医療法人化と社会保険|協会けんぽと医師国保の選択

医療法人化の試算で見落とされやすいのが社会保険です。法人になると、従業員の人数にかかわらず健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所になります。院長ひとりの医療法人でも同じです。

医師国民健康保険組合に加入している場合は、健康保険の適用除外の承認を受けることで継続できます。ただし厚生年金は適用除外できません。

この記事では、法人化によって社会保険がどう変わるか、保険料はいくらか、そして標準報酬月額の上限がこれから引き上げられることの影響を整理します。

この記事でわかること

  • 法人は従業員の人数にかかわらず強制適用事業所になること
  • 医師国保を継続するための適用除外の承認と、その限界
  • 健康保険料率と厚生年金保険料率の水準(令和8年度)
  • 標準報酬月額の上限と、2027年から始まる段階的な引上げ
どの保険に加入することになるか法人化した後の加入先を確かめる医師国民健康保険組合に加入しているか適用除外の承認で継続できるはいいいえ健康保険の適用除外の承認を受けたか医師国保を続けられるはいいいえ厚生年金の適用を外したいか厚生年金は適用除外できないはいいいえ協会けんぽと厚生年金に加入する

図 法人化した後の社会保険の加入先の判定

📌 法人は人数にかかわらず強制適用になる

健康保険と厚生年金保険の適用事業所には2つの種類があります。ひとつが法人の事業所で、常時従業員を使用するものはすべて強制適用です。もうひとつが個人の事業所で、こちらは一定の業種で常時5人以上の従業員を使用する場合に適用されます。

診療所を法人にすると、この前者に変わります。院長ひとりの医療法人であっても、役員報酬を支払う以上は適用事業所になります。従業員の人数で判断するものではないという点が、個人の診療所との大きな違いです。

📌 医師国保を続けられる場合がある

医師国民健康保険組合に加入している場合、法人化した後もそのまま継続できる取扱いがあります。健康保険法第3条第1項第8号は、厚生労働大臣などの承認を受けた者を被保険者としないこととしており、国民健康保険組合の被保険者はこの承認により健康保険の適用を除外されます。

手続には期限があります。適用除外の承認申請は事実の発生した日から一定の期間内に行う必要があり、法人設立の手続と並行して進めないと間に合いません。承認が取れなければ協会けんぽに加入することになります。

注意したいのは、適用を除外できるのは健康保険だけだということです。厚生年金保険は適用除外できません。法人化すると、国民年金から厚生年金に切り替わります。

法人化の前後で変わるもの項目個人の診療所医療法人健康保険国民健康保険または医師国保協会けんぽ(医師国保の継続も可)年金国民年金厚生年金保険適用の判断業種と従業員数法人であること保険料の負担全額本人労使折半法人の費用なし法人負担分は費用になる

表 制度の枠組みを整理したもの

📌 保険料はいくらか

健康保険料率は都道府県ごとに決まっています。令和8年3月分から東京都は9.85%、大阪府は10.13%です。40歳から64歳までの人にはこれに介護保険料率1.62%が加わります。さらに令和8年4月分からは、全国一律の子ども・子育て支援金0.23%が加わります。

厚生年金保険料率は18.3%で、平成29年9月分から変わっていません。

いずれも労使折半ですから、院長個人の負担は半分です。ただし残りの半分は法人が負担します。法人にとっては費用になりますが、キャッシュとしては出ていきます。法人化の試算では、この法人負担分を忘れずに織り込んでください。

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📌 標準報酬月額の上限が上がっていく

保険料は報酬の額そのものではなく、標準報酬月額に料率を掛けて計算します。この標準報酬月額には上限があり、健康保険は第50等級の139万円、厚生年金は第32等級の65万円です。

役員報酬を高く設定している医療法人では、報酬をいくら上げても保険料は上限で頭打ちになります。これが法人化のメリットのひとつとされてきました。

ただし厚生年金の上限は段階的に引き上げられることが決まっています。2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円です。役員報酬の水準が高い医療法人ほど、この引上げによる法人負担の増加が効いてきます。中長期の試算をするときは、この予定を織り込んでおいてください。

法人化に伴う社会保険の手続の流れ医師国保を継続するかどうかを決める継続するなら適用除外の承認申請を準備する法人設立の登記と同時に新規適用届を提出する役員報酬の額から標準報酬月額を決める被保険者資格取得届を提出する

図 法人化に伴う社会保険の手続

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。医療法人の設立支援と医療機関の税務顧問を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

❓ よくある質問

Q. 院長ひとりの医療法人でも社会保険に加入しますか

A. 加入します。法人の事業所であって常時従業員を使用するものは強制適用事業所です。役員報酬を支払っている以上、院長本人が被保険者になります。

Q. 医師国保は法人化したら使えなくなりますか

A. 健康保険の適用除外の承認を受ければ継続できます。ただし申請には期限があり、法人設立の手続と並行して進める必要があります。厚生年金は適用除外できません。

Q. 役員報酬を上げると保険料はどこまで増えますか

A. 標準報酬月額の上限までです。健康保険は139万円、厚生年金は65万円が上限です。ただし厚生年金の上限は2027年9月から段階的に引き上げられ、2029年9月には75万円になります。

Q. 保険料の法人負担分は経費になりますか

A. 法人が負担する分は法定福利費として損金になります。ただしキャッシュとしては流出しますので、法人化の試算では税負担の減少額と並べて比べてください。

📄 まとめ

法人化すると、従業員の人数にかかわらず健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所になります。個人の診療所とは判断の基準そのものが変わります。

医師国保は適用除外の承認により継続できますが、厚生年金は適用除外できません。承認申請の期限があるため、設立の手続と並行して進めてください。

標準報酬月額の上限は、厚生年金について2027年9月から段階的に引き上げられ、2029年9月には75万円になります。役員報酬の水準が高い医療法人ほど、法人負担の増加を織り込んだ試算が必要です。

⚖ 本記事の根拠法令

記載内容の根拠

  • 医療法39条医療法人の設立)
  • 健康保険法(法人の事業所は強制適用事業所となる)
  • 厚生年金保険法(法人の事業所は強制適用事業所となる)
  • 国民健康保険法(国民健康保険組合=医師国保に関する規定)
  • 保険料率および標準報酬月額の等級は全国健康保険協会および日本年金機構の公表資料によります
👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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