産)、法人税法施行令133条の2および所得税法施行令139条(一括償却資産)
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号(中古資産の耐用年数の簡便法)、同条5項(1年未満の端数の切捨て)
- 中小企業経営強化税制において医療保健業を行う事業者が取得等をする器具備品(医療機器に限る)、建物、建物附属設備が除かれることは、中小企業庁の公表資料によります
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
このテーマの全体像は医療法人と開業医の税務|法人化から役員報酬・承継までにまとめています。