数日間の調査が終わり、調査担当者から「この点とこの点で、これだけの申告漏れになります」と説明を受ける。続けて「では修正申告をお願いします」と言われる。目の前に用紙があり、その場で判を押せば今日で終わる。
ここで応じるかどうかは、税額そのものよりも、その後に何ができるかを左右します。修正申告書を出すと、その内容について不服申立てをすることはできなくなります。指摘の一部に納得していないまま出してしまうと、争う道が細くなります。
この記事では、調査の終わり方が条文でどう定められているのか、修正申告と更正処分でその後にできることがどう変わるのか、そしてその場で決めないための進め方を、条文と国税庁の公表資料にもとづいて整理します。
この記事の見出し
🧭 調査の終わり方は3つに分かれます
調査の終了の際の手続は、国税通則法第74条の11がまとめて定めています。実地の調査の終わり方は、大きく3つに分かれます。
終わり方によって、そのあとにできることが変わる
| 条項 | 定めていること |
|---|---|
| 第74条の11第1項 | 実地の調査の結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、質問検査等の相手方となった納税義務者に対し、その時点において更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知するものとする、と定めています。 |
| 同第2項 | 更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額およびその理由を含む)を説明するものとする、と定めています。 |
| 同第3項 | 説明をする場合に修正申告または期限後申告を勧奨することができるとし、その場合には、納税申告書を提出したときは不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない、と定めています。 |
| 同第4項 | 税務代理人がある場合において納税義務者の同意があるときは、納税義務者への通知・説明・交付に代えて、税務代理人への通知等を行うことができる、と定めています。 |
| 同第5項 | 通知や修正申告書等の提出、更正決定等の後であっても、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、質問検査等を行うことができる、と定めています。 |
第1項の通知が「書面により」とされているのに対し、第2項の説明の方法は条文に書かれていません。事務運営指針は、非違の内容等について原則として口頭により説明する、としています。
📣 調査結果の説明では何が説明されるのか
第2項は、説明する内容に「更正決定等をすべきと認めた額及びその理由」が含まれると書いています。手続通達6-3は、この「認めた額」を、説明をする時点において得ている情報にもとづいて合理的に算定した課税標準等、税額等、加算税または過怠税の額としています。
事務運営指針は、この場面の運用を次のように書いています。
必要に応じ、非違の項目や金額を整理した資料など参考となる資料を示すなどして、納税義務者の理解が得られるよう十分な説明を行うとともに、納税義務者から質問等があった場合には分かりやすく回答するよう努める。また、併せて、納付すべき税額及び加算税のほか、納付すべき税額によっては延滞税が生じることを説明する
つまり、加算税や延滞税を含めた全体像が説明されることになっています。ただし、FAQ問24は、法令上は説明の方法は明示されておらず説明は原則として口頭で行うとしたうえで、納税者からの要望に応じて調査結果の内容を記載した書面を交付することはありません、と述べています。書面はもらえない前提で、その場で書き取る必要があります。
| 書き取る項目 | 後で効いてくる理由 |
|---|---|
| 税目と事業年度 | どの期の話なのかが分かれていないと、指摘ごとの判断ができません。 |
| 項目ごとの金額 | 全体の金額だけを聞くと、納得できる項目と納得できない項目を切り分けられなくなります。 |
| その理由 | どの条文のどの要件に当てはまらないという話なのかを聞きます。条文名まで確認しておくと、後で検証できます。 |
| 加算税の種類と割合 | 過少申告加算税なのか重加算税なのかで、金額も、その後の対応も変わります。 |
加算税の割合を確認しておく
| 区分 | 条文が定める割合 |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 修正申告または更正により納付すべき税額に100分の10。ただし、更正があるべきことを予知してされたものでない修正申告のときは100分の5(法第65条第1項)。 |
| 同・加重される部分 | 納付すべき税額が、期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に100分の5を加算します(同条第2項)。 |
| 賦課されない場合 | 予知前の修正申告で、かつ調査通知がある前に行われたものであるときは、過少申告加算税は適用しないとされています(同条第6項)。 |
| 重加算税 | 隠蔽または仮装があり、それに基づき申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて100分の35(法第68条第1項)。無申告の場合は100分の40(同条第2項)。 |
調査結果の説明を受ける段階では、すでに調査通知は済んでいます。事務運営指針は、日程の都合を聴取する際に法第65条第6項の調査通知を併せて行うとしています。この段階で自主的に修正申告をしても、第6項による不適用にはあたりません。
🖊️ 勧奨に応じるかどうかは任意です
第3項は「勧奨することができる」と書いており、応じることを義務づける文言はありません。国税庁のFAQ問25も、この点をはっきり述べています。
この修正申告の勧奨に応じるかどうかは、あくまでも納税者の方の任意の判断であり、修正申告の勧奨に応じていただけない場合には、調査結果に基づき更正等の処分を行うこととなりますが、修正申告の勧奨に応じなかったからといって、修正申告に応じた場合と比較して不利な取扱いを受けることは基本的にはありません。
応じないことで加算税が重くなる、といった仕組みは条文にも見当たりません。分かれるのは、その後に何ができるかです。
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⚖️ 修正申告と更正処分で変わること
第3項が交付を義務づけている書面(事務運営指針では教示文と呼ばれています)には、修正申告書等を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨が書かれています。この一文が、両者の違いのすべてです。
同じ税額でも、争える手段が変わる
| 比べる点 | 内容 |
|---|---|
| 不服申立て | 更正処分は税務署長等が行った処分ですから、これに不服があれば不服申立てができます。不服申立ては、処分があったことを知った日(通知を受けた場合はその受けた日)の翌日から起算して3か月を経過したときはすることができない、とされています(法第77条第1項)。修正申告は自ら提出した申告であり、処分ではないため、この手段はとれません。 |
| 更正の請求 | 申告した課税標準等または税額等が過大であったときは、法定申告期限から5年以内(法人税の純損失等の金額に係る場合は10年以内)に更正の請求ができます(法第23条第1項)。修正申告をしたあとでも、この手段は残ります。 |
| 理由の説明 | 更正処分には理由が示されます。事務運営指針も、処分の理由の提示について、処分の適正性を担保し不服申立ての便宜を図るという趣旨が確保されるよう適切に行う、としています。 |
FAQ問26は、この違いを、一旦は説明に納得して修正申告を行ったものの、その後に誤りがあると考えられる場合を例に説明しています。その修正申告は税務当局の処分によるものではないため不服申立てという手段はとれないが、一定期間内であれば更正の請求はできる、という整理です。あわせて、更正の請求には、正しいと考える税額や請求の理由など法令で定められた事項を更正請求書に記載し、請求の理由の基礎となる事実を証明する書類を提出する必要があるとされています。
更正の請求は、請求すれば通るものではありません。理由を裏づける資料をそろえる必要があります。説明の場で納得できていない項目があるなら、その時点で争うかどうかを決めておくほうが、材料をそろえる時間を確保できます。
🕒 その場で決めないための進め方
説明の場で即答を求められているように感じることがありますが、条文にも国税庁の資料にも、その日のうちに提出しなければならないとする定めは見当たりません。次の順で整理してください。
全体をまとめて判断せず、項目ごとに分けて考える
とくに大切なのが③です。指摘が5項目あるとき、4項目は納得できて1項目だけ争いたい、ということは珍しくありません。すべてを含めた修正申告を出すと、その1項目についても不服申立ての道はなくなります。項目を分けて相談する余地があるかどうかは、その場で確認する価値があります。
また、重加算税が付く指摘があるときは、扱いが変わります。隠蔽または仮装があったという評価そのものに納得できないのであれば、税額の話とは別に、その評価を争うかどうかを決める必要があります。金額の大小だけで判断すると、後の年度の調査にも影響が残ります。
税理士に説明してもらうこともできます
第4項は、税務代理人がある場合において納税義務者の同意があるときは、納税義務者への説明等に代えて税務代理人への説明等を行うことができるとしています。FAQ問27は、税務代理人のみへの説明を希望する場合には、調査担当者に電話または対面でその旨を伝えるか、税務代理人を通じて同意する書面を提出する必要があると説明しています。あわせて、納税者に説明を行う場合でも、税務代理人の同席の下で行うことや、別途、税務代理人にも説明を行うことが可能とされています。
🔁 終わったあとに再び調査が来る場合
第5項は、通知をした後、修正申告書等の提出があった後、更正決定等をした後であっても、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは、質問検査等を行うことができるとしています。
手続通達6-7は「新たに得られた情報」を、通知または説明を行った時点において当該職員が有していた情報以外の情報としています。6-8は、新たに得られた情報から直接的に非違が認められる場合だけでなく、その情報とそれ以外の情報とを総合勘案した結果として非違があると合理的に推認される場合も含まれる、としています。
FAQ問28は、実地の調査を行った税目・課税期間については、結果にかかわらず原則として再調査を実施することはないとしたうえで、実地の調査終了後に行われた取引先の税務調査で当初把握されていなかった非違が明らかになった場合を例として挙げています。
事前準備から当日の立会い、指摘への反論、修正申告の要否判断まで対応します。顧問税理士がいらっしゃる場合も、この調査だけのスポットのご依頼を承ります。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。法人の税務顧問と申告業務、新しい会計基準の導入支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
❓ よくある質問
その場で修正申告書に署名を求められました
勧奨に応じるかどうかは任意の判断とされています。内容を確認してから決めたいと伝えて差し支えありません。同じ場面で交付される教示文は、修正申告書等を提出した場合の法的効果を記載した書面で、修正申告に応じることとは別のものです。どちらの書面なのかを確かめてください。
指摘の一部だけを認めることはできますか
修正申告は自ら提出する申告ですから、その内容は自社で決めます。ただし、認めなかった部分について税務署長等が更正処分を行うことはあります。項目ごとにどう扱うのかを、説明の場で相談しておくほうが行き違いが減ります。
更正処分を受けると心証が悪くなりませんか
FAQ問25は、勧奨に応じなかったからといって修正申告に応じた場合と比較して不利な取扱いを受けることは基本的にはない、と述べています。応じない場合には調査結果にもとづき更正等の処分を行うこととなる、というのが条文と運用の建て付けです。
納める税額はいつまでに払うのですか
事務運営指針は、調査結果の説明の際に、納付すべき税額および加算税のほか、納付すべき税額によっては延滞税が生じることを説明する、としています。納付の時期と金額は、この場で確認してください。資金の手当てが必要になることが多いので、早めに確認するほど選択肢が残ります。
何も指摘がない場合は連絡がありますか
実地の調査で更正決定等をすべきと認められない場合は、その旨が書面により通知されます(第1項)。一方、事務運営指針は、実地の調査以外の調査で更正決定等をすべきと認められない場合には、この通知は行わないが、調査が終了した際には調査が終了した旨を口頭により連絡することに留意する、としています。
📄 まとめ
調査の最後で判断すべきことは、税額に納得するかどうかだけではありません。修正申告書を出せば、その内容について不服申立てをする道は閉じます。残るのは更正の請求で、こちらは理由を裏づける資料をそろえて自ら請求する手続です。
一方、勧奨に応じなければ更正処分が行われ、理由が示され、処分を知った日の翌日から3か月以内であれば不服申立てができます。応じなかったことで不利な取扱いを受けることは基本的にはない、と国税庁も述べています。
ですから、その場ですべきことは、決めることではなく、項目ごとに金額と理由を書き取り、納得できる項目とできない項目を分けることです。分けたうえで判断すれば、納得している部分は早く終わらせ、争いたい部分だけに時間を使えます。判断に迷う項目があるときは、説明を受けた段階で相談してください。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 国税通則法(e-Gov法令検索) 第74条の11(調査の終了の際の手続)、第19条(修正申告)、第23条(更正の請求)、第65条(過少申告加算税)、第68条(重加算税)、第77条(不服申立期間)
- 国税庁 法令解釈通達 第3節 調査の終了の際の手続に関する事項 6-3、6-7、6-8
- 国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針) 調査結果の内容の説明等、修正申告等の勧奨、理由附記の実施
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け) 問24、問25、問26、問27、問28
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。
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