IAS12法人所得税|繰延税金資産の回収可能性と税率差異注記

IFRSの組替仕訳は一通り作った。のれんの償却を止めて、リースをオンバランスして、開発費を資産計上した。ところが最後に残った「税効果」で手が止まってしまう——IFRS導入プロジェクトの終盤で、こうしたご相談をよくいただきます。

組替仕訳そのものより、その仕訳に税効果をどう当てるのか、繰延税金資産をどこまで計上してよいのかが分からない。日本基準では「会社分類」に沿って判断してきたのに、IFRSにはその分類がない。監査人からは「回収可能性の根拠を示してください」と言われるが、何を用意すればよいのか見えない。

この回では、IAS第12号「法人所得税」を、日本基準との違いが実務でどこに出るかという観点から整理します。回収可能性の判断、IFRS組替仕訳への税効果の当て方、税率差異注記(レートリコンシリエーション)の作り方までを、担当者が明日から動ける粒度で解説します。

この記事でわかること

  • IAS第12号の一時差異アプローチと「税務基準額」の考え方
  • 繰延税金資産の回収可能性:IFRSの「probable」と日本の会社分類(分類1〜5)の発想の違い
  • IFRS組替仕訳に税効果を当てる実務手順(誰が・いつまでに・何を作るか)
  • 見落とされやすい4論点:当初認識の例外とリース、子会社の留保利益、割引の禁止、相殺と表示
  • 税率差異注記(レートリコンシリエーション)の構造と作り方(数値例つき)
  • グローバル・ミニマム課税と防衛特別法人税——2026年時点で確認すべき最新論点

📊 IAS第12号「法人所得税」の全体像|出発点は日本基準と同じ

IAS第12号「法人所得税」(IAS 12 Income Taxes)の中心的な課題は、財政状態計算書に計上された資産・負債の帳簿価額を将来回収・決済したときに生じる税務上の帰結を、いま財務諸表に反映することにあります。同基準第10項は、帳簿価額の回収・決済によって将来の税金支払が増える(減る)可能性が高い場合には、限定的な例外を除いて繰延税金負債(繰延税金資産)を認識するという考え方を「基礎となる基本原則」と位置づけています。

ここで安心していただきたいのは、出発点は日本基準と同じだという点です。日本の「税効果会計に係る会計基準」(企業会計審議会 平成10年10月30日)も、第二 一 2で一時差異を「貸借対照表及び連結貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額」と定義しており、資産負債法(一時差異アプローチ)という基本構造はIFRSと共通です。

キーワードは「税務基準額(tax base)」

IAS第12号で最初につまずきやすいのが「税務基準額」という用語です。これは資産・負債に税務上帰属させられる金額のことで、日本基準でいう「課税所得計算上の資産及び負債の金額」に相当します。第7項は資産の税務基準額を「帳簿価額を回収する際に企業に流入する課税対象の経済的便益に対して、税務上控除される金額」と定め、経済的便益が課税対象でない場合は税務基準額=帳簿価額(=一時差異なし)としています。負債については第8項が「帳簿価額から、将来の期間に当該負債について税務上控除される金額を控除した額」と定めています。

実務では、この税務基準額をどこから持ってくるかが最初の作業になります。第11項は、連結財務諸表では連結上の帳簿価額と適切な税務基準額とを比較するとしたうえで、連結申告制度がない法域では各社の申告書を参照する旨を示しています。日本では原則として個社の法人税申告書(別表五(一)など)の数値が出発点です。つまり、IFRS移行で変わるのは左側(帳簿価額)だけで、右側(税務基準額)は従来どおり税務申告がベース——この点を最初にプロジェクトメンバーで共有しておくと、作業の見通しが立ちやすくなります。

資産・負債ごとに2つの金額を並べ、その差額から繰延税金を計算するIFRS上の帳簿価額財政状態計算書に載る金額税務基準額(第7項・第8項)税務申告がベース一 時 差 異将来加算一時差異将来の課税所得を増やす繰延税金負債を認識(第15項)将来減算一時差異将来の課税所得を減らす回収可能なら繰延税金資産(第24項)

図1:一時差異の算定の考え方。IFRS移行で変わるのは左側(帳簿価額)で、右側(税務基準額)は税務申告がベースとなります。

⚖️ 繰延税金資産の回収可能性|IFRSに「会社分類」はない

日本基準とIFRSで実務上もっとも差が出るのが、繰延税金資産の回収可能性の判断です。ここは監査人との協議に最も時間がかかる領域でもあります。

IFRS:判断の枠組みは「使用できる課税所得が生じる可能性が高いか」

IAS第12号第24項は、将来減算一時差異について「当該差異を使用できる課税所得が生じる可能性が高い(probable)範囲で」繰延税金資産を認識すると定めています。税務上の繰越欠損金・繰越税額控除についても、第34項が同じ考え方を適用しています。

では、その「可能性が高い」をどう裏づけるか。IAS第12号は判断の源泉を次の3つに整理しています。

  • 第28項:同一の税務当局・同一の納税主体に係る十分な将来加算一時差異が、将来減算一時差異の解消と同一期間(または繰戻し・繰越しが可能な期間)に解消することが見込まれる場合
  • 第29項:将来加算一時差異が不十分な場合に、同一の税務当局・同一の納税主体に係る十分な課税所得が生じる可能性が高い範囲
  • 第30項:タックス・プランニングの機会がある範囲(受取利息の課税方法の選択、控除請求の繰延べ、含み益のある資産のセール・アンド・リースバックなど)

加えて重要なのが第35項です。同項は、繰越欠損金の存在それ自体が「将来の課税所得が生じない可能性」の有力な証拠であるとしたうえで、直近に損失を計上した履歴がある企業は、十分な将来加算一時差異があるか、または「説得力のある他の証拠(convincing other evidence)」がある範囲でのみ繰延税金資産を認識できるとしています。第36項は判断の評価規準として、(a)期限到来前に使用できる十分な将来加算一時差異の有無、(b)期限到来前に課税所得が生じる可能性、(c)繰越欠損金の原因が反復しにくい識別可能な事象によるものか、(d)タックス・プランニングの機会の有無、の4点を挙げています。

繰延税金資産の回収可能性を裏づける3つの源泉(IAS第12号)将来減算一時差異・繰越欠損金・繰越税額控除これを使える課税所得が生じる可能性が高いか(第24項・第34項)① 将来加算一時差異同一納税主体で同じ期間に解消するものと相殺第28項② 将来の課税所得十分な課税所得が生じる可能性が高い範囲第29項③ タックス・プランニング課税所得の時期・区分を動かす機会があるか第30項第35項:直近に欠損を計上した履歴があるときは、欠損の存在そのものが不利な証拠になる十分な将来加算一時差異があるか、「説得力のある他の証拠」がある範囲でのみ認識できる

図2:IAS第12号における繰延税金資産の回収可能性の判断構造。日本基準の会社分類のような形式的な区分は置かれていません。

日本基準:適用指針第26号の「分類1〜5」

一方の日本基準は、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(平成27年12月28日公表、平成28年3月28日最終改正)が、企業を分類1から分類5までに区分し、分類ごとに計上できる範囲を定めています。実務では「うちは分類3だから5年」という会話が成立するほど、この枠組みが定着しています。

分類 主な要件(要旨) 繰延税金資産の計上範囲
分類1
(第17・18項)
過去3年および当期のすべてで、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得。経営環境の著しい変化の見込みなし。 全額について回収可能性あり。
分類2
(第19〜21項)
臨時的な原因を除いた課税所得が安定的に生じている(将来減算一時差異は下回る)。重要な税務上の欠損金なし。 スケジューリングの結果に基づく額。スケジューリング不能な差異は原則計上せず。
分類3
(第22〜25項)
臨時的な原因を除いた課税所得が大きく増減。重要な税務上の欠損金なし。 合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得に基づく額。合理的な根拠があれば5年超も可(第24項)。
分類4
(第26〜29項)
過去3年または当期に重要な税務上の欠損金がある等。かつ翌期に所得が生じる見込み。 原則として翌期のスケジューリング結果に基づく額。5年超安定的に所得が生じると説明できれば分類2、おおむね3〜5年なら分類3として扱う。
分類5
(第30・31項)
過去3年および当期のすべてで重要な税務上の欠損金があり、翌期も見込まれる。 原則として回収可能性なし。

※いずれの分類の要件も満たさない企業は、過去の課税所得・欠損金の推移や将来の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断される分類に区分します(同適用指針第16項)。

実務でどう向き合うか

ここで多くの会社が悩むのが、「IFRSに分類がないなら、日本基準で分類3だった会社の5年という縛りはどうなるのか」という点です。IAS第12号には分類1〜5に相当する区分も、見積可能期間の年数を定めた規定もありません。判断は第28項〜第31項・第34項〜第36項の枠組みに沿って、将来の課税所得の見積りそのものの合理性で行います。

実務的には、日本基準で作ってきた将来課税所得の見積り資料(事業計画に基づくスケジューリング表)がそのまま出発点になります。ただし年数の物差しがない分、「なぜその期間の見積りに合理性があるのか」を文書で説明する負担が増えるとお考えください。分類4・分類5に近い状況の会社では、第35項の「説得力のある他の証拠」に何を充てるかが監査人との最大の論点になります。過去の欠損の原因が反復しにくい識別可能な事象(大型の減損、撤退事業のリストラクチャリング費用など)であることを、事実関係とともに整理した文書を早い段階で用意してください。

ポイント:計上額が動く方向は一律ではありません

IFRSに年数の縛りがないことは、繰延税金資産が増える方向にも減る方向にも働きます。日本基準では分類3で5年に切っていた将来減算一時差異が、合理的な根拠を示せればより長期で回収可能と判断される余地がある一方、分類2で「スケジューリング可能だから」と積んでいた金額が、将来課税所得の見積りの説明が弱ければ認められないこともあります。影響度調査の段階で、繰延税金資産の増減を一方向に決め打ちしないことが大切です。

🧾 IFRS組替仕訳に税効果を当てる|実務の5ステップ

次に、IFRS導入プロジェクトの中で税効果をどう作るかという実務手順です。第12回でご説明したコンバージョン実務で作った組替仕訳に、税効果をどう当てていくかという話になります。

IFRS組替仕訳から税率差異注記までの実務フロー1IFRS組替仕訳を確定する経理・PMO / 成果物:組替仕訳一覧(勘定科目・金額・根拠)2組替後の帳簿価額と税務基準額を並べる経理 / 成果物:一時差異明細(税務基準額は税務申告ベース)3一時差異に税率を乗じて繰延税金を算定する経理 / 成果物:繰延税金計算表(納税主体別・解消予定期の税率)4回収可能性の根拠資料を整える(最重要)経理・経営企画 / 成果物:将来課税所得の見積りと説明メモ5注記データを作る経理 / 成果物:税率差異注記・一時差異の種類別内訳(第81項)

図3:IFRS組替仕訳から税効果・注記までの流れ。ステップ4は監査人との協議に最も時間がかかるため、決算日から逆算して早めに着手します。

ステップ2でつまずかないための実務上のコツ

ステップ2は単純作業に見えて、実際には最も工数がかかります。IFRS組替仕訳は「日本基準の連結財務諸表からIFRSへの調整」として作られることが多く、その調整額がどの個社のどの資産・負債に紐づくのかが曖昧なまま集計されているケースが少なくありません。しかし繰延税金の計算は納税主体(個社)単位で行う必要があるため、組替仕訳の段階から「どの会社の仕訳か」を必ず持たせておくことが後工程を大きく楽にします。

また、組替仕訳には税効果が付くものと付かないものがあります。代表的な論点は次のとおりです。

IFRS組替の内容 一時差異 実務上の留意点
のれんの償却停止 のれんの当初認識から生じる差異は繰延税金負債を認識しない(第15項(a)) のれんそのものの取扱いと、子会社株式の帳簿価額の変動は分けて考えます。第17回ののれん非償却を併せてご確認ください。
リースのオンバランス 使用権資産とリース負債の双方に生じる(第22A項) 2021年5月改正により、当初認識時に同額の将来加算・将来減算一時差異が生じる取引には当初認識の例外を適用しません。両建てで認識します。
開発費の資産計上 生じる(税務上は損金算入済みで税務基準額がゼロのことが多い) 資産計上額に対して繰延税金負債が立ちます。金額が大きくなりやすい論点です。
退職給付の再測定(OCI) 生じる 税効果もOCIに認識します(第61A項・第62項)。純損益に落とさない点に注意が必要です。
有給休暇の未消化分 生じる(税務上は損金不算入) 日本基準では計上していなかった負債が新たに立つため、繰延税金資産が増加します。
子会社の留保利益 生じる(第39項・第44項) 認識するかどうかは配当政策の支配と解消時期の見込みで決まります(後述)。

※上表は考え方の整理です。個別の取引に係る税務上の取扱いは法域・契約条件・自社の申告実務により異なります。実際の判断は税務顧問および監査人にご確認ください。

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🏢 見落とされやすい4つの論点

1. 当初認識の例外とリース(第15項(b)・第24項・第22A項)

IAS第12号は、①のれんの当初認識、②企業結合でない取引で、取引時に会計上の利益にも課税所得にも影響せず、かつ同額の将来加算・将来減算一時差異を生じさせない資産・負債の当初認識、から生じる繰延税金を認識しないという例外を置いています。

この「同額の将来加算・将来減算一時差異を生じさせない」という条件は、2021年5月公表の改正「単一の取引から生じる資産及び負債に係る繰延税金(IAS第12号の改正)」で追加されたものです。改正の趣旨は、リース開始日の使用権資産とリース負債のように資産と負債が同時に当初認識される取引について、当初認識の例外を適用せず繰延税金を認識させる点にあります(第22A項)。適用時期は2023年1月1日以後開始する事業年度からで、早期適用も認められていました。

したがって、いまからIFRSを導入する企業は改正後の取扱いが前提となります。第16回でご説明したIFRS第16号のオンバランスと併せて、使用権資産とリース負債の双方に繰延税金を両建てで認識する設計になっているかを確認してください。資産除去債務と対応する除去費用資産についても同様の論点が生じます。

見落とされやすい4つの論点1 当初認識の例外とリース(第15項(b)・第24項・第22A項)2021年5月の改正により、資産と負債が同時に当初認識される取引には当初認識の例外を適用せず繰延税金を認識する使用権資産とリース負債の双方に繰延税金を両建てで認識する設計か確認する2 子会社・関連会社の留保利益(第39項・第44項)将来加算一時差異は原則すべて繰延税金負債を認識親会社は子会社の配当政策を支配できるため除外の余地がある(第40項)関連会社は通常支配できないため、不分配の合意等がなければ認識が必要(第42項)3 割引の禁止(第53項)繰延税金資産・負債は割り引いてはならない4 相殺と表示(第71項・第74項)相殺できる条件が定められている

いまからIFRSを導入する企業は、2023年1月1日以後開始事業年度から適用されている改正後の取扱いが前提になります。

2. 子会社・関連会社の留保利益(第39項・第44項)

子会社・支店・関連会社への投資および共同支配の取決めに対する持分については、その帳簿価額と税務基準額(多くは取得原価)との差から一時差異が生じます。主な要因は、未分配利益、為替相場の変動、関連会社投資の回収可能価額への減額です(第38項)。

第39項は、これらに係るすべての将来加算一時差異について繰延税金負債を認識すると定めたうえで、(a)親会社等が一時差異の解消時期を支配でき、かつ(b)予測可能な将来に一時差異が解消しない可能性が高い、という両方の条件を満たす範囲を除くとしています。親会社は通常、子会社の配当政策を支配できるため両条件を満たす余地がありますが(第40項)、関連会社は通常支配できないため、不分配の合意等がなければ繰延税金負債の認識が必要になります(第42項)。将来減算側については第44項が、一時差異が予測可能な将来に解消し、かつ使用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲でのみ認識するとしており、ハードルが将来加算側より高く設定されています。海外子会社を多く抱える企業では、この論点だけで相応の検討時間が必要です。影響度調査の段階で対象範囲を洗い出しておいてください。

3. 割引の禁止(第53項)

IAS第12号第53項は、繰延税金資産および繰延税金負債を割り引いてはならないと明文で定めています(第54項は理由として、解消時期の詳細なスケジューリングが実務上困難であること、任意適用では比較可能性が損なわれることを挙げています)。日本基準でも実務上、繰延税金を割り引く処理は行われていないため、実務への影響という意味で差は生じません。

4. 相殺と表示(第71項・第74項)

表示区分については、かつて日本基準が流動・固定に区分していたため差異がありましたが、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(2018年2月16日)により、日本基準でも繰延税金資産は投資その他の資産、繰延税金負債は固定負債に表示することとされ、非流動区分に統一されました。IAS第1号第56項も、流動・非流動区分表示を行う場合に繰延税金資産(負債)を流動に分類してはならないと定めており、表示区分の差異は解消済みです。

一方、相殺の範囲には差異が残っています。企業会計基準第28号第2項は、同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺し、異なる納税主体のものは相殺せずに表示すると定めています。これに対しIAS第12号第74項は、(a)当期税金資産と当期税金負債を相殺する法的強制力のある権利を有し、かつ(b)同一の税務当局が課す法人所得税に係るもので、(i)同一の納税主体、または(ii)異なる納税主体であっても、重要な繰延税金の決済・回収が見込まれる各将来期間において当期税金を純額で決済する(または同時に実行する)意図がある場合に、相殺しなければならないとしています。グループ通算制度を採用している企業では、この(ii)の要件を満たすかどうかが検討論点になります。

論点 IFRS(IAS第12号) 日本基準
基本アプローチ 一時差異アプローチ(資産負債法) 同じ(税効果会計に係る会計基準 第二 一 2)
繰延税金資産の認識規準 使用できる課税所得が生じる可能性が高い(probable)範囲(第24項) 回収が見込まれない額を除いて計上(第二 二 1、注解(注5))
回収可能性の判断枠組み 会社分類はなく、第28項〜第31項・第35項・第36項の考慮要素に基づく個別判断 適用指針第26号の分類1〜5に応じた計上範囲
当初認識の例外 あり(第15項・第24項)。ただし同額の一時差異が生じる取引には適用しない(第22A項) 同種の明文の例外規定は置かれていない
割引 明文で禁止(第53項) 実務上行わない(明文規定は特定できず)
表示区分 非流動(IAS第1号第56項) 非流動(企業会計基準第28号第2項)— 差異なし
相殺 要件を満たせば異なる納税主体間でも相殺(第74項) 同一納税主体のみ相殺、異なる納税主体は相殺しない(第28号第2項)
税率差異注記 第81項(c)。金額基準による省略規定は置かれていない 差異が法定実効税率の100分の5以下の場合は省略可

💰 税率差異注記(レートリコンシリエーション)の作り方

IAS第12号第81項(c)は、税金費用(収益)と会計上の利益との関係の説明を求めています。これがいわゆる税率差異注記、レートリコンシリエーションです。同項は次の2つの形式のいずれか、または両方によることを認めています。

  • (i) 数値的調整表方式:税金費用(収益)と「会計上の利益 × 適用税率」との数値的な調整表を示し、あわせて適用税率の算定根拠を開示する
  • (ii) 平均実際税率方式:平均実効税率(=税金費用÷会計上の利益。第86項)と適用税率との数値的な調整表を示し、あわせて適用税率の算定根拠を開示する

日本の有価証券報告書で見慣れた「法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異の原因となった主要な項目別の内訳」は、(ii)の平均実際税率方式に近い形式です。したがって、注記の骨格そのものは日本基準の実務がそのまま応用できます

数値例で構造を確認する

下の数値例はすべて仮定値です。税引前当期純利益1,000百万円、法定実効税率30.0%と仮定します。

項目 金額(百万円) 税率差異(ポイント)
法定実効税率(仮定) 300 30.0
交際費等永久に損金算入されない項目 15 1.5
受取配当金等永久に益金算入されない項目 △8 △0.8
住民税均等割 5 0.5
評価性引当額の増減 40 4.0
税額控除 △25 △2.5
在外子会社の適用税率差異 △12 △1.2
その他 5 0.5
税効果会計適用後の法人税等の負担率 320 32.0
税率差異注記の構造(数値はすべて仮定値)法定実効税率 30.0%① 永久差異(交際費等+1.5/受取配当等△0.8/均等割+0.5)+1.2pt② 評価性引当額の増減+4.0 / 税額控除△2.5+1.5pt③ 在外子会社の適用税率差異△1.2 / その他+0.5△0.7pt税効果会計適用後の負担率 32.0%

図4:税率差異注記の構造。法定実効税率を起点に、永久差異・評価性引当額・税額控除・在外子会社の税率差異を積み上げて実際の負担率に橋渡しします。

この例では差異が2.0ポイントとなります。日本基準では、財務諸表等規則第8条の12が税効果会計に関する注記を定めており、法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異が法定実効税率の100分の5以下である場合には、当該差異の原因の注記を省略できる取扱いがあります(企業会計基準第28号第36項も、この省略を前提とした記述をしています)。仮定の30.0%であれば1.5ポイントが基準となるため、この例は省略できず注記が必要という結論になります。

注意:IFRSには数値基準の省略規定がありません

IAS第12号には、日本のような「100分の5以下なら省略可」という数値基準は置かれていません。したがって日本基準では毎期省略してきた会社でも、IFRSでは税率差異注記を作成する前提で準備する必要があります。この注記は、法人税申告書の別表四・別表五(一)から差異項目を拾い、納税主体別に集計する作業を伴います。省略してきた会社ほど初年度の工数が読みにくいため、移行日の1年前には試作しておくことをおすすめします。

税率差異注記以外に増える開示

第81項は、税率差異注記のほかにも複数の開示を求めています。実務負担の観点で押さえておきたいのは次の3点です。

  • 第81項(g):一時差異の種類ごと、および繰越欠損金・繰越税額控除の種類ごとに、各表示期間に認識した繰延税金資産・負債の金額と、純損益に認識した繰延税金収益・費用の額(増減から明らかでない場合)
  • 第81項(e)(f):繰延税金資産を認識していない将来減算一時差異・繰越欠損金等の金額(失効日を含む)、繰延税金負債を認識していない子会社・関連会社等への投資に係る一時差異の総額
  • 第82項:繰延税金資産の使用が既存の将来加算一時差異の解消から生じる利益を超える将来課税所得に依存しており、かつ当期または前期に当該税務管轄で損失を計上している場合、繰延税金資産の金額と認識を裏づける証拠の内容を開示

第82項は、日本基準の「重要な繰延税金資産を計上している場合の回収可能と判断した主な理由」の注記(企業会計基準第28号第5項)と近い趣旨ですが、開示のトリガーとなる状況の定義が異なります。損失を計上した年度がある企業は、回収可能性の根拠文書を対外的に説明可能な形で整えておく必要があるとお考えください。ステップ4を早めに始めるべき理由はここにもあります。

🌍 2026年時点で確認すべき最新論点

グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)

OECDのPillar Twoモデルルールを実施する税制については、IASBが2023年5月に「国際的な税制改革——第2の柱モデルルール(IAS第12号の改正)」を公表し、Pillar Two法人所得税に係る繰延税金資産・繰延税金負債を認識してはならず、情報の開示もしてはならないという一時的な例外を第4A項に置きました。同時に、次の開示が求められています。

  • 第88A項:第4A項の例外を適用した旨
  • 第88B項:Pillar Two法人所得税に係る当期税金費用(収益)の区分開示
  • 第88C項・第88D項:Pillar Two法制が制定または実質的に制定されたが未施行の期間について、エクスポージャーの理解に資する既知のまたは合理的に見積可能な定性的・定量的情報(指標的なレンジによる提供も可)

日本基準では、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(2023年3月31日公表、2024年3月22日改正)第3項が同制度の影響を繰延税金に反映しないこととし、第16項で本実務対応報告を適用した旨の注記は求めないとしています。また実務対応報告第46号(2024年3月22日公表)が、当期税金として合理的に見積った金額を損益に計上する取扱い等を定め、2024年4月1日以後開始する連結会計年度・事業年度の期首から適用されています。

つまり、繰延税金を認識しないという結論は共通しているものの、IFRSでは第88A項〜第88D項の開示が必要である一方、日本基準では適用した旨の注記が求められていないという差があります。対象グループに該当する場合は、IFRS移行時に新たに用意すべき開示項目として認識しておいてください。

Pillar Two IFRSと日本基準で差が出るのは「開示」IFRS(IAS第12号)第4A項 Pillar Two法人所得税に係る繰延税金資産・負債を認識してはならず情報の開示もしてはならない(一時的な例外)第88A項 例外を適用した旨第88B項 当期税金費用(収益)の区分開示第88C項・第88D項 制定済み未施行の期間の定性的・定量的情報(レンジによる提供も可)日本基準(実務対応報告第44号・第46号)第44号第3項 同制度の影響を繰延税金に反映しない第44号第16項 本実務対応報告を適用した旨の注記は求めない第46号 当期税金として合理的に見積った金額を損益に計上2024年4月1日以後開始年度の期首から適用対象グループに該当する場合は、IFRS移行時に新たに用意すべき開示項目として認識しておく必要があります。

繰延税金を認識しないという結論は共通ですが、IFRSでは第88A項〜第88D項の開示が必要である一方、日本基準では適用した旨の注記が求められていません。

防衛特別法人税と法定実効税率

令和7年度税制改正により防衛特別法人税が創設され、国税庁の解説によれば、課税標準法人税額(基準法人税額から基礎控除額である年500万円を控除した額)に対して4%の税率が適用されます。適用は令和8年(2026年)4月1日以後に開始する課税事業年度からです。

繰延税金は、資産が実現する期または負債が決済される期に適用されると予想される税率で測定します(IAS第12号第47項)。日本基準でも、回収または支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算します(税効果会計に係る会計基準 第二 二 2)。解消予定期に適用される税率が変わる場合には、繰延税金の再測定が必要になります。

なお、企業会計基準適用指針第28号第4項(11)が示す法定実効税率の算式には、防衛特別法人税は明示されていません。実際の算定にあたっての取扱いは、税務顧問および監査人にご確認ください。本記事の数値例で用いた30.0%は説明のための仮定値であり、実際の法定実効税率は納税主体の所在地・規模・超過課税の有無により異なります。

防衛特別法人税の計算(令和7年度税制改正)基準法人税額法人税額をベースとする基礎控除を差引年500万円を控除する課税標準法人税額控除後の金額が課税標準となる×4%防衛特別法人税額が算出される

適用は令和8年(2026年)4月1日以後に開始する課税事業年度から。国税庁の解説による。

OCIに対する法人税等の取扱い

IAS第12号第61A項は、税金が純損益外で認識される項目に関連する場合、当期税金・繰延税金も純損益外(OCIまたは資本に直接)で認識するとしています。日本基準でも、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」の2022年10月28日改正により、評価差額等に課される法人税等を個別財務諸表では評価・換算差額等、連結財務諸表ではその他の包括利益から控除する取扱いが導入されました(2024年4月1日以後開始する年度の期首から適用)。この領域は日本基準側がIFRSに近づいたため、以前ほど大きな差異にはなりません

OCIに対する法人税等の取扱いIFRS(IAS第12号第61A項)税金が純損益外で認識される項目に関連する場合当期税金・繰延税金も純損益外(OCIまたは資本に直接)で認識する日本基準(企業会計基準第27号)2022年10月28日改正により評価差額等に課される法人税等を個別=評価・換算差額等連結=その他の包括利益から控除する取扱いを導入

2024年4月1日以後開始する年度の期首から適用。この領域は日本基準側がIFRSに近づいたため、以前ほど大きな差異にはならない。

🗒️ IFRS導入プロジェクトの税効果チェックリスト

影響度調査〜数値作成の各段階で確認すること

  • 組替仕訳に納税主体(個社)の情報が付与されているか
  • 各組替項目について、税務基準額の入手元(別表五(一)等)が特定できているか
  • リースの使用権資産・リース負債に繰延税金を両建てで認識する設計になっているか
  • OCIに計上する調整項目の税効果を、OCIに計上する仕組みになっているか
  • 在外子会社・関連会社の留保利益に係る一時差異を洗い出したか
  • 将来課税所得の見積り資料が、事業計画と整合し説明可能な形になっているか
  • 過去に欠損を計上している場合、その原因が反復しにくい事象であることを説明する資料があるか
  • 税率差異注記のデータを納税主体別に集計できる体制になっているか(日本基準で省略していた場合は特に)
  • 第81項(g)の一時差異の種類別開示に必要な粒度でデータを保持しているか
  • グローバル・ミニマム課税の対象グループに該当するか、該当する場合の開示項目を整理したか
  • 相殺(第74項)の要件を満たすかを納税主体ごとに検討したか
  • 税率変更(防衛特別法人税等)を織り込む手順を、税務顧問・監査人と合意したか

この一覧は、第8回でご説明した3フェーズの進め方のうち、フェーズ1(影響度調査)で上の6項目、フェーズ2〜3(詳細差異分析・数値作成)で下の6項目を目安に潰していくと進めやすくなります。税効果は「最後にまとめてやる論点」と思われがちですが、実際には組替仕訳の設計段階から納税主体の情報を持たせておかないと後戻りが発生する領域です。

❓ よくある質問

Q. 日本基準で分類3だった会社は、IFRSでも将来課税所得の見積りを5年で切るのでしょうか。

A. IAS第12号には分類1〜5に相当する区分も、見積可能期間の年数を定めた規定もありません。判断は第28項〜第31項・第34項〜第36項の枠組みに沿って、将来課税所得の見積りそのものの合理性に基づいて行います。合理的な根拠を説明できれば5年超の見積りに基づく計上もあり得ますし、逆に説明が弱ければ5年以内でも認められないことがあります。日本基準で作成してきたスケジューリング表を出発点に、期間の合理性を裏づける説明メモを追加していく進め方が現実的です。

Q. IFRS移行時(初度適用)の税効果はどのように処理しますか。

A. IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」は原則として遡及適用を求めているため、移行日の開始財政状態計算書において、IFRSに基づく帳簿価額と税務基準額との差から一時差異を計算し直し、IAS第12号に従って繰延税金を認識することになります。他の組替項目(のれん、リース、開発費等)の調整額が確定して初めて税効果が確定するため、作業順序としては最後になりますが、その分だけ決算日直前に集中しやすいのが実務上の悩みどころです。移行日・比較年度・適用初年度の関係については第11回の初度適用で詳しくご説明しています。

Q. 税率差異注記は日本基準と同じ様式で作れますか。

A. 骨格は流用できます。IAS第12号第81項(c)(ii)は平均実効税率と適用税率との数値的な調整表を示す方式を認めており、日本の有価証券報告書の形式に近いためです。ただし、①「100分の5以下なら省略可」という数値基準がないため毎期作成が前提となる、②適用税率の算定根拠の開示が求められる、の2点にご注意ください。また、複数の法域で事業を行う企業では、法域別の調整表を合算する方がより有意義な情報となる場合があるとされています(第85項)。どの単位で調整表を作るかは設計段階で決めておいてください。

📄 まとめ

IAS第12号「法人所得税」は、一時差異アプローチという基本構造が日本基準と共通しているため、「大きく変わらない論点」と見なされがちです。しかし実務でみると、次の3点で確実に負担が生じます。

  • 回収可能性:会社分類という物差しがなくなり、将来課税所得の見積りの合理性を自ら説明する文書が必要になる(第28項〜第31項・第35項・第36項)
  • 組替仕訳への税効果:リースの両建て認識(第22A項)、OCI項目の税効果(第61A項)、在外子会社の留保利益(第39項・第44項)など、日本基準では扱わなかった論点が加わる
  • 開示:税率差異注記に数値基準の省略規定がなく、一時差異の種類別開示(第81項(g))やグローバル・ミニマム課税の開示(第88A項〜第88D項)が追加される

いずれも、決算直前に着手すると間に合わない性質の作業です。影響度調査の段階で対象範囲を洗い出し、移行日の1年前には税率差異注記と回収可能性の根拠資料を試作しておく——これが、税効果でプロジェクトを止めないための最も確実な進め方です。連載の全体像はIFRS導入 完全ガイドにまとめていますので、あわせてご覧ください。

次回は第25回として、IFRS第2号「株式に基づく報酬」を取り上げます。未公開会社のストック・オプションの取扱いは、IPO準備企業にとって損益インパクトの大きい論点です。前回の第23回 IAS37引当金、および連載のピラー記事である第1回 IFRSとはもあわせてご参照ください。

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監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人でのIPO支援・会計監査業務を経て開業。IPO準備企業・上場企業に対し、IFRS導入支援(論点検討・GAAP差異分析・数値作成・注記開示支援・コンバージョン支援)、決算開示支援、内部統制構築支援を提供しています。

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。

📚 参考(公的一次情報)

IFRS財団「IAS 12 Income Taxes」同「International Tax Reform—Pillar Two Model Rules」同「Deferred Tax related to Assets and Liabilities arising from a Single Transaction」企業会計審議会「税効果会計に係る会計基準」企業会計基準適用指針第26号企業会計基準第28号実務対応報告第46号金融庁「財務諸表等規則ガイドライン」国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」

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