事前確定届出給与を届出と違う額で払ったら?定めどおりの支給とは

事前確定届出給与の届出を出したあとで、資金繰りが読みどおりにいかなくなる。よくあることです。届け出た300万円をそのまま払うのは苦しいので、とりあえず100万円だけ払っておこう。あるいは、思ったより利益が出たので上乗せして払おう。どちらも、税務上は同じ結末を招きます。

事前確定届出給与は「所定の時期に確定した額を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」です。届け出た額と実際の支給額が違えば、その給与は定義から外れます。外れた瞬間、減らした分だけが否認されるのではなく、支給額の全額が損金にならないのが原則です。

この記事では、何をもって「定めどおりの支給」といえるのか、複数回の支給がある場合の判定の単位はどこか、そして減らさざるを得ないときに取り得る手段は何かを、通達と国税庁の質疑応答事例に沿って整理します。届出期限そのものについては役員給与の税務 完全ガイドから各回をたどってください。

🧭 「定めどおりの支給」が要件そのものである理由

法人税法第34条第1項第2号は、事前確定届出給与を「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭(略)を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」と定義しています。要点は「定めに基づいて支給する給与」という部分です。定めがあることと、その定めどおりに支給したことの両方がそろって、はじめて該当します。

この点を明示しているのが法人税基本通達9-2-14です。

法第34条第1項第2号《事前確定届出給与》に掲げる給与は、所定の時期に確定した額の金銭等(略)を交付する旨の定めに基づいて支給される給与をいうのであるから、例えば、同号の規定に基づき納税地の所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合にはこれに該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入となることに留意する。(法人税基本通達9-2-14)

「その支給額の全額」と書かれている点に注意してください。届出額300万円に対して100万円しか支給しなかった場合、否認されるのは差額の200万円ではありません。実際に支給した100万円が、まるごと損金不算入になります。減らしたほうが不利になるという、直感に反する結果です。

実際の支給 原則的な取扱い
届出どおりの時期に届出どおりの額を支給した 事前確定届出給与に該当し、損金算入
届出額より少ない額を支給した 該当せず、実際に支給した額の全額が損金不算入
届出額より多い額を支給した 該当せず、実際に支給した額の全額が損金不算入
届出した支給日と違う日に支給した 支給時期も定めの内容であるため、該当しないおそれがある
まったく支給しなかった 損金にすべき支給額そのものがない(後述の職務執行期間の判定に注意)

増額のケースも「異なる場合」に含まれます。届出額を上回って支給しても、上乗せ分だけが否認されるわけではありません。

なぜ全額なのか。第34条第1項は、役員給与のうち定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しないものを損金不算入とする構造になっています。定めどおりに支給されなかった給与は第2号から外れますが、外れたからといって第1号や第3号に移れるわけではありません。どの号にも当てはまらない給与として、その全額が損金不算入になるという理屈です。一部否認・一部容認という中間の結論が出てこないのは、この構造によります。

したがって、届出額までは認めて超過分だけを否認する、届出額に届かなかった分だけを調整する、といった金額の按分は行われません。判定はあくまで「定めに基づく支給といえるか」というひとつの問いに集約されます。

🔍 判定の単位は「職務執行期間」

賞与を年2回に分けて届け出るケースは珍しくありません。このとき、1回目は定めどおり、2回目は資金が足りず減額、という事態が起きます。1回目までが救われるのかどうかが問題になります。

国税庁の質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定」は、この論点について次の考え方を示しています。一般的に、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると解されるため、支給が複数回にわたる場合であっても、定めどおりに支給されたかどうかはその職務執行の期間を一つの単位として判定すべきである、というものです。

そのうえで、複数回の支給がある場合には、原則として、その職務執行期間に係る当該事業年度および翌事業年度における支給について、その全ての支給が定めどおりに行われたかどうかにより判定することになる、としています。

判定の単位は事業年度ではなく職務執行期間職務執行期間 X年6月26日の定時株主総会からX+1年6月25日まで当該事業年度(X+1年3月期)翌事業年度(X+2年3月期)1回目の支給 X年12月2回目の支給 X+1年6月2回の支給は事業年度をまたぎますが、判定はこの職務執行期間を一つの単位として行います。

図1 職務執行期間は事業年度をまたぐことが多く、判定の単位も期間全体になります。

📐 国税庁の設例で結論を確かめる

同じ質疑応答事例には、2つの具体例が示されています。結論が正反対になるので、どこで分かれるのかを押さえてください。

ケースA 同じ事業年度側で未達だった場合

3月決算法人が、X年6月26日からX+1年6月25日までを職務執行期間とする役員に対し、X年12月およびX+1年6月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定めて届け出たとします。ところがX年12月には100万円しか支給せず、X+1年6月には満額の200万円を支給しました。

この場合、その職務執行期間に係る支給の全てが定めどおりに行われたとはいえないため、その支給額の全額(100万円+200万円=300万円)が事前確定届出給与に該当せず、損金不算入となります。後から満額を払っても、先に外した事実は取り戻せません。

ケースB 当該事業年度は定めどおりで、翌事業年度に未達だった場合

同じ3月決算法人が、X年6月26日の定時株主総会で、X年12月25日およびX+1年6月25日にそれぞれ300万円を支給する旨を決議し、期限までに届け出たとします。X年12月25日には300万円を支給しましたが、X+1年6月25日には資金繰りの都合がつかず50万円しか支給できませんでした。

この場合、国税庁は、X年12月25日に届出どおり支給した役員給与については損金の額に算入して差し支えないとしています。理由は、翌事業年度で定めどおりに支給しなかったことが、直前の事業年度(X+1年3月期)の課税所得に影響を与えるようなものではないことから、翌事業年度(X+2年3月期)に支給した給与の額のみについて損金不算入と取り扱っても差し支えないと考えられる、というものです。

同じ未達でも、どちらの事業年度で外したかで結論が変わるケースA 先に外した1回目 X年12月 届出200万    実際100万 → 未達2回目 X+1年6月 届出200万    実際200万 → 満額結論 支給額の全額300万円が   損金不算入ケースB 後で外した1回目 X年12月 届出300万    実際300万 → 満額2回目 X+1年6月 届出300万    実際50万 → 未達結論 1回目300万は損金算入可   翌期の50万のみ損金不算入

図2 国税庁の質疑応答事例に示された2つの設例。分かれ目は、未達が先か後かです。

比較の観点 ケースA ケースB
未達が生じた回 1回目(当該事業年度) 2回目(翌事業年度)
当該事業年度の支給 100万円(損金不算入) 300万円(損金算入して差し支えない)
翌事業年度の支給 200万円(損金不算入) 50万円(損金不算入)
損金不算入額の合計 300万円 50万円

ケースBの取扱いは、翌期の未達が直前期の課税所得に影響を与えるものではないという理由に基づくものです。当該事業年度側で外した場合には、この理由が成り立たないためケースAの結論になります。

👥 役員が複数いるとき、影響はどこまで及ぶか

1人の役員について届出額と異なる支給をしたら、同じ届出書に書いた他の役員の分まで巻き込まれるのでしょうか。国税庁の質疑応答事例は、これを明確に否定しています。

法人税法第34条第1項第2号は「その役員の職務につき」と規定しており、個々の役員に係る給与について定めたものです。したがって、A役員に対して届出書の記載額と異なる金額の役員給与を支給したとしても、そのことを理由として、A役員以外の他の役員に対して支給した役員給与が損金不算入になることはない、というのが回答の趣旨です。

否認の範囲は、額が違った役員の分だけA役員届出額と違う額を支給→ その支給額は損金不算入B役員届出どおりに支給→ 損金算入できるC役員届出どおりに支給→ 損金算入できる法人税法第34条第1項第2号は「その役員の職務につき」と定めており、個々の役員に係る給与について規定したものと解されています。ただし、同じ議事録・同じ届出書に基づく以上、記載内容の点検は全員分について必要です。

図3 1人の未達が全役員に波及することはありません。範囲を正しく把握することが反論の第一歩です。

💡 減らさざるを得ないときの選択肢

支給の直前になって資金が足りないと分かった場合、取り得る道は限られます。整理すると次の3つです。

選択肢 内容と注意点
業績悪化改定事由による変更届出を出す 支給額を減額する場合に限り、定めの内容を変更する届出ができます。期限は、その事由により変更に関する株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日。ただし変更前の定めに基づく支給の日(決議日後に最初に到来するもの)がその日より前にあるときは、その支給の日の前日が期限です。
臨時改定事由による変更届出を出す 役員の職制上の地位の変更など、臨時改定事由に該当する事実があるときに限られます。期限はその事由が生じた日から1か月を経過する日です。
その回は支給しない 支給しなければ損金にすべき額そのものが生じません。ただし同じ職務執行期間に他の支給がある場合は、期間全体での判定に影響します。

本当の対策は、届け出る前の金額設計にある

ここまでみたとおり、届け出たあとに使える手段はごくわずかです。したがって実務上の勝負どころは、届出書を出す前に金額をどう決めるかにあります。判断の材料は3つです。

1つ目は、支給日の資金繰り見込みです。賞与の支給月には、社会保険料や源泉所得税の納付も重なります。支給日時点で確実に用意できる金額を上限にしてください。2つ目は、支給回数です。年2回に分けると、1回目で外したときに2回目まで巻き込まれます。資金の見通しが立ちにくい会社ほど、回数は少ないほうが安全です。3つ目は、届出額を控えめにしておき、業績が良かった分は翌期の役員報酬の改定で回収するという設計です。定期同額給与の改定は期首から3か月以内という枠がありますので、決算の着地とあわせて検討します。この点は定期同額給与とは?改定できる時期と3か月ルールで整理しています。

注意:資金繰りが苦しいという事情が、そのまま業績悪化改定事由に当たるわけではありません。国税庁の「役員給与に関するQ&A」は、経営状況の悪化に伴い、株主・債権者・取引先といった第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じていることを求めており、利益調整のみを目的とした減額改定は認められないという考え方を示しています。

また、変更届出は支給日の前日までに間に合わせる必要がある場面があります。支給日の直前に気づいても手続が間に合わないことは十分あり得ます。

⚠️ 実務で起きやすい取り違え

金額を意図的に変えたつもりがなくても、結果として届出額と一致しなくなる例があります。決算前に確認しておきたい点をまとめます。

ありがちな場面 確認すること
手取り額を基準に振り込んでしまった 届出は総支給額で行っているのが通常です。源泉所得税や社会保険料を差し引く前の金額が届出額と一致しているかを確認します。
支給日が休日で前後にずらした 支給時期も定めの内容です。休日に当たる場合の取扱いをあらかじめ決議・記載しておくのが安全です。
議事録の金額と届出書の金額が違う 転記ミスは調査で必ず見つかります。決議・届出・支給の3点セットで金額を突き合わせます。
役員が期中に退任した 職務執行期間が途中で終わることになります。定めどおりの支給といえるかを個別に検討する必要があります。
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❓ よくある質問

Q1. 1円でも違ったら否認されるのですか

通達は「届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合」と書いており、金額の大小で線を引いてはいません。端数処理の違いであっても、届出額と一致していなければ形式上は外れます。届出額は端数の出ない金額にしておくのが実務的です。

Q2. 支給額を減らした分は、役員に対する債務として残せますか

未払金として計上したうえで後日支払うという処理が考えられますが、その場合でも「所定の時期に」支給したといえるかが問われます。支給時期がずれれば定めどおりの支給とは評価されないおそれがあります。安易な未払計上は避けてください。

Q3. 増額した場合、届出額までは損金になりませんか

通達は、届出額と実際の支給額が異なる場合には該当しないこととなり、原則としてその支給額の全額が損金不算入となるとしています。届出額までが救われるという書き方はされていません。

Q4. 全額を支給しなかった場合、届出をしたこと自体で課税されますか

支給がなければ損金にすべき金額もありませんので、支給しなかったこと自体で所得が増えることはありません。ただし同じ職務執行期間に他の回の支給がある場合は、期間全体で定めどおりかを判定するため、他の回の取扱いに影響します。

Q5. 定期同額給与のほうは影響を受けますか

定期同額給与と事前確定届出給与は別の号で規定されています。賞与の側で要件を満たさなくなったことを理由に、毎月の役員報酬が損金不算入になるわけではありません。ただし届出書には同じ会計期間の他の給与の支給時期と支給額も記載しているため、その記載と実際の支給が食い違っていないかは確認されます。

Q6. 過去に届出額と違う支給をしていたことに気づきました

申告で損金算入していたのであれば、修正申告の要否を含めた検討が必要です。金額と事業年度、職務執行期間の区切りを整理したうえで、どの範囲が損金不算入になるのかを確定させてください。ケースBのように、当該事業年度分は損金算入して差し支えないと整理できる場合もあります。

📄 まとめ

事前確定届出給与は、定めがあることではなく、定めどおりに支給されたことで完成します。届け出た額と実際の支給額が異なれば、その給与は該当せず、原則として支給額の全額が損金不算入です。減額でも増額でも結論は同じです。

複数回の支給があるときは、判定の単位が事業年度ではなく職務執行期間である点が重要です。同じ職務執行期間のなかで先に未達が生じれば、後から満額を払っても期間全体の支給が否認されます。逆に、当該事業年度は定めどおりに支給し、翌事業年度で未達となった場合は、当該事業年度の支給を損金算入して差し支えないという取扱いが示されています。

資金繰りに不安があるなら、届出額を身の丈に合わせて低く設定しておく。これが最も確実な備えです。届け出た以上、途中で下げる自由はほとんど残されていません。

🔗 参考(公的な一次情報)

本記事は公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所・東京都台東区)が、法令・通達および国税庁の公表資料に基づいて作成しています。本記事は一般的な情報提供を目的としています。制度は改正される可能性があり、個別の事実関係により結論が異なります。実際の判断にあたっては、専門家にご確認ください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

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