「メンテナンス込みの車両リース、保守サービス付きの複合機、共益費込みのオフィス賃料──毎月の支払のうち、どこまでをリース負債に計上すればいいのか」。契約の棚卸しを進めるIPO準備会社・上場企業の経理/管理部門の方が、リースの識別の仕上げに必ず直面するのがこの論点です。
結論からいえば、原則は「リースを構成する部分」と「リースを構成しない部分」に分け、対価を独立価格の比率で配分します。ただし借手には、分けずにまとめて「リース」として処理する選択肢もあり、その分だけ使用権資産・リース負債は大きくなります。本記事では連載第8回(第2部最終回)として、借手・貸手それぞれの区分・配分のルール、合算選択の損得、契約の結合の考え方までを条項番号付きで整理します。
結論:原則は「分ける」、借手には「合わせてリース」の選択肢
借手及び貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行います(基準28項)。その際、借手は契約における対価の金額を、それぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分します(指針11項)。
一方で借手は、この原則にかかわらず、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表で表示するであろう科目ごと、又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせて「リースを構成する部分」として会計処理することを選択できます(基準29項)。分ければ負債は小さく・手間は大きく、合わせれば手間は小さく・負債は大きくなる。この損得の構造を押さえることが、方針決定の出発点になります。
なぜ区分が必要か──「リースにだけ」新基準を適用するため
自動車のリースにメンテナンス・サービスが含まれる場合のように、契約の中にはリースを構成する部分とリースを構成しない部分の両方を含むものがあり、リースを構成する部分のみに会計基準を適用するために区分の定めが置かれています(基準BC32項)。そもそも契約がリースを含むかどうかの判定は、第5回:リースの識別の判定フローで整理したとおりです。
区分した後は、借手は、リースを構成する部分について会計基準及び適用指針に定める方法で会計処理を行い、リースを構成しない部分については該当する他の会計基準等に従って会計処理を行います(指針10項)。旧リース適用指針の下で「役務提供相当額」として取り扱われてきた金額は、新基準ではリースを構成しない部分に含まれることになるとされています(指針BC16項)。
そもそも契約がリースを含むかどうかの判定は、第5回:リースの識別の判定フローで整理しています。
対価の配分──「独立価格の比率」で按分する
借手の配分基礎となる独立価格は、貸手又は類似のサプライヤーが当該構成部分又は類似の構成部分について企業に個々に請求するであろう価格に基づいて算定し、独立価格が明らかでない場合には、観察可能な情報を最大限に利用して合理的な方法で見積ります(指針BC17項)。実務では、見積書や価格表、単体で契約した場合の料金などが手掛かりになります。
また、契約における対価の中に、固定資産税や保険料、貸手の事務コストの請求のような「借手に財又はサービスを移転しない活動及びコスト」について借手が支払う金額が含まれる場合、借手は当該金額を対価から控除せず、対価の一部としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分します(指針11項、指針BC15項・BC18項)。
旧基準の「維持管理費用相当額の控除」は借手には引き継がれない
旧リース適用指針では、借手が負担するリース料に含まれる固定資産税、保険料等の諸費用を「維持管理費用相当額」として、原則リース料総額から控除する定めが置かれていました(指針BC15項)。しかし新基準では、借手についてファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が廃止され分類の観点から控除を定める必要がなくなったこと、貸手が支払う固定資産税や保険料等の金額が借手に示されることは通常想定されず借手による算定が困難なことから(指針BC19項)、借手には旧定めを引き継がず、配分する方法のみが定められました(指針BC21項)。月額「コミコミ」で内訳のない契約が多い会社ほど、この配分作業が実務負担になります。
借手の簡便法──科目・グループ単位の「合算」選択(基準29項)
冒頭で触れたとおり、借手は科目ごと又は類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として処理することを選択できます(基準29項)。連結財務諸表においては、個別財務諸表で行ったこの選択を見直さないことができます(基準30項)。
合算を選択した場合には、本来は含まれないはずのリースを構成しない部分に配分する対価も、借手のリース料に含めて使用権資産・リース負債の計上額を算定することになります(基準19項)。この取扱いは、区分のコストと複雑性を低減するための例外的な取扱いであり、合算するとリース負債が大きく増大するため、採用される可能性が高いのは非リース部分が比較的小さい場合のみとIFRS第16号の結論の根拠で予想されていると説明されています(基準BC33項)。なお、逆方向、すなわちリースを構成する部分を関連するリースを構成しない部分と合わせて「リースを構成しない部分」として処理することは認められていません(基準BC33項)。
区分のコストと複雑性を低減するための例外的な取扱いです。
貸手の処理──独立販売価格で配分、維持管理費用相当額の控除も選択可
貸手は、リースを構成する部分についてファイナンス・リース又はオペレーティング・リースの会計処理を行い、リースを構成しない部分については該当する他の会計基準等に従って会計処理を行います(指針12項)。対価の配分は、借手の「独立価格」とは異なり、それぞれの部分の「独立販売価格」の比率に基づいて行い、この独立販売価格は収益認識会計基準における定義を参照します(指針13項、指針BC22項)。
また、対価の中に原資産の維持管理に伴う固定資産税、保険料等の諸費用(維持管理費用相当額)等が含まれる場合、貸手は、①借手に財又はサービスを移転しない活動及びコストについて借手が支払う金額を対価の一部として両部分に配分する方法か、②維持管理費用相当額を対価から控除して収益に計上する、又は貸手の固定資産税、保険料等の費用の控除額として処理する方法のいずれかにより会計処理を行います(指針13項(1)(2))。②を選択する場合で、維持管理費用相当額のリースを構成する部分の金額に対する割合に重要性が乏しいときは、リースを構成する部分の金額に含めることができます(指針13項ただし書き)。貸手に旧来の控除処理が残されたのは、貸手は引き続きリースの分類を行っており、固定資産税や保険料等の金額を自ら把握しているためです(指針BC23項)。
さらに貸手には、リースを構成しない部分が収益認識会計基準の適用対象であり、かつ、①リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分の収益の計上の時期及びパターンが同じで、②リースを構成する部分がオペレーティング・リースに分類される場合に、契約ごとに両者を合わせて取り扱うことができる簡便法があります(指針14項)。この場合、リースを構成する部分が契約の主たる部分であればオペレーティング・リースとして、そうでなければ収益認識会計基準に従って単一の履行義務として会計処理を行います(指針15項)。
| 項目 | 借手 | 貸手 |
|---|---|---|
| 配分の基礎 | 独立価格の比率(指針11項) | 独立販売価格の比率(指針13項) |
| 維持管理費用相当額 | 控除せず配分のみ(指針BC21項) | 配分か控除処理かを選択(指針13項(1)(2)) |
| 合算の簡便法 | 科目・グループごとに選択可(基準29項) | 収益の時期・パターン同一+オペレーティング・リース分類の場合に契約ごとに可(指針14項) |
「1つのリース」の単位と契約の結合
独立したリースの構成部分はどこまでか
1つの契約に複数の資産が含まれる場合、原資産を使用する権利は、①当該原資産の使用から単独で、又は容易に利用できる他の資源と組み合わせて借手が経済的利益を享受でき、かつ、②当該原資産の契約の中の他の原資産への依存性又は相互関連性が高くない場合に、独立したリースを構成する部分となります(指針16項)。例えば車両20台の一括契約は通常は1台ごとに独立したリースと考えられる一方、専用設備とそれがないと機能しない付属装置は一体で1つのリースと判断される場合があると考えられます。
契約の結合──本文に定めはないが、考え方は示されている
複数契約の結合について、基準・適用指針の本文に具体的な定めは置かれていませんが、結論の背景では、それぞれのリースにおける収益及び費用の金額及び時期を適切に計上するため複数の契約を結合し単一の契約とみなして処理することが必要となる場合があるとされ、例として、同一の相手方と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について価格に相互依存関係が存在する場合や、同一の商業上の目的で締結されている場合が挙げられています(基準BC24項)。なお、少額リースの簡便的取扱いにおけるリース契約1件当たりの金額の判定では、複数の契約を結合することまでは想定されていません(指針BC43項)。
区分・合算の判断の前に、そもそも「1つのリース」をどの単位で捉えるかを決める必要があります。
数値例:メンテナンス込み車両リースの配分と合算の比較
前提(自作の設例):営業用車両1台をメンテナンス込み月額66,000円・期間4年(48か月)でリース。契約書に内訳の記載はないが、ディーラーの価格表から、同型車のリース単体は月額60,000円、同内容のメンテナンスパック単体は月額15,000円(独立価格の合計75,000円)と把握できた。
①原則どおり区分する場合:リース部分への配分額は66,000円×60,000円/75,000円=52,800円/月、非リース部分は66,000円×15,000円/75,000円=13,200円/月。使用権資産・リース負債の基礎となるリース料は割引前で52,800円×48か月=2,534,400円となり、メンテナンス分は発生時に費用処理します。
②合算を選択する場合:月額66,000円の全額がリース料となり、割引前で66,000円×48か月=3,168,000円。①と比べて計上額の基礎は633,600円、率にして25%大きくなります。
※割引計算は捨象した単純化モデルです。非リース部分の割合が大きい契約ほど、合算選択による貸借対照表の膨らみは大きくなります。
実務上の留意点──「区分か合算か」は科目単位の意思決定
この論点の実務負担は、会計処理そのものよりも準備作業にあります。まず契約の棚卸しで、車両メンテナンス、複合機・IT機器の保守、不動産の共益費・管理費など「サービス込み契約」を洗い出し、次に契約書・見積書・価格表から独立価格の情報を収集する必要があります。内訳のない契約では観察可能な情報を最大限に利用した見積りが求められ(指針BC17項)、契約件数が多いほどこの作業は膨らみます。
また、合算の選択は科目ごと又は原資産のグループごとに行うものであり(基準29項)、契約1件ごとに有利な方を使い分けることはできません。合算を選択すればリースを構成しない部分の対価も借手のリース料に含まれるため(基準19項)、少額リースなど簡便的取扱いの金額判定にも影響し得ると考えられます。なお、リース契約1件当たりの金額の算定にあたっては、維持管理費用相当額の合理的見積額を控除することができます(指針23項)。監査対応の観点では、選択の適用単位と首尾一貫性、独立価格の見積根拠の文書化が問われやすく、IPO実務では経理規程や会計方針文書への落とし込みまで求められるのが通常です。契約の棚卸しから区分・配分方針の設計までを専門家と一緒に進めたい場合は、新リース会計基準 導入支援サービスもご活用ください。
区分・配分の準備チェックリスト
- 契約棚卸しで「サービス込み契約」(車両メンテ・保守・共益費等)を識別したか
- 契約書・見積書・価格表から対価の内訳と独立価格の情報を収集したか
- 独立価格が不明な契約の見積方法(類似サプライヤーの価格等)を決めたか
- 合算選択の適用単位(科目・グループ)とB/Sへの影響額を試算したか
- 貸手側の契約について独立販売価格と維持管理費用相当額の処理方法を決めたか
- 選択した方針を経理規程・会計方針文書に落とし込んだか
リース契約1件当たりの金額の算定にあたっては、維持管理費用相当額の合理的見積額を控除することができます(指針23項)。
よくある質問(FAQ)
原則は、リースを構成する部分とリースを構成しない部分に分け(基準28項)、独立価格の比率でリース部分に配分した金額を基礎にリース負債を算定します(指針11項)。ただし、科目・グループ単位で合算を選択した場合は全額がリース料となります(基準29項)。
貸手又は類似のサプライヤーが当該構成部分について個々に請求するであろう価格に基づいて算定し、明らかでない場合は観察可能な情報を最大限に利用して合理的な方法で見積ります(指針BC17項)。実務では単体契約の見積書や公表価格表の入手が近道です。
共益費のうち清掃・警備などのサービスはリースを構成しない部分となり得る一方、固定資産税や保険料等の請求は「借手に財又はサービスを移転しない活動及びコスト」として対価に含めて配分します(指針11項、指針BC15項)。契約により内容が異なるため、賃貸借契約書の実費・役務の内訳確認が出発点になると考えられます。
合算選択の場合はリースを構成しない部分の対価も借手のリース料に含まれるため(基準19項)、リース契約1件当たりの金額の判定にも影響し得ると考えられます。なお、当該金額の算定にあたり維持管理費用相当額の合理的見積額を控除することができます(指針23項)。
まとめ──第2部「リースの識別」はここで完結
リースを含む契約は、原則としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分に分け(基準28項)、借手は独立価格の比率で(指針11項)、貸手は独立販売価格の比率で(指針13項)対価を配分します。借手には科目・グループ単位の合算選択(基準29項)という簡便法がありますが、その分だけ使用権資産・リース負債は大きくなるため、B/Sインパクトの試算とセットで方針を決めることが重要です。第5回から続けてきた「リースの識別」はこれで一巡です。次回(第9回)からは第3部として、計上額を左右するもう1つの主戦場「リース期間」の算定に進みます。
連載の全体像は連載目次:新リース会計基準を基礎から実務まで解説を、前回の記事は新リース会計基準の使用を支配する権利とは?経済的利益と指図権を解説をご覧ください。
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本記事は執筆時点の会計基準等に基づく一般的な解説であり、個別の会計処理・経営判断については、監査法人や顧問の専門家にご相談ください。
参考(本文で引用した基準等):企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」19項・28項・29項・30項・BC24項・BC32項・BC33項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」10項・11項・12項・13項(1)(2)・14項・15項・16項・23項・BC15項・BC16項・BC17項・BC18項・BC19項・BC21項・BC22項・BC23項・BC43項