業績が伸びた年は、役員にもその成果で報いたい。ところが期首に決めた定額の役員報酬では、期中に出た成果を後から反映することができません。そこで目に入るのが「業績連動給与」という制度です。
ただ、調べ始めると報酬委員会、独立社外取締役、有価証券報告書といった言葉が並び、自社に関係のある制度なのかどうかすら分からなくなります。結論から言えば、この制度は入口の段階で使える法人がかなり絞り込まれています。
この記事では、業績連動給与がどこで線引きされているのかを条文にあたって確認し、同族会社が原則として使えない理由と、その例外にあたる形を整理します。あわせて、中小の同族会社が同じ目的をどう果たすのかも見ていきます。
この記事は役員給与の税務 完全ガイドの第7回です。
🧭 業績連動給与とは何か
法人税法は、法人が役員に支給する給与のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は、損金の額に算入しないと定めています(法人税法第34条第1項)。役員給与を損金にするには、この3つの類型のどれかに乗せる必要がある、という構造です。
このうち業績連動給与そのものの定義は、同条第5項に置かれています。
第一項に規定する業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人又は当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定される額又は数の金銭又は株式若しくは新株予約権による給与…(法人税法第34条第5項)
ここで押さえておきたいのは、第5項は「業績連動給与とは何か」を定義しているだけで、損金になる条件はまったく書かれていないという点です。損金算入の条件は第1項第3号にあります。つまり、業績に連動する役員給与を出すこと自体は自由ですが、それが第1項第3号の条件を満たさなければ、額のすべてが損金になりません。
| 類型 | あらかじめ必要なこと | 中小の同族会社での使いやすさ |
|---|---|---|
| 定期同額給与 | 期首から3か月以内に額を決め、その後は毎月同額で支給する | もっとも広く使われている。金額を期中に動かせないのが制約 |
| 事前確定届出給与 | 支給時期と支給額を定め、期限までに税務署へ届け出る | 賞与を損金にする現実的な道。ただし額は事前に確定させる必要がある |
| 業績連動給与 | 指標にもとづく算定方法を定め、所定の手続を経て有価証券報告書で開示する | 後述のとおり、入口の段階で使える法人が絞られる |
定期同額給与と事前確定届出給与の中身は、この連載の定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールおよび事前確定届出給与の届出期限はいつ?で扱っています。
図1 業績連動給与は法人の形・支給の相手・給与の中身の3か所で条件が課されています。
🏢 最初の関門は法人の形 — 同族会社は原則として使えない
損金算入の条件を定めた第34条第1項第3号は、その柱書に次の括弧書きを置いています。
内国法人(同族会社にあつては、同族会社以外の法人との間に当該法人による完全支配関係があるものに限る。)がその業務執行役員…に対して支給する業績連動給与…(法人税法第34条第1項第3号)
この括弧書きが、実務上もっとも効いてきます。同族会社が業績連動給与を損金にできるのは、「同族会社以外の法人との間に、その法人による完全支配関係がある」場合に限られる、と書かれているからです。
個人の株主とその親族が株式を持っている、日本の中小企業の典型的な形はここに当てはまりません。したがって、そうした会社では、どれだけ精緻な業績連動の仕組みを作っても、第1項第3号の入口自体を通れません。
逆に、非同族の法人が親会社となっていて、その親会社との間に完全支配関係がある子会社であれば、その子会社自身が同族会社であっても入口は通ります。上場企業のグループ子会社が想定されている形です。
図2 同族会社が入口を通れるのは、非同族の法人による完全支配関係がある場合に限られます。
| 法人の形 | 第34条第1項第3号の入口 | 補足 |
|---|---|---|
| 同族会社に該当しない法人 | 通る | 入口を通ったうえで、支給の相手と3つの要件を満たす必要がある |
| 同族会社だが、非同族法人による完全支配関係がある法人 | 通る | 括弧書きの例外にあたる形。グループ子会社が想定されている |
| 個人株主が支配する同族会社 | 通らない | 算定方法をどれだけ整えても第3号の適用はない |
👤 支給の相手は業務執行役員に限られる
第1項第3号が対象とするのは、法人が「業務執行役員」に対して支給する業績連動給与です。この業務執行役員が誰を指すのかは、政令に委ねられています。
法第三十四条第一項第三号に規定する政令で定める役員は、同号イの算定方法についての第十六項各号又は第十七項各号に掲げる手続の終了の日において次に掲げる役員に該当する者とする。一 会社法第三百六十三条第一項各号(取締役会設置会社の取締役の権限)に掲げる取締役 二 会社法第四百十八条(執行役の権限)の執行役 三 前二号に掲げる役員に準ずる役員(法人税法施行令第69条第9項)
会社法第363条第1項各号に掲げる取締役とは、代表取締役と、代表取締役以外の取締役で取締役会の決議によって業務を執行する取締役として選定された者をいいます。つまり、取締役という肩書があるだけでは足りず、業務を執行する立場にあることが必要です。
もう一点、条文には「他の業務執行役員の全てに対して次に掲げる要件を満たす業績連動給与を支給する場合に限る」という限定が付いています。特定の一人だけに業績連動給与を出す設計は、この限定にかかります。
なお、業務執行役員に当たるかどうかは、施行令第69条第9項自体が、算定方法についての手続の終了の日において判定する旨を定めています。同族会社の例外に当たるかどうかと、独立社外取締役に当たるかどうかの判定も、同じく手続の終了の日の現況によるとされています(法人税法施行令第69条第20項)。
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✅ 満たすべき3つの要件
入口を通り、支給の相手も業務執行役員である場合に、次に検討するのが給与そのものの要件です。要件は、算定方法・支給時期・損金経理の3つに整理できます。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 算定方法 | 所定の指標を基礎とした客観的なものであり、確定額または確定数を限度とし、他の業務執行役員に対するものと同様の算定方法であること。所定の期限までに報酬委員会等による適正な手続を経ていること。その内容が手続の終了の日以後遅滞なく有価証券報告書に記載されていること | 法人税法第34条第1項第3号イ |
| 支給時期 | 金銭による給与は、算定の基礎とした指標の数値が確定した日の翌日から1か月を経過する日までに交付され、または交付される見込みであること。株式または新株予約権による給与は同じく2か月を経過する日まで | 法人税法施行令第69条第19項第1号 |
| 損金経理 | 損金経理をしていること。給与の見込額として損金経理により引当金勘定に繰り入れた金額を取り崩す方法により経理している場合を含む | 法人税法施行令第69条第19項第2号 |
3つのうち、実務で見落とされやすいのは支給時期です。指標の数値が確定してから1か月というのは、決算数値の確定から支給までの実務日程としてはかなり短く、社内の決裁と支払の段取りを先に設計しておく必要があります。
算定方法の要件のうち、内容を有価証券報告書に記載することが求められている点は決定的です。有価証券報告書を提出していない法人は、この要件を満たすことができません。
🗓 算定方法をめぐる期限と、基礎にできる指標
算定方法を決める期限
算定方法についての適正な手続をいつまでに終える必要があるかは、政令に日付の定めがあります。
法第三十四条第一項第三号イ(2)に規定する政令で定める日は、同号イに規定する職務執行期間開始日の属する会計期間開始の日から三月(第一項第一号イ(1)に掲げる法人にあつては四月とし、同号イ(2)に掲げる法人にあつてはその指定に係る月数に二を加えた月数とする。)を経過する日とする。(法人税法施行令第69条第13項)
原則は、職務執行期間の開始日が属する会計期間開始の日から3か月を経過する日です。定期同額給与の改定期限と同じ時間感覚だと考えると分かりやすいでしょう。確定申告書の提出期限の延長の特例について税務署長の指定を受けている法人には、月数の読み替えが用意されています。
図3 算定方法は期首から3か月以内に決め、支給は指標の確定から1か月以内という2つの期限があります。
算定の基礎にできる指標
算定方法の基礎にできる指標は、条文で3種類に限定されています。しかも、いずれも有価証券報告書に記載されるものであることが求められています。
| 指標の区分 | 内容 | 条文上の条件 |
|---|---|---|
| 利益の状況を示す指標 | 利益の額、有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標など | 政令で定めるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る |
| 株式の市場価格の状況を示す指標 | 所定の期間または所定の日における株式の市場価格やその平均値など | 自社または完全支配関係がある法人の株式に関する指標として政令で定めるものに限る |
| 売上高の状況を示す指標 | 売上高、売上高に有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標など | 利益の指標または株式の市場価格の指標と同時に用いられるもので、有価証券報告書に記載されるものに限る |
売上高の指標だけを単独で使うことはできず、利益または株価の指標と同時に用いることが条件になっています。売上だけを伸ばして報酬を増やす設計を許さない、という趣旨が読み取れます。
利益の指標については、政令にさらに具体的な列挙があります。有価証券報告書に記載されるべき利益の額のほか、その額に減価償却費や支払利息などを加減算した指標、その指標を売上高や総資産の帳簿価額などで除した割合、前期や目標値に対する超過額や比率などが挙げられています(法人税法施行令第69条第10項)。
🏪 中小の同族会社が同じ目的を果たす手段
ここまで見てきたとおり、個人株主が支配する同族会社では業績連動給与を損金にできません。では、業績に応じて役員に報いたいという目的そのものを諦めるしかないのかというと、そうではありません。組み立て方を変えることになります。
| 手段 | できること | 注意すべき点 |
|---|---|---|
| 事前確定届出給与 | 賞与の形で、あらかじめ定めた時期に定めた額を支給し、損金にする | 額は事前に確定させる必要があり、業績を見てから変えることはできない。届出期限を1日でも過ぎると使えない |
| 定期同額給与の改定 | 期首から3か月以内の改定で、その期の業績見通しを月額に織り込む | 反映できるのは期首時点の見通しまで。期中の増額は上乗せ部分が損金不算入になる |
| 使用人兼務役員の使用人分賞与 | 使用人としての職務に対する賞与を、他の使用人と同じ時期に支給する | そもそも使用人兼務役員に該当しない役員が多い。使用人分として相当な金額に限られる |
期末が近づいてから「今期は利益が出たので役員賞与を出す」という決め方は、3つの類型のいずれにも当たりません。この場合、支給額の全額が損金不算入になります。業績に報いたいのであれば、期首の設計に戻して考える必要があります。
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❓ よくある質問
非上場の会社でも業績連動給与を使えますか
算定方法の要件のなかに、その内容が有価証券報告書に記載されていることという条件が含まれています。有価証券報告書を提出していない法人は、この要件を満たすことができません。したがって、実際上は有価証券報告書の提出義務がある法人が対象になります。
当社は同族会社ですが、親会社が上場会社です。使えますか
その上場会社が同族会社に該当せず、その会社との間に完全支配関係があるのであれば、第34条第1項第3号の括弧書きの例外にあたります。ただし、入口を通るだけであって、業務執行役員への支給であることと、3つの要件を満たすことは別に検討する必要があります。
業務執行役員でない取締役に業績連動の給与を出したらどうなりますか
第34条第1項第3号は業務執行役員に対して支給するものを対象としています。業務執行役員に当たらない者への支給は、この号の適用対象になりません。その給与が定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらなければ、損金の額に算入されないことになります。
功績倍率法で計算した役員退職金は業績連動給与になりますか
いわゆる功績倍率法にもとづいて支給する退職給与は、法人税法第34条第5項に規定する業績連動給与に該当しないため、同条第1項の規定の適用はないとされています(法人税基本通達9-2-27の3)。退職給与については、不相当に高額な部分の金額が損金不算入になるという第2項の問題として検討します。
監査役に業績連動の報酬を出すことはできますか
第34条第1項第3号が対象とするのは業務執行役員です。監査役は業務を執行する立場にはないため、この号の対象になりません。監査役の報酬は、定期同額給与または事前確定届出給与の枠組みで考えることになります。
要件を1つだけ満たさなかった場合、その部分だけが否認されますか
第34条第1項は、3つの類型のいずれにも該当しない給与の額を損金不算入とする構造です。要件を欠いて第3号に該当しなくなった場合、按分されるのではなく、その給与の額が損金不算入の対象になります。部分的な救済を前提に設計しないほうが安全です。
📄 まとめ
業績連動給与は、役員報酬を業績に連動させるための正面からの制度です。ただし、その入口は法人の形で絞られています。同族会社は原則として使えず、例外は非同族の法人による完全支配関係がある場合に限られます。
入口を通った場合でも、支給の相手は業務執行役員に限られ、他の業務執行役員の全員にも同様の給与を支給していることが求められます。そのうえで、算定方法・支給時期・損金経理という3つの要件を満たす必要があります。算定方法は期首から3か月以内に所定の手続で決め、その内容を有価証券報告書で開示することが求められるため、実際上は有価証券報告書を提出する法人の制度だと理解しておくのが実務的です。
個人株主が支配する会社では、業績への報い方を事前確定届出給与や定期同額給与の改定に組み替えることになります。いずれも期首の設計が勝負であり、期末に思いついて動かせる制度ではありません。今期の役員報酬の設計を見直すのであれば、期首の3か月が来る前に相談先を決めておくことをおすすめします。
🔗 参考(公的な一次情報)
- 法人税法(e-Gov法令検索) … 第34条第1項第3号、第2項、第5項、第6項
- 法人税法施行令(e-Gov法令検索) … 第69条第9項・第10項・第13項・第19項・第20項
- 国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 法人税基本通達 第9章第2節第7款 退職給与 … 9-2-27の3
- 国税庁タックスアンサー No.5200 役員の範囲
本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。